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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~

作者:月神
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外伝 第1話 「八神堂の店員」

 
前書き
 漆黒の剣士で触れなかった部分を描いていたもうひとつの作品の話を、こちらに外伝という形で書いていくことにしました。 

 
「飛び級で大卒の社会人!?」

 店内に響く高い声。意識を向けてみると、この店の主の前にふたりの小学生の姿があった。ひとりは前からよくここを利用していた月村すずかという子だ。もうひとりは、最近来るようになった彼女の友人でアリサ・バニングスといったか。
 聞こえてきた言葉からして、ここの主の経歴を聞いて驚いているんだろうな。まあ俺も最初は驚いたし、気持ちはよく分かる。

「恥ずかしながら社会人1年目。古書店店長をやらせてもらってます」
「だからずっとお店にいたんだね」
「そうなんよ。あっ、ちなみにマテリアルズの3人も飛び級の中学生さんや」

 はやてののんびりとした言葉に金髪の少女が驚愕の声を上げる。わざとやっているわけではないだろうが、リアクションの大きい子だ。はやての漫才の相方としてはちょうどいいのではないだろうか。
 本棚の整理を少し進めて意識をまた向けてみると、バニングスという子は絶望しているかのような顔をしていた。いったい何を考えているのだろうか。別に飛び級云々であんな顔をするような年齢ではないと思うのだが。

「ま、まさか……あたしのヴィータもスーパー小学生ってことは」
「あたしはふつーの小学生。だいたい、いつからアリサのになったんだよ」
「それは……」
「いや、やっぱ答えなくていい。話の続きだけど、はやて以外はふつーにみんな学生だよ。シグナムは大学行きながら剣道場の師範代。シャマルは医大生、アインスは夜間学校で建築学の勉強中」

 うーん……俺の感覚だとアインスはともかく、シグナムやシャマルは普通ではないと思うんだけどな。普通に分類される学生は剣道の師範代なんてしてないし、医大に入れる人間って割りと限られてるから。
 だが彼女達が凄いのは、きちんと自分の進みたい道を決めていることだ。俺も今は決めてはいるが、高校生の頃は毎日適当に過ごしていた。そのうえ、3年の頃に自主退学してしまっている。まあ体や金銭面と色々な問題があったわけだが。ただ単位はほとんど取っていたので、先生の勧めもあって、高校卒業程度の学力はあると認定される試験を受け、無事に合格している。

「実はな、アインスが建築学を勉強してるんはいつかわたしに理想の家を作ってくれるて……」

 途中で、はやての言葉を遮るように誰かが大声を被せる。
 声を発したのは、おぼんでおやつを運んできていたアインスだった。どうやら自分の夢を誰かに知られるのが恥ずかしかったらしい。可愛らしく思える一面だ。
 アインスは何事もなかったかのように振舞いながら話しかけるが、どこか笑みがぎこちないものに見えた。

「さ、さぁみんなおやつのおはぎだよ」
「これがヴィータの言ってた」
「アインスさんも目がない……キガうまおはぎ!」

 おはぎに小学生ふたりは大喜びのようだ。はたから見てもいつも以上に数がある。おそらくはやてがふたりが来るということで多めに作ったのだろう。あの歳でよくあそこまで家事全般がこなせるものだ。1人暮らしの身からすると、彼女の家事能力が羨ましく思う。
 余談だが、はやての後ろでおはぎを食べているヴィータをアインスが揺すっている。あまり人に言わないでくれ、とアインスは言いたいのだろう。

「リョウくん、一緒にどうや? リョウくんの分も作っとるんで~」

 意識を向けているのを食べたいと思われたのか、はやてが話しかけてきた。小学生達のことを考えると、あまり親しみのない俺が近くに行くのは躊躇われたのだが、ヴィータに「早く来いよ。じゃないとアインスがお前の分も食べちまうぜ」と言われてしまっては行くしかあるまい。

「少しだけお邪魔させてもらうよ」

 金髪と黒髪の小学生に声を掛けて、はやてとアインスの間に座らせてもらった。はやてや小学生達は笑顔で迎え入れてくれたが、アインスはヴィータの言葉が恥ずかしかったのか俯いてしまった。

「えっと、そういえば君達ときちんと話すのは初めてだったよね。俺は白石涼介、よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします。あたしはアリサ・バニングスと言います」
「私は月村すずかです。よろしくお願いします白石さん」

 年齢の割りにしっかりとした挨拶をする子達だ。お嬢様のような雰囲気があるので、もしかすると英才教育を受けて育っている子達なのかもしれない。

「あの白石さん」
「何かな月村さん?」
「すずかでいいですよ。私のほうがずっと年下ですし」
「なら俺も下の名前で構わないよ。はやてやヴィータ達にも下の名前で呼ばれているからね」

 彼女の隣に座っているバニングスにもそう伝えると、ならば自分も名前で呼んでもらって構わないと返事が来た。こうも簡単に名前で呼び合えるところが子供の凄いところかもしれない。年を重ねるほどこのような真似はできなくなる人間が多いのだから。

「じゃあ、えっと涼介さんでいいですか?」
「ああ。それで何が聞きたいんだい?」
「その、はやてちゃん達とはどういう関係なんですか? 結構前からここで働いてますよね?」

 働いている、というのは少しニュアンスが違ってくる。俺はただ暇な時間が多いから手伝いをしているだけで、別にバイトをしているわけではないのだ。

「確かに気になりますね。はやてもくん付けで呼んでましたし」
「はやては誰にでもそんな感じだと思うんだけどな。ほら、デュエルが上手いって言う中学生の男の子。確か夜月くんだっけ? あの子も年上だけどくん付けで呼んでたでしょ?」
「あぁ……確かに」
「誤解されるんは困るなぁ。わたしが特別扱いしてるんは、ショウくんとリョウくんだけやで」

 そこは夜月くんだけに絞ったほうがいいんじゃないだろうか。そうすれば、もう少し彼もここの勧誘を受ける気にもなってくれそうと俺は思うのだが。まあふたりの関係を見ていると、その程度のことでは何も変わらないようにも思えるが。

「えっと、はやて達との関係だったよね。まあ……簡単に言えば、暇な時間が多いから手伝いをさせてもらってる感じかな」
「え、結構毎日のようにいる気がするんですけど。そんなに暇な時間多いんですか?」
「俺の通ってる学校は種別で言えば専門学校なんだけど、基本的に1日にあたり3、4時間くらいしか授業がないところなんだ」
「それでも大変やろうし、わたしは無理して手伝わんでええって言うてるんやけどな」
「俺が好きで手伝ってるんだから手伝わせてくれよ。ここの手伝いは楽しいし、今みたいに美味いものにありつけるんだから」

 素直な気持ちを口にしてみると、食い意地が張っているや現金な奴だといったニュアンスの言葉を次々と言われた。自分でもそう思いもするが

「仕方ないだろ。ひとり暮らししてるから多少は料理作れるけど、はやての味には到底敵わないんだから」
「もう、そう言われると作ってあげたくなるやないか」
「はは、そう言ってくれるのはありがたいけど……そういうのはいつか出来る大切な人だけに言うべきだよ」
「ひどいなぁ、わたしはリョウくんのこと大切に思ってるで~」
「大人をからかうのはやめなさい」

 俺は、からかうような笑みを浮かべているはやての口にスプーンに刺していたおはぎを押し込んだ。そのあと俺もおはぎを自分の口に運ぶと、「間接キスやな」という言葉が聞こえてきたが、俺はすでに成人している。小学生くらいの年代の子と間接キスをしたからといって何とも思いはしない。

「リョウ、あまり主とイチャつくのは頂けないな」

 隣から鋭く冷たい視線を浴びせられる。
 忘れていた……アインスははやてのことが大好きな――愛しているといっても過言じゃない奴だった。いったいどうやって彼女の機嫌を直せばいいだろうか。

「リイン、そう妬かんと。リョウくんのことが好きなんは分かるけど」

 はやてのさらっと放った一言に俺は理解が追いつかなかったのだが、アインスは一気に赤面した。

「ななな何を言っているんですか!? べ、べべ別に私はリョ、リョウのことを……!?」
「アインス、少し落ち着いたら……」
「こっちを見ないでくれ!」

 思いっきり突き出されたアインスの手が、相撲の突っ張りのような形で顔に入った。
 おはぎを口にしていなかったから良かったものの、もしも口に含んでいたのならばどうなっていたことだろうか。
 などと考えている余裕はなかった。あまりに強い衝撃を受けてしまったため、イスごと倒れてしまい床に打ち付けられてしまったのだ。

「え、あ、すまない!」

 俺が床に倒れたのを見て我に返ったのか、アインスが近づいて俺を起こそうとする。整った顔立ちと豊満な胸が眼前に迫り、女性特有の甘い匂いに鼻腔をくすぐられた俺の体は一気に熱くなった。

「いや、心配するな。大丈夫だから!」
「だが……本当にすまない」
「……あぁもう、あまり自分を責めるなよ。別に怪我もしてないし、お前のそういう顔は見たくないんだから」
「リョウ……」

 せこい言い方だったかもしれないが、今のような言い方でなければアインスは止まってくれなかっただろう。
 アインスは普段は大人しくて優しい性格なのだが、どうも人一倍恥ずかしがり屋であるため、人からからかわれたりすると今のような行動を取ってしまうことがある。今のところ物理的なダメージを受けたことがあるのは俺くらいだろうが、夜月くんあたりにいつか被害が出ないか不安になる。
 ――怪我をするほどじゃないが……結構痛いからな。被害者が俺だけで済むのならそれに越したことはない。

「あのふたりええ感じやろ?」
「うん、確かに」
「性格的にも相性良さそうだし、お似合いかも」
「あたしはそういうのあんま分かんねぇ」
「ヴィータは分からなくていいの。いつまでも今のままのヴィータで居て!」

 いつの間にか小学生達が密集して話している。
 ヴィータとそのあとのアリサの声しか聞こえなかったが、経験からしてあまり良くないことを言っていただろうな。それ以上にアリサの発言が気になって仕方がないが……ある意味では変態とも取れそうな発言だし。
 何はともあれ、落ち着きを取り戻した俺達はきちんとテーブルに座り直し、おはぎを食べ始める。話題は俺のことからアリサ達のことへ移った。

「そういえば、すずかちゃん達チーム名で悩んでるんやって?」
「うん……みんなで相談したんだけどまとまらなくて」
「あたしも考えてみたんだけど浮かばなくてさ」

 なるほど、それで彼女達をここに連れてきたわけか。
 なぜこのように分かったかというと、アリサがここに連れてきてくれたと言いながらヴィータの頭を撫で始めたからだ。
 ヴィータは強気な性格で口の悪いところもあるが、根は優しい良い奴だからな。今ではタメ語で話すけど、俺にも最初は敬語で話してたからな。

「うーん……パッとは浮かばんなぁ。アインスは何かええ案ない?」

 はやてに投げかけられたアインスだったが、おはぎに夢中のようで聞こえていないようだ。俺が肩を揺さぶって状況を教えてやると、再び顔を赤くしながら慌てた様子で話し始める。

「え……こほん、君達はショップの代表チームだからね。お店の名前を入れるのもひとつの手なんじゃないかな?」
「そういえば、八神堂さんも《チーム八神堂》でしたよね」
「そのまんまといえばそのまんまだけど、ピタッとはまっててカッコいいのよね」

 それは分からなくもないが、ここのチームの構成が八神家だからというのも理由に入っている気がする。八神堂のようにそのままというのは、アリサ達のチームには合わないのではないだろうか。

「アイディアを採用したら代わりにおはぎを要求されるぜきっと」
「それは困るわね」
「ヴィ、ヴィータ!」

 はやてやヴィータといった下の子からも弄られ、シグナムといった同年代からも弄られる。ある意味では愛されているとも言えるが、アインスが大変なのに変わりはない。頑張れアインス、俺は応援しているぞ。

「涼介さんは何かありませんか?」
「ん、俺? うーん、あまりそういうのは得意じゃないからな。おはぎの件は俺がどうにかするから、遠慮なくアインスのアイディアを使ってくれていいよ」
「ひどい、リョウは味方だと思っていたのに! シグナムといいリョウといい、最近いじわるだ!」

 シグナムと一緒にされるのは困るんだが。あいつはああ見えて、親しい人間のことはからかったりする一面がある奴だし。俺は別にからかうつもりで言ったんじゃないんだが。

「リョウくん、アインスの機嫌が悪くなってもうたで。はよ機嫌なおして」
「俺が? 事の発端はヴィータなんじゃ……機嫌を直すたって言ってもな」
「今度アインスをデートにでも誘ったらええやん♪」

 はやての言葉に俺とアインスはほぼ同時に「デ、デート!?」と口にし、必然的に顔を見合わせた。
 デートというからにはふたりでどこかに行くということだろう。ふたりっきりというのは、これまでに何度も経験しているが、それは八神堂内での話。八神堂内と外では話が違ってくる。
 お互いに似たような想像をしたのか、俺達の頬は赤く染まった。俺の目に確認できるのはアインスのだけだが、顔の熱さから言って赤くなっているに違いない。

「あ、ああ主、何を言っているのですか!? だ、大体私には店の手伝いが……」
「それは大丈夫や。シグナム達も協力してくれるやろうし……まあアインスが何が何でも嫌ってことなら仕方ないけどな」
「べ、別に嫌ということは……」

 そこで再び視線が重なる。俺がすぐさま顔を背けてしまったのは言うまでもないだろう。俺はアインスのことを友人として好きだし、異性としてももちろん意識しているのだから。

「あぁもう、ふたりとも可愛いな。いっそのこと付き合ってええのに♪」
「はやて、頼むからもうやめてくれ。これ以上されたらまともに話せなくなる!」
「ええやないの~」
「ダメよ、ダメダメ!」
「さすがリョウくん、ノリがええな」
「やらないとお前は余計に悪ノリしてくるだろ!」
「それは心外やな。もう1回ええ?」
「嫌に決まってるだろ、恥ずかしい!」

 
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