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喧嘩

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5部分:第五章


第五章

「もうこうなったらな」
「何か寒い話ね」
「だよな」
「しかし。放課後になったら」
 だがここでそのトランプの続行を言い出した彼は強い声になった。
「秘策がある」
「秘策?」
「ああ、二人を時間差で校舎の屋上に押し込んでやる」
 彼の考え出した秘策とはそれであった。
「とりあえず二人きりになったら何とかなるかも知れないからな」
「知れないなのね」
「ああ、知れないだけれどな」
 実際はかなり寒いままであった。しかしそれでもだった。
「それやってみるぞ。いいか?」
「とりあえずもう何でもやってみる?」
「そうよね」
 女の子達は顔を顰めながらもそれに納得しだした。
「もうね。こんな状況が続くよりはね」
「やらないより何かやった方がましだからね」
「だよな」
「ひょっとしたら成功するかもだからな」
 そして男組もそれに賛成しだしてきた。
「それに賭けてな」
「一か八かな」
「じゃあやってみるか」
 最後に言いだしっぺがまとめにかかった。
「それでな」
「ああ、放課後な」
「やってみましょう、押し込み」
 こうしてとりあえずはやることが決まったのだった。希望は殆どなかったが。
「とりあえずね」
「一か八か」
 かなりやけっぱちになっていたがそれでもやってみることにした。そして何の進展もないまま放課後になった。その放課後に彼等はまた動くのだった。
「じゃあまずはだ」
「ええ」
「私達よね」
 女組が男組に対して頷く。
「私達が屋上に美奈を案内して」
「それからあんた達がね」
「ああ、良美の奴を入れるからな」
「それで行くぞ」
「わかったわ」
 女組は男組の言葉に対して強い言葉で応えた。
「じゃあそういうことでね」
「お互い上手くやりましょう」
「さて、と。それじゃあだ」
 二人はそっぽを向き合ったまま帰り支度をしていた。最初に女組が動き美奈に声をかけに行く。男組は男組で自分達の作戦を実行させる場所に向かった。
 女組は何気なくを装って。そのうえで美奈に声をかけた。
「ねえ美奈」
「ちょっといいかしら」
「何よ」
 むっとした顔で皆にも言う。
「これから帰るんだけれど」
「ちょっとあんたに会いたい人がいるのよ」
「実はね」
 またしても何気なくを装って彼女に話していくのだった。
「それでちょっと来てもらいたいんだけれど」
「いいかしら」
「嫌よ」
 ところが当の美奈は憮然とした顔でそれを拒むのだった。
「今一人でいたいから。明日にして」
「いや、あんたはそうかも知れないけれどね」
「向こうには向こうの事情があるのよ。わかる?」
「そうそう」
 それが他ならぬ自分達のことであるのは内緒である。
「だからね。来て欲しいのよ」
「ちょっとでいいからね」
「ちょっとでいいの?」
 ちょっとと言われると機嫌を少しだけなおしたようであった。
「それでいいのならね」
「あっ、来てくれるのね」
「よかった」
 女組は彼女が来てくれそうな気配を見せたのでまずは内心ほっとしたのだった。
「よかった。じゃあこっち来て」
「屋上にね」
「屋上に?」
「そうなのよ、そこで待ってるのよ」
「そこでね」
 こう話すのだった。
「だから。ちょっとだけ来てね」
「いいわね」
「何か怖い先輩が待ってるとかそういうのじゃないみたいね」
 皆の目を見て言うのだった。皆とりあえず焦っている目はしているが悪いことを考えているような後ろめたい目でないのはわかったのだ。
「だったらいいわ」
「そもそもそんなのだったら無理矢理連れていかない?」
「ねえ」
 皆自分達の目を見られたのでそれが怖くもあった。
「っていうか私達そんなことしないし」
「協力もしないし」
 そういう悪い面々ではないのである。根は善良なのだ。だからこそこの二人の剣呑でかつ殺気に満ちたいがみ合いを何とかしようとしているのである。
 
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