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なかったことに

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6部分:第六章


第六章

「それなら痩せていて当然だろ?」
「栄養失調の様にですね」
 本郷はまた指摘してみせた。
「食べ物はこの屋敷には」
「ない筈ないだろう?」
 また忌々しげに答える息子だった。
「けれどあいつは食べなかったんだ」
「ほう」
 役がその言葉に顔を向けた。
「食べなかったのですね」
「そうだよ。僕達が何度勧めてもあいつは食べなかった」
 息子の言葉は止まらない。
「全然ね」
「全然ですね」
「うん、全然食べなかったんだよ」
 息子は項垂れた顔で話すのだった。
「それで家じゃ何度もね」
「倒れていましたね」
「そうなんだよ」
「初耳ですが?」
 警部がここで言った。
「そうしたことがあったとは」
「何度も倒れていたことかい?」
「何故そんなことを黙っていたのですか?」
 怪訝な顔になってだ。息子に問う警部だった。
「どうしてですか、それは」
「そんなこと言えるもんか」 
 息子の返答はすぐだった。
「絶対に言えないだろ」
「どうしてですか、それは」
「そんなこと言えないだろ」
 また話す息子だった。
「栄養失調で倒れる家族がいるなんて恥ずかしいじゃないか」
「家としてはですね」
「こっちにも誇りがあるんだよ」
 つまりだ。プライドというのである。
「資産家のうちで。そんな栄養失調の人間が出るなんて」
「恥ずかしいですよね」
「実はそこまで金に困っているのかと」
「そうだよ。そんなこと言えるものか」
 そしてだ。息子だけでなくだ。
 両親もだ。こんなことを言うのだった。
「しかもだ。栄養失調になるとか」
「虐待に思われるじゃない」
「家族を虐待して死なせた金持ちの家」
「スキャンダルとしては最高のものよね」
「それで騒がれるなんてな」
「まっぴらなのよ」
 彼等はこう話すのだった。何故ベネットの死について何も言わず真実を隠そうとしていたのかをだ。それを話していくのだった。
「だから隠していたんだよ」
「そう騒がれるのが嫌で」
「そうですね。それはその通りですね」
 役はそこまで聞いてだ。静かにこう言った。
「アメリカはスキャンダルやそうしたことには目ざとい国ですし」
「まあ我が国もですけれどね」 
 本郷は自分達の底国ついても言及した。日本のジャーナリズムについてだ。
「マスコミってのは何処も品性も人格もないですからね」
「そうした相手だからだよ」
「騒がれたくなかったから」
「しかしです」
 役はそんな彼等にまた言うのだった。
「貴方達は今疑惑をかけられています」
「ベネットを殺したんじゃないかっていうんだね」
「はい、そうです」
 その通りだとだ。彼等に話す役だった。
「しかも。口さがない噂です」
「それもわかってるさ」
 息子は憮然とした顔で答えた。
「けれど一旦隠したんだ。今更事実を言ってもだよ」
「どうしようもないというんですね」
「どうすればいいのか。正直ね」
 彼は役達に話していく。
 
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