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ハーメニア

作者:秋月 俊
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音怪-前編-

AM6:14 5月14日 火曜日

気が付くと、窓から陽の光が部屋の中に差していた。立ち上がろうと足に力を込めるが、足に力が入らない。しがみついたままだった机を支えががりにし、なんとか立ち上がり、ベットの上に腰掛ける。

「夢……だったのか?」

昨日の異変。テレビやパソコンなどに目を向けるが、あの音波のようなものは出ていない。夢と片付けるのは楽だが、未だに微かに感じる頭の痛みがそれを許してくれないようだ。それに

「これ、刀傷ってやつだよな」

俺が倒れこんでいた場所に何かで斬ったような跡が残っていた。最後の記憶では、あの男は俺に向かって刀を振り上げていたのを考えると、あの後やはり振り下ろしたのだろう。だったら俺はなんで生きているんだ?そんなことを考えていると、ベットに投げ捨てていた携帯が震えていることに気がついた。手に取ると、画面には「弦巻マキ」と表示されている。ロックを解除して通知を確認するとおびただしい数の着信履歴が残っていた。

「五分おきにかけてきてやがる。とりあえずかけておくか」

マキに電話をかける。呼び出し音が鳴り、ワンコー「なんで電話に出ないんだよ馬鹿やろーーーーーーーーーーーー!」
「うっさ!いきなり叫ぶなよお前は!」
「うるさいうるさい!何度も何度もかけても出ないし……最初に連絡に気づいてなかったのは私が悪いけど」

マキが申し訳無さそうに言う。怒鳴ったりシュンとなったり忙しいやつだな。でもそんなマキのおかげでなんとかいつものテンションが戻ってきた。

「悪い悪い。その、昨日はテレビ見ながら寝落ちしちゃってさ」

そう言うと電話口から溜め息が聞こえた。

「まぁ、そんなことだとは思ってたけど。今日も七時頃にご飯作りに行くから」
「おう、サンキューな」

通話が切れる。マキにあまり隠し事はしたくないが、昨日の今日だ。あまり心配は掛けたくない。そういえばだが昨日あの男が最後になにか言ってたな。

『そうだ、覚えているかわからないが。もし今日のことがなにか知りたいならお前の父を訪ねるが良い。全てわかる』

そうだ!親父だ!ことの全ては親父に聞けとあいつは言っていた。だったら……

「洗いざらい全部話してもらうぜ、親父」

AM8:24

「やっと顔を見せに行く気になったんだね。良かったよかった」

俺が親父に会いに行くことを決めたとマキに伝えるとあいつはそう言った。まぁ、マキが想像しているようなものではないが、喜んでくれたなら良いだろう。

「おはようございます、マキさん、詠月さん」

突然後ろから声がかけられた。振り返るとそこには結月がこちらに向かって、小走りで近づいてきた。

「おはよーゆかりちゃん。今日もかわいいね~」
「いきなりそれかよ。おす」
「かわいいだなんてそんな。マキさんのほうが綺麗ですよ」
「またまた~。おだててハグぐらいしか出来ないよ?」

そういっていきなりマキが結月に抱きついた。結月がジタバタともがいている。助けてと聞こえたが、おそらく気のせいだろう。さて、俺は先に行くか。

AM8:30

 一足先に教室に到着した俺は、携帯を取り出した。メール作成画面を開き、宛名に親父を選んだ。

『今日放課後そっち行く。何時に帰ってくる』

簡潔に、伝えたい事だけ書いて伝える。この時間ならもう仕事に行っているだろうし、返事は後でかな。と考えていたが、携帯が新規メールを受信した。案外、どころか予想以上に早かったな。

『今日は六時には帰る。ゆかりと一緒に来い』

とだけ、文面には書いてあった。そういや親父も無駄なことは書かずに、伝えたい事だけ書く派だったな。携帯をポケットにしまうと、俺は立ち上がり、先ほど登校してきた結月の元へと向かう。

「あ、詠月さん。さっきお父さんから連絡が来ました。今日は一緒に帰りましょう」
「そうか、連絡きてるなら良かった」

と、会話を終えた時、俺はこの会話が他のやつに聞かれたらヤバイということに気づいた。これって事情がわからない奴が聞いたら、完全に……

「よーづっきくーん。一体どういうことかなぁ?」

声に反応して後ろを振り向くと、クラスの男どもが血走った目でこちらを見ていた。これはヤバイ、マジヤバイ。マキの方を見て救援を求めよう。

(マキ、救援頼む!)
(……(*ノω・*)テヘ)

(*ノω・*)テヘ……じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!そのまま目を話して女子との会話に戻りやがった!こんなことをしてる間にも、男子たちはジリジリと近づいてくる。事情を説明すればなんとかなるか?いや、これは無理だ。なんとか結月に口裏を合わせてもらうしか……

「こ、これには事情があってだな。な、結月……」
「結月ちゃんならさっきトイレに行ったぞ?」

ノゾミガタタレター。
その後男子から怒涛の質問攻めにあったのは言うまでもなかった。

PM12:30 昼休み

昼休み、昨日の約束通り俺たちは屋上で昼食を取るために、ミクを呼びにやって来ていた。しかしどうやらクラスにはおらず、彼女の同級生によると、体調不良で今日は学校に来ていないらしい。

「ミクちゃんが休みかぁ。珍しいね」
「あんまり風邪とかひきそうじゃなかったもんな」

ふと横を見ると、結月が深刻そうな顔で何かを考えていた。

「どうした結月?」
「……え?あ、ああ。いえ、ミクちゃん大丈夫かなと」
「インフルとかじゃないだろうし、大丈夫とは思うぞ」
「後でメールしとこうかな。仕方ないし、私達だけでも行こうか」

PM12:35

「「「いただきまーす」」」

屋上にやってきて設置してあるベンチに座り、昼食を取る。昼時の屋上は俺達以外にも数人が食事を取っていた。

「あれ、マコト今日は弁当じゃないんだ」

マキが口に玉子焼きを運びながら尋ねてきた。いつもなら弁当を作ってきているのだが今日はいろいろとあったせいで作る時間がなかったのだ。

「ってきりもう作ってるものかと思ったから、朝聞かなかったけど。言ってたら作ってきてたのに」
「流石に悪いからな」

よく『一人分も二人分も変わらない』というセリフを聞くが、実際は結構と変わったりする。俺がそう思うだけで、他の人は総とは限らないがな。

「そういえばなんで詠月さんはうちに帰ろうと思ったんですか?」
「あ、そうそう私も気になった。なに、悪い薬で飲んだ?」
「お前らな……顔を見せに行けって言ったのはお前たちだろ。それに……色々と話さなきゃいけないことが出来たしな」

そう言うと結月とマキが首を傾げた。まぁ、言ったところで夢と言われるか、頭のおかしい奴にしか思われないからな。黙っておくことが一番だろう。

「そういえば聞いた?変な噂が流れてるらしいよ?」
「「変な噂?」」

マキの突然の話題転換に結月と返答が被ってしまった。

「そそ、私も今日聞いたんだけど。この頃ココらへんで着物を着た刀持った、時代錯誤も甚だしい人が出るらしいよ」

ぶっーーーーーーーーーーーー!

「ちょっ!突然飲み物吹き出すのやめてよ!きったないなぁもう」

だってそりゃお前。俺が見た奴と全く一緒じゃねぇか!えっ、なに。あいつってそんなに大手を振って町中歩いてるの?マキには見えてなかったから、なんかそんな感じのかと思ってたのに。

「いや、ホントかどうかはわかんないよ?友達の友達がネットで見た話らしいし」
「そ、そんなの嘘だろ絶対。今の時代に刀を差した男なんて居るわけ」
「そ、そうですよ!そんな時代錯誤も甚だしい少しおかしい男の人なんて居るわけ無いですよ!」

なぜか結月も吃りながら答える。そうだよな、普通に考えてそうだ。そんな変な男がいるわけ……いや、ちょっと待てよ?

「ちょっと待って。ねぇゆかりちゃん」
「なあ、結月」
「はい?」

マキがこちらを見る。どうやら全く同じような疑問を抱いたようだ。

           の
「「なんで男って思った  ?」」
           んだ

沈黙が訪れる。結月の顔が段々と青ざめていく。

「べべべべべべべべべべ、別に!そんな気がしただけです!そんなことよりもご飯食べましょう、時間がなくなります!」

焦りながらもものすごい勢いでご飯をかきこんでいく結月。
なんだかうまい具合にはぐらかされた気がするが、まあ、良いか。

PM16:45 放課後 教室

 「じゃあお前ら!今日も気をつけて帰れよ、ちゃんと勉強もするように。じゃあな!」

先生がSHRを占める。さて、親父との約束の時間までまだ結構あるな。どうするかな。

「詠月さん」

鞄に荷物を詰め込んでいると、結月から声がかけられた。

「おう、まだ時間あるみたいだけど、どうする?」
「詠月さんが良ければですが、図書室に行っていいですか?まだ全然見きれていないので」

そういえば結構図書室で興奮してたな。別に用事もないし、行くとするか。

「いいぞ。どうせなら貸出カードも作っといたらどうだ?」
「貸し出しカード、ですか?」
「まぁ、名前の通り本の貸出をするためのカードだな。話すよりもやるほうが早いし、さっさと向かうか」

結月が頷くのを確認すると、俺達は教室を後にした。


 
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