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本当(ウソ)のような嘘(ホント)のハナシ

作者:ぽんす
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私と先輩のハナシ
  【長編1】入学

   
 4月。桜の花が咲き、新たな生活、新たな出会いに心が舞う、そんな季節。
私もそんな人たちの中の一人。
髪の長い先輩に憧れて伸ばした髪も、やっと肩を追い抜いた。
せっかく高校生になったんだ。染めてみたり、パーマをあててみたり・・・。
そんな女の子らしい妄想が膨らんでいく。
しかし、そのパンパンに膨らんだ妄想は高校入学と同時にあっけなく針を刺されてしぼんでしまった。
「髪が肩にかかる場合これを束ねねばならない。また、染髪、縮毛等も禁ずる」
入学式後に知らされた服装を取り締まる悪魔からの宣告。
今年から服装に関してはより厳しく取り締まる、との事だった。
詳しいことはわからないが、なんでも、去年卒業した先輩たちの風紀の乱れが激しかったそうで、
風紀の乱れは服装から、という感情論で凝り固まった考えに終着したらしい。
このときほど人を恨んだことはないだろう。
そんな高校デビューの妄想が私に残したものは、後頭部に馬の尻尾を付ける事だった。

 そんなこんなで、入学者のオリエンテーションも特に頭に入らず、私は途方にくれていた。
自然と顔も伏せがちになり、ため息も出てしまう。
「はじめまして、だよね?」
「は、はい!!??」
急に話しかけられ声が上ずってしまった。
この世の終わりとまで考えていた私にとって、今世界に存在するのは私一人であり、そこに他の人がいるとは思ってもいなかったのだから。
「あ、急にごめんね?驚かせちゃったかな?元気なさそうだったから気になっちゃって」
「私こそごめんなさい。考え事をしてて・・・」
私がポツリと愚痴をこぼすと、彼女は、わかるわかる、と大きく首を縦に振っている。
彼女はとても聞き上手で、いいタイミングで相槌を打ってくれるし、共感の念を口にしつつ聞いてくれた。
そして、気づいた時には、この荒廃した世界に現れた突然の登場人物に、いかにこの世界が残酷か、という突拍子の無いことまで語ってしまっていた。
うんうん、と相槌を打っていた彼女が急に、そうだ!と口を開いた。
「嫌なことがあったときは甘いものを食べるのが一番だよ!帰りに駅前のクレープ食べに行かない?」
帰り道に買い食い・・・。なんて高校生らしい響きなんだろう。
高校に上がったことで雀の涙ほどだったお小遣いも、アヒルの涙くらいには増えていたので断る理由も無かった。
うん、いこう!と言うと、彼女は、いい笑顔だね、と私を指差した。
世界はそう簡単に滅ばないらしい。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったね。私、古野。古野恵(めぐみ)って言うの。よろしくね!」
「古野さん、ね!私は佐々木葉子」
よろしくね、と手を出すと、古野さんはその手を握り、肩から先が外れそうな勢いでブンブン振った。
「それじゃ、また放課後に!私、友達と陸上部の見学に行く予定があるんだ。多分1時間くらいで終わると思うから」
入学早々から部活動の見学なんてアクティブな子だなぁ、と思っていたが、私はこの時ひとつ勘違いをしていた。
「佐々木さんも部活見学行くでしょ?何か1つは絶対入らなきゃいけないもんね」
え?と疑問の声を漏らすと、同じく古野さんからも、え?と返ってきた。
「オリエンテーションで言ってたよ?うちの校訓はぁ、文武両道であるためぇ、部活動は必須であぁる、って」
妙なイントネーションのつけ方をしながら古野さんはそう言った。おそらく説明してくれた先生の真似をしたんだろう。
「・・・聞いてなかった」
私の言葉にまた、えぇ!?という驚きの声が上がる。
「何か入らないとまずいよ。部活入らないと、強制的に補習部ってのに入れられるって噂が・・・」
「補習部!?」
部活動は時間の制約ができてしまうから入らないようにしようと思っていたのに。
それに補習部なんて冗談じゃない。
そんなことを考えているのを見透かされたのだろうか。古野さんは、大丈夫!と胸を叩いた。
「何かに入ってればいいんだから、別に活発な部活じゃなくてもいいんだよ!文芸部とか、ね」
漫画も読めるらしいよ、と付け加えて。
正直なところ困惑していた。文芸部。考えたことも無かった。
文芸部といえば、部屋に篭ってずっと本を読んでいるイメージしかわいてこない。
本といっても漫画くらいしか読まない私には無縁な世界だと思っていた。
しかし、漫画が読める、というのが本当ならばなかなか悪くは無い。
今日のような待ち時間に時間もつぶせるし、なにより補習部に入らなくて済む。
「そうだね・・・。覗くだけ覗いてみようかな」
その言葉に、古野さんは、そっか!と笑みをこぼすと、またあとで!と手を振りながら走っていってしまった。
 覗くと言った物の、文芸部か、と少し渋っていると、廊下を走るな!という大きな声と、すみません!と古野さんの固い声色が響いてきた。
その大きな声に驚くと同時に、放課後残っていると補習部に入れられる、といった不確定な不安が頭をよぎり、私は文芸部に足を運ぶほか無かった。

  
 

 
後書き
生きてます2。
こんな感じに短編と長編を交互に更新する予定です。 
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