ドラゴンクエストⅤ~紡がれし三つの刻~正式メンバー版
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一の刻・少年期編
第九話「取り戻せ!春風のフルート」
~妖精界~
其処は人間界とは空間を隔てた場所にあり、人間が此処を訪れる為には迷いの森と呼ばれる迷宮を抜けねばならず、余程心が清い人間か妖精に認められた人間でなければならない。
そしてリュカは妖精族のベラに連れられて此の妖精界にやって来た。
春を取り戻す勇者として。
リュカが辿り着いた場所、其処は未だ雪が舞う一面の銀世界だった。
池には氷が張り、その池の中央には巨大な樹木が立っておりその樹には窓や入口であろう立派な門が備え付けられていた。
「ここが妖精の国なの、ベラ?」
「ええ、そうよ」
「もっとお花でいっぱいの暖かい所だと思ったんだけどな。どこもみんな雪でまっ白だ」
「其れも之も、春を呼ぶ春風のフルートが奪われた為なの」
「春風のフルート?」
「うん、ともかくまずはポワン様の元へ行きましょう。あの巨木がそのままポワン様の居城になってるの」
「わ~、不思議な木だと思っとったらお城だったんだね」
リュカ達は歩き出したベラの後を追い、巨木へと進んで行く。
途中、何人かの妖精に会ったが彼女達のリュカを見る目はお世辞にも良いとは言えなかった。
「ねえ、ベラ。皆、僕の事ヘンな目で見るけど僕、何か悪い事したのかな?」
「いいえ、リュカは何も悪い事はしてないわ。皆の態度が悪いのはその魔物達を連れている事が原因なのよ」
「何で?リンクス達は何も悪い事してないんだよ!」
「妖精族には偏屈な者が多いのよ、リンクス達がどうこうより魔物を連れていると言う事を疎ましく思ってるんだわ」
「……もしかしてベラもそうなの?」
リュカは立ち止まるとベラを悲しそうな眼で見つめるが、ベラはそんなリュカを見つめるといきなり彼の頭を叩く。
「痛い!」
「あまり私を馬鹿にしないでよね。もしそう思っておるのなら初めからリンクス達を連れては来させないわよ。それにポワン様も魔物だからといって疎む様な事はされないわ」
「う、うん…。疑ってゴメンね」
「いえ、分かってくれたのならそれで良いわ。じゃあ、行きましょう」
「うん、早く行こう」
リュカはニコッと微笑むとベラの手をギュッと掴む。
ベラはベラで、そんなリュカの笑顔にキュンッとなった様で頬を赤らめていた。
―◇◆◇―
「ポワン様、人間界よりリュカとその仲間をお連れしました」
「待っていましたよベラ。ようこそおいで下さいました小さな勇者殿」
村の中央にある巨木の中に入り、階段を昇って行った先にある玉座の間に妖精の村の長、ポワンは座っていた。
「それにしてもベラ、私は此処から貴女の行動を見守っていましたが……はあ、もう少しやり方は無かったの?」
「い、いえ、しかし正攻法では中々気付いてもらえずやむなくあのような方法を」
「言い訳はよろしい。それはともかくとして、リュカ殿、私達の話を聞いてもらえますか?」
「うん。僕に出来る事なら力になります」
「ありがとうございます。それでは……」
ポワンはリュカに語って聞かせた。
この村の長は代々季節の移り変わりを司る妖精で、代替わりしたばかりの自分も春を呼ぶ儀式を間近に控えていた。
そんな時、儀式において最も重要な神具の春風のフルートが何者かによって奪い去られ、雪の女王の手へと渡ってしまったのだ。
その為儀式を執り行えなくなってしまい、世界は何時までも冬のままで春へと季節を移せなくなっていた。
「このまま春の訪れが無ければ自然界のバランスは崩れ、どのような事態になるか分かりません。ですから一刻も早く春風のフルートを取り戻し春を呼ばねばならないのです。しかし私達妖精族は闘う力の無い弱い存在、私達だけでは春風のフルートを取り戻せないのです」
「そこで私が人間界へと赴き、私と共に闘ってくれる勇者を捜していたの」
「そうだったんだ」
ポワンは玉座から立ち上がるとリュカの元へと歩いて行き、その肩に優しく手を置き語り掛ける。
「貴方の様にまだ年端もいかぬ少年にこの様な事を頼むのも心が痛みますが最早ほかの人間を捜す時間は無いのです。このベラと共に春風のフルートを取り戻す為に雪の女王と闘っては下さいませんか?」
「分かったよ、レヌール城のオバケも僕らが懲らしめたんだ。そんな悪い奴なんか僕達がやっつけてあげるよ」
リュカは胸を叩きながら誇らしげに引き受け、その足元ではリンクス達も元気よく鳴いている。
「ガウーーンッ!」
「ピイッピイピイ!」
「友達の為だもん、僕達だってリュカと一緒に闘うよ!」
「まあ、それは素晴らしい!あの事件を解決したのは貴方だったのですか。それに頼もしい仲間もいるのですね」
「えへへ、うん!僕の大事な仲間で友達なんだ!」
リュカはそう言いながらリンクス、ピエール、スラリンの順に頭を撫で、リンクス達もそれが気持ちいいのかリュカに擦り寄って行く。
「そろそろ出発しましょう、リュカ」
「そうだね、早く春を呼ばないと。リンクス、ピエール、スラリン、行こう!」
「ガウッ!」
「ピイッ!」
「分かったよ!」
「ではまず、宿屋の中にあるよろず屋で装備を整えなさい。私の使いと言えば無料で用意してくれるでしょう」
「ありがとう、ポワン様」
「ベラ、リュカ殿をしっかりとサポートするのですよ」
「任せて下さい。さあリュカ、大船に乗ったつもりで私について来なさい」
「…その大船、氷山にぶつからないといいんですけど」
「……ヤな事言いますね、ポワン様」
そうしてリュカはリンクス達を引き連れて元気に駆け出して行く。
玉座の間を後にして階段を下り、一階の図書室に来ると妖精達が話しかけて来た。
「まあ!貴方がフルートを取り戻す為に呼ばれた人間の戦士ね」
「うん、そうだよ」
「でもベラ、この様な子供で大丈夫なの?」
「その心配なら無用よ。貴女達もレヌール城を占拠していたた魔族の話は聞いてるでしょ。その魔族を撃退したのは他でもないこのリュカなんだって」
「ベラ、それよりも雪の女王が居る氷の館の入口は鍵で閉ざされているわ。おいそれとは中に入れないわよ」
「あ、そう言えばそうだった」
「扉を開く鍵があれば…」
妖精達が言うには雪の女王の城である氷の館は常に閉ざされたままで中の様子を知る妖精は一人もいないらしい。それがフルートを取り戻す難点となっている理由の一つでもある。
「…よろず屋のディーなら何か知ってるかも」
「ええ、彼はガイルの友達だったから」
「ちょうど今からディーに会いに行く所なのよ。詳しく聞いてみるわ」
「教えてくれるといいんだけど」
「何の話?」
「いえ。さ、行きましょうリュカ」
ポワンの居城を出て、少し進んだ場所に宿屋はあり、よろず屋はその中にあった。
「こんにちわ、ディーはいる?」
「おっ!ベラ殿。話は伺ってますよ、一応装備は整えておきました」
「ありがとう、助かるわ」
ディーが持ち出して来たのはピエールとスラリンに「石の牙」リンクスには前足に取り付ける「石の爪」そしてリュカには「鉄の杖」を用意していた。
「それでねディー、聞き辛いんだけど…」
「分かってますよベラ殿。ガイルの奴は今、西の洞窟に居を構えてます。アイツも最初は先代を恨んでた様ですがポワン様に代替わりした事で落ち付いた様ですわ。まあ、亡くなった方を何時までも恨み続けるというのも愚かだと言ってましたからな」
「そう、なら会いに行ってみるわ」
「ただ…」
「ただ、どうしたの?」
「……春風のフルートを盗み出したのは、どうやらザイルの奴らしくて」
「な、なんですってっ!!」
「ザイル?誰?」
=冒険の書に記録します=
《次回予告》
ガイルというお爺ちゃんに鍵の秘密を教えてもらいに洞くつに来たんだけど、そこで僕はお爺ちゃんにザイルって奴を助けてくれって頼まれたんだ。
ザイルは雪の女王にだまされてフルートを盗んだんだって。
だます雪の女王は許せないけどあんなにいいお爺ちゃんを心配させるザイルって奴も許せない。
次回・第十話「ガイルと鍵の技法」
よ~し、捕まえてお尻ペンペンだ!
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