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可愛さ

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1部分:第一章


第一章

                       可愛さ
 可愛い、可愛い、可愛くない。
 そんな感じでだ。今ライゾウは見られていた。
 見ている初老の夫婦のだ。妻がだった。今ペットショップの猫のコーナーにいる一匹のスコティッシュフォールドを見て思ったことだ。
 その目で見られているスコティッシュフォールドは白地で顔の上のところが灰色になりだ。尻尾は黒と灰色のストライブ、身体の所々に黒い模様がありホルスタインを思わせる。全体的に丸く耳は垂れている。
 その丸い猫を見てだ。妻は思ったのである。
「何かこの猫って」
 可愛くない、不細工だと思ったのだ。しかしだ。
 夫の方はだ。そのスコティッシュフォールドを見てこう言った。
「この猫にしよう」
「飼うの?」
「うん、飼おう」
「この猫なの」
 しかしだ。妻はだ。
 夫にこう言われてもだ。こう言うのだった。
「何かね」
「可愛いじゃないか?」
「そう?この子だけ変な顔に見えるけれど」
「毛並みだっていいし」
 それにだと。夫はその猫を見ながらにこにことして妻に話す。
「顔つきだって可愛いし」
「そうかしら」
「だから」
 それでだと言う夫だった。あらためて。
「この猫にしよう」
「わかったわ。それじゃあ」
 夫に負けた。お金はあるしそれなら問題はないと答えてだった。
 そしてそのうえでだ。このスコティッシュフォールドは夫婦の家の猫になった。しかしだ。
 その猫は家に来るとだ。忽ちのうちにだ。
 いつも悪戯をした。例えばだ。
 壁で爪を研ぐ。妻はそれを見てだ。
 怒った顔でだ。叱るのだった。
「こらっ、止めなさい」
「にゃっ!?」
「全く、悪い子ね」
 怒ってからだ。妻は憮然として言うのだった。
「何なのよ」
「別にいいじゃないか」
 しかしだ。夫はだ。猫が自分のところに逃げてきたのを笑顔で見てからだ
 そうしてだ。こう妻に言ったのである。
「それ位は」
「悪戯したのに?」
「だって猫は爪を研ぐものじゃないか」
 これが夫の主張だった。
「だからいいじゃないか」
「ううん、それはそうだけれど」
「だからいいじゃない」
 また言う夫だった。
「それにこの子は」
「あっ」
 何とだ。猫はだ。怒られたばかりだというのにだ。
 妻の足下に来てだ。そうしてだ。
 頭に身体をだ。擦り付けてきた。それを見てだ。
 妻は最初は眉を顰めさせた。しかしだ。
 それでもすぐに顔を綻ばせてだ。こう言うのだった。
「困った子ね」
「いい子だろ?」
「悪戯するから悪い子よ」
 その綻んだ顔での言葉だ。
「それはそうだけれど」
「可愛いよな」
「けれど変な顔じゃない」
「そうかな。よく見てよ」
 今度は妻にこう言う夫だった。
「この子の顔な」
「顔って」
 まだ足下にまとわりつく様に擦り寄って来る猫を見た。するとだ。
 猫も顔を見上げてきた。そしてだった。
 その丸く黒い目で見上げてからだ。こう言ってきたのだった。
「にゃあ」
 するとだ。その小さい口が開いてだ。
 そこから牙が見える。だがその牙がだ。
 小さく実に可愛らしくだ。妻はその顔をさらに綻ばさせて言ったのだった。
「まあ確かにね」
「可愛いよな」
「このお口が可愛いわね」
「お口だけじゃないんだよ」
 夫は妻の足下、つまり猫のところに来てだ。その背中を擦りながら述べた。
 
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