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レモン爆弾

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1部分:第一章


第一章

                          レモン爆弾
 梶井基次郎の小説に『檸檬』というものがある。
 それをだ。彼、花輪シオンは教室で読んでいた。
 黒と茶色の混ざった髪をいい加減にまとめた感じにしている。二重の目はちゃらい外見の中でかなり優しさを見せている。背は一七〇程で身体つきは細い。その彼がだ。
 その小説を読んでだ。こんなことを言い出したのである。
「よし、俺もこれしようか」
「っていきなり何だよ」
「何言い出すんだよ」
 いきなり声をあげた彼にだ。周囲が問い返す。
「何か本読んでるけれどな」
「梶井基次郎?御前文学読むのか」
「バンドだけじゃなかったのか」
「意外な趣味だな」
「妹が読んでんだよ」
 その妹の影響でだ。文学を読んでるというのだ。
「あいつ太宰治とか三島由紀夫好きでさ。俺にも薦めてきてな」
「で、そうした本も読んでるのか」
「その梶井基次郎にしても」
「そういうことなんだよ」
「そうだよ。いや、こうして実際に読んでみると結構面白いな」
 読んでからの感想である。
「レモンを本屋さんの本棚に置いて逃げるのか」
「ああ、それ京都の本屋さんでやったらしいな」
「それ今も真似する人いるんだろ?その本屋さんで」
「そんなこと聞いたぜ」
「みたいだな。だからな」
 それでだと。シオンは笑みを浮かべて言う。
「俺もやってみるか」
「おいおい、変な影響受けてるな」
「本屋さんにレモン置くのか」
「そうして逃げるんだな」
「そうするっていうのか」
「そうだよ。やってみるか」
 笑みのままで言うシオンだった。
「いっちょな。楽しくな」
「まあそれ犯罪じゃないからな」
「悪戯にしても些細なものだしな」
「店員さんにレモン差し入れする様なものだしな」
「別にいいだろうな」
「そうだよな」
 そんな話をしてだった。シオンは実際にその悪戯をすることにした。そして彼が所属している軽音楽部での活動が終わってからだ。スーパーでだ。
 レモンを一個買った。その彼を見てだ。
 同じ軽音楽部の面々、彼と一緒に帰っている彼等がだ。彼に尋ねたのである。
「何か御前考えてるな」
「クラスの奴等が言ってたぜ、梶井基次郎の本読んだってな」
「じゃあそれか?檸檬か」
「あの本のあれするんだな」
「そうするってか」
「そう思ってなんだよ」
 彼は笑ってだ。彼等にも言うのだった。
「こうして買ったんだよ」
「やっぱりな。わかりやすいな」
「実際にそれやる奴いるんだな」
「まあ面白いって言えば面白いな」
「お約束だけれどな」
「じゃあ今から本屋行くか」
 笑顔で言うシオンだった。そうしてだ。
 彼はそのレモンを手にスーパーを出る。夕方のスーパーは結構繁盛している。その客たちを背にしてだ。彼はギターを背にレモン片手にだ。店を出たのである。
 そのうえでだ。駅前の大きな、五階建てのビルがそのまま店になっている本屋に向かう。そうしたのだ。
 その彼にだ。軽音楽部の面々がついて行ってだ。そして彼に言ったのである。
「で、今からか」
「今からそのレモン本屋さんに置くんだな」
「そうするんだな」
「ああ、俺はやるからな」
 その悪戯をだ。するというのだ。
「このレモンを置くからな」
「本当に簡単に影響されるな」
「レモン置いて逃げるってか」
「それやるんだな」
「別に犯罪じゃないしな」
 只の悪戯だ。だからいいというのだ。
 そんな話をしてだった。彼は本屋の中に入った。夕刻の本屋もだ。仕事帰りのサラリーマンや学校帰りの学生達で賑わっている。その店の中に入ったのだ。
 
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