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遊戯王GX 〜漆黒の竜使い〜

作者:ざびー
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episode4 ー Mad Plants ー

 
前書き
狂植物の氾濫(Raging Mad Plants)
速攻魔法
自分フィールド上の全ての植物族モンスターの攻撃力は、エンドフェイズ時まで自分の墓地の植物族モンスターの数×300ポイントアップする。このターンのエンドフェイズ時、自分フィールドの植物族モンスターを全て破壊する。
(今週の最強カードはこれだ!感)

 

 
 白い壁に白い床。
 その部屋には一切の装飾がなく、唯一置かれているインテリアであるテーブルも白。そんな中、男ーー斎王 琢磨はテーブルにタロットカードを並べていた。
 そして、ゆっくりと彼がカードを引く。


「正位置の魔術師。意味するのは物事の始まり・成功、そして無限の可能性。自信を持つことにより、さらなる成功を得る事ができる」


 彼は0からⅩⅩⅠのタロットを用いてその正位置か逆位置かで占うワン・オラクルといった占いを行っていた。しかし、占う相手は自分自身ではない。
 では誰なのか……


「運命の輪の導きにより、遂に来たか……」


 答えは彼が白に染められた制服の内ポケットから取り出した二枚の写真にある。一枚目は頭から肩にかけ、包むような黒一色のポンチョを被り、 決闘盤 (デュエルディスク)を構え、漆黒のドラゴンを従えた一人のデュエリスト。エド・フェニックスを打ち負かし、見事50連勝を達成させたプロデュエリストーーレンカ。

 そして、もう一枚。やや緊張気味だが嬉しそうに笑みを浮かべる紅髪の少女、最近になってデュエルアカデミアに転入してきた女子学生ーー花村 華蓮がそこに映っていた。

 そして、斎王は当然のように二人の少女が同一人物である事を知っている。彼曰く、知る事を遅かれ早かれ、必然だったとか。

 斎王は二枚の写真を見るとクククッと愉快そうに笑い声を上げる。別段、少女の写真を眺め興奮しているわけではなく理由は別にある。


「わたしの占いを覆し、遊戯 十代とは別に運命に逆らう力を持つ人物……」


 思い浮かべるのは、レンカとエドとの一戦。あの試合はエドの勝利と占いではでた。だが、蓋を開けてみればレンカの勝利だ。エドとて弱いわけではない。むしろ、最強の一角に数えられる程の実力を有している。ではなぜか。

 そこから推測されるのは、遊戯 十代同様、彼女もまた斎王の定めた運命の輪に抗う力を持っているということ。だが、十代のようにデュエルモンスターズの精霊とコンタクトを取ることは出来ない。

 そこで先ほどのタロット占いが示した結果が教えている。

 ーー物事の始まり・成功、そして、''無限の可能性”


「内に秘めた力は遊戯 十代をも上回る。だが、未だその力は目覚めてはいない……」


 斎王は捲られた『魔術師』のカードを山札に戻すと声を潜めて笑みを浮かべた。


「だがしかし、覚醒の刻は近いーー!その時こそ、我が光の結社に加わる時だ!」


 ◆◇◆

 授業後。
 少し小腹でも空いたので購買におやつでも買いに行こうとした時だった。カウンターの横に並べられた菓子パン類を選んでいると背後から声をかけられ、振り向けば、白色の制服を着た生徒三人が並んで立っていた。しかも、 同性 (女子)ではなく、 異性(男子)だ。ここ重要。

 赤は《オシリスの天空竜》、青は《オベリスクの巨神兵》、黄は《ラーの翼神竜》をモチーフにしているのならば、白ってなんだろうか。《テュアラティン》?それとも、《アテネ》か?いや、そもそも制服に白ってなかったような……それよかなんで男子の人達が?おまさか、やつ買いたいのかな?てか、正体バレた⁈いや、まさか、告白⁈三人でっ!そんなまさかーー!


「あ、あの……君?」

「ひゃ、ひゃい⁉︎にゃ、なんでございましょうか‼︎」


 行き過ぎた思考が早くもオーバーヒートしかけ混乱の真っ只中、急に声をかけられた為に慌ててしまい、言葉が可笑しくなってしまう。声をかけてきた男子とは別の、後ろに立っていた二人がクスクスと笑いだし思わず顔が熱くなる。

 きっと変な奴って思われた……埋葬されたいなどと俯きながら思っていると先ほどの失態を完全にスルーして再び声をかけてきてくれる。少しありがたく思いつつ、内容に思わず首を傾げる。

 ーー光の結社に入らないか?
 ーー入れば、強くなれるよ。
 ーー今なら会員費無料だよ。


 とりあえず、正体はバレておらず転入早々三股、血みどろの三つ巴な関係に巻き込まれなくてよかったと安堵する。一方で、いかにも胡散臭そうな文言に警戒心を高める。

 これは下手に関わると面倒な奴だと咄嗟に判断し、手近にあったドローパンを掴むとレジへと行き、そのまま立ち去ろうと試みた。

「宗教とかそーゆーのあまり興味ないので……」

「いやいや。そういった胡散臭いものじゃなくってねーー」


 だが、回り込まれてしまった!!

 逃げがダメなら、言葉巧みに躱そうとする。だが元々あがり症でありコミュ症気味である華蓮が三人に、しかも自分よりも身長の高い男子相手にうまく言葉を返せるわけなく、さらにリーダー格っぽい中央の男子生徒は相手の状況などお構いなしにグイグイ来るタイプのようで華蓮は逃げようにも逃げれず、言葉を返そうにも発言さえもマトモにさせてもらえず、再び混乱状態に陥っていた。


(ほ、ホントどうしよう……)


 どうもできない状況に追い詰められ、不安から目尻に涙を溜めていると凛とした声が響いた。


「あなた達、何してるの!」
「明日香、先輩!」


 救世主ここに現る。
 漫画の主人公の如く一年上の先輩、天上院 明日香が現れ、正面から包囲網を切り崩し、華蓮を助けだしてくれる。この勢いの良さは同性であっても惚れそうだ。

「一応、大丈夫みたいね」
「あ、はいっ」

 明日香先輩の温かい抱擁を受け、安堵しているとチッと苛立たし気に舌打つ音が聞こえてくる。顔を動かし、男子生徒達の方を向けば、先輩に対し敵意の籠った視線を向けていた。
 普通なら自分よりも身長も高く体格もガッシリしている男子に睨まれれば、萎縮すると思うのだが、先輩は気丈にも睨み返し口を開く。


「何かしら……?私の後輩に手、出すなら出すタダじゃおかないわよ」

「さて、なんのことですかね?僕らはただ光の結社の素晴らしさを転入生に教えてあげただけですけど。それともなんですか、此処では男女が喋ってもいけないんですかね?」

「そういうわけじゃないわ。ただ、女の子を怖がらせるのは男子としてどうかしらね?それに、そんな胡散臭い集団に私の後輩を引き込まないでくれない?」


 バッサリと言ってのけるが、どうやらそれが彼らの琴線に触れたらしく敵意が強くなり、やんのか、ゴラァなどと凄んで見せる。
 だが、この先輩はそれくらいで怖じ気つくわけがなく、むしろ嬉々とした表情を浮かべた。


「あら、デュエルで決着って言うの。話が早くていいわね」

「チッ、舐めやがって。俺ら光の結社の団結の力を見せてやるよ!」



 四人が 決闘盤 (デュエルディスク)を構え今にもデュエルが開始されそうな状況になる。周囲を見回せば結構騒ぎになっていたらしく野次馬が集まってきている。

『デュエーーー』

「ストォォォォォォプッッ!!」

 デュエルが始まる寸前、人混みを掻き分け、見知った人物が四人の間に割って入った。

「楓さ……先生!?」

「どうも、華蓮さん。お元気で何よりです」


 カレンのマネージャー兼臨時教員である楓さんがこちらに会釈をするとデュエルをストップさせる。

「全く何やってんですかね、ホント。こんな騒ぎにしてどうするつもりですかね明日香さん。聞けば、あなたが挑発したらしいじゃ、ないですか。オベリスク・ブルー女子たる者もっと余裕を持って、優雅に対処すべきでしょう」

 おかげで私が駆り出されてしまったじゃないですか……とため息混じりに明日香さんを説教し始める楓さん。弁明のために口を挟もうとすると黙っていて下さいと強めに言われて口を閉じざるを得なくなってしまう。

「さて、明日香さん。言い訳を聞きましょう。あなたなら、こんな騒ぎせずに解決出来たのではないでしょうか?」

「え、いや……華蓮が脅されてると思って遂に頭に血が……」

「ほう……彼らが華蓮さんを?」


 ギロリと楓さんの視線が三人を見据える。明日香さんの一言で、楓さんのヘイトは彼らに移ったようだ。

「なるほど。男子三人が、女子を恐喝ですか……いい根性してますね」

「いや、僕らは恐喝ではなく、光の結社へと勧誘をですね……」


 楓さんが殺気の籠った視線を向ける中、そういえば、泣きそうになってたわね……と明日香さんが一言。火に油を注ぐような発言に一気に楓さんの表情が険悪になる。


「……コレは学園の風紀的な意味で見逃す事は出来ませんね。罰として生徒指導行きと反省文10枚です」

「「「そんなっ!?」」」


 生徒間のいざこざとしては破格の待遇に三人が揃って声を上げる。一方で、それを見た楓さんは口元に笑みを浮かべ、代替案を提示した。

「といっても此処はデュエルを学ぶ場所ですからね……私と闘って勝てたなら特別に罰は帳消しにしてあげましょう」



 ◆◇◆



 そして、購買から場所を移してデュエルコート。そこに楓さんと男子三人が向い合い、ディスクを構えていた。


「では、デュエル……と行きたいところですが一人ずつ相手するのも面倒なので三人一辺にかかってきてきなさい」

「「なっ!?」」


 観覧席の最前列に座り事の成り行きを見守っていた私と明日香さんは揃って声をあげた。三対一なんて、無茶にもほどがある。
 だがそんな事を考えている間にもデュエルが始まってしまう。


「ルールはバトルロワイヤルで先行は私が貰います。ドロー!魔法カード『天使の施し』発動!効果は知っているでしょう?三枚ドローし、二枚捨てます。そして、モンスターをセット。カードを二枚伏せ、ターンエンドです」


 初めに手札交換を行っただけで、守りを固めるとターンを終了してしまう。一方で、突然のデュエルという展開においていかれ気味だった三人は、ようやく我を取り戻したらしく顔を見合わせるとニヤリと笑みを浮かべた。


「ふふ、見せてやりますよ。我ら光の結社の力を!僕のターン、ドロー!魔法カード『フォトン・ベール』発動します。手札の光属性モンスター三体をデッキに戻し、その後光属性同名モンスターを三枚手札に加えます。僕は『デイブレーカー』一組を手札に加えます。さらに速攻魔法『フォトン・リード』発動!手札から『デイブレーカー』を特殊召喚!」


 デュエルコート上空に光のリングが現れ、強く光を発すると純白の洋鎧を着込んだ騎士がフィールドに現れる。


「デイブレーカーは特殊召喚した時、同名モンスターを手札から特殊召喚出来る。来い、デイブレーカー!」

『デイブレーカー』
 ☆4 ATK/1700 DEF/0

 デイブレーカーが眼前に構えた細剣を地面へと突き立てると魔法陣が光り輝き、まったく同じ容姿の騎士が現れる。そして二体目のデイブレーカーも同様の手段で三体目の白騎士を召喚する。瞬く間に三体のモンスターが彼のフィールドに並ぶ。


「僕はまだ通常召喚を行っていない。手札から『フェアリー・アーチャー』を召喚しますよ!」

「よっし、高寺の連続召喚コンボだぜ!」


 四体並んだモンスターを見て、別の男子が声高らかに叫ぶ。そして、今召喚されたフェアリー・アーチャーには光属性モンスター一体につき、400ポイントのダメージを与えるバーン効果を持っている。

「フェアリー・アーチャーの効果発動だ!僕のフィールド上の光属性モンスターは四体。よって、1600ポイントのダメージを与える!喰らえ、ホーリーアロー!」


 妖精の弓兵が光を帯びた矢を弓につがえ、目一杯に引き絞ると楓さんめがけ放つ。だが、矢が直撃する前にヘルメットを被ったトマトが八体現れるとスクラムを組み、それを防ぐ。

「なにぃ!?」

「私は墓地の『プリベントマト』を除外し、効果を発動しました。このターン発生する効果ダメージを0にします」

「……いつの間に」

「まぁ、天使の施しの時しかないでしょうね……」

 先輩の言葉に納得して頷く。


『残念でしたね』と労い……ではなく挑発の言葉をかける楓さん。一方で、効果を防がれたーー高寺と呼ばれていたーー生徒は悔しげに表情を歪めた。バトルロワイヤルでは一巡目は最後のプレイヤー以外攻撃権がないため、彼にこれ以上行える事はない。そのままエンド宣言をすると別の男子がターンを開始した。


「次は俺だ。ドロー!よし、手札から『おろかな埋葬』発動。『素早いアンコウ』を墓地に送り、アンコウの効果発動するぜ。デッキから『素早いマンタ』二体を特殊召喚する!さらに、『光鱗のトビウオ』を召喚!」

『光鱗のトビウオ』
 ☆4 ATK/1700 DEF/1000


 床が波打ったかと思うと二体のマンタが飛び出し、宙を舞う。そして、マンタに続くように淡い光を纏ったトビウオが地面から飛び出してくる。


「トビウオの効果発動!マンタをリリースし、あんたのセットモンスターを破壊するぜ!」

「破壊されたのは、『ダンディライオ』です。二体の『わたげトークン』を特殊召喚します」

『わたげトークン』
 ☆1 ATK/0 DEF/0


 モンスターを破壊したと思いきや、壁モンスターが増える。次いで、もう一体のマンタも生贄にされ、わたげトークンが破壊される。せっかくモンスターを三体並べたのに、楓さんを守るモンスターの数は変わらず、マンタたちの犠牲が無駄に終わってしまう。
 そんなことを考えていると横から声をかけられる。声の主はやはり明日香さんだ。


「ねぇ、楓先生のデッキってなんだと思う?」

「いや、今のところ、わからないです。ダンディライオ自体、ピン挿しされることが多い、ですから。けど……」

「けど?」

「プリベントマトが謎です」


 先輩に意見を言うという行為に若干緊張しつつなるべく丁寧な言葉で返す。
 しかし、あのトマトが謎だ。バーンを1ターン無効にできる効果は優秀だし、墓地で発動するため、相手への牽制にもなる。だが、効果の発動条件が相手ターンのみと限られている。

 しかし、なぜトマト……謎だ。

 どうでもいい事を考えつつ、先ほど買ったドローパンのビニールを開け、一口。


「……む?えっ……⁈」

 デュエルアカデミア名物《ドローパン》の違和感に顔をしかめ、丁寧に口に残る味を吟味していく。
 コッペパンの程よい甘さと柔らかな食感とともに、口の中で広がるのは微かな塩気と青臭さ……そして、中からチラッと覗くサーモンピンクの物体。コレは一体。


「サケパン……」

「お酒……?」

「いや、鮭です。サカナの……」

「そ、そう……あまり気にしない方がいいわ」


 肩に手を置かれ、先輩から哀れむ視線を向けられる。
 当たりハズレがあるとは聞いていたがまさか初ドローパンで鮭を引いてしまうとは。がっくりと肩を落とし、ついでに一口。

「……あんまり美味しくない」


「儀式魔法『高等儀式術』発動!!デッキからレベル6『逆転の女神』を墓地に送り、『竜姫神 サフィラ』を儀式召喚!」

 天から六本の光の柱が伸び、光が弾ける。そして、現れたのは美しいサファイアの鱗を持った竜姫。

「あ、サフィラだ……」

 先輩との短いやり取りの間にもデュエルが進んでいたらしく、二人目の男子はトビウオ一体を残しターンを終え、三人目の子は儀式使いらしく、私も使うサフィラを召喚したところだった。そして、攻撃宣言。


「バトルだ!サフィラでわたげトークンを攻撃!ホーリーレイ!」


 手に持つ錫杖から一条の光が放たれ、わたげを狙う。だが、それは地面から壁のように生え出た鋭い棘によって防がれる。


「リバースカードオープン!『 棘の壁 (ソーン・ウォール)』!表側表示モンスター全てを破壊します!」

「「「んなっ!?」」」


 サフィラの攻撃の仕返しとばかりに床から鋭い棘が生え、モンスターたちを刺し貫く。一瞬の内に、三人のフィールドのモンスターが全滅し、三人が声を揃え悲痛な叫び声を上げる。


「まぁ、全体破壊への対策を怠ったのがいけないわよ。自業自得ね」

「まぁ、その通りですけど……」


 あまりにも容赦のない楓さんに表情を引きつらせる。モンスターは全滅、伏せカードはなし。そして、次は楓さんのターンだ。つまり手札誘発さえなければ、好き勝手できてしまうのだ。


「く、だが次の俺らのターンが回ってこれば……」


 フィールドを壊滅させられるも希望を見出したようで他の二人を励ます。だがーー

「何を言ってるのですか。次なんてありませんよ」

「えっ……?」

 ーー勝利宣言。次の1ターンで三人のライフをゼロにすると宣言してみせる。これにはさすがに困惑せざるを得ない。だが、楓さんは余裕のある表情をしており、本当に実行してしまいそうな雰囲気がある。


「私のターン、ドロー。わたげを生贄にして『ローズ・テンタクルス』を召喚……」


『ローズ・テンタクルス』
 ☆5 ATK/2200


 無数の触手が床を突き破り現れたと思えば、人程もある真っ赤な薔薇が咲きその全貌を露わにする。
 対植物族とも言えるモンスターだが、肝心の植物族……どころかモンスターさえいない状況ではただのアタッカーでしかない。だが、ローズ・テンタクルスを一目見た明日香さんがあっと声を上げる。


「……| 狂植物 《マッドプラント』!」

「ま、マッド……?」

 なんだその名前は……と思っている矢先、楓さん達がデュエルをしているコートが黒い蔦で覆われ、半円球のドームがすっぽりと覆い外から中の様子が見えなくなってしまう。

「……まさか、とは思ったけど予想が当たったようね」

「え、ちょ、なんですか?」

「まぁ、すぐにわかるわ。今言える事は、アレが消える頃にはデュエルが終わってるでしょうね」


 先輩の言うアレは……多分、蔦のドームだろうか。けど、デュエルが終わるって

「……ウソ」

 そして、しばらくした後、ドーム内から悲鳴が響いた。そして、ドームが消えた時、デュエルコートには楓さんただ一人が立っていた。酷く歪んだ笑みとともに伸びた三人を見下ろして……



 ◆◇◆

「まさか、またコレをやる事になるとは……」

 蔦に覆われた上を見上げ、楓は一人ごちた。
 この蔦はフィールド魔法『ブラック・ガーデン』によるもの。だが、効果自体が変わっており、知っている人は意外にも少ない。彼らも例に漏れないようできょろきょろと周りを見回している。

「……天上院 明日香。多分、彼女は感づいたでしょうかねぇ」


 フィールドが外界から遮断される前、チラッと見えた彼女の驚いた表情は華蓮さえも知らない私の過去に気がついたためだろう。

「……元、プロデュエリスト。初めは 植物姫 (プラントクイーン)なんてメルヘンな名前だったんですけどねぇ」


 もっともそれも過去の話。今では、《狂った植物》の方がメジャーだろうか。

「しっかし、何がどうしてそんなマッドな名前になってしまったのやら。まぁ、心当たりは物凄くあるんですが……。さて、続きをしましょうか。覚悟はいいですか、御三人」

「「「っ!」」」


 その一言で三人の意識がこちらへと向き、身構える。


「魔法カード『死者蘇生』を発動し、墓地から『ローンファイア・ブロッサム』を特殊召喚します。そして、この瞬間、ブラック・ガーデンの効果が発動します。その効果により、ロンファの攻撃力を半分にし、三人のフィールドにローズ・トークンを特殊召喚します」

「な、なんだこいつは……!」

『ローズ・トークン』
 ☆2 ATK/DEF 800

『ローン・ファイア・ブロッサム』
 ☆3 ATK/500→250 DEF/1400


 ロンファからエネルギーを吸い取り、三人のフィールドに不気味な、紅い大輪を咲かせる。


「ロンファの効果により、ロンファを特殊召喚。さらにロンファの効果で三体目のロンファを特殊召喚。ラスト。ロンファの効果で『ボダニカル・ライオ』を召喚します」


 ローンファイア・ブロッサムに火が灯り、燃え尽きる。そして、その燃え滓から新たなロンファが現れ、ブラック・ガーデンにエネルギーを吸われ、さらにフィールドに紅い大輪を咲かせる。
 芽吹き、枯れ、また芽吹くを繰り返す。最後にはたてがみのような紅い花弁を咲かせた植物の獅子が現れた、彼らのフィールドにはそれぞれ四体のローズ・トークンが咲き誇っている。
 その様子に彼らは困惑気味な声を上げる。

「俺らのフィールドにモンスターを並べて……な、何がしたいんだ」

「あら、勉強不足ですよ。ローズ・テンタクルスは通常の攻撃に加えて相手フィールドの植物族一体につき、一度攻撃出来ます。さらに、植物族を戦闘破壊した時、300ポイントのダメージを与えます」

「なっ……!?」


 ここまで説明すれば、誰でも理解は出来るだろう。三対一という有利な状況で勝ち誇っていた彼らの表情が絶望に染まる。それを見て、口元がつり上がるのを感じる。私はその瞬間がこの上なく好きなのだが……

「まぁ、そんな事を思ってるからあーんな二つ名を貰っちゃうわけですよねー」


 身から出た錆ですか……とため息を吐き出すと敗北を悟った彼らを見る。そろそろこの茶番も幕引きとしよう。

「伏せておいた『狂植物の氾濫』を発動します。墓地の四体の植物族を除外し、一体につき、300ポイント私のフィールドの植物族の攻撃力を上げます」

『ローズ・テンタクルス』
 ATK/2200→3400

『ボダニカル・ライオ』
 ATK/1600→800→1400→2600


 ローズ・テンタクルスの触手に凶悪な棘が生え、ブラック・ガーデンにエネルギーを吸われ枯れ気味だったライオが生命力を吹き返す。


「さぁ、フィナーレです。なるべく抑えますんで、耐えてくださいね!!テンタクルスで四体のローズ・トークンを攻撃!」

「っ!?や、やめっ……」

「運がなかった、と諦めてください。やれ、ローズ・テンタクルス!」

「うわぁぁぁぁァァァァ‼︎⁉︎」

 高寺:LP4000→1400→1100→-1500→-1800→-4400→-4700→-7300→-7600


 ローズ・テンタクルスの触手が高く持ち上げられ、一閃。それだけでローズ・トークンが打ち砕かれ、計11600のダメージ分の衝撃が一人のデュエリストに襲いかかる。悲鳴をあげながら、男子生徒一人の体が宙を舞う。蔦が蔓延る床に力なく倒れ伏す仲間を見て、他の二人は声を失う。

「さぁ、覚悟はいいですか?」

「「うわぁぁぁぁァァァァ!!」」


 ◇◆◇

 デュエル終了後、楓、華蓮、明日香の三人は場所をデュエルコートから個室へと移していた。そこでは、二人の責めるような視線を受け、頭を下げ続ける大人が一人。


「やり過ぎました……反省してます。ホントマジで」

「本当ですよ⁉︎生徒相手にオーバーキルするなんて何やってんですか!」

「あんなダメージ、よく出せたわね……」


 華蓮はやり過ぎだと憤怒、明日香は馬鹿みたいなダメージに呆れている。

「しかし、楓さん()プロだったなんて……」

「えぇ、まぁ元ですけどね」


 私がプロになる決心をする約一年くらい前。《植物姫》の二つ名で活躍していたらしい。

だが、プロリーグの企画で四人でのバトルロワイヤル戦を行った時に今日のようにワンターンスリィキルをやらかしてしまい、また楓さんもこの時に、大ダメージを与え、相手を痛めつける事に嵌ってしまったらしく、同じようなプレイスタイルをとっていたら《 狂った植物 (マッド・プラント)》の二つ名を貰ってしまったらしい。

楓さんがサディストな一面を持っている事はなんとなく理解していたが、ここまでとは……

「……なんというか、自業自得ですよね?」

「おっしゃる通りです。はい……」


その後、これではダメになると思いプロからもデュエルからも足を洗い、逆に育成する側になったとか。その一環として、教員免許を取ったらしい。

楓さんの意外な経歴を一通り聞いたところで、ガシリと肩を掴まれる。横を向けば、私へと笑みを向ける明日香先輩が居た。

……笑顔なのに、何故だか恐ろしい


「さて、今度は華蓮。あなたに話してもらう番ね」

「へ?」

「あなた、『楓さんもプロ……』なんて言ったわよね?」

「あ……え〜と……き、気のせい」

明日香先輩の無言の圧力に続きの言葉を呑み込む。マネージャーに助け舟を求め、視線を送るが首を横に振られてしまう。

「無言は肯定の意味、ってことでいいわよね。竜使いレンカさん」

「……はい」


清々しい笑顔と共に断言され、私は諦めたように返事をした。




 
 

 
後書き
デュエリスト名鑑

橘 楓(タチバナ カエデ)

使用テーマは【植物族】。二つ名は《植物姫》で知られていたが、ワンターンスリィキルをやらかし、その後も
『黒庭、テンタクルス、狂植物の氾濫』の超ダメージコンボを続けた為に《狂った植物》の二つ名として知られるようになる。
プロ引退後は育てる側に立つ為に、教員免許を取得、程なくして華蓮のマネージャーとなる。

華蓮がプロ時代の楓の事を知らなかったのは、普通に知識不足。
今は華蓮が大事なため、華蓮が傷つけられると過剰な行動を起こしがち。
一度デュエルとなると昔の癖でオーバーキルをしがち。



というわけで、楓さんのデュエルでした。サディストな性格はちょいちょい現れてましたよね?

 
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