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ぼくだけの師匠

作者:櫻木可憐
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第1章~ぼくらを繋ぐ副作用~
  05.見方、視点、感じ方

菊地原はなぜこの人がついてきたのか、不思議に感じた。
合同訓練なんて見に来る必要はないだろう。
菊地原C級最後の合同訓練。
ランク戦で3900まで稼ぎ、合同訓練で満点をとらされたのだ。
歌川と共に。
菊地原は歌川はいつから弟子になったのか、不思議に感じたが何も言わなかった。
嫉妬をしているなど彼には考えもしなかった。
如月は宇佐美に何やらデータを見せて楽しんでいる。
どうやらデータを見せにきただけのようだ。
彼女が一番楽しんでいるのは、分析や解説中ではないだろうか。
またそこで菊地原は、自分がやり場のない嫉妬をしているなど考えもしなかった。
現在は如月の自宅でB級昇格パーティをしている。

「さすがきくっちーだね。攻撃を目に頼らず、耳でとらえる!!」

「目隠しの方が集中できるらしい。
比較データなんだが・・・」

楽しんでいる如月と宇佐美を放置し、風間は荷物を抱えてやって来た。
油っこいフライドポテトやハンバーガーだ。
風間は勝手にリビングのテーブルに並べ始める。
家主の方はまだ解説中らしく、気づいていない。
リビングのテーブルには何故かカツカレーがある。
如月以外は風間が食べるなど知りはしない。
如月一人が何やら悩んでいる。

「歌川は万能手だから・・・」

そんな中、他の四人は騒がしくもなく食事に勤しんでいる。
場の雰囲気に外れた音を聞いたのは、風間がカツカレーを半分食べ終えた頃だ。

「ゲホッ・・・」

「如月、大丈夫か」

「問題ない。それより、聞いてくれ」

風間は、無視をして隊長らしく目標を口にしようとした。
彼女に喋らせたらロクなことはないのは、紛れもない事実なのだが。
しかし、今回はそのロクでもないことが良い点になった。

「隠密トリガー(カメレオン)にしよう!!」

「黙れ・・・」

これが風間隊がコンセプトチームになった瞬間であった。
それからしばらくして、寒々しい季節が襲ってきた。
日に日に如月が着ている服が増えてきて、カイロの使用回数が増え・・・
唇が青くなる如月を菊地原が日に日に見る回数が増える。
それだけ寒さに弱いらしい。
女性につべこべ言う男は嫌われる、と歌川は思うが菊地原は容赦なかった。

「寒さに弱いとか一応女だったんだ・・・」

「あぁ、我ながら情けない」

少しは叱るべきだと歌川は思う。
仕方なく菊地原を叱るのは、歌川だった。
雪が降りだし、寒さは次第に増していく。
如月は、とうとう本部から出ることを諦めて泊まるつもりらしい。
正しい選択だろう。

「菊地原、すまないが帰ってもらえないか。」

菊地原は不愉快そうに座ったまま、動かない。
話を聞いていなかった訳ではなく、動く気がないらしい。
菊地原は温かい缶コーヒーを如月に押し付けた。

「くれるのか?」

「いらないの?」

「寒いだろうから飲め」

「唇が青い人が言うの?」

「・・・そうか、すまない。いくらだ。金は払う」

如月は菊地原の頭を撫でようとしたが、手を払いのけられ断念した。
これが菊地原は不愉快で仕方ない。
埋めきれない年齢差が彼にはもどかしかったのだ。
鈍感にも理解に遅れた如月は、やっと自分の誤りに気づいた。
口には言わないが、子供扱いされたくない年なのだ。
子供扱いされたくないと言う時点で、充分に子供なのだが。

「別に・・・何を言うわけでもないけど。
本部に泊まるなら気を付けなよ?
太刀川さんとかまだいるから、捕まると厄介だよ」

「あぁ、わかった。」

背中を見つめながら如月は、自分は典型的な日本人だと自覚した。
「わかった」や「すまない」ではなく、正しい台詞は「ありがとう」なのだろう。
それさえ言えば補える溝を補うのが遅かった。
菊地原がくれたコーヒーを開けて、飲み干した。
副作用ばかり見すぎて、菊地原を見なかった明らかな自分のミス。

「師匠としては失格だな」

 
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