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その手で引き金を引け!!

作者:櫻木可憐
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第十章 隠された実力
  第一話 玄界への帰還

結局戻らなかった。
戻るといいながら。いや、はじめから戻る気はなかったのだ。
俺は最後まで嘘を突き通した。
彼女に教えた情報や自分のしたかったこと。
好きなことは言うほど出来ていない。
やれたのは君を愛したぐらいで。
ごめんなさい。嘘を突き通したことを。
ごめんなさい。君にちゃんとした恋をさせるのが遅すぎて。
ごめんなさい。最後は全て他人任せて、自分は何もできなかった。
ごめんなさい。ずっと強がって俺は・・・ぼくは生きることを放棄した。

横目で倒れた彼女を見る。
本当に生まれ変わったら愛せる気がした。
今、愛せるなんて彼女も俺も不愉快なだけだ。
生ぬるい愛なんか一秒も言うことを聞かない。
いや今、生ぬるいのは自分が寝そべっている床か。
霊は流さないはずの血。
この血が誰で、どんな傷か予想はつく。

「最後の言葉・・・聞くべきじゃないのか」

すでに目は見えない。光すらわからない。
でも誰かが自分を見下ろしてるくらいわかる。
君ならこんな時にキスでもしてくれるだろうに。

「死人に口なしって分かる?」

すでに死んでるけどね。
あぁ、俺は最後まで自分勝手だな。
ごめんなさい。君を愛した全てを。
違うな。今まで言えなかった言葉が正解なんだ。

「あり・・・が・・・」

そこで全てを失った。
ありがとうございました。
口には出せなかったけど、きっと心には深くある言葉だから。

~~~~
菊地原は疲れたのか、如月の病室で寝ている。
起こすべきなのだろうが、そんな気にはなれない。
如月の寝顔を見つめ、俺は言った。

「如月、起きてるだろ」

寝たフリをしていた如月は、意地の悪い笑みを浮かべて起き上がった。
悪女とまでは考えないが、酷いやつだ。
菊地原が来ても寝たフリをしていたのか。

「あぁ、風間さんに分かられちゃうぐらい、私、気配隠すのが下手ですか」

「いや、上手いな。前の俺ならわからない。
しかし、寝たフリをする意味はなんだ」

「きくっちーが一生懸命お見舞いに来るのが楽しくて・・・」

そう、記憶を手にする前の俺ならわからない。
繰り返す時の記憶を手にしてから、周りの気配を感じるようになった。
如月やユウはあの感覚をいつも味わっているのだろうか。
だとしたら気味が悪い。

「はぁ、明日には退院か~
きくっちーにちゃんと気持ちを言わないとな~」

「はっきりしたか。」

「はい。私は菊地原士郎を愛していると。
今更ですね。」

ユウは気にしていた。
如月が菊地原への気持ちに気づいていないことを。
自分のせいで成長妨害をしているのではないかと。

「あはは。まあいいや。
伝えられないなんてなくて。
風間さんはどうするんです?」

「・・・?」

「私に言えないことがあるんですよね」

「・・・」

図星だ。言えないことがある。
人は言えないことを複数持つが、その一つが如月に関わることだった。

『風間さんがその情報をどうするかは好きにしてください。
俺には使えない情報だからな。
上層部に言おうが、言うまいが、本人に言おうが、言うまいが。
最後は風間さんが決めてください』

酷い話だ。自分で蹴りをつけずに人に託すとは。
厄介なことを託したものだ。

「いつか、話してくださいね。
今は別に言わなくてもいいですけど。
・・・あ、嫌なら言わなくていいですから」

「意外だな。人に言わせたがるタイプだろうに。」

「私、か弱いレディですから」

俺は如月の頭を撫でた。
甘えに慣れない如月は、不愉快な顔をする。

「菊地原を起こしておけ」

「ハイハイ。風間さん、退院祝いしてくださいね」

それは無視をして病室をあとにする。
退院祝いはまあ考えてやろう。
まずはやるべきことをやろう。
託された情報と“本当の”如月を守り抜くために。 
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