魔法少女リリカルなのはINNOCENT ブレイブバトル
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DUEL13 VSシュテル
シュテルとの戦い。それは明日となり、準備する時間を貰った。
「…………」
ああ啖呵を切ったが、正直勝てる目処は立たない。今までどんな事を試してみたが有効打になりえた攻撃は1つも無かった。
布団の上で目を瞑り、色々と頭の中でシュミレートしてみたが、どれもが通用しないと結論が出る。
「だいぶ悩んでいるみたいね」
「焔………」
そんな様子の俺を見かねたのか焔が声を掛けてきた。
「寝ないのか?」
「気になって眠れないわよ。………まああの子は寝てるけど」
そう言う焔の視線の先には彼女達専用の充電器型ベットでスヤスヤと寝ていた。
「………悩みが無さそうで羨ましい」
「そうでもないわよ。あの子なりにどう役に立つかって私に真剣に相談してきたわ。あの子もマスターを勝たせたいと思ってるのよ」
「ユリ………」
「自信を持ちなさい。貴方は1人じゃない?私達も一緒なんだからね………」
確かにそうだ、俺は1人じゃない。ユリはまだ日が浅いし使用回数も少ないが、焔にはいつも助けられている。戦っている時はいつも支えてくれている。
「そうだな……ありがとう焔。お前が居てくれるおかげで俺は思う存分に戦える」
「うん………って、勘違いしないでよね!!別にマスターの為じゃないから!!私が無能だと思われたくないだけなんだからね!!」
俺のお礼に対し、焔は顔を赤く染めながらそう言った。
「分かってるよ。………明日もよろしくな」
「………ふん、任せなさい」
そう言って焔は急足で自分のベットへと向かった。
「そうだ、俺は1人じゃない………」
その頼もしさを噛み締めながら眠りについた………
「どうしたんだ零治?」
「ん?何が?」
「いや、朝から思いつめた様な顔してるからさ………」
翌日の学校の昼休み。いつも通り、黒崎と神崎と昼食を採っている中、突然黒崎がそんな事を言ってきた。
「ちょっと考え事を………」
「そうか………俺が力になれる事か?」
「いや、これは俺自身で考えて乗り越えないといけない事だから大丈夫だ」
「そうか………」
とは言ったものの、今になってもいい手が思い付かないのは確かだった。
刻々と時間だけが過ぎていく。
「何かいつもと違うと気持ち悪いな。普段はボーッとしてるのに」
「それはお前だろ………」
「何言ってるんだ黒崎!俺の頭の中はいつも嫁で一杯だ!!」
「いや、それはそれで問題だろ………」
学校での時間はあっという間に過ぎていった。既に放課後となり、クラスの皆は帰宅に部活にと各々で動き始めている。
「零治、零治〜!」
そんな中、神崎が猫なで声の様なゆるい言い方で呼んできた。
「何だよ………」
「零治は今日、八神堂へ行くのか?」
「今日は………」
忙しいと断るつもりだったが、ふと言うのを止めた。
(意外と身体を動かした方が何か思いつくかもしれないな……それにウォーミングアップにもなる)
そう考えた俺は改めて言い直した。
「今日も行くつもりだったよ。………まあ用事があるし、早めに帰るつもりだけどな」
「そうか、じゃあ一緒に行こう!!」
「ああ、いいぜ」
「さあさあ早く、早く!!」
子供の様にはしゃぐイケメンに不気味さを感じつつも、ブレイブデュエルを好きになってくれたことを嬉しく感じながら八神堂へと向かった………
「ふぅ………」
「ひ、酷い………」
神崎と対戦し良いウォーミングアップが出来た。
色々と試す中で突発的に考え出た戦い方が意外にもしっくり来た。本番で使うのは難しいかもしれないが、シュテルへ牽制にはなるだろう。
「何で1撃も当たらないんだよ………」
「ただ狙ってるだけだからだろ。もっと当てる為に工夫をだな………」
外に出て神崎にアドバイスを送る。
「!?」
そんな中、こちらをジッと見られている様な気配を感じ、そっちを見てみる。
「?」
しかし人混みの中でよく分からず、俺が反応した事でその気配も消えてしまった。
「気のせいか………?」
しかしその気配は良いものでは無く、殺気のような何か悪い感じがした。
「この前の騒動の不良?……いや、あいつらならこんな人目の中に居るとは思えないし……」
正直こう言った事は中学の時には日常茶飯事だった。だからこそ敏感に反応できるのだが………
「まあ良いか。じゃあ神崎、この後用事があるから待たな」
「ああ、待たな………」
項垂れてる神崎に別れを言って、俺は早々に八神堂を出たのだった………
「くそっ、次はこそは………」
零治が帰った後、暫くして神崎が復活した。
先ほど聞いたアドバイスを忘れない様に自分の嫁のイラストが描かれたメモ帳にメモを取る。
「これでよし!!………せっかくだし、少し試してみたいけど………」
そう呟きながら周りを見る。皆、それぞれ知り合いと話しており、人見知りな神崎はとてもその輪に入る事は出来なかった。。
「なあ」
「うん?」
そんな神崎に声をかけた人物がいた。
「俺とデュエルしないか?」
「本当に!?」
知り合い以外で誘われるのは初めてだった神崎。とても話し掛けられそうに思えなかったので仕方ないから帰ろうかと考えていたところだった。
「出来ればだけど………」
「いいよ、やろうやろう!!あっ、でも俺初心者だけど………」
「構わないよ、俺もつい最近始めたばかりだし」
「そうか!!俺神崎大悟、よろしく!!」
「加藤桐谷だ、こちらこそよろしく………」
明るい雰囲気の中始まるブレイブデュエル。しかし神崎はこの後地獄を見る事になる………
「ごちそうさま」
夕食を終え、約束の時間がコツコツと迫る。
「王、ごちそうさまです」
普段も口数が多い方ではないが、今日のシュテルは一層口数が少なかった。
「大分勝負に向かって集中してるわね〜それでは挑戦者の零治選手、今日の戦いの勝算は?」
キリエがエアマイクを向けて聞いてきた。いつもの悪ふざけではあるが、俺をリラックスさせるつもりでもあるのだろう。
「勝算は正直言って無い。どんな手を考えても通じる策が思い浮かば無かった。だけどそれが逆に吹っ切れた。策が無くても勝算が無くても、俺の今の全てをぶつけて必ず勝つ!!」
それが俺の悩んだ末の結論。神崎との戦いで身体を動かした影響もあり、頭がスッキリして色々と吹っ切れたのだ。
「ふふっ、楽しみです」
そう言ってシュテルは部屋を出て行った。
「シュテるんは完全に戦闘モードだね」
「我等も楽しみだな」
「レイ、頑張れ!」
「ありがとうユーリ」
ユーリの頭を撫でてシュテルの後に続く。
これから行うバトルは今までで一番過酷な戦いになるだろう。
「やってやるさ……」
しかし今までで一番高揚している自分が居た………
「ステージの希望はありますか?」
「空の上で良い」
「街や森の様な障害物があるステージではなくて良いのですか?」
「ああ。1番最初のステージが空だったから」
「………分かりました、レイがそう言うのなら」
そう答えるとその話を聞いていたユーリがステージの設定を行う。
「いやぁ、楽しみだね」
そんな中、グランツ博士はワクワクした様子で始まるのを今か今かと待っていた。
「お父さん、ご飯は良いんですか?」
そんな父親に声を掛けるアミタ。キリエと父親を挟むように立っている。
「これを見てから食べるよ。いやはや、本当に間に合って良かった」
「昨日も遅かったし何か急ぎでやらなくちゃいけない事でも?」
「もう大会が近いからね。セキュリティ強化ともう1つ、ブレイブバトルの予定とか段取りの確認、修正をね」
「ブレイブデュエルの甲子園バージョンって話よね?」
「うちの生徒会長も楽しみにしてます。まだ部員募集中で、出場人数が足りませんけど」
「ランキング戦の後を予定しているからまだまだ時間はあるよ。告知が遅れたけど、現時点で小学生の部はかなりのチーム数が集まってるよ。問題は………中学・高校・大学の部だね」
「ああ………やっぱり少ないんですか?」
「中高大と一緒にしてるけど今の所数えられる位の参加数だね。もっと増えてくれれば良いんだけど………」
と残念そうに呟く博士。
「ま、まあまだ本格的な告知はまだだし、これからじゃない?」
「そうだね。やっとちゃんとした広告も近々出来上がる予定だし、取り敢えず八神堂とホビーショップから、そこから徐々に店舗を増やしていく予定さ。まだまだこれからだね」
キリエの励ましに答えている内にバトルの準備が整った。
「始まります………」
アミタの言葉と共に、3人は画面に集中した……
「シュテるん本気だね………」
「シュテルも大会を意識してるのだ………」
画面からシュテルの様子を見て、レヴィとディアが呟く。
「レイ、勝てますかね………?」
心配そうに見つめるユーリの頭をディアが優しく撫でた。
「正直に言えば厳しいだろう。………だが、妙な期待感はある」
「そうだね!ボクもレイならやってくれそうな気がするんだ!!」
そんな2人の言葉に俯いていたユーリの顔も冴えていく。
「分かりました、今日はシュテルには悪いですけどレイを応援します!!」
「そうだな」
「ボクもボクも!!」
画面に向かって応援する2人を見ながらディアも画面に集中する。
「さあ、見せてみろレイ………」
シュテルの姿は一見いつものバリアジャケットの様に見えるが、ただ立っているだけなのにいつも以上に威圧感を感じる。
「聞かなくても察しはつくけど………シュテルのパーソナルカードってSRだよな?」
『恐らく』
現時点での最高ランクのカードであり、それを使うという事は本当に本気で戦ってくれるという事だ。
「ありがたい………」
そう呟きつつ、いつもの様に抜刀術の構えを取る。
『マスター、作戦は?』
「とにかくこっちの有利な距離で戦う。これが鉄則だ」
簡単な様で、シュテル相手ではかなり困難だ。
『そこからは?』
「虚をつく事だけを考えず、相手に守らせる攻撃を行う。その為には多少無茶な事もするかもしれない。…………悪いが2人共付き合ってくれ」
『了解!!』
ユリの力強い返事が返ってきた。もしかすれば今回ユリが1番酷い損傷になるかもしれない。
それでも………
「勝つんだ………!!」
『ブレイブデュエル、スタート!!』
そう言い聞かせ、スタートと同時に空を蹴る。
「………」
シュテルは様子を見つつ後退していく。
俺は気にせず、シュテルとの距離を詰めていった。
「ブラストファイヤ!!」
そんな俺を見て、シュテルの得意スキルである直射砲、ブラストファイヤが飛んできた。
「!?」
空を蹴りながら進む俺は、言わばステップしながら動いている様なもの。直射砲などまっすぐ向かってくる砲撃は他の砲撃よりも避けやすいのだが、シュテルには関係ない。
後退しながらにも関わらず、俺のステップのタイミングを計り、俺目掛けて寸分狂わず砲撃を発射した。
「くっ!?」
避けられないと感じ、慌てて鞘で受け止める。普段のブラストファイヤよりも砲撃は遅く、激しさを感じない。しかしその重々しい砲撃の影響で完全に足が止まってしまった。
「このおおお!!」
力で斬り伏せ、シュテルを確認するが、目の前に居たはずのシュテルが消えていた。
『マスター右!!』
「遅いです」
シュテルのパイロシューターが俺を包み込む様に襲ってくる。
「はああ!!」
刀を抜き、鞘と共に全てを斬り伏せる。
「足が止まった状態で守りに集中。……レイ、まるで変わってませんね………」
そう呟きつつ、シュテルは再び砲撃を放った。先程よりも高出力でありながら普段の砲撃よりも細いレーザーの様な砲撃。
「パイロレーザー。………さてどうします?」
『マスター!!』
再び焔の声が聞こえる。
「ユリ!!」
『がってん承知!!』
俺の判断は早かった。何時もとは違う砲撃に直感的に危険を感じたのだ。
『フィールド展開!!』
その後ユリが指示をする前にフィールドを張り、攻撃に備える。残していたパイロシューターはフィールドの前に消え、後は砲撃のみだ。
「判断は悪くないですが……残念ですね」
『!?駄目、マスター避けて!!』
不意にユリからの警告で身体が反射的に動く。それと同時にフィールドに砲撃が当たるが、フィールドを貫通して砲撃が襲ってきた。
「何!?」
砲撃は左腕のアーマーに当たり、アーマーを溶かしていく。
『パージするよ!!』
ウィルスの様に広がっていく熱にそれ以上の被害が出ない内にアーマーを一部パージした。
「そんな事が出来るんですか!」
シュテルが驚く中、俺も驚きを隠せなかった。
「ダメージが継続していく攻撃………」
ユリの警告が無ければ身体に当たり、早いうちにアーマーが駄目になっていたかもしれない。
「面白い………!!」
『喜んでる場合じゃないよ、どうするの?』
「どうするもこうするもない。まだまだシュテルには俺の知らないスキルもあるだろうし、予想だって出来ない。だったら実際その場で対応していくしかないだろ」
『完全に後手だよマスター!!』
「そりゃあそうだ。相手はランキング1位。ブレイブデュエルで1番強いプレーヤーなんだぞ」
その事が徐々に実感出来てきた。だが不思議と絶望を感じたりはしない。
「ユリ、仕掛けるぞ!!」
『仕掛けるって………後手に回るって話をしたばかりじゃ!』
「それを無理矢理変えるんだよ」
「さて、どうでますでしょうか………」
シュテルは零治達の様子を見つつ魔力回復を行っていた。まだ余裕があるとはいえ、自分の魔力量が少ない事を自覚しているシュテルは魔力温存だけでなく、回復のタイミングも見逃さない。
「あの様子からは焦っているようには見えないですが、何か企んでいそうですね………」
まだシュテルの中では様子見程度。本気のスタイルではあるもののまだ全力では戦っていなかった。
「!動きましたね………さてどうで……!!」
零治の動きにシュテルが驚く。予想していなかった訳では無いが、その手では無く、別の手で来ることを期待していたからだ。
シュテルに言わせれば完全に悪手だった。
「………がっかりです。結局レイは何も変わっていないみたいですね………」
フィールドを前面に集中して強化し、こっちに向かってくる。これは以前ヴィータにやったディストーションアタックであり、シュテルとの模擬戦でも使い、通用していない。
「そうくるなら早々にこの勝負、終わりにするべきかもしれませんね………チームの件もレイには早すぎたかもしれません………」
そう結論付け、シュテルは零治を倒す為の準備を始める。
「次で終わりです………」
シュテルは早くも勝負を着けに動いた………
『全く、マスターは無茶を思いつくね………』
「悪いな、かなり強引に行くが………」
『どんと来い!!です。むしろこのブラックサレナはそういった用途も含んでいるんだから気にせずマスターはマスターのやるべき事をやってくれえばOK!!』
こういう時に真面目に答えられると返答に困る。しかしユリも俺の気持ちに応えようとしてくれる。
その頼もしさを感じながら覚悟を決める。
「魔力調整、頼むぞ」
『任せて!!』
「よし!行くぞ!!ディストーションアタック!!」
フィールドを前面に集中展開。そして背中のバーニアを全開にしてシュテルの元へ加速した。
「ディザスターヒート………」
そんな俺に向かってシュテルはまた俺の知らないスキルを使ってきた。
杖先端に魔力が収束していき、そして発射された。
『来ます!!』
「構うな!!」
それと同時にブラストファイヤ並みの直射砲が発射された。
真正面で受け止めながらも前に進む。
「貫けええええ!!!」
砲撃を押し切り、更に進む……が、それと同時に2射目が再び襲った。
「なっ!?」
『連射!?』
それでもなお、前へ進む。
『マスター………!!』
「頼む、持たせてくれ………!!」
踏ん張り、負けじと前へ進み、乗り越えた………瞬間に3射目が無情にも俺を襲った。
『フィ、フィールドが………』
「くっ……!!」
前面に張っていたフィールドにヒビが入る。
「悪いユリ!!」
『大丈夫行って!!』
その答えを聞き、意を決し、前へと踏み出す。
フィールドが壊され、砲撃が襲うが、腕を前に組み、盾にして突っ切った。
「なっ………」
『後は………焔!!』
『良くやったわユリ!!』
砲撃を突っ切るのと同時にブラックサレナが解除された。普段ならば砲撃途中でフィールドを破壊され、そのまま負けていたかもしれないが、フィールドをギリギリまで持たせ、ここまで進めたのはユリのお陰だった。
「後は自分の距離で!!」
シュテルへ刀が届くまで後僅か。しかし驚いたシュテルもすでに冷静さを取り戻しており、行動に移っていた。
「パイロシューター!!」
後方に下がりながら誘導弾を発射し、俺の足を止めようとした。
『突っきれ!!』
「分かってる!!」
ここまで来て、守りに入る気は無かった。向かってくるパイロシューターに向かって、鞘を前にして空を蹴る。
多少ダメージは入ったが、更に距離を縮め、もう手の届くところまで………
「そう来ると思ってました」
俺の足が止まると同時にシュテルがそう呟く。
俺の身体を炎の輪っかが拘束していた。
「バインドか………」
「ええ。そしてこれでチェックです」
そう言ってシュテルは手に、爪のような武器を展開した。
「これは………」
「ルシフェリオンクロー。私も近戦時の武装くらいありますよ」
そう言うと爪に魔力が帯びる。
「私の勝ちです!」
「いや、まだだ!!はああああ!!!」
これは幸運だった。ここで距離を取られ、砲撃で止めを刺そうとされれば、再び同じ様に近づくのは恐らく不可能だったのだろう。ここに来てシュテルは油断したのだ。
「まさかバインドを!?」
気が付いたシュテルはすぐに距離を取ろうと動くが、もう遅い。
「はあ!!」
バインドを魔力を使い、破壊して刀を抜く。
「魔神剣!!」
離れようとしたシュテルは後退する事に気を取られ、魔神剣を避けられず、展開した爪で斬り裂いた。
「なっ!?」
しかし魔神剣は1つでは無かった。消し去った魔神剣のすぐ後に別の斬撃が迫っていた。
「名付けて、魔神剣・双牙」
「ですが、いくら続いたところで!!」
2度目の攻撃は魔力でシールドを張り、受け流し防いだ。
「それが本当の狙いだと思うか?」
「ですね!!」
シュテルは爪を杖に戻し、斬りかかる俺の刀を受け止めた。
「まさか爪だと射撃スキルが使えない………?」
「ですが、近戦での戦闘時は便利なんですよ、本当は」
それをあえて杖に戻す。………その意味を考えることなく理解した。
「逃がさねえよ」
「いえ、逃がしてもらいます!!」
鍔迫り合いの中、シュテルを囲む様にパイロシューターが出現した。
「これで先ずは………!!」
「俺がただ斬りかかっただけと思ったのは甘いぞシュテル!!」
「これは………!!」
そう言われ、シュテルは零治の刀の変化に気がついた。
「砕氷刃!?」
直ぐに離れようとしたが時既に遅し。砕氷刃の氷がシュテルを腕から凍らせていく。
「くっ、動きが………」
氷で拘束され、シュテルの動きが鈍くなる。
(ここだ!!)
このタイミングこそ俺の狙い。動きが遅くなり、逃げられない状況を作る。
『マスター!!』
「ああ!!」
刀を鞘に仕舞い、構える。
(葬刃!!………ですが放つまでにこんな拘束………)
「斬り裂け裂空!!」
「!?」
しかしシュテルが拘束を解く前に裂空刃が放たれた。
抜刀からの高速で何度も振るわれる刀から生み出される風の刃。
「これは新スキル?……!!パイロシューター!!」
とっさの判断だった。前方に狙いを合わせず、放つ。それはでたらめに四方に飛んで行くが、その全てが斬り裂かれた。
「やはり斬撃!!」
拘束が解け始めている中で、動ける範囲で魔力でシールドを作り、攻撃に備える。
(くっ………!!)
急ごしらえで作ったシールドでは完全には防げず、防ぎきれなかった風の刃がシュテルを襲う。
『マスター、誘導弾で消された所為で倒しきれないわ!!』
「分かってる!!」
再び刀を鞘に戻し、魔力を込める。
「葬刃!!」
魔力を溜める時間は無い。だが今畳み掛け無ければ勝機は無い。
「………残念ですね」
葬刃が放たれ、シュテルを捉えたかと思った瞬間だった。
斜め上に左から斬り上げる葬刃の軌道から逃れるように、シュテルは逆立ちをするように上に反転し斬撃を避けた。
「これが先ほどのスキルであれば、耐え切れず私は負けていたかもしれません。………本当に惜しかったですねレイ」
そう言いながら勝ち誇った顔で零治を見る。
「えっ?」
しかし目の前には魔力の斬撃。シュテルにはどうする事もできなかった。
「避けられる事も想定済みだ。動きが鈍くなっていたが何とかなったか………」
魔力の斬撃、魔神剣を受けながらシュテルはそんな零治の呟きが聞こえてきた。
「で、ですがまだ………!!」
裂空刃をその時の判断で防げたのが大きかったのか、魔神剣を受けてもシュテルはまだ動けていた。
『マスター!!』
「くそっ、まだ………!!」
流石のシュテルも耐えきれないと思っていた零治は吹っ飛ばされたシュテルを追い、刀を仕舞いながら慌てて空を蹴る。………だが、裂空刃の影響で何時もより動きが鈍い。
「ブラスト……ファイア!!」
そんな零治に向かい、砲撃を放つ。体勢が悪いにも関わらず、その狙いは零治にしっかりと向けられていた。
(先ずは足止めを………!!)
向かって行っていた零治にはタイミングから見てもこの砲撃を避けるのは不可能だった。
『マスター』
「分かってる!!」
焔の言わんとしていることは分かっていた。次、攻撃を直撃されれば負けてしまうと。
いくらアーマーに守られていたとはいえ、全くダメージを受けていなかったわけでは無いのだ。更にアーマーを一部パージしたりと普段よりも少し防御力も下がっていた。
「だが、行ける!!」
向かってくる砲撃に逃げる事なく向かっていく。
「シュテルの砲撃なら………ここ!!」
「なっ!?」
零治の動きにシュテルも驚きを隠せなかった。向かってくる砲撃にあえて突っ込み、戦闘機のローリングのような動きで砲撃の射線から逃れるように避けたのだ。
そしてその動きに見覚えがあった。
(レヴィ………!!)
ライトニングとして速さに自信のあるレヴィが得意とする避け方だったのだ。
「くっ……ですが!!」
下がりながらも零治に向かい合うようにいるシュテルはどの攻撃が来ても対応する準備が出来ていた。
(これでは……!!)
シュテルの魔力は大分減っており、攻撃やバインドに回す余裕が無かった。それを零治も感づいており、最初で最後の大きなチャンスだった。しかし防御に徹するシュテルには隙が無く、どの攻撃も通用しないと感じてしまった。
(どうする……!!)
追い込んだ筈なのに追い込まれてしまい、軽く頭の中がパニックになる。
そんな中でももうシュテルまですぐ近くまで来ていた。
『マスター、自分を信じて!!』
「!!」
その焔の声で覚悟が決まった。
使う技は2つ。放課後神崎相手に咄嗟に思いついた連携。
「行けええ!!」
刀を抜刀すると共に高速で刀を連続で振るう。
「やはり!!」
シュテルは放たれる裂空刃の刃を下がりながら冷静にシールドを張り、防ぐ。
「残念でしたね、この技の欠点は既に………!!」
そこまで言ってシュテルは違和感に気がついた。
(斬撃が少ない………!?)
先ほどと比べてシュテルの正面に対しての斬撃が薄いのだ。
(スキルがちゃんと発動しなかった?………!!)
しかしすぐにそのスペースに潜り込むように駆けて来た影があった。
「まさかこれは!!」
「名付けて、裂空氷牙斬!!」
そして氷を纏った刀でシュテルを斬り裂いた………
(今回の戦い……私の失策ですね………本気を出すと言いながらレイの力を甘く見過ぎていました。………驕り、慢心……私もまだまだです)
寝ながらただ空を漂うシュテル。着ていたバリアジャケットはバツの字に斬り裂かれており、その威力の凄まじさが分かる。
そんなシュテルにゆっくりと零治が近づく。
「レイ………」
「おっと、かなり際どい格好になってるな……取り敢えずほら」
シュテルの様子を見た零治は一度背を向けながらロングコートを脱ぎ、シュテルに被せた。
焔のカードは解け、いつも来ている普段着に変わる。
「ありがとうございます………」
「いや、俺がやったのにお礼言われるのはおかしい気が………あっ、シュテルが結構着痩せするタイプだと知れた事をむしろ感謝しますありがとう」
そう言うとシュテルは顔を真っ赤にして零治のロングコートで身体をしっかり隠した。
「レイは変態です………」
「男はみんなこんなもんだよ」
と笑いながら後ろを向いた。
その後ろ姿をじっと見る。
(レイって結構逞しい………それにこんなに大きな背中でしたっけ………?)
と暫く惚けていたシュテルだが、すぐに我に返り、零治に話し始めた。
「正直驚きました………油断や慢心が自分で気づかない内にありましたが、それを差し引いても私は今日負けていたと思います………」
「いいや、まだまださ。正直シュテルは本気と言っても俺の動きを見れば油断するだろうな……って考えはあったんだ。だからシュテルの油断を誘ったのは俺でもあるんだよ。それにまだまだ実力の全てをだしてないだろ?」
「いいえ。レイは私や王、レヴィの戦いを無駄にせず戦いに取り込んでいました。正直レイの成長を甘く見ていました。実力を出し切れなかったのもレイの戦い方が上手かったからですよ」
「その事に気がつけたのはつい最近だけどな。最後の技だって今日放課後に試したのが最初だったし、正直最初の特攻だって運が良かっただけだ。本当、まだまだだよ……だけど」
そう言いながら零治はシュテルと視線を合わせる。
「一応、男は見せられたかな?」
そんな零治の発言にシュテルは呆気にとられるが、直ぐにクスリと小さく笑い始めた。
「………笑う事か?」
「すみません………でもレイはかっこよかったですよ」
「そうか?」
そんなシュテルの言葉に満足した零治。気恥ずかしくなって顔を逸らすが、とても嬉しそうだった。
(本当に………かっこよかったですよ)
そんな零治の背中を見ながらシュテルはそう思うのだった………
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