ホテル
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「そこもありますしそれに」
「ヤクザか」
「はい、風俗といえば」
ヤクザが絡まない筈がなかった。こうした世界はそちらの世界の人間の重要な資金源となっているのである。賭博とこれは完全にそちらの世界だ。他には昔は芸能関係もあった。今は結構薄れてしまっているとも言われているが。かっては代紋の事務所もかなりあったのである。
「そこもありますし」
「泥沼になりそうだな」
「どうします?そっちは」
尾松は怪訝な顔をして山根に問う。
「下手したらこの事件とは別の話になってしまいますよ」
「いや」
だが彼はここでまた閃いた。
「そちらはちゃんとやれる」
「ちゃんとって」
「要は金の動きだ」
「お金ですか!?」
「そうだ。そこで変な流れがあればな」
声が剣呑なものになっている。話が深まってきている証拠だ。
「はい」
「それを調べればいい。まあ薬とかそんなのの場合もあるがな」
「それはそれで逮捕ですね」
「そうだ」
捜査が大掛かりになっていく。それはもう尾松の予想を越えていた。だが山根にとっては想定の範囲内であるらしい。そうした顔になっていた。
「これも署長と話しておくか」
「ですね」
「ただな、銃や麻薬だとこの場合大した問題じゃない」
「人身売買ですか」
「なあ」
山根は尾松に顔を近付けて問うてきた。話がさらに剣呑なものになる。
「普通な、ホテルから人ひっさらうか?ヤクザが」
「ヤクザがですか」
「何かな、ちょっと違うんだと思うんだが。俺はな」
「言われてみればそうですね」
尾松も考えながら述べた。視線を上にやっている。
「ヤクザだともっとこう」
「借金とかでな」
「そうですね。こんな誘拐みたいなのはしないです」
「じゃあヤクザじゃないのか!?」
山根は考えた。人身売買もするヤクザもあるにはあるが彼はそれは極めて悪質なヤクザ、それか外国のマフィアと呼ばれる組織がそうであると知っていた。少なくともあの辺りのヤクザだとは思えなかったのである。これは知識から導き出される答えであった。
「この事件は」
「じゃあ何でしょうね」
「さあな。そこまではわからないが」
「けれどもう捜査をはじめてもいいと思います」
「そうだな、罠を張っていく」
山根はそれは変えるつもりはなかった。こくりと頷く。
「それはいいな」
「思い立ったがでいいかと」
「わかった、では仕掛けていく」
山根は地図のあちこちをペンで印をつけていった。
「高さは同じビルはこれと」
「あとここにはあの組のが」
「よし、ここはあいつ等とだな」
「はい、それでそこは」
尾松も話に入っていく。そしてめぼしい場所を手当たり次第に押さえていく。そこからまたふるいにかけていくのであった。二人の捜査はかなり慎重であった。
怪しい連中をまず調べていく。その中には風俗店や暴力団もありそういった連中も調べられていく。
とりあえず怪しい者達はいなかった。胡散臭い連中は多かったがそれだけに留まっていた。極端に変な連中というのは案外少ないものだ。だが。
一つ、妙な団体がいることに気付いた。
「!?」
最初にそれに気付いたのは尾松であった。一角のあるビルを指差した。
「ここのビルですけれど」
「ああ」
二人は署内の個室に閉じ篭っていた。その中で粗末なテーブルに向かい合って座っていたそこで尾松が言ったのである。
「何か妙な団体がいますね」
「妙な」
「宗教団体ですかね、これ」
見れば聞いたこともないカタカナの名前の団体であった。山根も今彼等のことに気付いた程である。
「よくわからないですけれど」
「じゃああれか!?」
山根は苦虫を何匹も同時に噛み潰した顔をして答えた。
「オウムとかああした連中か」
「その可能性があるかも」
尾松もそれは否定しない。何せどんな人間がいるかわからない街だから。
「ほら、あいつ等だってそうでしたし」
「拉致か」
「もしそうだとしたらあれですよ」
尾松は焦った顔になってきていた。
「とんでもないことに」
「もう充分とんでもないことになっているがな」
それに対する山根の返答は身も蓋もないものであった。何人も誘拐されて失踪しているのだ。これを大事と言わずして何と言うのだろうか。
「もう三件の失踪が起こっているからな」
「まあそれはそうですが」
こう言われるとその通りである。困ってしまう。
「どうします、これ」
「当然調べる」
山根は彼等も捜査の対象からは離さなかった。少しでも可能性があるからだ。
「あからさまに怪しいからな」
「ですね。じゃあこの連中も」
「ああ」
こうして虱潰しに捜査を行っていった。結果として暴力団や風俗関係からそうした証拠は見当たらなかった。金の出入りもそうした関係だけでおかしいところはなかった。
「どうやら真面目な連中ばかりらしいな、ここは」
「そうですね」
かなり時間をかけて調べ終えた後山根と尾松はそんな話をしていた。山根も尾松もかなり疲れた顔と声になっている。それも無理のないことであった。
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