鵺
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5部分:第五章
第五章
「それにね」
「そこにあらたにですか」
「火を吐くようにしようかしら」
これが亜実の今の考えであった。
「それであの憎むべき汚れた場所をね」
「焼き尽くすんですね」
「ええ、そうするわ」
こうしてであった。亜実は今度は鵺に火を吹かせることにした。すぐに復活した研究所の中でその種術を行った。するとだった。
欠伸がそのまま炎の息になりだった。二人は。
それおもろに浴びてそうしてだった。
今度は黒焦げになった。ステーキ、いやローストになってしまった。
その黒焦げの顔でだ。ユウキは亜実に尋ねた。
「まだ諦めませんね」
「ええ、今度は氷よ」
「氷ですか」
「炎が駄目なら氷よ」
こうユウキに返すのである。黒焦げのその顔でだ。
「わかったわね」
「諦めたらどうですか?本当に」
「マッドサイエンティストは決して諦めないの」
誇りを以ての言葉だった。
「いいわね、じゃあ」
「やれやれですね」
溜息をつきながらもそんな亜実についていくユウキだった。そして今度は氷漬けになってしまうのだった。そんなことを繰り返している二人であった。
だが。ユウキはそんな亜実にこう言うのであった。
「やっぱり僕はですね」
「君は?」
「この研究所にいますから」
一緒に昼食を採っている時にだ。笑顔で彼女に言うのである。食べているのは天丼とわかめうどんだった。亜実が作ったものである。
「教授と一緒に」
「何でかしら、それは」
「ここが好きだからです」
笑顔での言葉だった。
「だからですよ」
「そうなの。ここが」
「はい、確かに物凄くドタバタした場所ですけれど」
マッドサイエンティすとがいてはそうなるのは必然であった。
「けれどそれでもです」
「それでもって?」
「教授がいますから」
他ならぬ彼女がというのだ。
「ですから。ここにいます」
「言うわね。それじゃあね」
「はい、それじゃあ」
「これから毎日御飯は私が作ってあげるわ」
亜実は誰にも見せない優しい笑みで彼に告げた。
「それでいいわね」
「いいんですか、それって」
「いいわよ。むしろね」
「むしろ?」
「女にこんなこと二度も言わせないの」
こう告げるのだった。
「いいわね、二度とね」
「二度とですか」
「そうよ。私だってマッドサイエンティストである前に」
それ以上にだとだ。言葉を続けるのだった。
「女だからね」
「だからですか」
「そういうことよ。わかったらね」
「はい、その時は」
「食べて」
今あるその昼食をだというのだ。
「私の作ったその天丼とおうどんね」
「わかりました。じゃあ」
「美味しいかしら」
今度はその味を尋ねる亜実だった。
「どちらも」
「ええ、美味しいですよ」
実際に食べてみてだ。そうだと答えるユウキだった。
「それもかなり」
「そう。ならいいわ」
そう言われてさらに笑顔になる亜実だった。
「じゃあこれからもね」
「はい、これからも」
こう話をしてだった。ユウキは亜実のその料理を食べるのだった。二人はこの時からもだ。。共にいるのであった。それが彼等だった。怪しげな研究を続けながら。
鵺 完
2011・1・7
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