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1部分:第一章


第一章

                          鵺
 あまり正常でない科学者がいた。その名前を谷垣亜実という。
 顔立ちはいい。はっきりとした流線型の目をしていて睫毛が長い。マユも整っている。程よい濃さだ。
 口は普通の大きさで歯並びがいい。鼻は適度の高さだ。
 黒い髪を奇麗にブローしており背はあまり高くないが奇麗な脚と腰のラインが白衣からも窺える。膝までのスカートに黒タイツがよく似合う。
 胸もあまりないがその形はいい。本当に白衣がよく似合っている。
 しかも才媛であり日本でも生物学の権威として知られている。しかしであった。
「ユウキ君、今度はね」
 助手のだ。川上ユウキに対して言うのであった。長身ですらりとしている。まるで運動選手、しかもサッカーのそれを思わせるスタイルである。
 顔は頬が少し出ているが濃く強い眉が長くあり奇麗に伸びた高い鼻をしている。唇にはうっすらと微笑みがありかまぼこを思わせる目も微笑んでいる。
 髪は黒くさらさらとしている。やはり彼も白衣が似合っている。
 その彼にだ。亜実は言うのである。
「面白いものを作るわ」
「面白いものといいますと?」
「究極の生物よ」
 何かを目論む笑みでの言葉であった。
「そう、あらゆる動物を合わせてね」
「えっ、またするんですか」
 ユウキの返答は呆れた感じのものだった。
「この前それやって」
「あれね」
「そうですよ。トマトとオリーブを同時に栽培できるようにって」
「パスタの為よ」 
 亜実は顔を顰めさせながら言った。
「トマトとオリーブは大事でしょ」
「パスタには必須ですね」
「それで二つを一緒にしたのだけれど」
「けれど結果は」
「だってあれじゃない」
 ここで亜実はこんなことを言うのであった。
「普通に上にオリーブ、下にトマトじゃ面白くないでしょ」
「それで木が自分でも歩けるようにしたんですね」
「その通りよ」
 亜実は顔を顰めさせながらユウキに答えた。
「だからああしたのよ」
「そのせいで街に出て自衛隊まで出動しましたね」
「ふん、あんな無能な連中」
 自衛隊を罵ることも忘れなかった。
「私の偉大な子供達を全部焼き払ってくれたわね」
「あんな不気味なもの出て来たら誰だって焼きますよ」
「折角何処かに売りつけようと思ってたのに」
 そんなことを目論んでいたのである。
「そして」
「そして?」
「私の偉大さを世に知らしめてやるチャンスだったのに」
「それが望みなんですね」
「私は天才よ」
 おかしな科学者が絶対に言う一言であった。
「そう、生物と植物のことなら何でもね」
「それでなんですか」
「それで今度は」
 亜実はさらに言うのであった。
「あの憎むべき球界の癌よ」
「巨人ですね」
「ユウキ君は舞鶴生まれだったわね」
 京都の舞鶴市である。雪の多い軍港である。
「それなら贔屓は」
「阪神ですけれどね」
「私はヤクルトよ」
 ここでは何の接点もなかった。むしろ対立している。しかしであった。
「けれど巨人はね」
「嫌いなんですね」
「巨人こそは人類の憎むべき存在、それならばよ」
「それでどうするんですか?」
「その本拠地を完全に破壊してやるわ」
 東京ドームのことだ。所謂ビッグエッグである。
「その為の究極の動物を今から作り上げるのよ」
「それならロボットにすればいいんじゃないんですか?」
「私そっちは知らないから」
 生物や植物には強くてもだ。そちらはなのだった。
 
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