鎮守府にガンダム(擬き)が配備されました。
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第2部
第8話 お前に最高の◯◯◯を与えてやるッ‼︎ 後編
前書き
大変遅れて申し訳ありません。
漸く投稿できました。
此れからもよろしくお願いします。
10月8日
鹿島鎮守府近郊
某駅前 バスターミナル
遂にこの日が来た。
純白のワイシャツに紺色のダメージジーンズを着こなす木曾は心の中で呟いた。
平日の昼間という事もあり、人は疎らであるが天気も良く、晴天の空が明るく視界を照らしている。
生憎と少しだけ風が吹いているが、それこそ些細な問題だろう。
正に《天気晴朗ナレド波高シ》、だ。
ちらりと、腕時計をみる。
約束の時間までまだ30分ある。
が、秒針が1秒を刻む毎に心臓を握り潰されそうな息苦しさを感じる。
まるで敵の支配する海域に突入する、まさに直前の様な……そんな緊張感が心を覆い、涼しい位の気候の筈なのに鳥肌が立ちそうになり、慌てて頬を両手でピシャリと叩いた。
(いいか木曾……ここから先は戦場だ。
何が何でも彼奴を籠絡……いや轟沈させてやるッ‼︎)
「お待たせ木曾姉ぇ……」
「よぉしッ、今の内に腹ごしらえでも……」
「あの、木曾姉ぇ?」
「いや、その前に身嗜みの確認を……いや、でもここを離れる訳にも……」
「もしも〜し、木曾姉ぇ〜」
「ん? ……うおッ、一葉ッ⁉︎
いつの間に……」
不意に現れた一葉に驚いて飛び退いた。
白いポロシャツに濃紺のカーゴパンツ、ジャングルブーツを着こなし、シューターキャップなる帽子を被っている。
言ってはなんだが、ペアルックだ。
「いやついさっき、待たせちゃってごめん。
ってか、服被っちゃったね……でも似合ってるし、……うん、可愛いよ」
「そ、そうか…………お、お前も似合ってるよ」
「うん、ありがと。
じゃ、行きますか」
◉◉◉
「……あんの、雌豚がぁあああ……ッ‼︎」
「Hey、マリモッ‼︎ 心の声が駄々漏れダヨーッ‼︎」
「頭に来ました」
「野分の……野分の、提督に……チィッ‼︎」
「はぁ、……空はあんなに青いのに……」
「うぬぬ……この長門が遅れを取るとは」
「元大元帥たるこの三笠を差し置いてデートなんて……ああ、一葉ちゃん……立派になって……」
公衆の面前でいちゃいちゃする(ように見える)一葉と木曾の後方。
タバコ屋の角から状況を見る鹿島鎮守府の女性陣の一派が、怨嗟の声を上げた。
あの一葉がデートに行く。
女っ気の無い艦隊司令に春が来た、とエインヘリアル中が蜂の巣をつついたような騒ぎになったのが先日の出来事。
そしてデート決行日である今日、出遅れた飢えた狼達が任務そっちのけで街中へ繰り出しているわけである。
「ちょ……手を組んで……なんであの場所に私がいないのよぉ……っ‼︎」
まりもがハンカチを噛み締め、滝の様な涙を流す。
しかしその眼は明らかに獰猛な肉食獣の光を発していた。
「しかし、あの木曾がなぁ……あまり目立った行動に出ていなかった故に、完全に手薄だったな……」
「この三笠の頭脳を持ってしても、この事態は予測不可能だったわ……」
「Quiet! 移動するみたいデース……」
◉◉◉
木曾姉さんと合流し、商店街の散策を始めた。
時間的にまだ上映まで時間がかかるし、今の内に色々見ておきたい。
「然し、随分活気があるなぁ……戦時下とは思えない…」
「陸はこんなもんだ。
横須賀の襲撃が異例過ぎるんだよ」
「防衛ラインを破られてないから被害が殆どないのか……」
「それでも、物価の上昇でここいらも一時期は寂れてたんだぜ?
今はシーレーンを取り戻したから元に戻ってきてるが……」
「深海棲艦の出方次第……か。
早急にシーレーンの防備を固めないと……って、デートでする会話じゃないね……」
頰を掻きながら苦笑いする。
その表情を見て、木曾も同じ様に笑った。
平和な一時。
サイレンが鳴れば、最前線に立ち戦わなければならない2人にとって、非現実的な時間だった。
思えば、一年前のあの日、深海棲艦の襲撃さえ無ければ、当たり前の様にあった筈の風景だ、と木曾は思った。
自分を姉と慕う一葉と共に過ごす、何事も無い、鎮守府での暮らし。
それが漸く取り戻せたのだと、木曾は実感した。
無論、これから先も深海棲艦との戦闘で互いに命を落とす可能性は0では無い。
だが、だからこそ、この一時が愛おしく思えたら。
(嗚呼、私は今……幸せなんだ)
ならこの一時を楽しもう。
愛おしく、狂おしい程に恋する弟分と一緒に、1秒でも多く。
いつか戦場で散ってしまうかもしれない愛する彼と共に。
「よし、次あっち行くぞッ‼︎」
「え、木曾姉ぇ⁉︎」
手を引き、駈け出す。
そうだ、楽しもう、……今日という日は始まったばかりなのだから。
◎◎◎
リンドヴルム 医務室
リンドヴルムの魔窟……軍医たる香月夕呼の自室と化したゴミ部屋で、部屋の主たる夕呼は書類やらガラクタやらが占領するデスクでパソコンに向かって超高速でタイピングを行っていた。
先日、一葉から任されたMS用の増設コンデンサの正式量産モデルの設計図と、それに対する量産計画、それら諸々を常に印刷し吐き出し続けるプリンターが悲鳴を挙げ続け、室内は騒がしくなっている。
「暇だわ~、クッッソ暇だわ~」
夕呼は嘯いた。
この単調で刺激も糞もない仕事がまだ山積みなのだと再認識する度、ぶちギレて新しいMS用の武装を新規設計で造り上げ、その数早くも5つ。
開発部のエンジニアが見たら発狂するレベルである。
《....、....、》
「ん?」
ふと、ディスプレイから視線を外して無線機を見る。
回線を開いたまま放置していた技術開発用の周波数から、唐突に信号が飛び込んできた。
《....、--・-- ・・・ --・-・ -・-・・ -・ -・--・ -・-・・ ・・- -・--- ・-・-・ -・・-・ ・・-・・ -....、》
「....嘘でしょ?」
あらしきたる きゅうえんもとむ
嵐来る。
旧ジオン公国の口頭暗号であり、拠点及び本隊が敵襲を受けた際に発せられる暗号である。
敵襲を知らせる緊急アラートが谺する艦内で夕呼はただ一人無線機を睨み続けていた。
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