サラリーマンヒーロー
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第六章
「変わらぬ様じゃな」
「はい、どうも」
頭に手をやって答えた彼だった。
「ヒーローはやってますが」
「サラリーマンのままじゃな」
「しがない旦那で父親で」
「そうじゃな」
「成人病とかも怖いです」
「それは何よりじゃ」
神は彼の返事を聞いて満足した顔で頷いた。
「わしの目に狂いはなかった」
「私はヒーローですか」
「よいヒーローじゃ」
「五時から九時まででも」
「それでもよいのじゃ、人が出来ることはな」
それこそと言う神だった。
「一人一人なら限られるしな」
「それで、ですか」
「御主も他のヒーロー達もな」
「勇者仮面さんや若鷹仮面さんも」
「それでよいのじゃ」
「五時から九時までで」
「しかも日常愚痴ばかりでもな」
それでもというのだ。
「別によいのじゃ」
「そうなのですか」
「うむ、よいことじゃ」
「何か普通ですか」
「普通でこそな」
「ヒーローになっていいのですか」
「普通の心でヒーローを続けてくれ」
これからもというのだ。
「よいな」
「では五時から九時まででそれ以外は」
「会社と家庭でな」
「しがない市民ですね」
「うむ、そして普通のヒーローじゃ」
サラリーマンかつ家庭人かつヒーローでというのだ。
「やってもらおう」
「ヒーローとして務まっていますか」
「充分にな」
「ならいいですが」
あまり自信なく答えた宮田だった、そして。 彼は他のヒーロー達と同じく五時から九時までヒーローをし続けた、ヤクザ者やチンピラ、スリ達小者ばかりしか倒していないが。
しかしだ、世間の者達はこのことに感謝して言うのだった。
「ヒーロー達が倒してくれてな」
「悪い奴等をな」
「過ごしやすくなったな」
「世間が奇麗になってるよ」
このことに感謝していた、そして。
その彼等の言葉を聞いてだ、宮田は夢の中で神に言った。
「とりあえず役に立っているみたいですね」
「世の人々にな」
「ちょっとしたことなのですが」
「そのちょっとしたことでもな」
それでもと言った神だった。
「これが役に立っておるのじゃ」
「ならいいですが」
「ではな」
「これからも」
「頑張ってくれ、これからもな」
「それなら」
彼も頷いてだ、そしてだった。
宮田は夢から深い眠りに入った、その翌日。
妻にだ、朝起きるとこう言われた。
「今日の朝御飯は豪勢よ」
「どんなのかな」
「あなたの大好きな卵焼きにね」
それにというのだ。
「お味噌汁、納豆、梅干に海苔にね」
「御飯だね」
「勿論お茶もあるわよ、デザートは林檎よ」
「確かに豪勢だね」
普段はお茶漬けやトースト位だ、妻の方も忙してそこまで用意出来ないのだ。
「それじゃあだね」
「これから食べましょう、今からあの子も起こしてくるから」
「家族揃って朝御飯か」
「そうよ、今日はね」
「いいね、それも」
家族揃ってのことにもだ、彼は笑みになった。
「やっぱりね」
「ええ、皆で食べるのがね」
「一番美味しいからね」
「そうよね、皆朝から忙しいけれど」
「それでも食べられるのなら」
「皆で食べましょう」
「今日は朝からいい一日だね」
もう幸せな顔になっている彼だった。
「いい一日になりそうだ」
「それじゃあ」
「今日は一層頑張るか」
普段以上にというのだ。
「一家集まって美味しい朝御飯を食べるから」
「それじゃあ今日は頑張ってね」
「会社でね」
ヒーローのことは話さなかった、だが。
宮田はこの日とてもいい朝食を食べられたことに満足して会社に向かった、そして五時からのヒーローの仕事も頑張った。そうしてこの日も平凡に過ごしたのだった、サラリーマンとして家庭人としてヒーローとして。
サラリーマンヒーロー 完
2016・1・17
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