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消えた凶器

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5部分:第五章


第五章

「推理をして。相手にそれを突きつけてだね」
「そうして解決させます」
「まさにポワロのやり方だね」
「中には悪質な犯罪者もいますから」
「悪質な?」
「はい、明らかに黒で逮捕されても色々と言い逃れ」
 そうしてだというのだ。
「腕利きの弁護士を雇って逃げる犯罪者もいます」
「いるな。それは確かに」
「そうした相手に対するには」
「推理か」
「そしてその結果を突きつけ」
 それからだった。警部のやり方の真骨頂は。
「心を攻めればです」
「事件は解決できるか」
「捜査とは心理戦です」
 警部が次に言ったことはこれだった。
「犯罪者と。捜査をする側の」
「双方の」
「捜査をする側は逃げようとする犯罪者を逃がしてはならないのです」
「だからか」
「はい、ポワロのやり方は私のやり方ですが」
 それでもだというのだ。
「後は心理戦です」
「ポワロ式で突き詰めた証拠を見せていってか」
「相手を逃げられない様にしてです」
「犯人にそのことを認めさせることがか」
「それが捜査です」
 警部の考えに他ならない。これこそがだ。
「そういうことです」
「そうか。成程な」
「相手が極悪人ならこれをしても何も思いません」
 元々そうした相手を考えてのやり方だからだ。
「ですが」
「ああした。本来は善人の相手にすると」
「後味が悪いですね」
 こうも言うのだった。
「どうしても」
「しかしそれでもか」
「犯罪を置いておく訳にはいきません」
「職業倫理だな」
「まあ。私には希薄な考えですが」
 ここではいささか砕けてみせる。つまり重苦しい考えは本来は持っていないというのだ。
「ですがそれでも」
「それ故にだな」
「ああしたやり方をしています」
「因果なものだな、警官というのも」
 署長は達観した笑顔で話す警部に苦い顔で応えた。
「そうしていかないといけないからな」
「何、仕事ですから」
 だが、だ。警部の顔は変わらない。達観した笑顔のままだ。
「仕方ありませんよ」
「そういうことか」
「そういうことです。それでは」
「次だな」
「パスタの次は」
 イタリアではパスタはスープと同じと考えられている。つまりだ。
 ここからはじまるのだ。本格的なメニューが。 
 それについてはだ。警部は明るく話せた。
「サラダ、そしてオードブルにメインディッシュを」
「楽しむか」
「はい、そうしましょう」
 ここでは明るく話してだった。警部は。
 署長と共にだ。昼食を楽しむのだった。いささか後味の悪いそうした殺人事件の後ではあるがだ。美味い食事は楽しめたのだった。


消えた凶器   完


                     2011・8・30
 
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