恋姫†袁紹♂伝
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第36話
前書き
~前回までのあらすじ~
董卓「やっぱ好きなんすねぇ」
賈駆「な、何を言って……ボクは軍師だよ?」
☆
周瑜「嫌な予感する、嫌な予感しない?」
孫策「じゃけん退きましょうね~」
黄蓋「ンハッ☆(射)」
張遼「えぇ……」
大体キングダム
連合総大将、袁紹の合同軍儀天幕内。
汜水関を攻略すべく新たな策を模索するため、初日のように各軍の一同が揃っていた。
その天幕内の空気、一言で表すなら『異様』だ。
殆どの者達が口を閉じ。まるでそれが当たり前のように下を、或いは虚空を眺めている。
「失態ね」
そんな水を打ったような静けさの中、華琳の辛辣な一言が聞こえる。
そこに居る者達は各地の長、或いは代表の者達だ。彼女の言葉に黙っていられるはずが無い。
平時であれば直ぐに誰かが食って掛っただろう。しかし、其処に集まるものでそれをしようとする者は居ない。否、出来ないのだ。
ある者は恥辱に震え、ある者は拳を握り締め血を滲ませる。
開戦から『四日目』が過ぎようとしていた。
初日の戦い。うって出た華雄軍を撃退しようと動いた連合軍だが、彼女の類稀なる勘働きに躱されてしまう。
一旦下がり軍列を整えようとした連合軍だったが、あろうことか華雄達を追撃した軍がいたのだ。
彼等は勢いに任せて汜水関を攻め立て、梯子を次々に設置し乗り込んで行く。
これに対して華雄軍の迎撃は――余りにお粗末な結果を残した。
梯子をかけられ容易く拠点を構築されるだけならまだしも、なんと汜水関内部の奥、門の内側付近まで侵入を許したのだ。
流石に門を開けられることは無かったものの。日没と共に退いた兵士達は興奮した様子で、『もうすぐで門前だった』などと豪語し始めた。
その言葉は瞬く間に連合に広がり……結果。連合全体の気が緩み、華雄に対して慢心し始めたのだ。
そしてその日の夜。袁紹が再び合同軍儀を開くと異常な事態が起きた。
なんと諸侯が我先にと二日目の攻撃を志願し始めたのだ。
その様子に圧巻される劉備、抑えようと奮闘する白蓮、目を細める華琳。
袁紹は――笑っていた。苦笑いだ、頬を引き攣らせ諸侯の勢いにドン引きしていた。
地平線を埋め尽くすほどの連合が控える地に攻撃を仕掛ける度胸。
劉備軍の策を逆手に取り大打撃を与える用兵術。
猛将関羽を片手であしらう武力、窮地に対する迅速な対応。
どれをとっても華雄を傑物と思わせるもので、強敵を前に気を引き締めることはあっても、油断する要素などあろうはずもない。
しかし、寡兵である劉備軍との戦局など諸侯の眼中に無く。
彼等は一心に汜水関の攻防に目を向けていた。連合を先駆け攻め立てた軍勢、決して強い軍ではない。
むしろ序列的にも戦力的にも下から数えたほうが早い者達で、彼らの持ち味は勇猛さだけ。
言い換えればただの猪突猛進な軍だったのだ。
そんな軍があの華雄軍を力押しで苦戦せしめた、ならば自軍が攻城戦を仕掛ければ――……
単純且つ明快な思考である。
もはや彼らには劉備軍との一件も、寡兵を相手に無様に退却したように映っていた。
だがそれも無理からぬ事、そうなるように仕向けられていたのだから――
結局、止む終えずといった形で諸侯の一人に攻略を一任した。
袁紹がその気になれば止められただろう。総大将の名の下、上から押さえつける形で事態を収束出来た筈だ。
しかしそれをしては、ただでさえ脆い連合の結束に大きな亀裂が入る。
袁紹はもとより、次戦を任された軍にまで不満の感情が向けられるだろう。
それを良しとしなかった袁紹は、一時的に諸侯に任せることにしたのだ。
そうして向かえた二日目。立候補者が多かったためにクジ引きで軍を決め、攻略を命じた。
彼等は初戦後半のように汜水関を攻め立て、次々と内部に進入して行った。
単純な力押し。自軍の兵に自信を持っていただけあり、初戦の軍よりも華雄軍に損害を与える。
しかし、汜水関の門が開かれることは無かった。
日没と共に退いた兵の話だと、門前で華雄が精鋭と共に奮闘しているらしく。
汜水関の上ならともかく、内側では数の利が敵方にあるため攻めきれない――という結論に至った。
だが、門前まで侵入出来たという事実は他の諸侯を滾らせた。
あの軍が駄目でも自軍であれば――……
初日と変わらない考えの下、三日目の攻略に対しても立候補候補者で溢れる。
華雄軍が迎撃に成功しているあたり、手強いことは理解できる。
しかしかの軍は連戦で疲弊してきているのだ、うまくいけば漁夫の利に近い形で功を得られるかも知れない。
三日目、攻略を任された軍はまたもや力押しで汜水関を攻め立てた。
そして今までと同様、容易く内部に兵を進ませ――返り討ちに遭う。
ここまできて、ようやく諸侯も違和感と共に危機感を持ち始める。
四日目、何と連合は三軍で汜水関を攻め立てた。
戦力差を武器に攻撃することは軍儀でも案が挙がっていた。しかしそれをしなかったのは、桂花を始めとした軍師達に理論づくで反対されたからだ。
汜水関の内部で戦闘を行うのは混戦となる。様々な軍勢で入れば同士討ちの危険性が高く、指揮系統も混乱し軍として機能しない。そこを華雄軍に攻められ莫大な被害が出る恐れがある。
余裕が無くなって来ていた諸侯はこの反対を振り切り、三軍で攻撃を仕掛けたのだ。
そして軍師達の懸念通り同士討ちが多発、多くの被害が出た。
しかし人海戦術の破壊力も伊達ではなく、汜水関の上の制圧に成功。
残るは門だけ、というところまで歩を進め――
そこで華雄軍は今まで隠していた牙を剥いた。
ここまでの展開、全ては董卓軍の軍師賈駆と華雄による『演出』である。
「汜水関での迎撃……華雄、アンタは『下手』に戦いなさい」
「いくらお前でも私の軍を馬鹿にすることは――」
「最後まで聞く! これはボクの策よ」
「……策だと?」
余りにも詳細を省いた賈駆の発言。華雄は数瞬怒気を発したが、策という言葉を聞きそれを四散させる。
戦場でその策に助けられたことは、一度や二度ではない。
普段から彼女と口論が絶えないが、軍師としての力量、才覚には信を置いていた。
「説明する前に確認だけど、個人と複数人では力量に偏りが生じること――理解してるわよね?」
「ああ」
一対一で敵に相対しているのに対し、多対一で戦う場合。
仲間との連携、数で勝る安心感、様々な要因が個人の武力を妨げる。
幾度も軍を指揮し、戦をこなしてきた華雄はそれを良く理解していた。
「そしてそれは軍に対しても適用されるわ、連合は一枚岩では無い……彼等は自然と余力を残す戦い方をするはずよ」
例を挙げるとしたら初戦の劉備軍だろう。もしも連合が純粋に汜水関突破に動いていた場合、華雄軍の相手は袁紹軍、或いは曹操軍だったはずだ。
しかしこの両軍は余裕を持って高みの見物、他軍に任せてしまった。
もしもどちらかが攻略に動いていた場合、苦戦は免れなかっただろう。
へたをすれば初戦で汜水関を抜かれていた。
「アンタはその油断に付け込むの。攻防戦を長引かせて、霞の到着までね」
「それと下手に戦うことに何の繋がりがある?」
華雄の疑問はもっともだ。いくら連合の各軍が余力を残す戦い方をした所で、自分達の不利に変わりは無い。
そもそも余力を残せるという事は、裏を返せばそれだけ有利である証。
「アンタの軍なら初戦は心配ないわ、精鋭兵と将の力で難なく退けられるはずよ。
……でもそれじゃ駄目なの」
「駄目とは?」
「連合軍は決して無能の集まりじゃない。猛将とその兵の活躍を見れば次戦で必ず対応してくるわ。策と軍の質を上げて……ね、そこで――」
「『下手』に戦い、敵の余力を維持させ時を稼ぐ――か」
「…………理解できたなら話が早いわ」
華雄が時折見せる理解力の高さ、それには本当に舌を巻く。
彼女曰く、頭の中で想定し結果を導き出しているとの事だが――それが即興で出来る凄さを理解していない。
しかもその殆どが勘によるものなのだ。故に、軍師が地形図を見ながら編み出す策を、戦場で大斧を振り回しながら看破し、即座に対応できる。
軍略家としては笑えない相手だ。彼女が味方で良かったとつくづく思う。
こうして華雄軍は下手に戦い――四日目にして本性を現したのだ。
実は三日目まで戦っていた華雄軍の殆どが新兵、今回の戦にあたり参加した志願兵達だ。
四日目にして三軍で攻勢に出た連合に対し、予備兵のように下げていた精鋭達を投入。
瞬く間に内部の敵を殲滅し、汜水関に作られた拠点を全て粉砕した。
そして諸侯は理解する。まんまと踊らされていたことを――
「失態ね」
華琳の辛辣な言葉と共に話は現在へと戻る。
彼女の言葉通り失態に継ぐ失態、大失態であった。
度重なる敗戦と華雄軍がみせた武の爆発、そして連合全体に流れた噂。
『黄巾賊、各地で再び決起せり』
見え透いた虚偽である、賈駆が機を見て流したものだ。
しかし黄巾の傷跡は大陸各地で濃く残っており、あながち有り得ない話ではないため性質が悪い。
殆どの諸侯が保身のため、今すぐ領地に戻りたい心境であった。
此処にいるのは単に他者の目を気にしているから、残留の訳は惰性に近い。
今や士気は最悪。初日に比べ見る影も無い。
「五日目は私が貰うわ、文句はないわよね?」
そんな中、華琳の言葉が天幕内に響く。
此処まで辛酸を舐めさせられているのにも関わらず、彼女の表情に憂いは感じられない。
それどころか、ようやく出番が回って来たと瞳をギラつかせ高揚していた。
「他に声が無いなら決まりだ。明日はか……曹操殿任せるとしよう。
他軍の援護はどのように?」
「必要ないわ。私の軍だけで十分よ」
『!?』
袁紹を除く者達の目が見開かれる。特に華雄軍と攻防を繰り広げてきた者達が驚いた。
無理も無い、三日目までなら兎も角。四日目の今日は三軍での攻撃が弾かれたのだ。
いくら曹操軍が精鋭揃いとはいえ、地の利に勝り、加減を止めた華雄軍に一軍で当たるのは――
それも明日の五日目は重要だ。士気が落ち、黄巾が気になる現状でまた抜けなければ。
各諸侯は不安から連合を離脱し始めるだろう。そして最初に離れた軍を機に、半数以上の戦力が失われる。
そこに張遼が華雄達と合流すれば勝機は……。
しかし心情はどうあれ、これに反対する意見などあるはずもなく。
明日は曹操軍に一任するという形でこの日は解散した。
「本当に、彼等は何しに来たのかしらね」
軍儀後、自陣の天幕に戻った華琳は酒を飲んでいた。
軍師である郭嘉に酌をさせ、諸侯に対する不満を口にする。
「史に愚将として名を残しに来たのかと思うほどよ、貴女はどう? 稟」
「華琳様、流石にそれは……」
「此処には煩わしい連中は居ないわ、本音を聞かせて頂戴」
郭嘉は言いよどみながらも主の杯に酒を注ぐ。本音を聞かせるよう諭されたが、彼女の意見は変わらない。
「高みを目指す我々から見れば確かにお粗末ですが、四日目の鬼気迫る攻勢には目を見張るものがありました。
彼らを批判するより、相対している董卓軍の奮戦を褒めるべきかと」
郭嘉の言葉を「それもそうね」と受け入れ酒を飲み干す。
自軍や袁紹達から見ればお粗末だが、彼らの攻めには確かな破壊力があった。
相手が華雄軍でなければ突破していただろう。
「まぁでも、華雄の奮戦も明日で終わりね」
諸侯の戦力、戦術を観察する間。十分に華雄軍と汜水関を見ることが出来た。
確かに堅固だ、しかしまったく脅威を感じない。
それほどの軍備、それほどの『もの』を曹操軍は用意してきたのだ。
「華琳様、そろそろ」
「そうね、明日に差し支えるといけないし……今日はもう寝るわ」
天幕を後にしようとする郭嘉を、腕を掴んで止める。
「稟、貴女も此処で寝ていきなさい。いいわね?」
「ふぇ!? いいいいいえ、私は!」
「駄目よ、今日と言う今日は逃がさないわ」
郭嘉が曹操軍に仕えてから数年。彼女は未だに華琳と閨を共にしたことがなかった。
閨に誘われるたび断り続けていたのだ。本当は興味があるにも関わらず……
郭嘉はどこか天邪鬼なところがあった。
「大丈夫、私に全てを委ねるだけでいいのよ」
半ば強引に郭嘉を寝台に押し倒し、口付けを交わす。
そしてそのまま、舌で彼女の首をなぞり――
「~~~―――ッ……プハッ!」
臨界点を突破し、郭嘉から噴出された鼻血に止められる。
「……この娘も相変わらずね」
妄想癖がある郭嘉の鼻血、曹操軍では見慣れた光景だ。
このクセも相まって今まで愛でる事が出来なかった。いざ事が始まればあるいは――
と、思っていたが駄目のようだ。
華琳は行為を止め、気を失った郭嘉に処置を施す。
いくら好色とはいえ、意識の無い者に手を出すほど飢えてはいない。
この持て余す程の昂りは明日、董卓軍にぶつけるとしよう。
五日目。汜水関を守る華雄軍に緊張が張り詰める。
その原因は近づいてくる軍旗にあるだろう。『曹』の一文字、曹操軍だ。
華雄軍は当然その軍を知っている、その脅威も。かの軍勢は軍師賈駆をして、二番目に気をつけなければならない軍勢だった。
それに、援軍がまだ到着していない。
華雄軍は度重なる連戦で疲弊してきている、今にも絶望の兆しが現れそうだ。
「臆するな! 援軍は必ず来る、それまで此処を守りきるぞ!!」
『オオオオォォッッッ!!』
そんな彼等が戦意を保っていられるのも、単に華雄の存在が大きい。
初日から鬼神の如く連合を退け続けた彼女は、汜水関の希望そのものだ。
「華雄様! 敵軍から何か飛び出して来ました!!」
「あれは―――」
「―――衝車!?」
「知っているのか雷電!」
「?……門を破壊することを目的とした攻城兵器です!」
曹操軍の騎馬に引っ張られたソレは、華雄軍の斉射も虚しく汜水関の門前まで到達した。
そして――容赦なく取り付けられている巨大な杭で門に衝撃を与える。
それを見て、曹操軍を除く軍勢が目を見開いた。
衝撃に驚いたわけではない、なんとその衝車は――無人で動いていたのだ。
「連合も董卓軍も見て驚け! これがウチ渾身のカラクリ自動衝車『ぶちやぶる君二号』や!!」
後書き
ぶちやぶる君一号、春蘭による耐久テストにて殉職。
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