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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico?-B銃士と挑戦者~Shooting down~

†††Sideアイリ†††

マイスターは監察課+監査課の研修で第39管理世界エルジアに行っちゃって、はやては休みだから家でのんびり。そういうわけで2人の融合騎であるアイリとリインは、準ロードのヴィータとシグナムにくっ付いて武装隊の仕事をすることに。
別の武装隊に所属してるなのはも、ここミッドの北西部・アンクレス地方っていう田舎の演習場に行く予定だったんだけどね。そして北西部の次元港に着いたら着いたで構内が騒がしくて、特に構内モニター前には人だかりが出来ていた。確認すれば騒ぎの原因は、リアルタイムで中継されてる犯罪組織の抗争だった。しかも神器が2つ確認できたから、さぁ大変。

(もちろん黙って見てるわけにはいかないよね!)

神器による事件や事故は、マイスターの心を傷つける。何故なら神器は、マイスターが人として生きていた時代に存在してた物だから。マイスターは過去が現代や未来を犯して、狂わせるのが大っ嫌い。だったらマシスターを愛するこのアイリが黙って放置するわけないんだよね。

「現着後、ヴィータと高町は牽制を頼む」

「おう!」「あ、はいっ!」

「リインとアイリは、連中が防御ないし回避したその隙に捕縛だ。神器持ちだからと言って魔法が通用しないわけではない、というのは既知だからな。神器に魔法が触れさえしなければそう難しくなく捕らえることが可能だろう」

「ヤー!」「はいですっ!」

シグナムからの指示にアイリ達は応じた。目的はあくまで確保で、戦闘じゃない。神器を使われての戦闘がどれだけの被害をもたらすのか判らないからね。で、ヴィータが「お前はどうすんだよシグナム」自分の役割を言わなかったシグナムにそう訊いた。

「我々が事件に介入することは、フィレスから担当の陸士部隊へと連絡してくれるが、やはりこちらからも現場担当に挨拶しなければ失礼だろう」

「緊急時はしょうがなくないですか?」

「リイン。私は局員である前に騎士だ。礼儀は大切にしたい」

「律儀だな、おい。ま、あたしら4人でサクッと片付けるから、シグナムがひとり抜けたところで問題じゃねぇけど」

「ヴィータちゃん。神器相手に油断や慢心は命取りだよ?」

「解ってんよ、そんくらい。あたしらはお前が生まれる前から神器と関わり合ってんだぞ、なのは」

まぁ、アイリ達は“エグリゴリ”のバンへルドと戦ったしね。だからその危険性はなのは達以上に理解してる。特にヴィータやシグナム、シャマル、ザフィーラは実際に殺されちゃった経験があるし。

「とにかくだ。神器持ちへの攻撃は全て神器へ。間違っても体には当てるなよ。殺害してしまったらこちらの罪人だ」

そういうわけで、アイリ達は空を翔けて現場へ向かってる。次元港から現場まで約20分の飛行の末、「現場視認です!」リインが告げた。アイリ達の目線の先、そう大きくも無い街が見えて来た。大きなビルも数えるほどしかないところだけど、それでも人が住んでる街なんだ。そこで抗争なんてふざけてくれちゃった真似、絶対許せないよね。

「では私は現場担当に挨拶をしに行く。少しの間だが空ける」

「さっき言ったろ? あたしらだけで片付けてやるってさ! アイゼン、カートリッジロード!」

「レイジングハート、カートリッジロード!」

≪Explosion≫≪Load cartridge≫

ヴィータとなのはが、マイスター特製の神秘カートリッジを1発ずつロード。魔力に神秘を付加させる神器・“ドラウプニル”の効果もあって、今の2人はまぁまぁな魔術師になれてる。カートリッジをさらにロードすることで、さらに魔術師に近付ける。だから余程の格上の魔術師や神器じゃないと、ヴィータやなのは、さらにシグナムには勝てない。

「リイン、バインド用意!」

「はいですよっ!」

シグナムと別れて、アイリ達は陸士部隊と交戦を続けてる神器持ち2人へ空から接近。そして・・・

「なのは!」「ヴィータちゃん!」

≪Schwalbe fliegen≫≪Accel shooter≫

物質弾に魔力付加させたヴィータの射撃魔法と、馬鹿みたいな魔力量を圧縮したなのはの魔力弾、計28発が構成員2人を囲う壁のように着弾してく。

「氷結の軛!」「鋼の軛!」

アイリとリインは、土煙に覆われた構成員2人に対して古代ベルカ式捕獲魔法をお見舞いしてあげる。リインは鋼の軛っていう、ザフィーラだけでなくシャマルも扱える魔法。アイリはそれに氷結付加を施したもの。直撃したら凍らしちゃうよって感じだね。

「アイリ、ユニゾンだ!」

「へーい」

ヴィータに頼まれたから「ユニゾン・イン!」してあげた。アイリはヴィータの中から外界の様子を見る。土煙が晴れるより早く「砲撃!」なのはの警告と同時にヴィータが回避に入る。ヴィータとなのはの居る空に向かって放たれた砲撃は、アイツらを覆う土煙を消し飛ばした。

「あぅ~。神器でスッパリ断ち切られてるですね」

剣使いはアイリとリインの軛を剣で斬り払ったみたい。けど銃使いはお腹と左腕と両足にリインの軛を貰ってた。でも銃を持ってる右腕だけは自由。だから砲撃を撃てたんだね。そんな半ばリタイア気味の銃使いを縫い止めてるリインの軛を、剣使いは携えてる剣を横一線に振り払って破壊した。

「なのは、気ぃ付けろ。あの剣使い、やべぇ感じがする」

「みたいだね。あの人も剣士として強いと思うけど、それ以上に持ってる神器がまずいかも」

ヴィータやなのはの意見にアイリも賛成。あのロングソード、かなり高位の神器かも。こうして直に見て、相対するとよく解る。ヴィータは「リイン! シグナムとユニゾンしろ!」リインに指示を出して、続けて「なのは! まずは・・・!」に声を掛けた。

「はいですっ!」

「うんっ! まずは銃使いだね! 了解だよ! 剣使いは押さえるから、その間に!」

どう見ても銃使いを先に片付けた方が良いよね。そういうわけで、なのはが射砲撃で剣使いを押さえ込んで、その間にヴィータとアイリが銃使いを近接戦で捻り潰す。え? 戦闘が目的じゃない? もうそんなこと言ってられない程にまずい相手だって。

「レイジングハート! エクセリオンモード!」

なのはの“レイジングハート”が槍のような形態に変形して、綺麗なサクラ色の魔力で出来た翼が展開された。アイリ、なのはのデバイスが一番綺麗って思うんだよね。翼がバサッてなる瞬間が堪らなく好き♪

「エクセリオン・・・バスタァァァーーーーッ!」

なのはが剣使いと銃使いの合間に向かって砲撃を発射。2人は迎撃じゃなくて左右に飛び退いて回避。そして銃使いはなのはに向かって、球体状じゃなくてホントの銃弾みたいな形状をした魔力弾を十数発と連射。

「ヴィータちゃん、お願い!」

≪Accel Fin≫

なのはがヴィータから距離を取って、銃弾を引き付けてくれるその間に、「アイリ!」ヴィータが銃使いへ向かって急降下。

『ヤー! 氷結圏!』

アイリと融合したことでヴィータの魔法や“アイゼン”に付加された氷結能力の効果をさらに増加させる魔法を発動。

「『シュワルベフリーゲン・アイス!』」

そして打ち出すのは、シュワルベフリーゲンに氷結効果を付加した射撃魔法、その数12発。狙いは銃使い本体じゃなくて周囲の地面。本命をぶちかます前にまずは行動範囲を制限するためにね。銃使いは慌ててなのはからヴィータの氷結弾へ向かって銃弾を連射して、いくつかを迎撃。迎撃されるってことは、ヴィータの神秘があの銃の神秘より負けてるんだね。

『砲撃で迎撃した方が早いのにね』

「なんか事情があんじゃねぇの・・・!」

迎撃しきれなかった氷結弾数発が銃使いの周囲に着弾して、ボフッと白煙を上げて氷の棘が花のように咲かせた。棘に包囲された銃使いは「なんだこら!?」って叫ぶ。それぞれの棘の長さは1mちょいあるから、破壊しないとその場から逃げれない。だから焦りまくってる。

「テメェを墜とせばそれで終いだろうが!!」

ライフルみたいに銃身の長い真っ白な神器の銃口がヴィータに向けられて、銃弾が連射されて来る。ヴィータは「遅ぇッ!」速度を緩めることなく銃弾の合間を縫うように突っ込むんだけど、『怖っ!』アイリはただ見ていることしか出来ないからかなりの恐怖なんだよね。

「アイリ! ぶちかますぞ!」

『ヤー!』

「『フリーレンシュラーク!!』」

“アイゼン”の通常形態ハンマーフォルム時での打撃魔法は基本的にテートリヒ・シュラークになる。そこに氷結効果を付加したのがフリーレンシュラーク。当然、直撃時に氷結効果のある冷気を放出するから、防御魔法もデバイスも、もちろん人も凍るわけね。

「思い出した! マジかよ、聞いてねぇよ! チーム・ウミナリの騎士じゃねぇかよ!」

目を大きく見開いて驚いてる銃使いは歯噛みして、慌てて銃身上部にある装填と排夾をする穴にカートリッジを込めるんだけど、焦りからかいくつかポロポロ落としちゃってる。とにかく初見の行動だね。警戒するように言おうにもすでにヴィータは攻撃体勢に入った直後だし、もう手遅れ気味。

「しもやけくらいは覚悟しろよ!」

銃使いが銃のボルトハンドルを引くと、銃口から光が漏れ出した。そんな銃へ向かって振り払われる、冷気の尾を引く“アイゼン”。撃たれるのが先か、弾き飛ばすのが先か・・・

「おらぁぁぁぁぁぁぁッ!」

“アイゼン”に打たれたことで銃口がヴィータから外れた。その瞬間に、『あぶな・・・!』砲撃が発射された。至近距離を通り過ぎてく砲撃が発する衝撃波がすごいけど、「だから遅ぇってんだよ!」振り払われた“アイゼン”が砲撃を放出中の銃を弾き飛ばした。

「んな・・・!?」

「アイリ!」

『アイス・ランツェ!』

神秘付加されてないアイリの魔法なら直撃でも死ぬことはないからね。ヴィータの周囲に氷の礫を15基と展開、そして『発射(ファイエル)!』銃使いに向けて一斉発射。銃使いは「うごぉ!?」なんて言って吹っ飛んだ。

『ついでにダルマにしてあげるね♪』

――アイスマン――

銃使いの周辺の水分を急速冷凍させて、雪だるま型の氷の中に閉じ込める。閉じ込められてもすぐに凍死とか窒息死しないようにしてあるから、しばらく放置でも問題ないね。“アイゼン”を肩に担いだヴィータの視線が銃使いから地面に転がってる銃に向けられて、その場まで歩いて「回収っと」拾い上げた。

(銃型神器。そのほとんどがマイスターが人間だった頃に作った物だ。ひょっとしてコレもマイスターが作ったのかな・・・?)

マイスターの真実を知って、アイリは寝物語としてマイスターからその当時の事を教えてもらってる。これまでに聴いてきた思い出話の内の1つに、銃型神器の大半はマイスターが作って、率いる部隊の魔術師や、アールヴヘイムの魔術師に授けたって話をしてもらったことがある。

「ルシルにどんな神器か聞きてぇけど、アイツって今は監察・監査課のダブル研修だから通信には出られねぇよな・・・。こういう時はアイツの知識が必要だってぇのにさ。とにかくこんな長ぇもんを戦闘中には持てねぇし・・・。アイリ、あたしの魔力でバインドだ」

ヴィータが不満げに呟いて、アイリにそう指示を出した。擬似的に魔術師と化してるヴィータの神秘魔力での魔法なら、神器を拘束することも出来るからね。

『んじゃあ、リングバインドで良いよね』

――リングバインド――

銃を4つのリングバインドで拘束・・・完了。そして「次だ、アイリ!」ここから離れながら剣使いと交戦してるなのはの方へ視線を向けた。なのはは空から射砲撃をぶっ放し続けて、地上に居る剣使いは炎を纏う剣を空に向かって振るって、炎で出来た剣を扇状に発射してる。

「炎熱系かよ。今のあたしとアイリじゃ相性最悪だな」

あの炎を使う剣の神秘は間違いなく今のヴィータ達以上のものだ。でも3対1なら。それに、あとで来てくれる真正の魔術師であるセレスが加わればきっと勝てるね。セレスは氷結系だけど、神秘の差によっては属性の優劣はひっくり返る。それが魔術なんだから。

「アイリ。ユニゾン・アウトだ。お前は神器を持って退避してろ」

『しょうがないね。ユニゾンするだけでアイリの氷結能力がヴィータに付加されちゃうんだし。残念だけど、い~ち抜~けた~』

「『ユニゾン・アウト!』」

融合を解くと、ヴィータは「じゃあお前は、銃を持って陸士隊と合流だ」そう言って、“アイゼン”を銃に向けた。アイリは「ヤー。・・・っと、結構重いね」リングバインドを解除して、銃を両手で受け取ってチャッと構えてみる。

「じゃああたしは、なのはと合流すっから」

「気を付けてね、ヴィータ。神器での被害は、ルシルが苦しんじゃうし、悲しんじゃうから」

「おうよ!」

ヴィータがなのはの元へと向かって行くのを見送る。アイリの“ドラウプニル”、持ってくれば良かったな~。特別技能捜査課としての事件捜査だったなら持って来てるんだけど、武装隊同士の演習って言うから持って来てないんだよね。あぅ、こんな事になるなんて完全に予想外。ヴィータ達みたく常に持ち歩いてないとダメみたいだね。そうじゃないと、こういう状況の時は戦力外通告を受けちゃうし。

(マイスターの役に立つためには、アイリもしっかり神器戦をこなさないとね!)

神器の銃をじっくり観察。効果としては神秘の魔力弾を発射したり、ディバインバスター並の砲撃を撃ったり出来るわけだけど。銃の知識はマイスターから教わってるから、ちょっと見てみる。
モデルはM1891/30――モシン・ナガンだね。ボルトアクション式の狙撃銃型。木の部分も鉄の部分も全部が真っ白。弾倉の方式はボルト下に内蔵されてる固定式。狙撃銃型なのに、スコープは無いのがちょっと寂しい。とにかく安全のために安全装置をONにして、さらにボルトハンドルを引いて薬室からカートリッジを全部抜き切る。

(ちょっと触れただけで込められてる神秘の強さが判るね・・・)

地面に落ちたカートリッジを拾い上げる。カートリッジシステム搭載式のデバイスに使われる形じゃないから、当然マイスターの手で作られたものじゃない。マイスターの作る神秘カートリッジはデバイス用ばかりだし。ということは、カートリッジも一緒にアールヴヘイムから奪って来たわけだね。

「銃使いに直接訊いてみればいっか♪」

マイスターとお揃いの騎士服のポケットにカートリッジをしまって、アイリは銃を肩に担いで氷だるまに閉じ込められてる銃使いの元に向かった。

†††Sideアイリ⇒なのは†††

「シューット!」

≪Accel Shooter≫

西洋剣型の神器を振るう犯罪組織の構成員へ向けて、私と“レイジングハート”は魔力弾を12発と発射する。もちろん当てるつもりはなくて、狙うのは神器であるあの剣。神器を携えたとしても持ち主の魔力に神秘が付加されるわけじゃない。神秘を得た魔法――魔術の直撃は大事故に繋がる。だからいつも以上に集中して、魔術と化してる魔力弾の操作をする。

――アドエオナス・リング――

剣使いさんは炎が勢いよく灯った剣を振るって、炎の環を私に向けて放って来た。魔力弾の軌道を操作して衝突しないように気を付けながら私も回避。魔力弾はそのまま剣使いさんの持つ剣へ向かわせる。

≪マスター! 後ろです!≫

“レイジングハート”からの警告に「え・・・!?」後ろを振り返れば、さっき通り過ぎてった炎の環がすごい速さで戻って来てた。私はアクセルフィンでその場からすぐに退避したから避け切れたんだけど、その一瞬の心の乱れで魔力弾の操作を怠っちゃった。立て直そうにもすでに剣使いさんが炎の斬撃で全弾迎撃。

「なあ! あんた、リンドヴルムを壊滅させたチーム・ウミナリのタカマチ・ナニョハだろ!」

「っ!! なのはです! 高町、な・の・は!」

まさかまたこんなやり取りをする日が来るなんて思いもしなかったよ。剣使いさんは「わりぃ、わりぃ」人懐っこい笑顔を浮かべて頭を掻いた。それだけならちょい悪風なおじさんって感じだけど、陸士隊員にも民間人にも死者が出しちゃってる以上は・・・悪い人だ。

「そうそう、タカマチね! やっぱりと言うか、さすがと言うか、アンタはそこらの陸士隊員とはまさしく別格なんだな。見ろよ。さっきまでは片手剣だったのに、今じゃ両手剣だ」

それは気になってた。ひょっとして私の気の所為じゃないかな、って思ってたけど、やっぱり気の所為じゃなかったんだ。ここに着いたばかりの時は、確かに片手持ちの剣だったのに、今は柄が長くなって両手持ちの剣に変わってた。

(変形する神器なのかな? ルシル君に連絡を入れたいけど、監察課と監査課の研修は2週間もあるし、通信に出られる時間も無いだろうし。困ったなぁ・・・)

新しく管理世界入りを果たした第39管理世界エルジア。ルシル君は昨日から学校を休んで、エルジア首都に設立された地上本部へ研修に行ってる。本当は今すぐにでも連絡を取って、あの剣のことを訊きたいんだけど、さすがにルシル君も暇じゃないだろうから気が引けちゃう。

≪マスター。勝利して回収すれば、何も問題ありません≫

「まぁ、今から神器を回収すれば確かに連絡は必要ないんだろうけど・・・」

“レイジングハート”からの提案にも一理あるけど、って悩んじゃう。

「それでなタカマチ! ものは相談なんだけどな! 俺を見逃してくれないか!」

うんうん唸ってると、剣使いさんがそう言ってきた。何を言うかと思えば見逃せ、だなんて。局員としてもそうだけど、人としてそれは出来ない相談だよ。私が無言で“レイジングハート”の先端を剣使いさんに向けると、「俺はな、子供は傷付けたくないんだよ!」そう言って剣先を降ろした。

「じゃあ! どうしてこんな事してるんですか! この抗争の所為で陸士隊員さん達だけじゃなくて、なんの罪も無い一般の人たちにも犠牲者が出ているんですよ!」

「待て、待て、待て! 俺と舎弟はあくまで敵組織の構成員にしか攻撃してねぇよ! ありゃ向こうの組織の連中がやったことだ!」

「でもあなた達がこんな街中で戦わなかったら、被害は出なかったかもしれないのに!」

「撃たれてる最中で背を向けて逃げろってか!? それは俺たちに、死ね、って言ってるもんだぞタカマチ!」

「防御魔法であれば、ある程度の質量兵器も耐えられますし、屋内で戦えば――」

「向こうの魔導師の方がランクも所有デバイスのスペックも高いんだよ! しかも非殺傷設定じゃなく、物理破壊設定でだぞ! 何で局員や市民が死んだのか。それが原因だからだよ!」

「・・・。それでもあなたは犯罪組織の構成員であることには違いありません。だから・・・逮捕します!」

「はぁぁ・・・。しゃあないか。死んでも恨んでくれるなよ、お嬢さん」

――ウェスタス・ソード――

――アクセルシューター・バニシングシフト――

振るわれた剣から剣の形をした炎が扇状に放たれて来た。私は剣と剣の合い間を抜けて、ロックオン機能を使っての精密射撃を行うバニシングシフトを発動。剣をロックオンした魔力弾16発を「シュート!」一斉発射した。

「甘い!」

――ペロニアス・ディフェンス――

剣を地面に突き刺した瞬間、剣使いさんとの間に幅5m・高さ3mくらいの炎の壁が生まれて、魔力弾が全てその炎の壁に突っ込んで行って燃やし尽くされちゃった。

「高町!」『なのはさん!』

「シグナムさん、リイン!」

とそこに、リインとユニゾンを終えたシグナムさんが来てくれた。さらに「なのは!」ヴィータちゃんも合流。だけどアイリの姿はどこにもない。だから『あれ? アイリはどうしたです?』リインが訊くと、「相性が最悪だろ、アイツの神器とはさ」ヴィータちゃんはそう言って、“グラーフアイゼン”を炎の壁に突き付けた。

「だから回収した銃型神器を見とくように言って、置いてきた」

――ポエナス・グリーフ――

「回避!」

炎の壁が破裂して、炎の礫が無数に飛来してきた。シグナムさんの指示に応じて私たちは散開。さっき以上に熱量があって、さらに神秘が高まってるのが判った。私は「カートリッジロード!」ルシル君特製の神秘カートリッジを1発ロード。ドクンと跳ねる心臓。リンカーコアが暴れ狂う感覚。でも、どこか心地良い感じがする不思議。

『こちら陸士399部隊、現場担当! 可能であれば戦場を変更して頂きたい! 先ほどの炎の礫が、火事などの二次被害を齎そうとしている!』

陸士隊員さんから通信が入って辺りを見回すと、街路樹が何本か燃えちゃってた。シグナムさんが「了解! 試みてみます!」応じて、私たちを見た。剣使いさんは今、黒煙の向こう側。私たちの姿は確認できてないはず。作戦を立てて実行に移すなら今しかない

「シグナムさん。あの人、私に見逃せって言ってたんですけど。それを利用できませんか・・・?」

「はあ? 何言ってんだソイツ。頭おっかしいんじゃねぇの!」

「気持ちは解るが抑えろヴィータ。ふむ。・・・その男を見逃したフリをし、街から出たところを・・・」

『討つですね!』

「なるほど!上げて落とす作戦だな! 逃げられたと思ったところに捕まえられる。希望から絶望のどん底に叩き落としてやるぜ!」

ヴィータちゃんが嬉しそうに笑顔を浮かべた。悪い人へは本当に容赦ないよねヴィータちゃん。

「万が一、我々の追跡を撒こうとした時のために追跡班を用意しよう。リイン、ユニゾン・アウトだ」

『はいです!』

「『ユニゾン・アウト』」

シグナムさんからリインが飛び出して「目視されないようにしますね」さらに高度を上げて行った。私は「レイジングハート。ワイドエリアサーチ」を発動する。私の周囲に1つの魔力球を展開。コレらはサーチャーで、広域遠隔目視観測魔法。一度でも対象を発見した時、その対象を捕捉し続けて、私に正確な位置データを送ってくれる優れもの。

「ついでにアイリにも伝えとくか」

ヴィータちゃんがアイリに念話を送っている中で、ドォン!と爆音がしたと同時、黒煙を呑み込むように火柱が立った。肌にビリビリ感じる熱波。そしてそれ以上に「おい。冗談じゃねぇぞ・・・!」ヴィータちゃんの言うように、冗談じゃない神秘の迸りを感じた。

「っ!? また剣の形が変わってる・・・!」

剣使いさんが持つ剣は大剣へと変わっていた。そして剣身から噴き上がってる炎はさっきまでとは比べ物にならないくらいの神秘を宿してるのが理解できた。

「は、はは、ははははは!すごい、すご過ぎるだろコレ! 今ならどんな魔導師・騎士が来ても勝てるだろ、おい!」

――パウォルス・オンスロート――

大きく振るわれる大剣。そして放たれるのは直径3mくらいある炎の塊。その数・・・40弱。その範囲は広大で、一体どれだけの被害が齎されるのか判ったものじゃない。炎塊は一度空に上がって、弧を描くように落下する軌道だ。上昇から落下までの短い間になんとかして迎撃しないと。

「レイジングハート!」

≪Load cartridge. Divine Buster Extension !≫

「アイゼン!」

≪Schwalbe fliegen !≫

「レヴァンティン!」

≪Schwert form. Schlangebeißen angriff !≫

出来るだけ、ううん、全部の炎塊を破壊するために私たちは全力の迎撃に入る。私はディバインバスターを撃って、「放射持続!」“レイジングハート”に指示を出す。そして「いっっぇぇぇーーーッ!」砲撃を放ち続ける中で“レイジングハート”を振るう。すると砲撃はしなって、まるで鞭のようになって炎塊を破壊し続けてく。

「無茶をしやがんな、相変わらず!」

ヴィータちゃんは魔力を付加した物質弾を12発を連続発射。シグナムさんは連結刃形態になった“レヴァンティン”を振るって、ヴィータちゃんの魔法で勢いが弱まった炎塊を斬り裂いてく。だけど・・・

「ダメ、カバー出来ない!」

数が多すぎて全ての炎塊を破壊できない。このままじゃ、この街が炎に包まれちゃう。さらに神秘カートリッジをロードしながら砲撃を撃ち続けてる。だけどやっぱり「間に合わない・・・!」20近い炎塊が迎撃できずに地上に落ちる。その光景を見送ることしか出来ない私の無力さに、視界が涙で滲んだ。

『諦めちゃダメ!』

――氷星の大賛歌(カンシオン・デ・コンヘラシオン)大合唱(コーロ)――

そんな時、セレスちゃんからの念話と、吹雪の砲撃が15発が飛来してきた。砲撃は15個の炎塊に着弾、一気に凍結、そして粉砕した。だけど残り5個の炎塊は無事。迎撃も間に合わない。今度こそダメだって思ったけど・・・

「ひゃっほ~い!」

また別のところから砲撃が5連射されて来て、その残りの炎塊を撃ち抜いて消し飛ばした。砲撃の出所へ目を向ければ「アイリ・・・!」が居て、その手にはもう1つの神器だった銃が握られてた。

「助かったぜ、アイリ、セレス」

「どういたしまして!」

「今、アリサとすずか、フェイトやシャル達もこっちに向かってくれてる! もう少し粘ろう!」

アイリがアリサちゃん達に応援要請を出してくれてた。みんなは今それぞれの仕事先から最速の手段でここに向かってくれてるとのこと。

「・・・って、おい、なのは、お前!」

私の側に来てくれたヴィータちゃんが私を指差した。私たちの危機を救ってくれたセレスちゃんも「大丈夫なの!?」声を掛けてくれた。そして「なのは、鼻血!」アイリがそう言ってくれたから、私はようやく自分の鼻に手をやった。

「え・・・?」

自分の鼻から出てたかなりの量の血に今さら気付いてビックリした。アイリが「鼻の付根を冷やそうか?」って、そっと私の鼻の付根に触れて、冷気で冷やし始めてくれた。

「高町とアイリは離脱しろ。その出血量は異常だ」

『こちらリインです! 次弾が来るかもです!』

ハッとして剣使いさんを見れば、剣使いさんの両腕が燃えていて、手にしてた大剣がまた別の形に変形しようとしてた。幅の広い剣身がジグザグで細くて長い、波打つものに変わってく。

「フランベルク、またはフランベルジェ、フランベルジュですね・・・!」

セレスちゃんが剣の名前を呼んだ。剣使いさんはそのフランベルクを正眼に構えて、その剣身に今まで以上の炎を灯らせようとしてた。

「これ以上はさせない!」

「あっ、動かないでなのは!」

「もう大丈夫だから。ありがとうアイリ」

袖で鼻血を拭って、アイリに微笑みかける。剣使いさんをこのまま放置するわけにはいかない。何せ街1つを消し飛ばしちゃいそうな神器なんだから。だから鼻血くらいで休むわけにはいかない。ヴィータちゃんと、「先行します!」セレスちゃんが次弾を防ぐために剣使いさんに突撃した。

「止めても無駄か?」

「はいっ! 大したことじゃないですから、余裕で行けます!」

「・・・判った。リイン、戻って来い! ユニゾンをし直すぞ!」

『はいですっ!』

「私も先に行きます!」

「アイリも!」

シグナムさんにそう伝えて、私とアイリもヴィータちゃん達の後を追う。2人はすでに剣使いさんを近接戦で押さえ込んでた。でも「あ・・・!」それは起こった。ヴィータちゃんの“グラーフアイゼン”と、セレスちゃんの“シュリュッセル”がバキンと音を立てて断ち斬られたのを。

「Ahhhhhhhhhhhhhhh !!!!!」

「っ!?」

剣使いさんの様子がおかしい。白目をむいて、大きく開けた口からはよだれが垂れてる。剣使いさんは何かに怯えるようにフランベルクを振るって、炎の剣や環を撃ち放った。無差別に撃たれちゃったことで、周囲の街路樹や道路、建物が次々と爆発、破壊されてく。

「これ以上はぁぁぁぁぁーーーーッ!!」

≪Load Cartridge≫

「よせ、なのは!」

“グラーフアイゼン”を失って後退するヴィータちゃんからの警告。セレスちゃんは“シュリュッセル”が無くても氷で出来た剣で応戦するけど、打ち合う度に溶かされてる。そこに「退いて!」アイリが銃型神器を発砲。後退したセレスちゃんの脇を通って神秘の弾丸がフランベルクを、さらには剣使いさんに当たった。あっ、て思ったけど、弾丸は小さな炎の盾が防御した。対神秘の防御の術を持ってるんだ。だったら・・・

「なのは、今!」

アイリちゃんの神秘弾が撃ち込まれ続けて、剣使いさんは炎を纏うフランベルクを振るって迎撃。

「レイジングハート! ストライクフレーム!」

≪Accelerate Charge System. Stand by….≫

“レイジングハート”のヘッド先端から魔力刃が伸びる。そして「ドライブ!」私は突撃する。フランベルクは破壊してでも止めないと。砲撃の余波が剣使いさんにもダメージが入るかもしれないけど、対神秘術があるならきっと大丈夫。

「いっけぇぇぇーーーーッ!」

≪Excellion Buster≫

私を迎撃するために振るわれたフランベルクと魔力刃が激突した瞬間、砲撃を発射。フランベルクは剣使いさんからの手から離れて、数m先の樹の幹に突き刺さる。剣使いさんの腕に灯ってた炎も同時に消えた。

「リイン!」

『リングバインド!』

合流したシグナムさんとユニゾンしてるリインがバインドを発動して、剣使いさんを拘束した。

「あー、ちっくしょう。あたしのアイゼンが真っ二つだ」

「私のシュリュッセルも綺麗に真っ二つ・・・orz」

切断面が溶けてるデバイスを持ったヴィータちゃんとセレスちゃんが肩を落としてヘコんでる。やっぱり神器とデバイスとじゃスペックとか関係なく一方的に壊されちゃうんだね。

「とりあえず確保は出来たな」

『被害は甚大ですけどね・・・』

素直に安堵したいところだけど、また被害が大きくなってしまって手放しで喜べない。沈んでるとボッと何かが燃える音がして、確認するために振り向こうとしたその時、「伏せて!」セレスちゃんが私の頭を無理やり押さえ付けた。

「きゃぁぁぁぁ!」

それと同時に聞こえたセレスちゃんの悲鳴。そして顔にバシャッと何か温かい液体が掛かった。顔を上げた時、高速回転して飛んでるフランベルクがシグナムさんの“レヴァンティン”を断ち斬ったのが真っ先に見えて、シグナムさんのお腹から酷い量の血が噴き出した。

「シグナムさん!」「セレス!」

見ればセレスちゃんのお腹からも血が溢れ出してた。私の顔に掛かったのは、セレスちゃんの・・・。斬られたセレスちゃんは「ぅぐ・・・。いった・・・」お腹を両手で押さえながらうつ伏せになった。駆け寄るために脚に力を込めてたところに・・・

「馬鹿野郎、なのは! ボサッとしてん――」

「きゃ・・・っ!?」

横からヴィータちゃんの体当たりを受けて、私とヴィータちゃんはその場に転んだ。頭上をフランベルクが空を切って通り過ぎて行く。私の上に覆い被さるヴィータちゃんにお礼を言おうとしたんだけど・・・

「ヴィータちゃん? ヴィータちゃん・・・? ヴィータちゃん!」

背中がバッサリ斬られて血を流してることに気付いた。ヴィータちゃんはそれでも「いって・・・。っざけんなよマジであの野郎・・・!」立とうとするから「ダメ!」私は制止する。ここで動いたら傷口がもっと広がっちゃう。
フランベルクは剣使いさんに掛けられたバインドを破壊して、自由になったその手に収まった。そしてまた炎が噴き上がる。さらに今度は腕だけじゃなくて頭以外が炎に呑み込まれた。もちろん感じ取れる神秘の量もどんどん上昇してくのが判る。

「陸士隊の医療班に連絡完了! だけどもう、アイリ達だけじゃ勝てないかもね・・・!」

アイリが銃弾を連射。神秘の魔力弾は炎そのものになった剣使いさんに直撃するけど、まったくダメージを与えてない。あれを見ればそう思いたい。でも「あんなの放って逃げるなんて出来ないよ」私は戸惑いを見せる。あんな危険な神器を放置した場合の被害がどうなるか考えたくもない。だから・・・

「アイリ。援護お願い! あの神器を破壊する!」

「ちょっ、やめ――」

「・・・ヤー! って、来たよ!」

こちらに向かって突進して来た剣使いさんに、私とアイリは砲撃を連射する。ここで倒さないと被害が大きくなるばかり。そんなことはもうさせない。

「ストライク・・・スタァァァーーーーズ!!」

「この、この、このぉぉぉーーーー!!」

さらにエクセリオンバスターとアクセルシューター8発を同時発射。アイリも銃にカートリッジの装填を繰り返しつつ砲撃を連射。

「待て、なのは! ここいらの避難は済んでる! 街に被害は出るが死人は出ねぇ! アリサ達が来るのを待て!」

「でも! 少しでもあの人を押さえないと! 命は助かっても家とか思い出が燃え尽きちゃったら、生きるのに大切な気持ちが無くなるかもしれない!」

ヴィータちゃんからの警告にそう返す。大きな災害に遭って、命が助かっても住むお家が無くなって、未来に希望を抱けない人をテレビで観たことがある。管理局員は命だけじゃなくて心も守ってあげられないといけないんだ。だから、どれだけ無茶でも危険でも止められる手段を持ってるならそれを使わないと・・・。

「それに大丈夫だよ、ヴィータちゃん! さっきみたくフランベルクを弾き飛ばしてすぐに破壊に移ればなんとかなるはず! きっと上手く行く!」

私とアイリの砲撃の直撃を受け続けたことでようやく剣使いさんが大きく吹き飛ばされて、大きな看板に激突した。看板はドロドロに溶け始めて、剣使いさんを覆う炎が少しだけ減衰したのが見て判った。大丈夫、私とアイリだけでもまだ押さえられる。

「あ、逃げ出した!」

アイリが叫ぶ。剣使いさんは本能から私たちとの戦闘続行は危険だって判断したのか、踵を返して歩き出した。ここで私もさらにカートリッジをロードしてまた魔力刃を展開。

「馬鹿野郎! ここで突撃する奴があるか!」

「それでも・・・! フランベルクを弾き飛ばすにはこれしか!」

――エクセリオンバスターA.C.S――

「アイリ、援護お願い! ドライブ!」

「ちょっ! ダメ、なのは! 応援があとちょっとで来るから、もう少しだけ堪えて!」

ヴィータちゃんとアイリから止められるけど、私は無視して突撃した。もう一度フランベルクを弾き飛ばせばなんとかなる。そして魔力刃はまたフランベルクと衝突する・・・

「っ!・・・え・・・?」

ことはなかった。魔力刃は剣使いさんのお腹に突き刺さってしまった。撃てない。この状況で砲撃なんて撃ったら、剣使いさんの身がどうなるか判らない。

「撃って、なのはぁぁぁーーーーッ!」

「馬鹿野郎! 撃てぇぇぇぇーーーーーッ!」

「・・・あ」

私に向かって振り下ろされるフランベルク。目の前いっぱいには赤い炎。そして・・・私の意識はそこで途切れた。
 
 

 
後書き
ゴーオンダイン。ゴットクヴェルト。
神器回収編パート2。その中編をお送りしました。この一件は原作におけるなのは撃墜事件に当たります。原作に比べてヴィータやシグナム、セレスまでもが半撃墜状態の被害拡大ですが。なのはを撃墜させるかどうかはずっと考えていたのですが、やはり後の機動六課関連であった方が良いかな~、と思ったので、やっぱり入れました。
 
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