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八神家の養父切嗣

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三十二話:戦う意義


 白い魔力がガジェットの群れに当たり一瞬で殲滅する。さらに魔力が迸り殲滅する。また現れたガジェットを殲滅する。途中で何か別のことを考えてしまいながら殲滅する。少しだけ楽しくなって殲滅する。

やはり壊すだけの作業に面白みを感じられずに飽きてきながら殲滅する。途中で気合を入れなおしてマルチタスクで他の戦地の情報を纏めながら殲滅する。あくなきガジェットの殲滅活動。要するに。

「何体出てきたら気が済むんやー!」

 はやては終わりの見えてこない作業に少しばかり嫌気がさしてきていた。ガジェットと幻影の混合部隊がそれこそゴキブリ並みに湧いてくるのに苦労していたなのはとフェイトに代わりに自身が出た。

 前線に出る機会の多い2人よりも後方で支援する自分が限定解除を使った方が後々生きてくるという考えと、単純にこういった作業は広域殲滅型の自分がやるのが一番良いと判断したのは英断であった。だがとにかく疲れる。Sランクまで抑えているとはいえ数の暴力というものは馬鹿にならない。

「あと何基や? それと他のとこの状況は?」
【残りは八編成です。なのは隊長、フェイト隊長はヘリの下に移動中。ヴィータ副隊長、リイン曹長はフォワード陣の援護に向かっている最中です】
「そか、フォワード陣の方は?」
【それが、ガジェットの変則的な動きによって現在は三手に分かれて行動中です。ライトニングがケースの下へ向かっています】
「あかん、やられた!」

 苛立ち交じりにガジェットを二編成まとめて吹き飛ばしながらはやては叫ぶ。通信の向こう側からは、はやての声に動揺した様子がありありと伝わってくるが気にしている暇ではない。一刻も早くフォワード陣に指示を出さなければならない。

「それはフォワード陣を分断する罠や! どっかに敵が先回りしとる可能性が高い! すぐ、伝えて!」
【分かりまし―――スターズ二名との通信が妨害されました! さらにライトニングも敵と交戦に入りました!】
「手遅れやったか……ヴィータと通信つないで!」

 痛いほどに唇を噛みしめながらはやては思考する。敵の作戦はフォワード陣を分かれて動かざるを得ない状況に追い込むこと。そして数が少なくなったところで確実に叩く、もしくは逃走を行いやすくするといったものだろう。

 こっちの弱点である民間人を暗黙的な人質とした上でまだ個人では一人前とは呼べないフォワード陣を倒しやすくするために分断した。この作戦を考えた人間は間違いなく卑怯で姑息な手を得意とするものであると直感する。そして悲しいことにこの直感は正解であった。

【こちらスターズ2、あたしはどう動いたらいいんだ】
「ヴィータとリインはライトニングの二人の援護に急いで。スターズの二人にはギンガに向かってもらうから」
【それでいいのか? あっちは情報が分からないんだろ?】
「相手が力を注ぐなら本命のレリックの方や。それにスターズの方だけジャミングかけとるのは多分囮の意味もある。勿論、スターズの二人が危ないのは分かっとる。でも、持久戦になって長く持つのは年齢的にも考えてスターズの方や。これが現状取れる最善の手や…ッ」

 言葉の端に自分の不甲斐なさから力が籠るはやて。実際、はやての推測はほぼ当たっており、切嗣は戦う気はほぼなくルーテシアとガリューが本気でレリックを取りに来ているだけである。さらにジャミングはより多くの敵を引き付けるための囮であった。引き付けて引き付けて、仕掛けてあった爆弾で瓦礫の下に沈めようという切嗣の作戦はここで潰えた。

 しかしながら、さしものはやてもまさか相手がスバル一点狙いの精神攻撃を行っているとは思わない。結果から言えば肉体的損傷はほぼなく精神的損傷が大きく残るというもので終わるのだがこれを読めと言うのは流石に無理があるだろう。犯人がスバルの心の傷を自分ことのように理解しているなど誰が指揮をしていても思い付かない。

【分かった。すぐにケースを確保してスバル達の方にも向かうかんな】
「ありがとうな、ヴィータ。……ほな、私も早いとこ終わらせて本命(・・)のとこに行かんとな」

 通信を切り、ガジェットの群れを睨み付けてはやては静かに呟くのだった。





 暗闇の中から襲い来る不可視の攻撃。それは相手にその気があれば必殺の一撃となる。だが、自分は生きている。理由としては相手にこちらを殺す気が無かったのだろうとエリオは息を潜めながら判断する。

 レリックケースの反応を追って奥深くまで進んできたエリオとキャロの二人。ケースらしきものを見つけて二人で喜びを分かち合ったのも束の間。本当にレリックかどうか確認することもできずに認識の外からの攻撃を受けた。

 何とか受け身を取れたものの追撃を受ければひとたまりもない。すぐさま体を起こしキャロと敵の姿を探す。まず目に入ったのは同じように吹き飛ばされながらも起き上がるキャロの姿。そしてもう一つはケースを後生大事そうに抱える自分と同じぐらいの紫色の髪の少女。

「君、それは危ないものだからすぐに放して!」
「…………」

 念のために警告をするがここまで来ている人間が無関係なはずもない。返事は無言での魔力攻撃であった。同年代に比べれば二人共高い魔力量と資質を兼ね備えているが少女のそれは常軌を逸していた。まるで目の前に台風が来たかのようなそれに可能な限り防御ができる体勢をとるが意味がない。

「ガリュー、お願い」

 何とか吹き飛ばされずに耐えたところ少女の言葉と共に先ほど襲い掛かってきた不可視の攻撃に襲われる。暗闇に紛れた人間の力とは雲泥の差がある蹴りを食らい壁に叩き付けられるエリオ。だが、攻撃が当たる瞬間に彼は目を見開き攻撃の主の正体を目にしていた。それは人のような形をしていながら人とは違う造形をした虫と人間の間のような生物であった

「エリオ君!」
「ぐ…ッ。大丈夫、それよりあの女の子を追わないと」

 心配したキャロが駆け寄ってくるがそこは意地で痛みをこらえ立ち上がるエリオ。相手の少女は二人には興味がないとばかりに暗闇の中へと歩き去ろうとしている。当然のように追おうとするのだが、その前に立ち塞がるのはおそらくはガリューと呼ばれた生物。

 ガリューはまるで姫を守る騎士のように堂々と仁王立ちし手に着いた刀のような爪を光らせる。とても隙があるようには見えない。しかし、このまま硬直状態を続けていても意味がない。少女が完全に逃げる前に止めなければならない。

 故にエリオはただ愚直に切り込んでいく。

「行くよ、ストラーダ!」
『OK.』

 槍型のデバイス、ストラーダを振るいガリューと切り合う。一突きごとに相手の体に当たりはするのだが相手も体の硬い部分を意図して当てさせているためかダメージには程遠い。だが、それでもエリオは槍を振るい続ける。時折皮膚を切り裂かれながらも気迫で止まらない。

 自らの獲物の長所であるリーチを生かし、ガリューに踏み込ませないように器用に立ち回る。戦闘の緊張と興奮から次第に額から玉のような汗が流れ落ちてくるが集中力を乱さない。それは実力でいえばガリューの方が強く、一瞬でも気を抜けばそこでやられると理解しているためだ。

「キャロ、そっちはお願い!」
「任せて、エリオ君!」

 エリオが何とかガリューを食い止めている間にキャロが少女に攻撃を仕掛ける。タイプでは言えばどちらも同系統。しかし、純粋な出力の差がある以上はキャロの不利だ。だとしても、少女の足を食い止めることはできる。

 転移魔法を使い逃げようにも細かな攻撃が幾つも続いていれば制御ができずに失敗に終わるだけである。その為、鬱陶しそうにキャロの攻撃を払いのけながらも少女は足を止めざるを得なかった。しかしながら、二人共長くはもたない。実力では相手の方が格上、今も保っているのは相手が特にこちらを殺すことに興味が無いからであろう。

(このまま耐えていたらヴィータ副隊長達が来てくれる…!)
(それまでの我慢だね、エリオ君!)

 しかしながら勝算はある。増援を待つことである。とにかく二人の目的は隊長達の援護が来るまでひたすらに耐えしのぎ足止めを行うだけ。相手を倒そうとしない意識もまたこの拮抗した状況を作り出すのに一役買っていた。そのため。このままの状況でこのままの戦力であれば二人の策は成功していた可能性が高い。しかし、現実というものはいつだって過酷なものである。

「まとめて―――燃えちまいな!」
「なっ!?」
「きゃあっ!?」

 暗闇の中でこれでもかとばかりに明るく燃え上がる炎。突如として現れた炎に襲われた二人は堪らず攻めの手を緩めてしまう。そうなれば一気に均衡が崩れ去ることは明白。エリオ、キャロ共に敵の攻撃を諸にくらい仲良く壁に叩き付けられてしまう。

「たく、ルールー。また、あたし達に黙って動いただろ。そんなんだから危ない目に合うんだぞ」
「私とガリューの二人だけで大丈夫だった」
「そんなこと言ったってどうなるかわからないだろ。ま、今はこのアギト様がいるからどんな奴が来ても安心だけどな」

 そう言って小さな体を大きく動かしてみせるユニゾンデバイスのアギト。おまけに周りには自分で打ち上げたとみられる花火が所狭しと浮かぶ。陽気でお調子者のような雰囲気から思わず脱力してしまいそうになるエリオとキャロであるが何とか気合を入れて立ち上がる。

 しかしながら体は強烈なダメージを負ったことで思うように動かない。このままでは自分達よりも強者である相手との戦闘などとてもではないが続行できない。それを相手も分かっているのかルールーと呼ばれた少女は二人から距離を取り逃走の準備を始める。

「ルールー、あの2人はいいのか?」
「……私の目的は終わったから」
「でも、あいつらまだやる気みたいだぞ」

 自由の利かない腕を無理矢理に動かしストラーダを支えるエリオ。その隣ではキャロも反抗的な目つきをこちらに向けている。どうみてもやる気十分である。そのためアギトは念押しの意味も込めて手に炎を宿らせる。殺す気はないが気絶ぐらいはさせておいた方が良いだろうという判断の結果だ。

「こいつで仲良く、眠ってろーッ!」

 子供二人の体程の大きさのある火球がエリオとキャロに襲い掛かる。くらえば昏倒は免れないだろう。しかし、二人は怯えることも、怖気づくこともなかった。それは最後の誇りや、潔い終わり方を望んでいるといった理由ではない。二人には―――仲間が来てくれるという明確な勝算があったからである。

「凍てつけ!」
「はあ!? 新手の奴っ!」

 火球を阻む様に現れたのは巨大な氷塊。リインフォースⅡの援護だ。氷と炎がぶつかれば氷が融けて水になるのは自然の理。そして、水が熱せられれば水蒸気となるのもまた理。炎が強力であったがために一瞬のうちに大量の蒸気が生み出される。

 それによりエリオ達とアギト達の間には視覚を遮る蒸気のカーテンが出来上がる。前が見えなくなり思わず狼狽えるアギトの体にツヴァイのバインドがかかる。さらに間髪を置かずに蒸気の中から赤い弾丸が少女の下に飛び込んでくる。鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼンだ。

「アイゼン、ギガントだ!」
『Jawohl.』

 狙うは一人。ケースを持った少女だ。手にする槌は一撃必殺、ヴィータは初手で全てを終わらせるつもりだ。そしてこの手にはその力がある。爆発的な加速と振りぬく剛力、阻むものは全て粉砕する一撃。

 だが、そうはさせまいと少女を守る守護者が立ち塞がる。ガリューは少女が使役する召喚獣である。しかしながらその絆は何人たりとも断ち切れぬほどに硬く、純粋である。故に脳が思考を始めるよりも前に彼の体は少女の盾にならんと動いていた。

「そらぁッ!!」
「ガリュー…ッ」

 少女の身代わりとなりガリューは重く、鈍い衝撃をその体一つで受け止める。その結果はボールのように体を吹き飛ばされることであった。ヴィータは初めて感情のある声を上げる少女の方にガリューを飛ばしてぶつけようとするがそれはガリューの最後の抵抗により軌道をずらされた。

 しかし威力は殺せずガリューは壁を貫通し別の区画に叩きだされる。それを確認することもなくヴィータは鋭い眼光を少女に向ける。端的に言うと彼女は怒っていた。部下を傷つけられたことで少々頭に血が上っていた。何よりもここまで部下が気力で耐え抜いたことを無駄にしたくなかった。

 絶対に逃がさない。瞳は口よりもなお雄弁に語り、手は再び鉄の伯爵を握りしめる。その気迫に流石の少女も危険を感じ強固なシールドを作り出す。だが、それは鉄槌の騎士相手には悪手であった。

「ぶち抜け、アイゼンッ!!」

 相手の防御の上から叩き潰すのは彼女の十八番である。もしも少女がザフィーラやなのはのような練度を持ったシールドを持っていれば防げていたであろう。しかしながら少女はあくまでも召喚術師。一人で攻撃も防御も行わなければならなかったなのはやその道のプロフェッショナルであるザフィーラと比べればどうしても劣る。

 容赦なく罅を入れていくグラーフアイゼンに流石の少女も表情が険しくなる。このままでは破られて負けてしまう。そうなればこのレリックが奪われて自身の目的が果たせなくなってしまう。そう少女が心の中で考えた時、助太刀の声が聞こえてきた。

(はいはーい。ちょっと失礼しますね、ルーお嬢様)

「は?」

 突如として地面の中に吸い込まれるように消えていく少女、ルーテシア。訳が分からずに気の抜けた声をあげてアイゼンを空振り、バランスを崩すヴィータ。その様子を地中の中でほくそ笑んで見つめるのはナンバーズの戦闘機人の一人セインであった。

 彼女のISであるディープダイバーは簡単に言えば固有物をすり抜けたり潜ったりすることができる能力である。その為、ピンチに陥っていたルーテシアを地面から救出して別の区画に連れ出すことなど難しくない。

「ありがとう、セイン。ガリューの方は自分で戻って来れるみたい」
「お安い御用ですよ。となると、後はアギトさんも助けないとなぁ。衛宮の旦那、なんか案がありますか?」

 セインが通信で切嗣に話しかける。実はセインは切嗣のギンガとティアナからの逃走を手伝っていたのである。そして、その役目が終わって暇にしていた所をヴィータの接近に気づいた切嗣に救助に向かわせられたのである。内心、戦闘機人使いが荒いと思っているがそれは言わない。

【ルーテシアちゃんは救えたんだな。なら一旦ルーテシアちゃんはこのすぐ上の地上に出るんだ】
「それでどうするの?」
【地雷王でその区画丸ごと潰すんだ】
「うわ、えげつな。というかアギトさんは?」
【相手が混乱している隙に君が地下から救出すればいい】

 こともなげに敵を生き埋めにすると宣言する切嗣に思わずひくセイン。ルーテシアの方は表情からは何も読み取れない。現在切嗣は別の場所にいるために情報はセインに持たせたサーチャーとこうして得た情報だけであるが判断に迷いはない。もっとも、地下水路からすればこの上なく迷惑であるのだが。

「まあいいや、了解って……あれ? それってあたしも生き埋めじゃ?」
【今更何を、君はいつも生き埋めみたいなものじゃないか】
「いやいやいや、こう……気分的な問題?」
【とにかく、そっちは任せたぞ。そろそろ標的(ターゲット)が来る。後、ルーテシアちゃん、水路を破壊したらすぐに逃げておきなさい。多分、ヴィータなら切り抜けると思うから】
「わかった」

 セインの言葉を無視して通信を切る切嗣。ルーテシアと自分の扱いが明らかに違うと感じながらもセインは言われたとおりに動き出す。ルーテシアも戻ってきたガリューと共に地上へと向かい出すのだった。

 一方のヴィータ達は忽然と姿を消したルーテシアとガリューを追うために拘束したアギトを問い詰めていた。しかし、アギトの方は頑なに知らないの一点張りである。もっとも、彼女もセインがルーテシアを回収したということしか知らないのだが。

「おい、あいつらはどこに行ったんだよ。というか、なんだよあれ。地面の中に入り込むなんて普通じゃねえ」
「だーかーら、あたしも知らないって言ってるだろ」

 ヴィータのドスの利いた尋問にもそっぽを向き答えないアギト。その態度にヴィータはカチンと来てしまうがそこは部下の手前。何とか大人っぽい態度を取り抑えてみせる。しかしながら、額に若干青筋が浮かんでいるのであまり隠せてはいない。

「むむむ、そうやって否定するところが怪しいです」
「うっせーな、バッテンチビ!」
「なっ! リインはリインフォースⅡって立派な名前があるですよ!」
「バッテンチビはバッテンチビだ! ……って、リインフォース? そう言えばお前―――」

 アギトがリインフォースという名前に反応し話を続けようとしたところで地面が轟音を立てて揺れる。全員が何事かと戸惑っている中で最も早く次の行動に移れたのは召喚魔法の探知に優れるキャロであった。

「ここのすぐ上に大きな召喚魔法の反応があります!」
「それって……ここを潰す気なんじゃ!?」
「ル、ルールー、あたしも居るってこと忘れてねーか?」

 だんだんと激しくなってくる振動と降ってくるコンクリートの塊にエリオが顔を青ざめさせる。それと同様にアギトの顔も引きつっていた。まさか自分ごと生き埋めにするつもりかと不安になるがその不安はすぐに払拭されることになる。

 全員が今にも崩れ落ちそうな天井を見つめているために死角となった足元からセインの手が現れる。そしてアギトを掴み元のように地面の中へと消えていく。いち早く察知したヴィータが逃さないとばかりに飛び込んで捕まえに行くが一瞬早くセインは姿を消し、彼女のダイブは無駄になる。

「くそっ! 魔力反応も無しで地面に潜るってことはレアスキル持ちか!」
「ヴィータちゃん、それよりも早く逃げないとリイン達潰されちゃいますよー!」
「分かってるよ! ああ、くそ。アイゼン、ギガントフォルムだ」
『Gigantform.』

 相手の能力にあたりを付けたものの既に手遅れ。悔しさと苛立ちを吐き出すヴィータにツヴァイがそんな場合ではないと急かす。ヴィータも頭では理解しているために頷いてグラーフアイゼンを構える。

 カートリッジが三つ一気に使用され先程とは比べ物にならないサイズに膨れ上がるアイゼン。驚くライトニングの二人をよそにヴィータは鬱憤をぶつけるように今まさに完全に崩壊し始めた天井目がけて振り切る。


「お前ら、バリアでも張っとけよ。じゃあ、行くぞ。轟天爆砕―――ギガントシュラークッ!!」


 まるで巨人が槌を振り回しているかのような一撃が瓦礫を全て粉砕し―――青い空が覗いた。まるでその空間だけが虫食いで穴が開いたように地層を打ち砕き脱出経路を一瞬にして確保する。これで生き埋めになる心配はなくなった。

 そう判断したヴィータはツヴァイにエリオとキャロの護衛を任せ、すぐに地上へと飛び出していく。そこまでの時間で彼女には一切の加減もなく、手を抜いてもいなかった。
しかしながら、既に敵の姿はそこには無く空しく壊された廃棄区画の街並みが待っていただけである。

「ちっ、逃げられたか……レリック一つは奪われたか。他のところは―――」

 他の戦地の状況を確認しようとしたところで空から爆音が響いてくる。まさかと思い、恐怖で肩を震わせながら音の出所を確認する。すると、ヘリが飛んでいたと思われる場所に、まだ出来たばかりの真新しい爆煙が起きていたのだった。

「シャマ……ル?」

 敵の本命はヘリにいる謎の少女であった。





 スコープ越しから空に煙が湧き立つのを眺める。位置、角度、エネルギー出力共にディエチの狙撃は完璧であっただろう。現にヘリが飛んでいた場所とほぼ変わらない位置から煙は出ているのだ。

 だが、それを彼女と別の位置で見ていた切嗣は即座に狙撃の失敗を悟っていた。熱感知スコープでくっきりとヘリを守りに飛んできた瞬間のなのはを捉えていたからである。

(当たったかどうかの確認の為に残る必要もないだろう。当たろうが外れようが遮蔽物も人もない屋上じゃ簡単に場所を特定されるというのに)

 呑気に見物をする暇があれば一秒でも早く逃げた方が良い。一撃で全ての人間を皆殺しにできるのならともかく残った人間に襲われる可能性を考えないのか。ここにはフェイト・ハラオウンに、高町なのは、ヴィータという最高ランクの魔導士が揃っているというのに。

 内心で危機意識の薄いクワットロとディエチに溜息を吐くがそれを伝えはしない。正直に言うと切嗣は戦闘機人達のことなどどうでも良かった。それは、後は自分で勝手に何とかするだろうという放任的な考えと、スカリエッティに対する反発心から来るものである。勿論、有用であれば利用するがそれはそれ、これはこれである。

(もっとも、それを分かっていて囮に使う僕も僕だけどな)

 案の定、狙撃も防がれた上にフェイトに見つけられて簡単に追いつめられている二人を尻目に切嗣はロケットランチャーを構えヘリに狙いを定める。獲物を狙う狩人が常に一人とは限らない。人は何かを守れたと確信した時、もっとも警戒心が薄くなる。

 現になのはもフェイトもヘリのことは既に眼中にない。敵の攻撃があれで終わったと勘違いしている。その隙を作り出し狙うのが衛宮切嗣である。勿論、作戦の秘匿性を高めるために今追われている二人にも意図的(・・・)に伝えていない。

 ―――自分を憐れむな。この身は既にただの殺人鬼でしかない。

 今すぐにでも投げ出してしまいたいロケットランチャーを無理矢理に掴みヘリを見やる。あの中には聖王の因子を持つかもしれない(・・・・・・)子が居る。ヘリを操縦する何の罪のない若者が乗っている。何より―――かつて家族と呼んだ女性が乗っている。

 かもしれないという仮定を証明するためだけにヘリを撃ち落とす。探せば他にも方法はあるだろう。だが、彼女が敵なのは確定している。ならばここで殺した方が後々で楽になるのは火を見るよりも明らかだ。そう殺せばいいのだ。いつものように、ただ引き金を引くことで。

 ―――後、どれだけ、家族を殺せばいいのか。

 かつての精密さなどまるで感じさせないほどに震える指を理性で抑えつけて引き金にかける。この指にほんの少し力を入れて引くだけで終わる。だというのに指に力が入らない。必死に自分の心に理想の世界を創るためだと言い聞かせ、今度こそ力を入れて引き金を―――引けなかった。


「は…や…て……」


 それは最後の最後で情が勝ったからではない。純粋に理性が今撃っても無駄だと判断したからである。スコープ越しに映るのはヘリを護送するために現れたはやての姿であった。今撃ってもはやてに撃ち落とされるか防がれて自分の場所を知らせるのが関の山である。そう判断を下し、切嗣は引き金から指を放す。

「まさか、僕の思考が読まれるなんてね……」

 はやては予測していた。一度目の攻撃の後にさらに攻撃がある可能性を。相手の真の本命はヘリだということを。その予測の通りに彼女はガジェットの群れを完全消滅させた後に指令室に戻ることなくヘリの護衛に回った。だから切嗣は警戒して撃つことが出来ない。

 ヘリが射程圏内から去っていくのを見送りながら切嗣はホッとする自身の心に顔を歪めさせる。喜んでしまった、自分の大切な者を殺さないで済んだことに。自分は他人の大切な者を好き勝手に奪っているというのに。安堵した自分が殺したいほどに憎い。

 自己嫌悪感から血が出るほどに唇を噛みしめて立ち上がる。いつまでもここに留まっているわけにはいかない。時間が経てば調査隊が派遣されるかもしれないのだから。彼はふらふらとした足取りで歩き出しながらヘリの消えた空に向かいうわ言のように呟く。



「大丈夫……次はちゃんと―――殺すから」



 だから、全ての犠牲が報われる世界をください。
 
 

 
後書き
地味に投稿遅れてすいません。一話でまとめようとした結果がこれだよ。
それと転送魔法って扱いづらい。前に独自設定加えて置いたけど制限無しだとミッドの上空に大量の爆弾を転送させてテロするとかケリィだとやりねない(ケイネス先生の工房を見ながら)

ルーテシア「地下水路ごとつぶすね」→仕方ないね
ケリィ「地下水路ごとつぶそう」→この人でなし!

それとこんなふうに感じた作者は間違っているだろうか。 
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