肥えるもの
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第一章
肥えるもの
鳥越太一郎は某一流とされる私立大学を出て正日放送に入った、入社すると顔の良さと滑舌のよさを買われてキャスターになった。
テレビに出るとだ、彼は忽ちのうちに人気者となった。
それでだ、上司からもこう言われた。
「御前人気あるぞ」
「そうみたいですね」
アルマーニのスーツを着てだ、鳥越は上司の言葉に笑顔で応えた。
「まあ当然ですけれどね」
「ははは、そう言うんだな」
「だって俺この顔で喋りもいいですから」
だからだとだ、自分で言うのだった。
「ですからそれもですよ」
「当然か」
「はい、当然です」
明るいが軽薄に笑って言うのだった。
「それも」
「そうか、それでな」
「それで、ですか」
「御前のことは社長も注目していてな」
上司は鳥越に言うのだった。
「メインに抜擢するつもりらしいぞ」
「それはいいことですね」
鳥越は上司の言葉を聞いてここでも軽薄に笑った。
「その番組絶対に人気出ますよ」
「御前があメインだとな」
「はい」
まさにとだ、自分で言う鳥越だった。
「視聴率もスポンサーもですよ」
「ついてくるな」
「そうなるな、じゃあ今度新番組決める会議でな」
「俺がメインの番組がですね」
「社長から言われるからな」
彼をメインキャスターにした新番組をというのだ。
そうしたことを話していてだ、実際にだった。
鳥越は若くしてメインの番組を持った、そこで彼は実際にお茶の間の人気者となって視聴率を出してスポンサーもつけた、それでだった。
彼はさらに自信をつけてだ、銀座においてホステス達をはべらせてそのうえで周りの彼女達に言っていた。
「俺が番組に出たらな」
「それで、ですよね」
「もう番組は成功」
「そうなりますよね」
「当たり前だよ」
トンベリを飲みながらの言葉だ、しかもだ。
前にはフルーツがありホステス達にも自由に飲ませている、まさに豪遊だった。
「俺が一言喋ればな」
「テレビの前の奥様方は夢中」
「もう目が釘付け」
「そうなるんですね」
「そうだよ」
まさにというのだ。
「だからな、これからもな」
「視聴率どんどん稼いで」
「それでスポンサーもつけて」
「こうしてお店に来てくれるんですね」
「それでサービスさせてくれるんですね」
「そうだよ、俺が正日放送を背負ってるんだ」
こうまで言うのだった。
「俺が出たらどんな番組も成功だよ」
「はい、じゃあ明日もですね」
「来て下さいね」
「そうするな」
こう笑って言ってだ、鳥越は銀座で豪遊していた。そして。
彼は朝のニュースやバラエティからだ、他のジャンルの番組にも出る様になってだ。そしてやがて正日放送から独立してだった。
事務所を持った、すると。
彼にだ、直接だった。
「是非出演して下さい」
「うちの番組のキャスターに」
こうした感じでだ、テレビ局の人間が次々に彼のところに来た。そしてその中には彼の古巣である正日放送からもだ。
かつての上司が来てだ、彼を赤坂の料亭に連れて行って一緒に懐石料理と最高級の酒を楽しみながら話をした。
「里帰りじゃないがな」
「正日放送で、ですね」
「番組持ってみないか?」
上司は笑って彼に言った。
「報道番組な」
「報道ですか」
「何といっても報道だろう」
ニュースキャスターなら、というのだ。
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