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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―ラヴデュエル―

 デュエル・アカデミアのスタジアム前の廊下。そこで明日香と再開した俺は、彼女に異世界であったことを訪ねていた。ユベルによって砂の異世界から、また別の異世界に飛ばされていた俺たちは別々に、闇魔界の軍勢と戦うことになっていた。

 しかし敗北した明日香は邪心経典の素材として、無理矢理モンスターと融合させられてしまっていた。そのまま俺とデュエルすることとなり、邪心経典の生け贄となって消滅していた。その後、俺もユベルに喰われた為に詳細は分からないが……十代か三沢の力によって、俺たちはアカデミアに戻ってきていた。

「デッキ、取り戻してくれたのよね。ありがとう」

 戦っている途中に明日香はデッキを取り落としてしまったらしく、異世界にいた他の人物が持っていたのを俺が取り返していた。なら自身のデッキがない間、彼女がどうしていたかと、一つのデッキが俺に差し出されていた。

「あなたのデッキ、貸してもらってたわ」

「それは……」

 俺がどこかで落としていたもう一つのデッキ。普段から使っている【機械戦士】ではなく、半ば実戦には耐えない【風霊使いウィン】デッキ。要するに《風霊使いウィン》のファンデッキであり、以前に一度だけ明日香とデュエルしたことがあった。

「【機械戦士】じゃなくても、私に力を貸してくれていたみたい。遊矢がカードを大事にしてくれる証拠よね」

 そう言って明日香はニッコリと笑う。こちらが女性キャラのカードのファンデッキ、という最も見られたくないものをそのように嬉しそうにされ、内心悶え苦しんでいるにもかかわらず。相変わらず、明日香はそういうところは無頓着だ。

 ……相変わらず、だ。

「あ、ありがとう」

「そういえば……私にも好きなカードがあるの。ほら」

 もちろん俺の【機械戦士】と《風霊使いウィン》のように、明日香が普段使っている【サイバー・ガール】とは別種で、ということだろう。デッキケースの中から一枚のカードを取り出すと、明日香は俺に見せてくれた。

「《迷犬マロン》……?」

 何の変哲もない低レベルのコモンモンスター。その効果というよりは、様々な種類のシリーズカードがあるという事が有名なカードだ。

「ええ。異世界で拾ったんだけど、何か気に入っちゃったの」

 この後のことを知ってると、ちょっと複雑だけど――と言いながら、明日香は《迷犬マロン》をデッキケースへとしまい込む。これから《迷犬マロン》を待ち受けている運命は、アカデミアの学習を通して明日香も覚えていたらしい。

「この子みたいに、っていうのもなんだけど。遊矢も目が覚めたし……私も頑張らなくっちゃね。また、あんなことがあってもいいように」

 ――これ以上強くなられたら、こちらの立つ瀬がない……と言いたくなるのを堪えて。明日香との会話で胸のつかえが取れたように感じながら、吹雪さんから貰ったあるプリントを明日香と見る。このまま話していてもいいのだが、今スタジアムでは、吹雪さん主催のタッグデュエル大会が行われている。

「男女ペアでタッグデュエル大会。出ないか?」

 我ながらしっかりと誘ったように思えたものの、明日香は少し不機嫌そうに眉をひそめた。呆れたようにため息を吐き、明日香は小学校の先生のように言い聞かせてきた。

「まったく。久々に会ったっていうのに、もうデュエルの話?」

「それは明日香に言われたくない」

 明日香にデュエルのことばかり、とは言われたくない。明日香もその言葉には自覚があるらしく、少し言葉に詰まっていた。

「……これでも、遊矢のおかげでデュエル以外にも、色々知ったつもりなんだけど」

 そう小声で言った明日香だったが、自分で言って恥ずかしくなったのか、早歩きでスタジアムへの道を歩きだした。こちらに自身の顔を見せないように――その金色の長髪から覗く、赤らめた耳までは隠せていなかったが。

「タッグデュエル大会でしょ? 早く行きましょう」

 そう早口でまくしたててきた明日香の後ろ姿を追い、俺もタッグデュエル大会に参加せんとスタジアムに戻る。俺と明日香のエキシビジョンマッチが終わってから、そう時間は経っていない。まだ飛び入り参加は可能だろう――と、俺たちペアの最初の試合は。

「待っていたぞ天上院くん!」

 ……完全に俺の存在を無視してきたサンダーだった。しかし、万丈目の隣には女子はおらず、誰がペアなのかは分からない。

「遊矢。起き上がってきたことは褒めてやろう。その褒美に明日香くんを賭けてデュエルだ!」

「私、賭事の物じゃないわ。万丈目くん」

 どうやら俺の存在は忘れられていなかったようだが、万丈目の申し出は当の明日香に拒否される。しかし万丈目は、その言葉を聞いているのかいないのか、歌舞伎役者のように手を振っていた。

「もちろんさ天上院くん。分かっているとも。つまり、今から行うタッグデュエルでこの僕が勝てば、遊矢の代わりに僕がタッグパートナーになろうじゃないか!」

 何も分かっていないらしいが、何にせよ俺たちペアの一回戦の相手――いや、どうやら俺たちはシードだったらしく、二回戦のようで――は、万丈目ということになるらしい。

「ところで万丈目、お前のペアは?」

「万丈目さんだ!」

 答えになっていない。そしてタッグデュエル大会であるにもかかわらず、スタジアムに立っても万丈目のパートナーは現れず。……スタジアムに置いてある、人が入れるヒーローショーで使えるような《おジャマ・イエロー》の着ぐるみを除けば。さらにそのぬいぐるみに、デュエルディスクが装着されていなければ。

「俺様一人で充分だということだ! 行くぞ!」

「……万丈目くん。ルールは守りましょう?」

「何を言うんだ明日香!」

 ルールというか大会参加の前提というか。呆れかえった明日香がそう糾弾するものの、それは天空をワイヤーで移動している吹雪さんが遮った。

「君を一人の力で奪おうとするサンダーの男意気を! 分からないというのか明日香!」

「分からないわ……」

「諦めろ、明日香」

 主催者が認めたというのならば、ルールも何も意味を成さない。顔を覆う明日香の肩に手を置くと、万丈目からの敵意がなみなみと注がれる。やぶ蛇だったか、と明日香から離れると、デュエルディスクを展開する。

「ラブデュエル第二章、始めさせてもらうぞ!」

「第二章?」

「ええ、三幻魔の時に一回。そういえば、あのデュエルのせいで三幻魔が目覚めたのよね……」

 ずいぶん今となっては懐かしい話だけれど。影丸理事長と三幻魔を巡る戦いにおいて、その件のラブデュエルの時に俺は不在だった。

「そ、そんなことはいいんだ! 今度こそ天上院くん、キミを僕のものにしてみせよう!」

 そう言いながら着ぐるみのデュエルディスクを展開し、万丈目たちはデュエルの準備を完了させる。明日香も溜め息混じりにデュエルディスクを展開させ、タッグデュエルの設定を終わらせる。

『デュエル!』

遊矢&明日香LP8000
万丈目&万丈目LP8000

「俺のターン!」

 まずは《おジャマ・イエロー》ではない方の万丈目のターン。俺のデュエルディスクには2ndと表示され、万丈目→俺→万丈目→明日香の順番でターンは進行するようだ。

「ラブデュエル用のカスタマイズを施したこのデッキ……まずは下準備としゃれこもう。モンスターをセットし、カードを二枚伏せてターン終了」

「……俺のターン、ドロー」

 下準備と称した万丈目のターンは、セットモンスターと二枚のリバースカード。まさしく下準備というに相応しいその一手に、俺は警戒を強めてドローする。万丈目はああ見えて、どんなデッキでも扱える、このアカデミアでも指折りの資格を持ったデュエリストである。

 その万丈目が、ラブデュエルという謎のデュエルとはいえ――このデュエルの為に、わざわざ専用のデッキまで構築してきたのだから。……恐らく、本日タッグデュエル大会の連絡を聞いてから。

「俺は速攻魔法《手札断殺》を発動。お互いに手札を二枚捨て、二枚ドロー」

 ならば何か小細工をしてくる前に、さっさとこのデュエルを終わらせる。そのために速攻魔法《手札断殺》を活用し、万丈目とともに二枚の手札交換を果たす。

「ドローした《スカウティング・ウォリアー》、墓地に送られた《リジェネ・ウォリアー》と《リミッター・ブレイク》の効果を発動! 《リジェネ・ウォリアー》を守備表示、《スピード・ウォリアー》に《スカウティング・ウォリアー》を攻撃表示で特殊召喚!」

 墓地に送られた際効果を発揮する、《リジェネ・ウォリアー》に《リミッター・ブレイク》の二枚の効果と、ドローされた際の《スカウティング・ウォリアー》がの効果が発動される。自身の効果で《リジェネ・ウォリアー》は墓地から特殊召喚され、《リミッター・ブレイク》によりデッキから《スピード・ウォリアー》、手札から《スカウティング・ウォリアー》が現れる。

「さらにもう一体、スピード・ウォリアー》を召喚する!」

 雄叫びをあげて通常召喚される、二体目の《スピード・ウォリアー》。これで俺のフィールドには四体のモンスターが揃い、俺の手札にはそれらを強化する二枚の装備魔法があった。

「よし、装備魔法《団結の力》と《ダブル・バスターソード》を《スピード・ウォリアー》に装備する!」

「ちょ、ちょっと待て!」

 万丈目に流れを掴ませてはいけないと思いつつも、普段ならばいつも温存しながら戦うが、この大会の雰囲気に知らず知らずのうちに揉まれていたのかもしれない。遠慮しない大量展開の後に装備魔法《団結の力》と《ダブル・バスターソード》を装備され、通常召喚された《スピード・ウォリアー》は二刀を以て強化される。

「バトルだ! 《スピード・ウォリアー》でセットモンスターに攻撃! ソニック・エッジ!」

 万丈目の制止する声を聞くことはなく、俺は《スピード・ウォリアー》へと攻撃を命じていく。デメリットはあるものの、《ダブル・バスターソード》は二回攻撃と守備表示の相手への貫通効果、《団結の力》は言わずもがな自分のモンスターの数×800ポイントの攻撃力アップ。よって今の《スピード・ウォリアー》は、攻撃力4100の二回攻撃貫通効果持ちモンスター。

「召喚したバトルフェイズ、《スピード・ウォリアー》の元々の攻撃力は倍になる!」

 ……いや。さらにその攻撃力は900ポイントアップし、《スピード・ウォリアー》の攻撃力は5000ポイントと化す。見るからに顔が引きつる万丈目をよそに、《スピード・ウォリアー》の剣戟がセットモンスターに炸裂した。

「ぐぅぅぅっ! ……だ、だが《メタモルポット》の効果を発動! お互いに手札を全て捨て、五枚ドローする!」

万丈目&万丈目LP8000→3600

 セットモンスターは《メタモルポット》。そのリバース効果が発動し、俺と万丈目が《手札断殺》のように、お互いに手札の交換を果たす。恐らくは万丈目のコンボカードを集めるための策……なのだろうが、このままやるならば。

「《ダブル・バスターソード》は二回攻撃を付与する。《スピード・ウォリアー》でダイレクトアタック!」

「墓地に送られていた《ネクロ・ガードナー》の効果を発動! その攻撃を無効にする!」

 《メタモルポット》で墓地に送られていたらしい、《ネクロ・ガードナー》が《スピード・ウォリアー》の攻撃を止める。敗北寸前の状況になったとしても、二枚のリバースカードは発動する気配もない。

「残る二体でダイレクトアタック!」

「くくく……」

万丈目&万丈目LP3600→1700

 まだ攻撃していなかった、《スカウティング・ウォリアー》と《スピード・ウォリアー》の二体の攻撃が万丈目に炸裂する。しかし《メタモルポット》で引いた手札がよかったのか、それも気にせずに不敵な笑みを浮かべていた。

「……《ダブル・バスターソード》を装備したモンスターは、バトルフェイズ終了時に自壊する。カードを一枚伏せて、ターンエンド」

「俺の……」

 こちらのターン終了宣言を受けると、万丈目が自分が取り付けていたデュエルディスクを取り外すと、横に置いてあった《おジャマ・イエロー》の着ぐるみを着始めた。

「……ドロー!」

 ……どうやら、《おジャマ・イエロー》の着ぐるみを着た万丈目のターン、ということらしい。《おジャマ・イエロー》の着ぐるみがカードを一枚引き、先の万丈目が伏せていたリバースカードが発動する。

「リバースカード、オープン! 《リバース・リユース》を発動! 墓地のリバースモンスターを二体、特殊召喚する……貴様のフィールドにな!」

 裏側守備表示のセットモンスターが二体、俺のフィールドに特殊召喚される。こちらのフィールドに特殊召喚してどういうつもりだ、と考えている間に、万丈目はさらに盤面を進めていく。

「カードを三枚伏せ、リバースカード、《聖なる輝き》を発動!」

 裏側表示のモンスターを表側表示にする効果を持つ、リバースカード《聖なる輝き》が姿を現す。よって俺のフィールドに特殊召喚されていた、二枚のセットモンスターが姿を現し――万丈目の直前の、カードを全て伏せる行動から察するに。

「《メタモルポット》と《ニードルワーム》……二体のリバース効果を発動させてもらおうか」

 俺のフィールドに特殊召喚されていたリバースモンスターは、先の《メタモルポット》と《ニードルワーム》。再び五枚の手札が墓地に送られ、さらなる手札交換を果たす。加えて万丈目は《ニードルワーム》の効果で、デッキトップから五枚のカードが墓地に送られる。

「ふふふ……跪くがいい、この俺の最強のコンボにな! 速攻魔法《帝王の烈旋》を発動!」

 万丈目の発動した魔法カードとともに、俺のフィールドの《スピード・ウォリアー》が旋風に包まれていく。エクストラデッキからの特殊召喚を封じる代わりに、アドバンス召喚に必要な素材を相手のモンスターで賄うことが出来る、という効果を持つ速攻魔法《帝王の烈旋》。その効果により《スピード・ウォリアー》がリリースされ、万丈目の手札から新たなモンスターが現れる。

「現れろ! 《ワーム・イーロキン》をアドバンス召喚!」

「ワーム……?」

 万丈目のデッキの中でアドバンス召喚したとすれば、【アームド・ドラゴン】だと思ったが。予想外の上級モンスターがフィールドに現れ、異世界でのことから少し顔をしかめた。

「さらに手札から《トラップ・ブースター》を発動! 手札を一枚捨てることで、手札から罠カードを発動することが出来る。俺は《魂のリレー》を発動し、手札から《ワーム・クイーン》を特殊召喚する!」

 手札から罠カードを発動出来る《トラップ・ブースター》から、あらゆるモンスターを特殊召喚出来る《魂のリレー》へと繋げられ、さらに大型のワーム《ワーム・クイーン》が特殊召喚される。ただし《魂のリレー》には重いデメリットがあり、特殊召喚したモンスターがフィールドを離れた瞬間、そのプレイヤーはそのデュエルに敗北する。

 これで万丈目のフィールドには《魂のリレー》の効果で特殊召喚された《ワーム・クイーン》、《ワーム・イーロキン》。さらに《聖なる輝き》に三枚のリバースカード。

 こちらのフィールドには《スカウティング・ウォリアー》に《リジェネ・ウォリアー》。そして万丈目の《リバース・リユース》によって特殊召喚された、《メタモルポット》に《ニードルワーム》。万丈目が何を狙っているか分からない以上、伏せてある《くず鉄のかかし》が頼りだが……

「伏せてある装備魔法《フリント》を《ワーム・クイーン》に装備! さらに伏せてある《シエンの間者》を発動し、《ワーム・イーロキン》を貴様のフィールドに送りつける!」

「なあ万丈目、お前何やってるんだ……?」

 攻撃力を300ポイント下げる装備魔法《フリント》を《ワーム・クイーン》に装備し、さらに相手フィールドにモンスターを送りつける《シエンの間者》により、《ワーム・イーロキン》がこちらのフィールドに送りつけられた。

「ええい、うるさい! もう少しだ! 伏せてある《実力伯仲》を発動!」

「《実力伯仲》……?」

 長い万丈目のソリティアにも、真面目に一瞬たりとも目を離さなかった隣の明日香が、発動された魔法カードの名前を呟いた。確か、両者のフィールドにいる同じ攻撃力のモンスター二体に、効果と攻撃力宣言を無効にすることで、あらゆる効果耐性を付与するカード……だったか。こちらのフィールドには攻撃力2400の《ワーム・イーロキン》、あちらには装備魔法《フリント》で攻撃力がダウンし、2400ポイントとなった《ワーム・イーロキン》が存在する。

「発動条件は満たしてる、か……」

「そしてエンドフェイズ、《シエンの間者》の効果は終わり、《ワーム・イーロキン》はこちらのフィールドに戻る。これでターンエンドとしよう」

 長い長い万丈目のターンが終わり、残ったのは《ワーム・イーロキン》に《ワーム・クイーン》。《聖なる輝き》と《フリント》も残ってはいるが、あの二枚の役割はもう終わっているところだろう。ようやく明日香へとターンが移る。

「……私のターン、ドロー!」

「最初に言っておく。天上院くん、君は僕に何もすることは出来ない」

 明日香がいつになく慎重にカードをドローした瞬間、万丈目は高らかにそう宣言する。これまでの万丈目のソリティアによって、確かに万丈目の布陣は盤石なものとなっていた。

「みたいね……でも、やれるだけ試させてもらうわ。《機械天使の儀式》を発動!」

 神妙に頷いた明日香はまず、彼女の主力たるサイバー・エンジェルを呼びだす儀式魔法、《機械天使の儀式》を発動させた。フィールドにいた《スカウティング・ウォリアー》と《リジェネ・ウォリアー》がリリースされ――どちらの機械戦士のレベルも4、よってレベル8のサイバー・エンジェルが降臨する。

「儀式召喚! 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》!」

 そして降臨する最強のサイバー・エンジェル。大量の手にそれぞれ刃物を振りかざしており、まずはその起動効果を発動する。

「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が特殊召喚に成功した時、相手はモンスター一体を破壊する!」

「俺は《ワーム・イーロキン》を選択!」

 万丈目が選択した《ワーム・イーロキン》に対し、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が接近、目にも止まらぬスピードで切り刻んでいく。……だが、それらの攻撃は全て、《ワーム・イーロキン》には届くことはなく。

「《実力伯仲》の効果により、このカード以外の効果は受けない!」

 《ワーム・イーロキン》と《ワーム・クイーン》に適応された、攻撃と効果を封じる代わりにあらゆる効果を受けなくなり、戦闘による破壊も無効にする効果を持った魔法カード《実力伯仲》。その効果により、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の効果は受けつけない。

「なら、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》で、《ワーム・イーロキン》に攻撃!」

 《実力伯仲》の効果によって戦闘破壊は出来ないが、ダメージを与えることは出来る。《ワーム・イーロキン》の攻撃力は、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》より下回っている……が。こちらも先程のように、何ら攻撃は意味をなさない。

「《魂のリレー》の効果! このカードで特殊召喚したモンスターがフィールドにいる限り、俺はあらゆるダメージを受けない!」

 《魂のリレー》で特殊召喚された《ワーム・クイーン》がいる限り、万丈目には戦闘ダメージだけでなく、効果ダメージすらも通用しない。代わりに《ワーム・クイーン》がフィールドを離れた際、万丈目は強制的に敗北することになるのだが……《ワーム・クイーン》は今、《実力伯仲》の効果によって、あらゆる効果と破壊から免れている。

 それはまるで、難攻不落の要塞のようで。要塞の中にいる万丈目を倒すには要塞を破壊しなくてはならないが、その要塞を絶対に破壊することは出来ない。何の比喩表現でもなく、俺たちに打つ手はなかった。

「くっ……私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

 打つ手がなくなった明日香がターンエンドを宣言するとともに、万丈目が《おジャマ・イエロー》の着ぐるみを脱ぎ捨てる。……その後、再び着れるように畳みながら、元々万丈目が装着していたデュエルディスクを再びつける。

「俺のターン! ドロー!」

 悔しげな明日香とは対照的に、自信満々といった様子で万丈目はカードを引き抜いた。

「だけど万丈目くん? ここからどうする気なのかしら?」

 負け惜しみのようにも聞こえるが、明日香の言った通りだ。確かに万丈目の布陣は難攻不落の要塞だが、その要塞から打って出る手段はない。恐らくはこの《要塞コンボ》を達成する為だけに構築されたそのデッキに、他に攻め手があるとは思えない。

 強いて言えば、自分のデッキ圧縮用に《メタモルポット》や《ニードルワーム》によるデッキ破壊はあったが、その二種は《リバース・リユース》によりこちらのフィールドにいる。そもそもタッグデュエルにおけるデッキ破壊とは、非効率なことこの上なく。そもそも先の過分なデッキ圧縮があって、最初にデッキ切れになるのは万丈目だ。

「もちろんさ、天上院くん。これはキミへのラヴデュエルなのだから! 俺は魔法カード《マジック・プランター》を発動。《聖なる輝き》を墓地に送り、二枚ドロー!」

 デッキ圧縮の為に使っていた《聖なる輝き》をコストに、万丈目は《マジック・プランター》による二枚のドローを果たす。《おジャマ・イエロー》の着ぐるみを着ていない万丈目も、《メタモルポット》によりその手札や墓地は盤石に過ぎる。

「俺はフィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》を発動! このカードが存在する限り、魔法・罠ゾーン以外にも、魔法カードを置くことが出来る!」

 一風変わった効果を持ったフィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》。そのカードの発動には確か、墓地に《ダーク・ネクロフィア》を必要としていた筈だが、先のデッキ圧縮の時に落としていたか。

 そしてその特異な発動条件は、ある特定のカードのサポートに他ならない。

「俺は《魔法石の採掘》により墓地から《トラップ・ブースター》を回収し、発動! 俺は手札から罠カードを発動出来る!」

 墓地の魔法カードを回収するカード《魔法石の採掘》により、先に《おジャマ・イエロー》の万丈目が発動していた、手札から罠カードを発動する《トラップ・ブースター》を回収する。どちらも手札コストを発動条件にしているにもかかわらず、豪快に発動していく万丈目の手札に残った、あのカードこそが――

「《ウィジャ盤》を発」

「カウンター罠《ピュア・ピューピル》! 攻撃力1000以下のモンスターが私のフィールドにいる時、相手のカードの効果の発動を無効にし、破壊する!」

 ――やはり特殊勝利を達成する《ウィジャ盤》だった、が。明日香のカウンター罠《ピュア・ピューピル》の効果――しかも皮肉にも、発動条件を満たしたのは万丈目のモンスターだ――により、発動することなく墓地に送られることとなった。

 フィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》により、《ウィジャ盤》の弱点である防御用の魔法や罠カードを使えない、という点は解消出来ているが……墓地の《ウィジャ盤》を回収するカードは、あのコンボ用のデッキに投入されているだろうか。よしんば投入されていたとしても、先のデッキ圧縮で墓地に送られていないだろうか。そして万丈目にダメージを与えることは出来ずとも、万丈目の残り少ないデッキが切れるまで、《ウィジャ盤》の回収と発動を妨害し続けることはこちらにも出来る。

「…………」

 などといった、様々な可能性を頭によぎったのか、万丈目の動きがピタリと止まる。最後の《ウィジャ盤》は詰めが甘かったかもしれないが、ここまであのデッキを回せたのは素直に称賛に値する。

「ふっ……ふはは! 流石だ天上院くん、だが忘れていないかな? このデュエルがラヴデュエルだということを!」

 動きを取り直した万丈目の高らかな宣言により、デュエル場中から明日香に向けられていた、『空気読んでやれよ……』という視線が霧散する。そんな『ラヴ』の発音にこだわった万丈目の宣言に、明日香は意味も分からず眉をひそめる。

「……どういうこと?」

「こういうことだ! 魔法カード《ソウル・チャージ》を発動! ――墓地から蘇ったこの思い、受け取ってくれ!」

 墓地のモンスターを複数体蘇生する魔法カード、《ソウル・チャージ》により、万丈目のフィールドは一瞬にして埋まる。元々フィールドにいた《ワーム・クイーン》に《ワーム・イーロキン》、そして墓地から蘇った《ワーム・ヴィクトリー》、《ワーム・オペラ》、《ワーム・リンクス》。贔屓目に見てもグロテスクなモンスターだったが、万丈目が召喚したそれらは不思議と、どこか愛嬌がある顔をしていた。

 そしてそれぞれが、自身に対応した文字――ワームはそれぞれ、アルファベットを頭文字にしている――に変化していく。《ワーム・リンクス》のL、《ワーム・オペラ》のO、《ワーム・ヴィクトリー》のV、《ワーム・イーロキン》のE、《ワーム・クイーン》のQ。

「L.O.V.E.Queen……アカデミアのクイーンであるキミへ……」

 ……ワームモンスターを使っていたのは、このメッセージを仕込むためだったらしく。アカデミアのクイーン、という久しぶりに聞いた称号とともに、万丈目がこちら――明日香へと手を伸ばす。

「……ごめんなさい。私は――」

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!」

万丈目&万丈目LP1700→0

 明日香の謝罪の言葉の後に続いていた言葉は、万丈目の痛烈な悲鳴でかき消された。それほどまでに万丈目の心がダメージを受けたという訳ではなく、あくまで《ソウル・チャージ》のデメリット――蘇生したモンスターの数だけ、そのライフポイントを失う――が払われただけだ。《実力伯仲》と《魂のリレー》のコンボも、自らライフポイントを失うことへの対策はない。

 ……まったく実感が湧かないものの、こうして俺たちペアは一回戦を勝ち抜いた。倒れ伏していた万丈目に駆け寄り、明日香が膝を着いて視線を合わせた。

「ありがとう万丈目くん。気持ちも嬉しいし、コンボも凄かったわ。でも私、デュエリストが相手だとライバルに見ちゃうから……そういう対象としては見れないの」

「て、天上院くん、僕は……」

 助け起こそうとする明日香の手を拒み、万丈目は自分の力で立ち上がると、最後に何か言おうとする――前に、万丈目はデュエル場から放り出されていた。

「ほら、負けた万丈目先輩はさっさと退くザウルス」

「ま、待て剣山、最後に――」

 いつの間にかデュエル場に上がっていた剣山に、無理やり万丈目は退場させられてしまう。それでも抵抗しようとはしていたが、どこからか現れたスタッフに連行されていく。

「遊矢先輩。回復、何よりドン」

「あ、ああ……ありがとう」

 それを何とも言えない表情で見つめていた俺に、剣山が快気祝いの言葉を送ってくれる。礼儀正しく礼をする剣山の腕には、デュエルディスクが装着されており――次の対戦相手を、明日香とともに確かめると。

「そう、わたしたちだよ!」

 ティラノ剣山と早乙女レイ。後輩コンビの名が対戦表には記されており、レイが自分たちと対面のフィールドに立っていた。そこに剣山も合流し、デュエルディスクを展開していく。

「遊矢様。万丈目先輩じゃないけど……ここでわたしの想い、受け取ってもらうんだから!」

「……様つけは止めろと」

 二連続で俺たちペアがデュエルしてもいいのかと、チラリと吹雪さんを見ると、いい笑顔でGOサインを出していた。先のデュエルがアレだったので、特に俺も明日香に疲労もなく……デュエルディスクを展開し、デュエルの準備を完了させる。

『デュエル!』

遊矢&明日香LP8000
レイ&剣山LP8000

 デュエルディスクは俺の先攻を指し示し、まずは五枚のカードを手札に加える。先の万丈目のデュエルとは違い、あまり攻め手には向かない手札。

「モンスターをセット。カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「わたしのターン、ドロー!」

 次なるターンはレイのターン。これでこのタッグデュエルのターンの順番は、おおよそ伺い知れることとなった。

「わたしは《ミスティック・エッグ》を召喚!」

 レイが使うミスティックシリーズの中でも、最も幼生体であるモンスター。ステータスのどちらもが0であり、破壊されたターンのエンドフェイズ時に、デッキから《ミスティック・ベビー・ドラゴン》をリクルートする効果を持つ。

「さらにカードを一枚伏せ、魔法カード《恋文》を発動! 相手プレイヤーは、わたしのモンスターかリバースカード、どちらかのコントロールを得る。さあ遊矢様、選んで!」

 自分のフィールドのモンスターかリバースカード、そのどちらか相手が選んだ方を明け渡すカード、ということらしい。よって《ミスティック・エッグ》がリバースカード、そのどちらかを俺は手に入れることが出来る。

「……リバースカードだ」

 使用出来るかどうか分からないリバースカードより、普通なら断然モンスターカードだが……《ミスティック・エッグ》の攻撃力は0、しかもリクルーターである。嫌な予感を隠しきることが出来ず、またセットカードをコストに二枚ドローする魔法カード、《ブラスティング・ヴェイン》の存在からリバースカードを選ぶ。

「ありがとう遊矢様、わたしの想いを受け取ってくれて……通常魔法《強制発動》を発動!」

 こちらのフィールドに移ったリバースカードがどんなものか、確認しようてした瞬間にはすでに、レイの魔法カード《強制発動》は発動されていた。俺がそのリバースカードに疑問を呈す声とともに、その名の通り相手のリバースカードを強制的に発動させるそれにより、ゆっくりとそのリバースカードは発動された。

「《パートナーチェンジ》……?」

 レイのカードではあるが今は俺のフィールドにあり、効果の確認は可能。長々と効果処理について書いてあるが、要するに――発動プレイヤーは、パートナーを交換する申し出を相手に申し込み、申し出を受け入れたプレイヤーを新たなパートナーとする。

「遊矢様の申し出なら、わたしはもちろんOKだよ!」

 こうしてレイは凄くいい笑顔とともに申し出を受け入れ、俺のパートナーとなっていた――
 
 

 
後書き
愛の力はドローカードすらも創造する(自作自演 
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