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アインクラッド篇
断章 南十字の追憶
《死神》スキル
「オオォォォ!」
「ハアァァァ!」
超高速の打ち合い。剣撃音が連続して響く。三段突きをを避けて袈裟斬り、逆袈裟のコンビネーション。両方弾かれ、遠心力を乗せた横薙ぎが迫る。ジャンプして回避、クイックチェンジで両手剣に持ち換え、思いっきり叩き付ける。ガードされるが、軽い彼女では耐えられない。数メートル吹っ飛ばし、距離が出来る。
「チッ、しぶといな。」
「フフフ、流石お兄様。遠慮も容赦もありませんね?」
「お前、本当にそう思うか?」
幾ら人殺しに堕ちたとは言え、相手は実の妹である。当然、迷いもあれば躊躇いもあった。再びクイックチェンジで片手直剣を取り出し、構える。
「いえいえ、お兄様が誰よりも優しいのは知っていますから。ただ……、」
「ただ?」
「殺死合いの最中に迷いがあっては、本当に死んでしまいます、よっ!」
言葉と同時に全力の踏み込み。慌てずそこからの突き込みを横合いから迎撃するが………
「なっ………!?」
俺の剣は虚しく空を切った。よく見ると、彼女は槍を普段よりかなり、穂先に近い位置で保持している。たしかこれは、ポールアーム系武器をを敢えて短く持つことで、間合いを変え、相手のガードを空振りさせる………
「システム外スキル《虚空撃》ですよ?お・に・い・さ・ま♪」
アマナの満面の笑みと共に、槍が一閃される。どうにか後ろに跳ぶ事は出来たが、これでもかなりのダメージを…………
「……ッ!?ぐあぁぁぁ!!?」
そんな思考を断ち切ったのは、胸のダメージエフェクトから発せられる、激痛だった。有り得ない、そんな思考を幾つかの情報が打ち消した。
情報を集めた時の、生き残りのプレイヤーの言葉
先程までこの部屋で転がっていたプレイヤー達
彼らは皆、痛みを感じていた筈だ。
「クッ………ソが…………。」
「あら?お兄様ったら意外と丈夫ですのね。他の人はみーんな、地面に転がって呻くか喚くかしか出来なかったのですけれど。立ってられたのはお兄様が初めてですよ?」
「どう、やって………。」
「お兄様達にだけ、特別に教えて差し上げます。私の《死神》スキルを。」
「……《死神》………。」
「このスキルを使って、隠蔽状態からの不意討ちをクリティカルさせるとですね、何と相手のプレイヤーを一撃死させることが出来るんですよ。さらに、相手のペインアブソーバーが効かなくなると言うオマケ付きですわ。」
「一撃死に………ペインアブソーバ無効だと……!?」
「ええ、死神の名に相応しいスキルでしょう?そう思いませんか、“お姉様”?」
次の瞬間、今までアマナの立っていた位置に、アマネの槍が突き立った。
「姉貴………、」
「アマギ、下がってなさい。私がやるわ。」
俺は姉の背中を見ただけでも理解した。ブチ切れている。だが……
「……姉貴の実力じゃ無理だ。俺がや………」
「アンタは黙ってなさい。どのみちその痛みで、ろくに動けないでしょ?」
「ッ!」
痛いところを衝かれた。確かにもう、立っているのが精一杯だ。
「安心しなさい。オイタをした妹シバキ倒して説教するだけだから。死にゃしないわよ。」
それだけ言って、アマネは槍を構え直す。兄妹の戦いは、姉妹の戦いにとって変わった。
後書き
ここで、本作で登場したシステム外スキル二つを簡単に解説したいと思います。
《プルターン》
アマギが独自に編み出したシステム外スキル。相手の武器をギリギリまで引き付ける。もしくは動きの緩急で、相手の攻撃のタイミングをずらしてから、回れ右(左でも可)の要領で一回転し、背後に回ると同時に回転の勢いを使って剣を振り抜く技。それを読んだ相手の裏をかくため、背後に回った瞬間、前方宙返りで相手を飛び越えるという派生技《ムーンサルト》もある。
《虚空撃》
ポールアーム系武器の柄の部分を、普段より短く持つことで、間合いを意図的に狭くして、相手の空振りを狙ったり間合いの内側に敢えて誘い込んで一撃食らわせる技術。反対に柄を長く持つことで、普段より間合いを広げて攻撃する《伸長撃》がある。
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