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2部分:第二章
第二章
「決め付けはよくないし」
「それは確かにそうだね」
「うん、それだからね」
「今はだね」
そんな話をしてだった。二人はだった。
お隣を見るのだった。するとだ。
一人は三十位の気品のある端整な紳士だ。こちらが医者だ。背が高く運動選手を思わせる身体をしている。まさに非の打ちどころがない。
もう一人は二十五位の角刈りのマッチョである。こちらが喫茶店を経営している。外見とは裏腹に易しい物腰の男である。
二人の名前はそれぞれ阿部孝義、後藤高次という。二人の家の表札にはその名前がある。その二人が夫婦の隣室の住人達だ。
その彼等が仕事の時以外は常に一緒だ。買い物の時も散歩の時もだ。彼等は常に一緒にいる。それもかなり親密にである。
二人を見てだ。孝太郎と聡美は話す。
「やっぱり怪しいよな」
「そうよね」
こう話すのだった。
「見れば見る程」
「ううん、話には聞いていたけれど」
孝太郎は腕を組んだ。そのうえで妻に言った。
「本当にそうなんだ」
「ゲイねえ」
「どうしようか」
夫は妻に真剣な顔で言った。
「ここは」
「ここはって?」
「いや、ゲイだとしたらね」
彼は真剣に心配する顔であった。
「何ていうかね」
「怖いとか?」
「怖いよ、やっぱり」
こう妻に言うのである。
「何ていうかね」
「ううん、確かに何か違うけれど」
聡美にしても同性愛者が傍にいることはかつてなかったことだ。そのことに戸惑いを覚えているのは事実だ。しかし夫にこう言うのだった。
「けれどね」
「けれど?」
「私達には何もしてこないんでしょ?」
こう夫に言うのであった。
「そうよね」
「二人共礼儀正しい紳士だしね」
「特に私にはそうよね」
ゲイなら女性に興味を抱く筈もなかった。
「だったら」
「いいっていうのかい?」
「別に犯罪者とかそういうのじゃないじゃない」
妻は夫にこうも話した。
「そうよね、それは」
「言われてみれば」
孝太郎もだ。聡美の言葉に目を伏せさせて考える顔になった。そのうえでの言葉だった。
「そうなるよね」
「そうでしょ?だから」
「じゃあいいか」
孝太郎は今度はこう言った。
「とりあえずは」
「騒ぎを起こしたら大家さんか警察を呼んで」
この辺りはしっかりとしている聡美だった。伊達に主婦ではない。
「そうすればいいしね」
「うん、じゃあ普通に」
「お付き合いしていきましょう」
こうしてだ。二人はその隣人達との交流をはじめた。するとだった。
阿部も後藤もだ。確かにお互いかなりべたべたしている。しかしだった。
どちらも礼儀正しくそのうえ謙虚だ。温和で人柄はいい。
二人はだ。時々夫婦を自分達の部屋に呼んだ。そうして料理を振舞うのだった。
「どうぞ」
「あっ、サラダですね」
「それにムニエルですか」
「はい、そうです」
「私が作りました」
後藤がにこりと笑って夫婦に述べた。彼はその筋肉質の身体にエプロンとしているティーシャツ、ジーンズの上からそのエプロンを着けているのだ。
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