龍が如く‐未来想う者たち‐
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秋山 駿
第三章 手駒と策略
第四話 打たれる先手
それはあまりにも予想外で、言葉が出なかった。
桐生が攫われる。
宮藤は先に桐生の居場所を見つけ、攫ったのだろう。
会議室に集まった6人は、思わず呆然としていた。
特に遥は、今にも涙が零れそうになっているのを必死に堪えている。
1番ツライのは彼女……秋山もそれは知っていた。
「私が先行して、桐生の居場所に向かいました。神室町から少し離れた、一隻の船です」
「船は正直予想外だった。だが警察の目を欺けたんだから、今まで東城会にも見つからなかった訳だ」
救護室で伊達が取り出した紙切れが、机の真ん中に置かれている。
桐生一馬は預かった……。
ぶっきらぼうに書かれたその文字は、宮藤のものだった。
「しかし、何で宮藤は桐生さん見つけたんすかね?」
谷村の言葉に、全員が俯向く。
いくら考えたって答えは出ないし、今はそんな時間ですら勿体無く感じる。
「俺が、宮藤の所行きます」
手を挙げた秋山につられて、麻田も思い切り手を挙げる。
「自分も……行きます。宮藤さんの店、知ってますから」
「なら、俺も……」
「堂島さんはここにいて下さい。ただでさえ貴方は、幹部から狙われている立場なんですから」
その言葉を受け、大吾は悔しそうに唇を噛む。
東城会のトップにいるのに、何も出来ない。
そう言いたげにしながら、拳を握る。
不意に黙っていた遥が秋山に近付き、覚悟した顔で深々と頭を下げ始めた。
「おじさんを……桐生のおじさんを、助けてください」
何も出来ない不甲斐ない自分が悔しいのだろう。
遥の肩が、少しばかり震えていた。
ふとさっきまで見ていた夢を思い出しそうになり、首を横に振って忘れようとする。
弱気になってる場合じゃない。
秋山は遥の頭を撫で、わかったと一言だけ呟いた。
「麻田も、無理してついてくる事はないんだぞ?今は足立が……」
「わかってます」
言葉を遮る。
わかっていた。
喜瀬は出頭してきたが、足立に関しては消息不明なのだ。
組の頭がいない今、こんな事をしてる場合じゃない。
だけど麻田は決めていた。
「一度手伝うって決めたんで、最後までやらせてください」
そんな真っ直ぐな目をされては、断ろうにも断れなかった。
秋山は小さく微笑み、警視庁を麻田と共に後にする。
夜、また煌びやかな神室町に戻ってきた。
1日も経っていないのに、何だか街の雰囲気が懐かしかった。
ふと建物を見上げると、電気の点いていないスカイファイナンスに目がいく。
こんな状態じゃ、仕事も出来ないよな……。
「宮藤さんの店はあそこです」
そこは、天下一通りで1番目につく建物だった。
同じ通りでライバル店のスターダストに負けない客入りを見せる、天下一通り入口近くの店。
アマリリスと名のついたそのホストクラブが、悠然とそこにあった。
スカイファイナンスから目と鼻の先、アマリリスが出来てからは毎日の様に窓から眺めていた。
だがそこが、東城会幹部の経営する店だとは夢にも思わなかったが。
赤いスーツを整え、そのアマリリスへと足を踏み入れる。
店内は思ったより落ち着いた雰囲気で、とてもホストクラブに見えなかった。
どちらかといえば、バーに近い雰囲気。
落ち着いて飲めるし、男と静かに話せる。
客入りが多い理由も、何となく納得した。
「宮藤さんに電話で話は通してます。1番奥のVIPルームに、待ってるそうです」
「話通したって、そこまでコネがあるのか?」
「いえ、宮藤さんの配下に知り合いがいるだけです。そいつに頼んで、話通してもらいました」
なるほどと頷き、店内の1番奥に目をやる。
広い店内に似つかわしくない、小さな個室。
そこに宮藤が待っている。
写真だけしか知らない奴が、そこにいる。
はやる気持ちを抑え、VIPルームに早足で歩み寄った。
「すみませんが、俺はここまでです」
「あぁ、わかってる。ありがとう」
麻田が一礼して離れたのを確認し、目の前のVIPルームの扉に手をかける。
あっさり開いたその扉の向こうには、広い室内に1人の男が存在するだけ。
金髪で、あまりにも極道に似つかわしくない男。
宮藤宏明。
今もっとも7代目に近い男。
余裕の笑みを浮かべる奴が、そこにいた。
後書き
次回は4/15更新
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