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ぼくだけの師匠

作者:櫻木可憐
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第1章~ぼくらを繋ぐ副作用~
  13.覚醒

暗い桶に目覚めたらいた。
本来なら取り乱す中で、冷静な如月は分析を開始する。
桶は開かない。動けるだけ広くない。服はパジャマ姿。
たどり着いた結論はここは現実ではないこと。
自分は倒れたのだ。
昔、テレビや本で見たことがある。
昏睡状態で、意識の自分は暗い桶に捕らわれ助けを呼ぶ話。
自分は昏睡状態ではないのか。
冷静に考える。なら身と魂は別の存在なのか。
脱線した思考を戻して考える。

「目覚めたら、菊地原に甘やかしてやらないとな。」

如月の視界は一気に明るくなった。
意識ははっきりして、うるさい音に耳を傾ける。
聞き慣れたようで聞き慣れていない音。
門が開いたにしては、音が多すぎる。
ベッドに身を任せたまま、如月は外を見た。
空が黒く、騒がしい。
衰えた体を無理に起こし、外を眺める。
門が大量に開いている。四年前の大規模侵攻のように。
ナースコールをしようにも、医師や看護師はすでに避難している可能性がある。
それを菊地原も気にしていたが、任務中で手が離せない。
如月はテーブルのトリガーを見つけた。
手を伸ばした時に、鏡の自分が視界に入る。
髪が白くなって、30代に見える。
さらしで隠していた胸は、さらけだしている。
EからDに小さくなった気もした。
如月は、菊地原が忘れた物であろうポーチを見つけた。
中身にはハサミやノリ、ホチキスがある。
如月は迷わずに髪を肩の周辺で切り落とした。
筋肉の衰えた体に長い髪は邪魔でしかない。
如月は必死にテーブルのトリガーに手を伸ばした。

『戦闘体実体スキャン』

立ち上がり自分の姿を見る。
感覚が掴めないのか、かつて組んでいた隊の服になったらしい。
上は白、下は黒と柄は少なくシンプルで、エンブレムは肩に描かれている。
あまり気にはせず、如月は呟いた。

「さあ、戦闘開始だ」

それは上層部に衝撃を走らせた。
如月可憐のトリガー起動。
話を聞いた忍田本部長は、体が鈍って動けない如月に護衛をつけようとした。
本来なら病院待機を命じるが、如月は忍田本部長が手をあげるぐらい頑固者だ。
護衛候補に二宮隊があがるが、却下せざるおえない。
如月は一方的に二宮が嫌いなのだ。
護衛をつけるなと言うので、従いはしたが、心配の対象が戦場を歩くと思うと憂鬱である。 
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