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本気で挑むダンジョン攻略記

作者:MARIE
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Chapter Ⅰ:to the beginning
  第03話:ネメアの獅子

 
前書き
お久しぶりです。今回から一話毎にタイトルをつけることにしました。一貫性はおそらく無いので、単語だったり、文章だったり、はたまた英語の時もあるかもしれませんね。その時の気分次第でしょうか。
まあ、タイトルにそんなに意味は無いので気にしないでください。
それと、場面・視点が切り替わる、時間が経過する、などの表現を今まで多めの空行でやっていましたが、「☩☩☩」にしてみました。分かりづらいと思ってましたので試験的に変更です。
それと、今回は短いです(9000字弱)。 

 
 
 ゴライアスをトバルカインとしてから2時間。シュライバーの速さを以て最速で下層への縦穴を探し、ベイの力を以てモンスターを瞬殺し、そしてエレオノーレとルサルカ、そしてリザの操るトバルカインによってベイが取りこぼした分を処理していく。ラインハルトはただ悠々と彼らの空けた道を進んでいく。たったそれだけの、至ってシンプルな方法によって破竹の勢いでダンジョンを攻略していく彼らは既に50層の安全地帯すら突破し、そしてオッタルが到達していた56層すら易々と踏み越え、今や80階層に到達していた。
 無論、敵がいなかった訳では無い。50層前ではミノタウロス数百匹の群れに遭遇し、60層を突破してからは溶解液を持つワームや暗闇から襲いかかって来るガーゴイルにリザードマン、70層に至ってはレベル4相当のサラマンダーやオーガを筆頭にモンスターの群れが蔓延る正に魔窟だった。しかし、それでも彼らには雑魚でしか無くシュライバーが通りすぎた際の衝撃波で吹き飛ばされ、ベイに嬉々として撲殺され、カインの試運転に使われ、エレオノーレに焼かれ、ルサルカの拷問道具によってストレス発散に使われた。
 更に、数体の階層主も時間短縮という名目のもとで使われた彼らの『創造』位階の前では只の雑魚だった。レベル7相当の階層主もゴライアスと戦ったベイに当てられたエレオノーレの『創造』によって一瞬にして消し炭になってしまったのだ。階層主クラスの巨大な魔石を回収できなくなった事をエレオノーレはラインハルトに誠心誠意謝罪しようとしたが、ラインハルトは"いつでも倒せるのだから気にするな"、とすら言う始末。最早"敵"とすら見られていない。そして、明らかに今日の稼ぎだけでオラリオで一年は遊んで暮らせるであろう程度には彼らは魔石を回収で来ていた。
 そして、先程第85階層から縦穴を使って第89階層まで降りてきた彼らは、90層前の最後の階層主との戦いを始めようとしていた―――


 ☩☩☩


「ふむ、漸く89層か。そろそろ階層主がいてもおかしくないな。」
「ハイドリヒ卿。その時は是非とも俺にやらせてくださいよ」
「ベイ、貴様はさっき階層主の相手をしていただろう。次は私だ。」
「うーん、僕もそろそろ参加しようかなぁ」
「あァ、手前はすっこんでろシュライバー!」
「うるさいなぁ、何ならお前で準備運動殺っちゃってもいいんだよ?」
「上等だオラァッ!!」
「相変わらず皆元気ねぇ」
「いや、そんな事言ってる場合じゃないでしょ」

 仲間内で決闘に発展しそうな言い合いをリザがまるで青春の一ページを見るかのように微笑ましく眺め、それにルサルカが呆れ顔でツッコミを入れる。

「それにしても、ミノタウロスにガーゴイル、リザードマンにドラゴン。まるで御伽話の世界ね。」
「それ、永劫破壊(エイヴィヒカイト)を手に入れる前から魔女だった貴女が言う?」
「その私からしても凄いって事よ」
「流石年の功」
「何ですって!?」

 女性陣でも仲間内での喧嘩が始まった。ただ、リザが言う通りルサルカは皆より1世紀以上も年上である。見た目はロリだが、ババアなのである。そう、大切な事なのでもう一度言うが、ロリババアなのである。リザは事実を言った。それにロリババアがキレた。それだけなのである。
 ともあれ、89層まで3時間足らずで進んできて尚、仲間内で戯れる程度に余裕を保っている彼らはやはりチート集団であった。

「卿ら、そこまでにせよ」

 そして、ラインハルトの一声で全員が意識を切り替えた。
 今まで彼らが踏破してきたダンジョンの様子からして、縦穴で階層主はショートカット出来ない事は分かっている。そして、階層主がいた階層は全て、迷宮では無く広い戦場であり雑魚モンスターは湧かない場所だったのだ。つまり、先程から仲間内で和気藹々としていた彼らがモンスターに遭遇しておらず、そして目の前に広がっている幅広い渓谷はこの階層に階層主がいる事を表していた。
 だが、今までと少し違って誰かが入りこめば直ぐに壁や地面、天井からポップしていた階層主が未だに出現していないという状況が彼らを戸惑わせていた。

「シュライバー。階層主を探せ。何なら見つけ次第倒してしまっても構わんぞ?」
「Jawohl!」

 偵察ついでに倒せるなら倒して来い。その指示を受けたシュライバーは狂喜に満ちた笑みを浮かべて渓谷の遥か先へと走り去って行った。

「残った者は私に着いて来い」

 そして、シュライバー以外の皆は周りの警戒をしつつラインハルトを筆頭に渓谷の狭間を歩いて行く。シュライバーが階層主を見落としたという万が一の可能性を鑑みての事だったのだがそれも杞憂に終わったようで、ほどなくして渓谷の奥の方で戦闘音が聞こえ始めた。

「ほう、シュライバーが接敵したか。」
「それじゃあ私達の出番は無さそうねぇ。」
「…ブレンナー、貴様は先程から何もしてないだろうが」
「あら、ちゃんとカインを動かしてたじゃない」
「はぁ...まあ良い。だが、確かにシュライバーが相手ならば我々の出番は無いだろうな」
「はいはーい!それじゃあここはお喋りしながらゆっくり行っても良いと――」
「貴様は気を抜きすぎだッ!」
「あいたたたたた!潰れる!私の頭が潰れちゃう!!」

 余りにも気の抜けた発言にエレオノーレがルサルカをアイアンクロ―で締めるが、ルサルカの言う通り大隊長のシュライバーが接敵したのだ。勝利は確定しているようなものでルサルカの言っている事にも共感が持てない訳でも無い。それ故に、ラインハルトはエレオノーレを窘めルサルカを開放させ、

「マレウスの言う通り、別段急ぐこともあるまい。」

 との鶴の一声により悠々と彼らはシュライバーの元へ向かうのだった。


 ☩☩☩


「おかしいわね、もう10分も経ってるのに戦闘音が消えないわ」

 異変に気づいたのは、次第に戦闘音が大きくなり、彼らがそろそろシュライバーの元へ追いつくかという頃だった。リザが言う通り、戦闘音が未だに消えず、それどころか大きくなっている。つまり、この89層の階層主はシュライバー相手に10分も耐えている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)という事になるのだ。

「ハッ、あいつには荷が重かったかねぇ」
「いや。シュライバーに限ってそれは無いだろう。奴のスピードは必ず敵の上を行く。」

 ベイが面白そうに言うが、エレオノーレはそれを一蹴する。シュライバーは基本的に被弾しない。必ず相手の上を行くシュライバーのスピードは敵の攻撃の速度すら上回る。一方的な虐殺権を持っていると言っても過言ではない、というのがエレオノーレの素直な評価だ。そして、シュライバーの攻撃力もまた大きい。流石に普段はエレオノーレの『創造』までの破壊力は無いが、それでも黒円卓の大隊長を任されるだけの攻撃力を持っている。
 そもそも、攻撃力とは言ってみれば相手にエネルギーをぶつける行為と言いかえる事が出来る。『活動』位階では銃を使うが、『形成』と『創造』位階のシュライバーの場合は敵にバイク、もしくは素手での直接攻撃を始めるので、言ってみれば攻撃力と運動エネルギーは等価だ。そして、運動エネルギーというのは『質量×速度の二乗』の公式で表される。つまり、速度が速くなればなるほど攻撃力が爆発的に増加するのだ。
 つまり、理論上幾らでも速くなるシュライバーに攻撃力の上限は存在しない。無論、敵の上を行くだけで普段はエレオノーレに攻撃力は及ばないが、それでもシュライバーが強いというのは黒円卓でも周知の事実なのだ。
 シュライバーの攻撃力に耐えきる圧倒的耐久性を持つ敵の存在に、ベイとエレオノーレの警戒心が増していくなか、あくまでもラインハルトは自然体で悠然と歩いて行く。そんな彼らの前に、"それ"は現れた。

 89階層の突き当り、両側にそびえ立つ崖が開け忽然と現れた広大な空間の中心に居座る、4メートルはあろうかという巨体は引き締まった屈強でしなやかな筋肉に覆われ、四本の足には鉄をも切り裂けそうな鋭利な爪を持ち、そして威圧感溢れる猛々しい金色の鬣を靡かせるそれを一言で表すと、まさしく『百獣の王』。89層の階層主にして90層以降(最深部)を守護する『黄金の獅子』がそこにいた。

 そして、その獅子の周りを高速で跳びまわるシュライバー。そもそも89層という最深部の手前を守護する階層主たる獅子はスピードも今までのモンスターたちとは一線を画すものを持っていた。それによって、必ず敵を上回るシュライバーのスピードは既に音速の域に到達している。更に、シュライバーは『形成』位階。バイクを使って直接獅子に攻撃を仕掛けている。
 しかし、その速度のシュライバーの攻撃力で以てしても、『黄金の獅子』にはかすり傷程度のダメージしか与えられていなかった。

「おいおい、流石に洒落になんねーぞ...」

 シュライバーの攻撃力を嫌というほど知っているベイが思わずそう呟いてしまうが、それは皆も同じこと。リザとルサルカは如何にも面倒くさそうなものを見つけたという目をしており、エレオノーレも先程までの準備運動程度の気持ちを切り替えたのか、ピリピリと肌を刺すような戦意が滲み出ていた。
 更に、その戦意を感じ取ったのはそこにいたもの達だけでは無い。戦闘を行っていたシュライバー、そして『黄金の獅子』もそれを感じ取り、ラインハルト達に気づいた。

 ―――そして、『黄金の獣』と『黄金の獅子』の目が、確かに合った。

 シュライバーの攻撃すら耐えていた獅子はシュライバーを無視してラインハルトへと敵意を向ける。それは最深部を守る階層主としての行動か、それとも同じ『黄金』としての同族嫌悪か。少なくともシュライバーからラインハルトへと敵意を移した『黄金の獅子』は―――数秒後にシュライバーによって吹き飛ばされていた。
 絶対回避という特性を持つが故に耐久性は低いシュライバーはバイクでは無く素手で攻撃を行った為両腕が捥げてしまっているが、シュライバーからしてみればそのような事はどうでもいい。

「おいおい、お前の相手はボクだろ?何無視してんのさ」

 ―――ボクが、敵に気にもされなかった?

 ふざけるな。

 ―――それもハイドリヒ卿の前で?

 これほどの侮辱があって堪るか。

 ―――しかもハイドリヒ卿に敵意を向ける?

 そんな蛮行を許さない。許すわけが無い。

 ボクは、ボクは――


「ボクはハイドリヒ卿の爪牙(エインフェリア)だぞ!!!!!」


 シュライバーの戦意が膨張する。その巨大な殺気によって80層より上にいたモンスターたちが、79層より上まで避難してしまうほどの戦意を滾らせたシュライバーを、漸く獅子も明確な"敵"として認識する。
『創造』位階の詠唱を始めようとするシュライバー。
 後ろ脚に力を集約し、シュライバーに飛び掛からんとする獅子。
 そして両者が激突しようとしたその時―――


「下がれ、シュライバー」


 決して声を張った訳では無い。だが、まるで天啓のようにその場にラインハルトの声が響き渡った。
 そしてその声を聞き、半ば反射的にシュライバーはその神速で以てラインハルトの斜め後ろまで下がり、そして獅子もその様子を只眺めるのみだった。その獅子の前に躍り出る人影が一つ。何を隠そう、シュライバーに退却を命じたラインハルトが獅子の前に躍り出ていた。

「私が相手をしよう。」

 そして、まるで闘技場(コロッセオ)の様な空間の中心で、正面から対する二つの『黄金』。
 明らかに先程よりも強大な敵の出現に空間そのものが震えるかのような獅子の咆哮の前ですら、まるで赤子に歩み寄るかのような気軽さで歩みを止めないラインハルト。
 そのラインハルトに対し、初速からトップスピードで真っ正面から襲いかかる獅子。
 ここに、『黄金』vs『黄金』の決闘が始まった。


 ☩☩☩


「おいおい、シュライバー。やっぱお前には荷が重かったみてぇだな」
「ア"?あんなん『創造』使えば楽勝でしょ。ボクはハイドリヒ卿の言う事に従っただけだよ」
「とか言いつつ実は闘いたくて仕方なかっただろうが」
「ベイ。ハイドリヒ卿が戦っておられるのだ。しっかり見ておけ」
「言われなくてもそうしますよ、っと」
「そうそう、ハイドリヒ卿の前では僕等の私情は挟まないようにしなきゃね」

 窪地の淵から中の決闘場(コロッセオ)を覗き込むようにして、エレオノーレ、シュライバー、ベイ、ルサルカ、リザの五人は死闘を繰り広げる二つの『黄金』を見る。
 片や高速で動きまわり、その鋭利な爪で、牙で、そして鋼鉄の様な尾で攻撃を繰り出す『黄金の獅子』。
 片やまるでこの状況を愉しむかのように獰猛な笑みを浮かべて素手で獅子の攻撃を捌く『黄金の獣』。
 その二つが衝突するたびに発生する衝撃波が窪地の外へ拡散し、五人のSS服をはためかせる。

「あれは、遊んでおられるな。」
「ま、『形成』すらしてないんだから闘いどころか準備運動程度にしか思ってねぇだろうな。」

 エレオノーレが言う通り、未だ『形成』を使っていないラインハルトは遊んでいるのだろう。だが、獅子の方はそうではない。全ての攻撃が獅子が持つ必殺であり、普通ならばレベル5の一級冒険者ですら一撃で真っ二つになってもおかしくはない程の攻撃なのだ。
 ラインハルトが獅子の前を大きく弾き上げる。それによって獅子の腹が露出する。それに突き刺さるラインハルトの拳によって獅子が大きく仰け反る。だが、その耐久力はシュライバーの『形成』を前にして鉄壁を誇る程。ラインハルトがそれなりに力を込めた拳を受けて、すぐさま反撃に移る。その巨体を利用した体当たりを正面から受け止めたラインハルトが何と数メートルも押し込まれる。オッタルの全力の一撃すらその場から動かずに首で受け止めたラインハルトを数メートルも押し込む。これには見ていたベイやエレオノーレも思わず唸るしかない。果たして純粋な力押しでラインハルトを後退させることが出来る団員が何人いるのだろうか。純粋な耐久力とパワーならば大隊長とタメを張れる獅子のポテンシャルは確実に89層までのモンスターの中で頂点に立てるだろう。

「良いぞ。素晴らしいポテンシャルだ。」

 基本的に破壊を是とする戦闘狂の資質を持つラインハルトも、想定以上の強敵の存在に戦意が昂っていく。受け止めていた獅子を両腕で投げ飛ばしたラインハルトは迎撃の姿勢を止め、攻勢に出る。受け身をとった獅子を殴り飛ばし、体勢を立て直す暇も与えずに腹に有効打を叩き込む。
 だが、獅子もこの程度で終わらない。鞭のように尾をしならせラインハルトを弾き飛ばす。ラインハルトも敢えて飛ばされる事でダメージを軽減することでノーダメージだが、ラインハルトが離れた隙に獅子が起き上がり、今度はラインハルトが着地するところを狙って飛び掛かる。そしてラインハルトを喰い千切らんとその牙で噛みつこうとするも、ラインハルトが上顎と下顎を掴んだ事で失敗に終わり、顎を裂かれる前にラインハルトを首を振って地面に叩きつける。だが、あろうことかラインハルトは地面に両足をつき、逆に獅子を投げ飛ばす。

「むっ」

 そして、追撃に移ろうとしたラインハルトは違和感に気づき首筋に手を当てた。そしてラインハルトが見た掌に付着した『赤』。

「は、ハハハ、ハハハハハハハッッ!!!!」

 おそらく先程の攻防で掠ったのだろう。かすり傷程度とは言えラインハルトに傷を与えたのだ。もしかしたら直撃していればラインハルトが重傷を負っていた可能性もゼロでは無い。

「実に良い。これぞ闘争。これぞ決闘。では、此方もこの素晴らしき闘争に対し、敬意を払うとしよう。」

『黄金の獣』に傷をつけれる相手などそうそういない。故に、実力者には相応の礼儀を。ラインハルトは遂に、その魂の象徴たる神槍を顕現させた。


Yetzirah(形成)――』 

聖約・運命の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)


 その圧倒的な神意に当てられ、『黄金の獅子』も雄叫びを上げ、ラインハルトへと勇敢に向かって来る。そして、ラインハルトはその刃先に手を添え――
 ――両者が交差した時には、獅子の前足の片方が飛んでいた。
 そして、振り向きざまにラインハルトが目視不可の神速の突きを放ち、もう一本の前足が飛ぶ。

 槍という武器は刺突武器だ。無論、振り回して打撃武器として扱う事も出来るが、基本的に槍の真骨頂は近接武器でも最長の間合いから放つ最速の突きである。そして、ラインハルトがそれをやった場合、最早目視不可の必殺の一撃となる。現に、ラインハルトの攻撃を目視出来たのは遠くから見ていたスピード特化のシュライバーと、かろうじて初動が見えたエレオノーレくらいである。
 両前足を欠損し、無様に倒れ込む獅子だが、倒れ込んだそばから足の付け根が蠢き再生を始めていた。そして、それをラインハルトは敢えて待つ。それによって一分も経てば獅子の足は元に戻り、再び立ち上がっていた。

「どうした。一度やられた程度で怖気づいたか。先程までの戦意はどうした。」

 そして、警戒するようにラインハルトの周りを歩いていた獅子が、発破をかけられて再び襲いかかって来る。

「遅い」

 だが、良くも悪く"戦闘"に入ったラインハルトは加減をしない。高速で動きまわる獅子を避け、その神槍で獅子を地面に叩き付ける。更に獅子の顔面を神槍で殴打し、窪地の端まで吹き飛ばす。余りの威力に窪地が揺れ、獅子の牙は数本折れてしまっているが、その程度では獅子も終わらない。尾を地面に叩き付け、飛び散った大岩をラインハルトへ飛ばす。無論、この程度でラインハルトが怯む筈も無く、全ての岩が神槍に砕かれる。そしてその間に肉迫した獅子がラインハルトに突進し、下から掬い上げるようにしてラインハルトの身体が浮き上がる。その状態のラインハルトに襲い掛かる獅子と自分の間にラインハルトは神槍を挟むことで防御に成功する。そして両者は10メートル程度の距離で着地し向かう合う。

「素晴らしい。まさしく『ネメアの獅子』と言ったところか。」

 かつて英雄ヘラクレスが12の偉業を成し得た時に最初に倒された獅子を示すそれは、まさしくラインハルトと相対するこの獅子にピッタリの名前だった。

「これから正にダンジョンを攻略するに相応しい趣向だ。では、英雄としての最初の偉業だ。」

 両者が構える。ラインハルトは神槍の刃先に手を添え、獅子は自身の最速で以てラインハルトの喉笛を喰い千切らんと四肢に力を込める。

「それでは、いざ――」

 そして、両者は同時に動きだす。
 獅子が砲弾のようにラインハルトへと迫る。
 ラインハルトが迎撃の構えをとる。
 獅子の爪牙が襲いかかる。
 ラインハルトの神槍が輝きを放つ。
 そして―――


「実に素晴らしい闘いだった。我が神槍による死、その栄誉を誇ると良い。」


 両者が交差した後、獅子の巨体が崩れ落ちる。頭から尾まで貫通した神槍の一撃によって、頑丈な皮と強靭な筋肉に覆われていた魔石が貫かれたのだ。
『黄金の獅子』の身体が塵と化していく。どうやら神槍の一撃によって魔石が完全に破壊されてしまったようで、魔石すら残らずに完全に灰燼と化していく獅子。さらにラインハルトは服には汚れ一つなく、首のかすり傷も既に治っており完全にノーダメージ。まさにラインハルトの圧勝だった。


 ☩☩☩


「ハイドリヒ卿、お疲れ様です」
「よい。階層主は倒した。下に降りる。入り口を探せ。」
「Jawohl!」

 そして、駆け寄ってきた五人にすぐさま指示を出す。
 ここはあくまで89階層。残り90階層~100階層は更に時間がかかる筈なのだ。時間が惜しい。

「それにしても、ここで『ネメアの獅子』とはな。余りにも出来過ぎた演出だ」

 89階層から100階層までの階数は丁度12。ここから100層まで全てが階層主だとした場合、丁度ラインハルト達は12の偉業を成し遂げたと見做せるわけだ。

「かのヘラクレスは12の偉業を為して神の座に召し上げられたのならば、我らが運命は――」

 馬鹿馬鹿しい。思考を中断して自嘲気味にそう呟く。
 そもそも本来の目的はダンジョンをサクッとクリアしてその後の余生は自由気ままに過ごす事だ。ダンジョンをクリアした英雄として扱われる可能性は否定できない上に、フレイヤを筆頭に様々な神に目をつけられるだろうが、そもそも自分たちが神になるなど自惚れにも程があるというものだ。

「ふむ、それにしてもシュライバーには悪い事をしたか...次はシュライバーに戦わせるか」

 原作通りのラインハルトならともかく、前世の記憶もちの別の魂が混じったラインハルトなのだから、部下も当然思いやる。先程かなりシュライバーはやる気になっていたところを、無理矢理自分が代わって貰ったのだ。そのお詫びも含め、やる気がある部下はドンドン使わなければなるまい。
 よし、次の階層主はシュライバーにやらせよう。
 そう考えつつ皆が下に降りる場所を探すのを待つラインハルトに思わぬ報せが入ったのは、その数十分後だった。




「ハイドリヒ卿!下へ降りる場所が発見できません!」
「…何だと?」

 
 

 
後書き
久々の執筆に文章が荒れに荒れました。今後少しずつ修正していかねば。
そんでもって、面倒だったこともあり89層までの大幅ショートカットです。黒円卓なら遊びだろうなぁと思ったのもありますが、ぶっちゃけここら辺の階層までの描写やってたらキリが無いので。
そして89層の階層主は『ネメアの獅子』。作中で説明した通りヘラクレスが倒した獅子ですね。まあ神様がいる世界ですし、ミノタウロスとかいるならこういうのもいるだろうと思いまして。強さはかなり上位。じゃないと戦闘にすらなりませんから。要は補正です。
そして最後に捕捉を入れておきますと、90層以降は全部階層主です。それと、オリジナル設定、展開のオンパレードになるかと。そこらへんは覚悟して読んでいってください。それでは近日中にまたお会いしましょう。 
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