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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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精神の奥底
  55 ホワイトナイトの憂鬱

 
前書き
また更新が遅くなりました、ごめんなさいm(__)m

今回は彩斗も登場しませんが、少し意外な人物が珍しく目立ちます(笑) 

 

「久しぶりだね、ルナちゃん」
「別にあなたに会いに来たわけじゃないわ。それよりスバルくん、どういうこと?私にこんなことを調べさせるなんて...」
「僕じゃなくて頼んだのはロックマンだよ?」
「じゃあスバルくんじゃん?」
「あなたは黙ってて!!」

ルナは2人と同じテーブル席に座るなり不機嫌であるということを包み隠すことをしなかった。

「いきなり悪かったよ、委員長。でも今は一刻を争うんだ」
「何が起こってるっていうの?」
「僕も詳しい状況は分かってないし、全くの推測も混じってるし、それでもできるだけ分かりやすく言うけど...今回のインターネットシステムダウンのパニックとシーサイドタウンのミソラちゃんの学校が武装集団に占拠された事件。その裏で動いているものが一緒かもしれないんだ」
「え?」
「それで今、その犯人グループがこの街で何かしていて...そして...僕に...いやロックマンにそっくりな何者かが戦っているみたいで...」
「...わけが分からないわ」

スバルは現状得られた情報で何とかルナに説明しようとするが、うまくまとまっていないせいか学校では常に成績がトップクラスのルナの理解力でも分からせることができない。

「そうだよね。でも私、昨日、人質を助けようと学校に入ったの」
「あなたが!?」
「でもそこで...ロックマンにそっくりな電波人間と遭遇したの」
「ロックマン様にそっくりな...?」
「彼は襲い掛かった私を一瞬で倒した。敵かと思ったんだけど、彼は人質を全員無事に救い出して、そこにいた敵を全員倒した。この事件が昨日解決したのは、実はこのもう1人のロックマンの仕業なの」
「そしてそいつは今朝、またこの街に現れて、何かの取引をしていた犯人グループを襲撃したみたい」
「“また”ってどういうこと?」
「この記事を見て。数日前にこの街で起こった殺人事件、そしてプライムタウンで起こった怪奇現象、この現場からウォーロックがそいつの存在を感じたって言うんだ」
『あぁ、間違いねぇ。気配までオレたちに似てやがった』
「ヒッ...ウォーロック...」

ルナはウォーロックが苦手だった。
しかし必死に今の説明を元に理解しようとしているのが、表情から読み取れる。
ルナはスバルのことを友だちとして信用していた。
だからこそ嘘をつくような人間でも、錯乱して人を巻き込むような人間でもないということを知っている。
数秒考え込み、ルナは完全ではないが理解した。

「...だいたい分かったわ。でも私に送ってきたこの男2人の似顔絵は何?」
「それは昨日、この街を探しまわった時に見つけた怪しい2人組だよ。インターネットがダウンするように仕向けたとか、ロックマンを恐れるようなことを言っていたんだ。現状、手がかりはこれしかないんだ」

「スズカが何か知っているみたいなんだけど...」

「え?」
「いや、何でもない」
「...他に手がかりは無いの?」
『オレの鼻くらいか?』
『あなたのは鼻っていうより勘なんじゃないの?ウォーロック?』
『うるせぇ!この琴座ヤロウ』

ウォーロックはハープと喧嘩を始めた。
しかしスバルは少し考えてから、今朝の拾得物を取り出す。

「今朝、電気街でロックマンが現れたと思われる場所に落ちてた。ウォーロックが言うのには、すごいノイズを発しているらしい。病院の中だからもう仕舞うけど、これが多分、犯人グループが売っていた品だ」
「何なの?この破片」
「割れたのを繋ぎ合わせてみるとバトルカードに近い形をしていて、トランサーに使うものだと思う。でも何が起こるのかは分からない」
「試してみよっか?」
「バカね。新手のウイルスかもしれないし、試さない方がいいわ」
「うん。でも残念ながらこれは直接的な手がかりにはなりそうにない」
「で、結局はここに戻ると...」

ルナはiPadを取り出し、スバルが送ってきた似顔絵を表示してみせた。
インターネットを使わないアナログな手段で転送したもので、だいぶ画像は荒い。
しかし特徴は掴めていて、素人が書いたものとしては十分過ぎる出来だった。

「ワオ、スバルくんって絵心あったんだ」
「どうだった?見つかった?」
「えぇ。あなたの言う通り、ニホンI.P.C本社の近くの防犯カメラを重点的に探したら、それらしい2人組は見つかったわ。これかしら?」
「そう!そうだ、この2人組だ!」

ルナが防犯カメラの映像を再生してみせた。
スバルは頷きながら、顔の部分をズームして確信する。

「で、この2人を防犯カメラで追跡したんだけど、大変だった...まぁ、私は指示しただけだから、大変だったっていうことなんだけど」
「フェイスレコグニション、顔認証か。さすが白金グループ、最新鋭だね」
「私もすごいと思って驚いたけど、逆に驚かれたわよ。いきなり社長の一人娘がこんな悪人面の男の似顔絵持ち込んで探して欲しいって言い始めるし、それをお父様には内緒にしろって言うし」
「そりゃそうだよね...」
「...お嬢様って憧れてたけど、大変なんだねぇ」
「現役アイドル歌手に言われても、慰められてるのか、バカにされてるのか、どう受け取っていいのかわからない...」
「どっちも人目とか世間体を気にしながら生活しなきゃならないのは一緒だと思うけどね。まぁ、僕はアイドルでも、お金持ちでもないからそれくらいしか言えないけど。それより、防犯カメラだよ。どうだったの?」
「2人が向かった方向に絞って探して見つけて、絞って探して見つけてを繰り返しながら追跡していった結果、途中で2人が別れたわ」

ルナはその時の映像を表示してみせる。
確かに2人はコンビニから出てきた後、10秒程会話して、片方がもう片方の肩を軽く叩いてから別れる様子が映っている。

「ここからが1人ずつ追跡しなきゃいけなくなって特に大変だったそうよ。それでこっちの顔色悪い小柄な方は少し来た道とは違う道を使ってI.P.C本社へ逆戻り」
「さすがに会社の中に入ったら追跡できないよね...もしかして会社の中の防犯カメラまでルナちゃん()の会社のものだったりするの?」
「それはないわよ。ニホン有数のIT企業だもの。防犯システムくらい自前でしょう」

ここまでで分かったのは、この2人組のうち恐らくどちらもだが、確実に片方はI.P.Cの関係者であるということだけだ。
スバルは少し残念そうな顔をするが、最後の希望に託すことにした。

「もう1人の方は?」
「こっちが中々にクセモノだったわ。別れた後、かなり複雑に繰り返しながら移動してる」
「複雑に?どうして?」
「多分、追手がいないかを警戒していたんじゃないかな?それだけ追跡されるのが嫌な事情があったっていうことだと思う」
「もしくはただ単純に日常的にストーカーに狙われていたとかね」
「へぇ...スバルくんもルナちゃんも詳しいね」
「うちの警備部門で調べてもらった後に聞いたことよ。でもこの人は男だし、それはないか」
「今の時代は分からないよ〜前に他の事務所の社長ですっごい両刀使いで...」
「響さん...さっきから茶々を入れないでくれる?」
「まぁまぁ、委員長。どっちにしてもこの男は人通りの少ない道を選んで移動してる。ストーカー被害に遭ってるなら人の多い道を選ぶだろうし、少なくとも後者ではないのは間違いないよ」
「じゃあ、追われたくない事情が...」
「で、委員長。この男は一体どこへ?」

ルナは映像を切り替える。
その映像には何かの門を通る男の姿が映っていた。

「ここからここまでを電車で移動し、ここをここは徒歩。この時の移動が複雑だったのよ。で、地図でいうとここね。この建物の中に入って行ったわ」
「図書館だって、スバルくん。これもハズレかな?」

肩を落とすミソラは自販機で買ってきたアイスココアを飲み始める。
しかしスバルは腑に落ちなかった。
追手を警戒してまで行く場所が図書館だったでは納得がいかないのだ。

「この図書館は営業してるの?」
「いいえ?設備の点検と補修工事でこの1週間は臨時休業らしいけど?」
「...じゃあ、この男が次に映像に捉えられたのはいつ?」
「えっと...次の日の午前1時...」
「図書館にそんなに長い時間いるかな?普通」
「いないわ」
「ミソラちゃんは?」
「えっ?私?...普段行かないから分からないけど、確かに変な感じ」
「委員長、ここのカメラの映像、他のもある?」
「えっ、ええ。あるわよ」
「見せて」

スバルはルナのiPadを手に取り、その映像を見る。
するとすぐにおかしな点に気づく。

「...閉館中のはずなのに人の出入りが多い。それに出入りしてる人間がとても設備点検や補修工事をするような人たちに見えないよ。作業着を着てる人は1人もいないし、工具を持ってる人すらいない」
「そういえば...そうね」

スバルが気づいたのは、閉館中ということを思わせない人の出入りの多さと閉館理由との不一致だ。
ここまでの情報を合わせれば、仮に仕事だとしても工事現場の仕事でもないのに午前1時までいるというのは不自然、すなわちここでこの男は何かをしていたということになる。

「...電車と徒歩を合わせれば、ここからざっと40分から50分ってところかな?」
「そんなところでしょうね?」
「委員長は僕よりこの街に詳しい?」
「まぁ、何度か来たことがあるし、この図書館に入ったことはないければ、近くを通り過ぎたことなら」
「よし、行ってみようか」
「うん、行ってみよう。スバルくん」
「待ちなさい」
「どうしたの?ルナちゃん?」

席を立った2人をルナは止めた。
彼女は異様な不安に駆られていたのだ。

「あなたたちのさっきの話だと、インターネットをダウンさせたり、銃器を持って学校に押し入るような連中かもしれないんでしょう?危ないわ」

いくらスバルが一度、地球を救ったヒーローであっても今度もまた敵を倒して無事であるという保証はどこにもない。
スバルとミソラ、そしてルナが知り合ってまだ短いが、知っていれば知っている程、身近な人間になってきており、そんな人が危険に晒されると思うとルナの心は張り裂けそうになった。

「だけど、相手はロックマンと対抗するような電波人間を相手にする力を持って何かを企んでる。それだけは間違いない。でも警察に行っても相談しても、信用してくれるかどうか分からないし、仮に信用してくれたとしても、今の警察には電波人間を相手にできる戦力は無い」
「サテラポリスは?」
「サテラポリスだって、ウイルスを相手にすることはできても、ミソラちゃんの学校の時のようにジャミンガーが大量に襲ってきたら対抗できない」
「現状、対抗できるのは私たちだけってわけだよね。スバルくん!」
「残念ながらそういうことになる...ごめんね、委員長。心配掛けて」

ルナはそう言われても、心配する気持ちはまるで収まらない。
むしろ不安になるばかりだ。
が、しかし同時に2人の言うことも最もであるとは思った。
そして対抗する力を持っていない自分が少し仲間はずれであるような気も。

「...分かった。でも無理はダメよ。スバルくんには...」
「ん?」
「スバルくんには何?」
「...今度の生徒会選挙でバッチリ働いてもらわなきゃならないんだから!」
「えぇ!?1年生なのに、2年生の先輩だらけの生徒会選挙に出るの!?」
「もちろんよ!あと今回の件のお礼もちゃんとしてもらうわよ!?」
「お礼?...生徒会選挙の手伝いを頑張る!じゃ...ダメ?」
「ダ・メ・よ!そうね...まぁ、考えておくから覚悟なさい!」

そう言って、ルナは席を立ち、一度2人に背を向けた。
少し赤面していた。
自分でも何故かは分からないが、スバルのことになるとたまに赤面してしまう。
何かの病気ではないかと時折不安になることもある。
だが開放的な病院の窓の方へ寄って行き、そこに広がる広大なデンサン湾と不思議な美しさを持つ臨海区の街並みを見ながら、一度深呼吸をすると気分も落ち着いてくる。
そして白のカーフベルトに換装された33ミリケース、ホワイトダイアルのカルティエ・バロンブルーで時間を確認する。
ダイヤモンドを11個を使用し、自動巻きムーブメントを搭載した90万ゼニー以上はする中学生には高価過ぎる品だ。
時刻は午前11時、到着する頃にはお昼時になっているだろう。
もしそこで何かがあれば、予約していたレストランはキャンセルせざるを得なくなる。
犯人グループの計画は何とかしなければならないとは思うが、スバルとミソラには危険な目にあって欲しくなかった。
何も無ければいい。
そして全部スバルの思い過ごしだったという結論で食事をしたい。
そう思いながらルナは振り返る。

「じゃあ、行きましょうか」

その言葉を最後に3人は病院を出た。























伊集院炎山は誰から見ても苛立っているのが分かる表情で戻ってきた。
その姿はいつものクールな雰囲気を保ちつつも、すれ違う者たちは皆、不思議と恐れを覚えて避けてしまう。
炎山自身に至っては冷静さを保つのが精一杯で周囲の人間が自分を避けていることにすら気づかない。
少し気を抜けば、壁を思いっきり殴っているかもしれない。
それだけの“手厚い歓迎”を受けてきたのだ。

「どうだった、熱斗は!?」
「......」
「...そうか」

そこで待っていた光祐一朗に申し訳ないと思いつつ、首を横に振った。
祐一朗も覚悟はしていたが、その現実を叩きつけられると落胆せずにはいられない。
炎山も正直なところ、悔しかった。

「木場はこっちの話に聞く耳を持ちませんでした。終始耳をほじり、あくびをし、舐め腐った態度で露骨に神経を逆撫でしてくるようなとんだクズ野郎でしたよ」
「......」
「最後にはこう言いました。笑顔で。「私の活躍で捕らえた容疑者だ。その手柄を横取りしなようなんて、オフィシャルも堕ちたものだ」と...」
「ある意味大した奴だ」
「あれで大人だというのが信じられません。ん?」

炎山のLumiaに何かの連絡が入った。
ショートメッセージのようで、炎山は1秒とかからずに画面を一目見ただけで、その内容を把握する。

「でもまだチャンスはあります。あのセリフ、そのまま返してやりますよ...」

祐一朗は歩き始めた炎山の後ろを着いていく。
炎山にはまだ次の手があるのだ。
向かったのはサテラポリスの2階のテラスだ。
丸いテーブルと椅子が幾つも並び、この建物では珍しく観葉植物が設置され、食堂ではないながらもコーヒーサーバーやウォーターサーバーがあってちょっとした談笑と休憩ができる。
学校でいう学生ホールのような場所だ。
少し壁際を歩きながら、周囲を見渡す。

「アイツか...」
「え?あの子か?」
「行きましょう」

炎山はその人物を窓際の席で見つけた。
他の隊員とは距離を置くようにわざと奥の席に1人座っている。
炎山と祐一朗はその人物に近づいていき、何の前触れも無く同じテーブル席に座った。

「失礼、同席させてもらおう」
「あっ...どうぞ。あぁ、すいません。散らかして」
「いや気にしなくていいよ」

「あぁ、そうだ。互いに気を使う必要はないだろう?『ヘンゼル』?」

「どうして!?」

その人物は驚き、逃げるために立ち上がろうとするが、炎山はその腕をテーブルの下から掴んだ。
そして周りの人間に見えないように身分証明証を見せる。

「オフィシャルだ。お前があの財務データ大量流出事件の犯人の1人、ヘンゼル。いや、リサ・ホープスタウン...!」

炎山が探していた人物、それはサテラポリス・WAXAニホン支部分析官、リサ・ホープスタウンだった。
自分よりも幾分か幼いが、サテラポリスのジャケットを着こみ、雰囲気は大人びており、唯一歳相応なのはヘアスタイルを彩るリボンだけだ。
炎山は顔色一つ変えないが、データ上で見て想像していたのよりも幼くて少々驚いていた。

大事(おおごと)にしたくない。小声で話せ」
「...私を捕まえに来たんですか?」
「それができたら痛快だろうが、今回は別件だ。一応、挨拶の1つくらいしておこうと思ってな」
「挨拶?それがアメロッパ式のジョークですか?」
「フッ。まぁ、挨拶はジョークだが用件はある」
「用...件...?何ですか?」
「その前に1つ聞かせろ。お前はここの分析官長だろう?なぜ持ち場を離れて、こんなところで油を売っている?」
「それは...今、謹慎中だから」
「謹慎だと?」

炎山は先程、木場のいる管制室に突っ込んでいったが、分析官のいるべき場所に空席があることに気づいた。
最初から自分が交渉に失敗した場合の次の手として用意していた人物がいないという状況に焦りを覚えており、この休憩スペースで見つけた時は素直に安心していた。

「昨日の夜、実働部隊の幹部が1人、木場課長に命令無視したために敵と繋がりがある裏切り者の容疑を掛けて捕まえようとしました」
「暁シドウのことか?」
「!?...知っているとは驚きました」
「続けろ」
「その時、私の妹で同じく分析官のマヤがアカツキさんを逃がすために銃を向け、彼女もまた裏切り者として拘束されたんです。そのことで私にも裏切りの容疑が掛かり、でも確たる証拠が無かったから、管制室への立入禁止程度で済んで今に至るっていう感じです」
「それは我々も把握していなかった」
「当然でしょう?だって謹慎を言い渡されたのは、つい50分前の話ですから」
「......」

炎山は呆れて言葉も出なかった。
自分が木場と交渉を始めたつい10分前に入れ違う形で謹慎を言い渡されたというのだ。
確かに今思うと、最初の木場の態度は何か嬉しそうにも見えた。
炎山は頭の中で木場の舐め腐った態度をかき消すと、話を続ける。

「キサマの妹『グレーテル』ことマヤ・ホープスタウンも拘束されて自由が利かない状態だという報告は聞いていたが......」
「...妹のことまで......」
「キサマらのことは全て調べた」
「...それで何の御用ですか?今はただの分析官の私に」
「今日はWAXAの分析官のキサマではなく、クラッカー・ヘンゼルとしてもキサマに用事がある」
「クラッカーとしての私に?」
「キサマに手を貸してもらう」
「私に用なんて…オフィシャルも堕ちたものですね。昔は私たちを目の敵にしていたくせに」
「フン、まるでこちらが悪人であるような言い方だな」

炎山はいつも通りの冷静な態度を崩さないが、リサを見つめるその目だけは違っていた。
それは強い殺意ににも似た犯罪者への怒りを発している。
それを感じ取ったリサは思わず目を背けた。

「でも、どうしてそこまでの情報を……そうか、内通者(スパイ)
「その通りです」
「!?あなたは……」

その瞬間、リサの反対側の席によく見知った人間が座った。
リサは思わず口を開けたまま、ぽかんとしてしまう。
それもそのはずで、その人物はリサを筆頭に頭の中で内通者(スパイ)というキーワードと結びつかない類の人間だったからだ。
むしろ縁遠いどころか、かすりもしない。

「笹塚さん…あなたまでジョークのつもりですか?」
「いや…その…あの…スミマセン」
「ここでこの話をするのも、このテラスが職員の休憩所でありプライバシーに配慮して例え課長階級でも防犯カメラの映像と音声を閲覧することができないということも織り込み済みだ。こいつの情報からな」

その人物・笹塚分析官はいつものチャラチャラとした雰囲気を必死に抑えようとしながらリサに謝った。
確かに金で情報を売るように言われれば、簡単に魂もろとも売り払い、その通りにしかねない悪い意味での最近の若者といった感じだが、むしろ軽薄過ぎてそこまで脳みそが回らない類の人間の箱に入っていた。
リサからすれば、笹塚=内通者という犬=猫と殆ど同じ今までの自分の中での常識を覆す方程式を叩きつけられたのと同義だった。
その現実を叩きつけられて僅か数秒で早くも混乱し、しばらくリサは黙り込む。

「それで?私に何をさせるつもりですか?」

少し目を閉じて考えた後、何処か気だるそうに問いかける。

「木場のPCに侵入し、不正の証拠を掴んで欲しい」
「課長のPCに?ハッ」
「何がおかしい?インターネットがダウンしていても、ローカルネット経由ならば十分可能だろう」
「私も真っ先にそれを考えました。でも……」
「失敗したのか?」
「課長が赴任した昨日、私が才葉芸能学園の一件から戻った時、ローカルネットの構造が全く違うものへと置き換わっていました」

リサはHP・Pavilion X360を開いて、炎山の方に向けた。
ローカルネットを探査して得られたパケットを元にグラフィックにしたものだ。
そこにはまるで蟻の階級社会を表すような構図が表示されていた。

「今までは中央サーバーに対して、クライアントという立場の我々がアクセスするという一般的なシステム構造で、それは一般の職員から上の人間まで現実での階級の違いはあれど、この構造の中ではサーバーを利用するいちユーザーとしての立場は共通でした。そしてサーバー上のファイルはアップロード者が管理権を持っていて、互いに互いの領域へのアクセスは基本的にできない」
「だがキサマなら他人の領域へのアクセスはできるだろう?」
「ええ。でも正式な手段でアクセスすることもできます。その時はその職員が何らかの不正に関わっているという疑いがある場合、サーバー上にあるデータが機密保持の為に削除する必要がある場合、職員が退職か死亡したといった場合などに長官が判断して、その権限を与えます」
「なるほど。しかしこれを見る限りだと……」

今まで炎山とリサのやり取りをただ黙って聞いていた祐一朗がそのグラフィックを見て口を開いた。
それは研究者であり、技術者であるからこそ入っていける領域だったのだ。

「職員のアクセス階級が、現実の階級に改められてるんです。そのためシステムの構造上、上位の人間は回の人間の領域に入り込めますが、その逆はできない。つまりどう足掻いても上位の人間の領域には入り込めない」
「しかしどんなシステムであろうとセキュリティホールは存在するはずだろう?」
「確かにそうだが、これは普通の侵入とは違って難易度が相当上がってしまうんだよ、炎山くん。通常のルート権限ならば、通常ユーザーからのランクアップするのが一般的だが、アクセス権に階級を作り、なおかつ上位の者へのアクセスを禁じるというルールが新しく作られた。これは通常のシステム内での攻撃より難しい。システムのルールそのものを歪めなくてはならないからだ」
「そうです。もしローカルネット経由で侵入しようとすれば、このルールそのものを歪めるのに、相当なおかつ間を要します。その間にローカルネットを構成するシステム内のセキュリティ巡回システムに捕らえられる可能性が高い」

リサはPCを閉じて、大きく深呼吸をした。
半ば諦めたような力の抜けた表情で炎山の方を見て、再び口を開く。

「ここまで聞いてまだ私にやれと言いますか?」
「……」
「それに私はやるとは一言も言ってませんし」
「ちょっ、リサさん!?」
「正気か、キサマ?」
「逮捕したいならしたらいいじゃないですか」
「キミ……」
「別に課長を庇うわけでも、妹のことを諦めたわけでもありません。でも今の私にできることはない。それにあなた達の目的は課長の悪事を暴くこと。私の妹やヨイリー博士のことは二の次でしょう?そんなあなた達のことを信用できません」
「ヘンゼル……」
「リサさん……」
「話は終わりですか?それでは失礼」

リサはテーブルの上に広げた私物をまとめると立ち上がろうとする。
しかし再び炎山の手が根を張り、リサの動きを止めた。

「……離してくれませんか?」
「座れ」
「……ハァ」
「よく聞け。我々の目的はお前の言う通りだ。だがそれだけじゃない。木場に罪を着せられて逮捕された光熱斗を知っているか?」
「……えぇ」
「私の息子だ」
「え?」
「そしてオレの友でもある」
「!?」

祐一朗と炎山の言葉にリサの顔色は変わった。
特に炎山の発言には驚きを隠せなかった。
祐一朗は言われてみれば、熱斗に似ているような気がした。
しかしこの冷血漢の辞書に「友情」という文字があったことは素直に衝撃だった。

「オレたちとキサマは同じく助けなければならない人間がいる。だからキサマの気持ちも分かる。それに今の目的はキサマらを捕まえることじゃない。決してキサマの妹と博士を二の次にはしない。約束しよう」
「……」
「いいか、恐らくキサマはオレのことを犯罪者を憎み、目的の為ならば手段を選ばない、冷血なマキャベリストに見ているだろう。その通りだし、否定はしない。だがオレは決して一線は越えない。自分の名誉、そして大勢の利益の為に人間を天秤にかけるような真似はしない、今の目的を見失うことはしない。それにオレは自分の名誉の為に真実を捻じ曲げるような人間を決して許さない」
「……」

炎山は静かに、しかし力強く拳を握りながら、リサに言った。
これは熱斗と出会う前から自分に課していたもの、そして出会った後の変化を象徴するものだった。
更に今まであまり口を出してこなかった笹塚が口を開いた。

「確かにサテラポリスもオフィシャルはオレみたいな内通者がいて対立しているような構図になってます。でも最終的な目的は一緒です。犯罪を根絶すること、そのアプローチが違うだけなんスよ。本当はオレみたいな奴はいちゃいけないんです。リサさん……伊集院さんと光博士を信じてもらえませんか?」
「……笹塚さん」
「オレはマヤさんと博士が捕まった時、何もできなかった……2人があんなに必死で暁さんを逃がそうとしたのに、大人のオレは何もできずに見ていただけ……本当に情けなくて、申し訳なくて……今度こそオレ、何でもします!だから……」

笹塚は自分が内通者でありながら、WAXAという組織にどっぷり浸かっていた。
しかし、その経験が笹塚に新たなる着眼点を与えていた。
敵対しているようで、最終的に向かう場所はどちらも同じだと。
だからこそ片方が間違っている時は、もう片方がその間違いを正してやらなければならない。
いつもチャラチャラとしていて、頼りにならない笹塚が初めて頼もしいことを言った瞬間だった。

「……少し考える時間を下さい。笹塚さんが内通者だとか、整理がつかなくて」
「いいだろう。だが時間は長く取れない。2時間後、ここで待つ。いい返事を期待している」

炎山は頭を抱えたリサを見て、そう言って席を立った。
自分の唯一の家族が捕まり、親しくしていた人間が内通者だったとすれば、心の整理が追いつかないのも理解できるからだ。
特に笹塚のことに関しては、一応、裏切り行為でもある。
そんな相手とその仲間たちに協力しろと言われても素直にイエスとは即答できるものは少ないだろう。
しかし最終的にはどんな道を通ろうと同じ場所に向かっている同士だということをリサには分かって欲しかった。

「光博士、我々は木場の私生活の方を当たりましょう」
「いいのかい?彼女は?」
「ええ、いい返事をくれると思います」

玄関に向かって歩いて行く時の炎山は少し穏やかな顔をしていた。
確かに前までの自分も人を信用するということに関しては相当疎かった。
そんな自分を信用させようとした熱斗やメイルたちの必死な顔が思い浮かび、思わず笑みを浮かべる。
同時に彼らの苦労が今になってようやく分かるようになったということが、何処か嬉しかった。












 
 

 
後書き
タイトルのホワイトナイトというのは、主に企業間のM&Aなどで悪意を持った買収に対し、乗っ取られるなら先に有効的な第三者に買ってもらおう!という時の第三者の事を指すことが多いですが、ここではスバルに対するルナ、リサに対する炎山と笹塚といった感じで受け取ってもらえれば幸いです。

今回、笹塚がまさかの本性を見せましたが、誰もが疑いもしないような、本人自身も任務を忘れて溶けこむような人間だったので、炎山は笹塚をチョイスしたという設定が構成の段階からありました。
今まで本人も内通者だっていうことを忘れてたんじゃないか(笑)?っていうくらい、今まで伏線も無く、いきなり飛び出してきましたが、少し前に炎山がサテラポリス内の情報を得ていた発言から、もしかしたら?と思った人が...いないですよね、多分(笑)
いたらコメント下さい(笑)

それに対し、スバルサイドではミソラとルナのやり取りですが、お嬢様とアイドル、お互い本当は悪い人じゃないとわかりつつも、ルナはツンツンし、ミソラもフレンドリーに接しているようで少し距離を作っています。
やはり原作のメインキャストなどであまり原作のテイストを変え過ぎないように努力したつもりですが...


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