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魔法少女リリカルなのは ~最強のお人好しと黒き羽~

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第七話 天流

 黒鐘が放った弾丸は二発。

 これは彼がよく使う連続撃ち、ダブルタップと呼ばれる同じ的に連続で二発の弾丸を撃ち込むことで確実にターゲットを倒す技術である。

 つまり彼は最初から先手必勝を目的とした攻撃をしており、今までそれで倒してきた相手も多い。

「速いな!」

 銃弾は虚しくも回避され、むしろ背後を取られる結果となる。

 背後から横薙ぎに振るわれる魔力の刃。

 対して黒鐘は冷静に飛行魔法を解除し、真上に向かって魔力砲を放つ。

 すると飛行する力を失った体は重力で下に落ち、砲撃の衝撃が加速器の役割を果たした。

 結果として落下する速度が上がり、金髪の少女が振るった鎌は空を斬る。

 高速で落下する黒鐘は回避してすぐに飛行魔法を展開、旋回して上昇、彼女と距離を取る。

「見た目通りだけど、見た目以上に速いな」

《レイジングハートと真逆のソニックタイプのようですね。 一撃の威力が弱い分、あの刃は鋭い斬れ味を出すでしょう》

 高町 なのはの用いるデバイス、レイジングハートの武装は重装甲、火力特化型のデバイス。

 動きに制限が入る分、砲撃の命中精度や火力が高く、一撃による殲滅が可能になる。

 だがその反面、速度を重視した動きが鈍くなると言う弱点がある。

 恐らく魔導師に成り立ての、それも速度重視の訓練を積んでいない高町 なのはが戦っていれば、間違いなく敗北していただろう。
 
 なぜなら相手は、なのはとは正反対の、軽装甲、速度特化型の魔導師だから。

 その上、武器は切断系。

 速度と合わせればどんなものでも切り裂いてみせるだろう。

「ホント、俺が介入して正解だったな」

《同感です。 現在の高町様では手も足も出なかったでしょうから》

 自分が今ここにいることに安堵しつつ、黒鐘は改めて気を引き締める。

 久しぶりの対人戦。

 多少、勘が鈍っていると言うのも所詮は言い訳。

 足りないものは、実戦で掻き集める。

「行くぞ」

《了解》

 短い合図と共に、黒鐘は空中で強く踏み込んだ。

「バルディッシュ!」

 対する少女は高速移動魔法/ブリッツアクションを発動。

 最初の銃弾を回避、背後に回るまでの動作を可能にした速度で対抗する。

 黒鐘は再びダブルタップよる二連射を行うが、放たれた弾丸は彼女の鎌によって真っ二つに切り裂かれる。

 少女は勢いをそのまま、全身を回転させながら鎌を振る。

 すると魔力の刃が外れ、ブーメランのように回転しながら黒鐘に迫る。

 接近戦と思わせてからのフェイント。

 不意を突かれ、急停止できない黒鐘の腹部を切り裂く。

 だがその瞬間、確かに捉えたはずの彼の体は揺らめき、そして掻き消えた。

「え……!?」

 少女の思考に発生した一瞬の驚きと動揺。

 何が起こったのか理解できない中、しかし戦闘中であると言う意識だけを頼りに周囲を見渡す。

 そして気づく。

 背後に立ち、銃口をこちらに向ける黒鐘の姿を。

 振り返るが、間に合わない。

 黒鐘は少女の頭部に向けて一発の弾丸を放ち、直撃させた。

「う――――っ!?」

 彼の放った魔力弾に殺傷能力はない。

 が、少女の脳に強い衝撃を与える。

 それを原因に激しい目眩を発生させ、そして気絶させた。

「取り敢えず、起きたら話しを聞かせてもらうか」

 そう言って黒鐘は警戒を解き、地面に落下する少女を掴もうと迫る。

《っ、マスター!》

「ッ!?」

 が、そんな黒鐘の懐に金色の魔力弾が放たれた。


*****


(今の……何?)

 薄れゆく意識の中、少女はこちらに迫る少年のことを考える。

 彼が起こした、幻を見せたような技。

 幻術魔法?

 いや、だとしたら魔力の残滓が残るはず。

 風船が破裂した際に破片が飛び散るような、何かしらの痕跡が残るはず。

 しかし彼が発生させた分身には、その残滓が無かった。

 ならば一体、彼は何をした?

(ううん、それより、私は)

 自分は負けた。

 その事実だけが、彼女の心を締め付ける。

(ダメ、勝たなきゃ)

 そして手繰り寄せる。

 薄れゆく意識を手繰り寄せ、強引に引っ張っていく。

(私は、負けちゃダメなんだ!)

 そう、彼女は負けられない。

 『負けることを、許されない』。

 その思い一つで、小さな奇跡を起こす。

「フォトンバレット」

「っ!?」

 迫る黒鐘の腹部に右手を伸ばし、掌に生み出した魔力弾を発射する。

 不運にも彼のデバイスの勘が鋭く、回避されてしまった。

 だが同時に距離を取ることに成功し、意識は少しずつ回復していく。

《マスター、大丈夫ですか?》

 彼女のデバイス/バルディッシュが心配そうに声をかける。

「うん、大丈夫。 まだ、頑張れる」

 そう言って呼吸を整えると、足元に円形の魔法陣を展開させる。

 杖を前に構え、全身を駆け巡る魔力に意識を集中させると、前方に複数の魔力弾が発生する。

 それは一つ一つが電気を帯び、ただの魔力弾以上の威力を発揮するものとなる。

 彼女が持つ魔力変換資質/電気によって生み出された魔力弾は、そのまま雷の弾丸となって放たれる。

「フォトンランサー、ファイア!」

 発射合図と共に六発の弾丸が放たれる。

 雷の速度は光速。

 銃弾のそれより速ければ、回避は間に合わない。

天流(てんりゅう)第弐翔(だいにしょう)――――」

 対して黒鐘は回避体勢を取らず、仁王立ちのまま停止する。

 プロテクションで防ぐことも考えず、ただただ待機した。

 なぜ?

 そんな疑問すら抱く暇がないうちに、雷の弾丸は標的のもとで爆発した。

 風で煙が消えるのを待つ中でも、彼女の緊張感と警戒心は限界レベルで張っていた。

 なぜ、と言う疑問がここに来て彼女の中で強く存在するから。

 なぜ避けない?

 なぜ防がない?

 そもそも、なぜ動かなかった?

 爆発の瞬間、彼は何かを口ずさんでいた。

 魔法詠唱だとすれば、少なくとも足元に魔法陣が展開しているはず。

 だが何も発生しなかった。

(……何も、発生していない?)

 ここで彼女は先ほどの幻術魔法らしき現象を思い出す。

 あの時、彼の幻影が消滅した際の痕跡は何もなかった。

 そして発動に要する予備動作……詠唱や魔法陣の展開も確認できなかった。

 いや、そもそも最速で移動していた彼女の攻撃に対し、詠唱や魔法陣の展開なんてする余裕がなかったはず。

 にも関わらず、彼は何かしらの『技』を発動した。

 何も発生しなかった状況から――――。

「まさか!?」

 そこで少女は、自らの過ちに気づく。

 今、彼女は立ち止まっている。

 緊張感と警戒心は高めていた。

 全ては相手の次の攻撃を対処するため。

 だが、彼女は大きな勘違いをしていた。

「――――蜃気龍(しんきろう)

 背後から再び銃弾を頭部に撃たれて気づいた。

 そもそも彼は自分の背後に立つほどの瞬間移動をしてみせた。

 ならばこうして停止している時点で、大きな隙になっていた。

 彼の発動した技術、蜃気龍。

 高速移動の際に緩急を付けることで残像を作り、相手のミスを誘う小伊坂が作り出した『我流武術』。

(この人、私よりも――――速い!)

 ここに来てようやく、彼女は小伊坂 黒鐘と言う相手の戦い方に気づいていく――――。


*****


「流石に頭部に防御はしてあるか」

「くっ!」

 再び気絶させるために頭部へ放った弾丸は、そこに攻撃を受けると自動的に発動するように仕掛けていたプロテクションによって防がれ、全身を回転させた勢いで鎌を振るう。

 それを回避した黒鐘は再び距離を取り、彼女の勝利に対する執念に驚く。

「最初の気絶から起き上がった時にも驚いたけど、ホント……凄いな」

《ええ。 高町様と同様、才能の塊のようですね》

 執念もそうだが、彼女の用いた魔法。

 魔力変換資質。

 魔法はいくつもの術的プロセス、術的プログラムによって構成されたもので、その処理を行うのがデバイスが持つ最もな存在理由とされている。

 そしてその流れを踏むことで、魔力を自然現象に変換させることができる。

 それを『魔力変換』。

 上級魔導師であれば大抵の者が使え、実戦で用いる光景は珍しくない。

 だが、稀にそのいくつもの段階を踏まず、直接的に自然現象に変換させる資質を持つ者がいる。

 それを『魔力変換資質』と呼び、使える魔導師は天才とまで称されるほどの能力だ。

 魔法が存在しない世界で出会った魔法の才能を持つ少女達。

 小伊坂 黒鐘は海鳴に来て、同世代の天才を二人と出会ったことになる。

 そこから割り出される答え――――

「アマネ……俺、平穏な日常を送れそうもないね」

《同感です》

 彼とアマネは二人揃ってため息を漏らす。

 今の瞬間まで、ジュエルシードを集めれば終われる話しだと思っていた。

 だけど、黒鐘以外の魔導師まで介入してきた。

 ジュエルシードを中心に、海鳴で何かが起きようとしている。

 それを理解した黒鐘は改めて、目の前の少女を見つめる。

 彼女は動かない状態が最も危険だと判断したのか、高速移動魔法を用い、不規則な軌道を描きながらこちらに迫っていた。

 速度はかなり高いにも関わらず、カーブの動作のキレが良い。

 恐らく、高い才能を持ちながらも必死に努力してきたのだろう。

 ジュエルシードのためだけに?

 いや、たったそれだけに人生を費やせる『何か』が存在するはずだ。

 黒鐘の中でその何かに、強い興味がでた。

「アマネ、久しぶりに本気を出すぞ」

《ええ。 では、指示を》

「ああ」

 黒鐘は空中にて直立の体勢を取り、命令した。

「天黒羽、ソードスタイル」

《了解。 ソードスタイル、セットアップ》

 起動と同時に、黒鐘の周囲を漆黒の魔力が覆う。

 それはデバイス起動時、バリアジャケットに着替える瞬間と同じものだった。

 黒き世界で、黒鐘が身につけていたマントは同色ながら、枝垂れ桜の柄が入った羽織りに変化する。

 そして右手に持っていた拳銃も黒の中で変化し、左腰で刀となり、鞘に収まった姿になる。

 二つの変化を終えた所で黒き世界は消え、皆が彼の変化に注目する。

 銃を使う洋装の魔導師から、刀を使う和服の武士へ。

 迫る雷の少女に対して黒鐘は鞘に入れ腰に納めた刀を、刃を下にして腰を低く構え、迎え撃つ。

天流(てんりゅう)第壱翔(だいいっしょう)――――」

 迫る少女は鎌を振り上げ、全身を回転させながら彼に振るう。

 が、それ以上に速く、黒鐘の抜刀術が放たれる。

「――――雷切!」

 鞘の中で駆け抜ける刃は、雷の如く振り抜かれ、一瞬にして間合いに存在するものを全て斬り裂いていく光速抜刀術/雷切。

 かつて雷すらも切り裂いたことから名付けられた一閃。

 それによって少女の鎌の刃を斬り裂き、そして彼女のバリアジャケットに至る。

 薄い装甲ゆえに防御力が極めて低い少女は、その一撃を持って撃墜する。

 もちろん刃の部分は落としているため、殺傷能力はないがそれでも一撃で意識を奪い、倒すほどの威力を持っていた。

 落下地点にいた高町と雪鳴が少女を抱き止め、戦いが終わったことを理解した黒鐘は武装を解除し、ゆっくりと地面に着地する。

「さて、色々と状況を整理しないとな」

 ここ数日で色んな出会い、再会、そして事件が発生した。

 正直、全てを一度にまとめるには、その当事者達がまとまる他ない。

 そう思った黒鐘は気絶した少女を背負いながら、雪鳴にジュエルシードと今、海鳴で起こっていることを話しだした。 
 

 
後書き
と言うことで黒鐘の戦いでした。

黒鐘が使用する武器の簡単な説明は、次回に投稿したいと思います。

そして小説の書き方を、キャラ人称ではなく作者目線といいますか、神様視点な感じにしました。

理由はすみません、正直なんとなくです。

雪鳴「そして次回から黒鐘ハーレムの幕が開ける」

小伊坂「また嘘ついてるし!?」

いえ、本当です。

小伊坂「マジで!?」

雪鳴「黒鐘が喜んでる」

小伊坂「喜んでるんじゃなくて驚いてるんだ! と言うか不安しかない……」

大丈夫。 君の姉もハーレムの一人だよ。

小伊坂「余計心配だわ!」 
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