喋らせる
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3部分:第三章
第三章
盛道の顔が変わった。急にだ。
それまでのむっつりとした顔が変わってだ。明るい笑顔になり。
そのうえで先生に対してだ。こう尋ねるのだった。
「それ、本当ですか!?」
「ああ、本当だ」
先生も笑顔で応える。
「手術が成功してだ。助かるそうだ」
「そうですか。よかった」
彼はまた言った。
「あいつこれで助かるんですね」
「そうだ。本当によかったな」
先生もにこやかに話すのだった。ここからだ。
盛道は喋る様になった。彼は実際にはよく喋った。しかもよく笑う。その彼がだ。クラスメイト達に対して何故笑わなかったのかを話した。
「妹がさ。中学生の」
「その妹さんが?」
「何か手術したって。先生行ってたな」
「ああ、脳腫瘍だったんだよ」
難病だ。そう言うに値するものだ。
「それでな。ずっと苦しんでて」
「手術することになった」
「そうだったんだな」
「ああ、言うことじゃなかったしな」
それでだ。言わなかったというのだ。
「気持ちも沈んでそのことばかり考えて」
「それでずっと喋らなかったのか」
「笑わなかったんだな」
「喋れなかったし笑えなかった」
どちらもだ。できなくなっていたのだ。
「どうしてもな」
「成程、そういう事情か」
「そういう事情があったんだな」
皆もそれで納得したのだった。事情がわかればだ。
しかしだ。今はというとだった。
「けれどもうな」
「ああ、手術が成功したから」
「不安なこともなくなってか」
「喋れるし笑える」
彼自身が言う。
「明るくな」
こう言ってだ。実際ににこりと笑って言う彼だった。その笑顔は誰もが浮かべる様なだ。一点の憂いのない明るいものだった。
喋らせる 完
2011・6・30
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