| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

少年少女

作者:ゼッピィ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第十話

俺たちはネクロマンサーを倒し、転移結晶で村へ戻ると、NPCからクエストクリアの報酬を受けとる。

「今回は本当に助かったよ、ジンガ、シノン、ありがとう。」

キリトが頭を下げてくる。

「いや、攻略の為だ、気にするな。それに、戦闘中、キリトがボスを一人で押さえてくれていたのは大きい。本当に助かった。」

俺も頭を下げる。

「私、あんまり役に立たなかったわ。ごめんなさい。」

シノンは悔しそうに唇を噛んだ。

「そんな事は無いよ。連携して戦えたからこそ勝てた戦いだったと思う。」

キリトは屈託のない顔で言った。きっと、本心からの言葉だろう。

「俺もそう思う。シノンの攻撃が無ければ勝てなかった。今回の戦いに、シノンは必要不可欠だった。」

俺も素直に言う。シノンがいなければ、ネクロマンサーにキリトはやられていただろうからな。そうなれば、一気に形勢は悪くなっていたはずだ。

「そう・・・」

腑に落ちない様子のシノン。これはしばらく経験値稼ぎに躍起になるな。

「じゃあ、俺はこの辺りで失礼するよ。次はボス攻略で会おうぜ。」

キリトはそう言うと、転移結晶を取り出す。

「あぁ、またな。」

「・・・またね、キリト。」

俺たちは胸元で小さく手を振りながら見送る。

「転移!アルゲード!」

転移結晶の発動により、キリトが鈍い光に包まれ転移する。俺たちはキリトが完全に消えるまで手を振り続けた。

「ふぅ、終わったな。俺たちも宿とって休むか。」

「えぇ、流石に疲れたわ。」

今日はこれ以上、活動する気力は無かった。まだ夕方くらいの時間帯であったが、今日はもう、のんびり過ごしたい。




「・・・ねぇ、ジンガ。」

俺たちは65層の主街地に転移し、宿屋へと移動していた。移動中、シノンは黙り込んでおり、ようやく口を開いたのは宿屋前に着いてからだった。

「うん?何だ?」

「その、ごめんなさい。私、護られてばかりだった・・・」

シノンが俯いて呟くように言った。

「そんな事はない。」

俺はそれだけ応える。夕焼けの空が綺麗で、夕陽の赤い光がシノンの表情を隠している。

「ううん、何度も危ない場面があったわ。私は強くなりたい。うぅん、強くならなくちゃいけないの。何にも負けない位、強く・・・なのに、私はこんなにも弱い。ジンガがいなかったら、何回死んでたか分からない。」

後半、シノンの声は震えていた。

「敵に近づかれたら何も出来ない。本当に足を引っ張ってばかり・・・どうしたら、どうしたら強くなれるの?ジンガみたいに、敵をたくさん倒せる強さ。キリトみたいに、ボスと一対一で戦える強さ。どうしたら良いの・・・?」

涙を流しながら捲し立てるようにシノンが言葉を吐く。

「・・・いいか、シノン。」

俺はシノンの方を向き、ゆっくりと口を開く。

「確かに、シノンは敵に近づかれたら危険だ。防御力は低いし、HPも俺たちに比べたらずっと少ない。しかし、シノンは遠距離要員だろう?現に、俺やキリトに遠距離から有効的な攻撃をする術は無い。役割が違う。」

シノンが顔を上げる。涙が頬を伝って地面に落ちて消えていく。

「・・・適材適所ってこと?」

涙声にそう言う。

「そうだ。今回はたまたま室内での戦闘だったし、雑魚敵が多すぎる戦いだった。これがもし野外だったら?もしくは、雑魚の殆んどいないボス攻略だったら、シノンは大活躍さ。」

最後の方、外国人ばりにオーバーなリアクションをとる。わざとらし過ぎたか?

「ふふ・・・わざとらしいわね。外国人がやってるテレビショッピングみたい。」

シノンが小さく笑いながら言った。恥ずかしくなったが、笑ってもらえたから良しとしよう。

「と、とにかく、シノンは弱くなんかないし、足を引っ張ってるとか、誰も思ってなどいない。一人で何でもできる奴なんて、このアインクラッド内にはいないと思うぞ?それに、シノンは遠距離攻撃においてはSAOで最強だと思う。だから自分を弱いだなんて思う事は無いんだ。」

「・・・分かったわ。有り難う。慰めてもらっちゃったわね。」

シノンが涙を拭き、夕陽を背にして頷く。
実際、シノン以外に弓を使うプレイヤーは未確認だし、間違いなく最強なはずだ。

「それに、強くても弱くても、シノンが危険に晒されていたなら、俺はいつでも助けに行く。必ずだ。だから、安心して狙い撃て。お前の矢でお前の敵を撃ち抜けるように。」

口から勝手に言葉が出る。俺は言った後に恥ずかしくなった。

「ばっ、ばか。そんな事言われたら・・・は、恥ずかしいじゃないのよ・・・口約束だとしても、う、嬉しくなるじゃない。」

シノンと俺はお互いに視線を泳がせる。シノンの顔は夕陽のせいでよく見えなかったが、恐らくは赤くなっているだろう。そしてそれはきっと俺も同じだと思う。

「口約束何かじゃ・・・うん。その、何と言うか・・・うん。恥ずかしいな。」

しどろもどろだな。我ながら何をしているんだろうか。胸がモヤモヤするというか、緊張すると言うか。しかし、悪い気分では無かった。

「こっちが恥ずかしいわよ。ばか。」

「あぁ・・・す、すまん。」

「謝んないでよ。ばか。」

「す、すまん・・・」

「・・・ばか。」

夕暮れの宿屋前、他のプレイヤーが通りかかるまで、俺たち二人は心地良い緊張感を味わっていた。
夕日の紅い光が眩しく、暖かい。バーチャルの世界にいる事など、すっかり忘れてしまう。俺はいつまでもこの日の事を忘れはしないだろう。そう思った。



こうして【死霊使い事件】は幕を閉じた。俺の心にモヤモヤしたものを残して。
 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧