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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第7話 影の女王は闊歩する

 
前書き
 移植版は持っていないので知りませんが、PCゲーム版の初期である真剣で私に恋しなさい!の設定に矛盾があるのでちょっと困ってますが、何とかやっていこうと思います。
 設定の矛盾:川神学園は土日休みと言っていたのに、土曜日に普通に登校している日がある。

 今回、士郎は出て来ません。
 衛宮士郎ファンの皆さん、ごめんなさい。 

 
 翌日。
 川神学園は基本、土日は休みだ。
 職種や家庭、人種や種族にもよるだろうが、休日と言えば何時もよりも長く寝ていられるイメージがある。
 しかし士郎何時もの様に起き、何時もの様に鍛錬するが、掃除、洗濯、料理の手伝いが付いて来た。
 昨夜に止まった冬馬達3人だ。
 掃除は小雪に冬馬は洗濯、最後に準が料理の助手についている。
 衛宮邸に避難している時期に、士郎はいいと言ったのだが何もしないのは悪いと思った3人が、衛宮邸の家事を手伝う事に成ったのだ。
 けれども、当時からすでに九鬼家従者部隊一桁台程の家事スキルを身に着けていた士郎の手伝いなど、簡単に並べる事など出来る筈も無く、最初は足を引っ張るだけだった。
 だが、士郎の丁寧な教え方と早く役に立てるようになりたいと言う3人の根気が実って、今ではセミプロレベルのスキルを身に着けているのだった。

 「シロ兄ぃ!頼まれたところ、終わったよー」
 「こちらは少し時間が必要です。士郎さんと準の方は如何ですか?」
 「こっちはもう出来そうだ。士郎さんの伝言で、朝食を先に済ませちまおうってさ」
 「分かりました」
 「りょうか~い!」

 伝言役の準の言葉に従い、冬馬と小雪は朝食を取るために居間に行った。


 -Interlude-


 此処はスカサハの私室。

 「・・・・・・・・・・・・」

 スカサハは寝ている訳では無いが、横になっていた。
 彼女は毎朝朝食時に必ず顔を出すワケでは無いので、日によっては士郎とスカサハが顔を合わせるのは夜になる時もザラでは無い。
 この部屋は防音は聞いているが、彼女は気配で人の居場所どころか人の心までも読めるので、士郎達が今何しているのかも手に取る様に把握していた。
 あの3人は士郎と居る時はいつも以上にテンションが高くなるが、今日は何時もより高めであると感じた様だ。

 (あー、そう言えば、今日は映画とやらを見に行くんだったか?)

 少し前に上映を開始した映画の座席を、ネットで予約していたので、今日と言う日を楽しみにしていたのである。特に小雪が。
 聖杯戦争中のサーヴァントなら映画の事も知識の一つとして与えられるのだが、生憎今は聖杯戦争中でも無く、彼女に至ってはサーヴァントですらないので、色々な情報源から聞いた事がある程度でしか知らないのだ。

 (映画・・・か。今度行ってみるのもいいかもしれんな)

 少なくとも今は同行する気は無い。
 彼女も付いて行きたいと言われれば、士郎も含めた4人は躊躇いなく了承するだろうが、遠慮とか以前に今日はそんな気分ではな無さそうだ。
 そんな風にボーっと考えている間に時間だけが過ぎて行き、暫くして4人が出かける気配を感じ取った。

 (さて、鍛錬でもするか)

 別に誰かに見られたくないワケでは無い。単に気分の問題だ。
 そう決めたスカサハは、本来なら魔術を使って一瞬で身支度を整えられるのだが敢えてそうせずに、風情を楽しむために自分の手でクローゼットを開いて着替えて行き、庭へ直行した。


 -Interlude-


 「・・・・・・・・・・・・アイツは、またか」

 鍛錬を終えたスカサハは気分的に居間に直行したわけだが、何時も(・・・)の様にラップを被せた料理がそこにあった。
 朝食時は顔を合わせない事もザラではあるが、そう言う日は必ずこの様に事前に作っておいてあるのだ。
 彼女は人のまま神の域に到達した罰として不死の呪いを受けたので、別に朝食どころか食べ物を口にしなくても生きていける。
 にも拘らず、彼女が食事をするのは士郎の作る料理が特別美味いからである。
 なので、こうして作られた以上は食べないと言う選択肢は無かった。
 士郎としてはスカサハが食べなかったとしても、残念がる事があっても文句など言わないのだが、彼女からしてみれば士郎の作る料理を残すなどあり得ない事なのだ。
 スカサハは意識していなし、士郎自身もそんな気は無いだろうが、彼女の胃は既に士郎にがっちりつかまれているのだった。

 「今日も変わらず美味い」

 士郎の何時も通りさに今更ながら呆れていたスカサハだが、料理は美味しく頂いていた。


 -Interlude-


 スカサハの日常は、客観的に見て余生を過ごす老人の“それ”だった。
 いや、それ以上でもあり、それ以下でもある。
 神からの罰により不死の呪いを受けたせいで、永い月日の中で惰性でダラダラと生きて来たのだ。
 そこには感情はほとんど無く、意識と無意識の狭間を漂っているのと同義だ。
 影の国の女王に君臨しているモノの、そんな人生に意味などあるのかと、そもそも影の国の女王であり続ける必要すらあるのかと言う疑念を投げかけたくなるほどの空虚だった。
 そんな何時も通りの惰性の最中だった。幾つもの偶然が重なった上での召喚(それ)が起きたのは。
 そうして士郎と出会ってからは幾つもの感情も賦活していき、最近では町中をぶらつく様になった。
 彼女の美貌は今更言うまでも無く、絶世の美女と言う言葉にすらも当て嵌まらないほどの美しさだ。
 それ故、その容姿から近所ではすぐに有名になった。
 だが今日の彼女は、気分的に冬木市以外にも出歩いていた。
 いま彼女が歩いているのは川神の地だ。
 そこが何所であれ、彼女とすれ違った人々は老若男女の区別なく、顔を赤らめて立ち止まっていく。
 その当人と言えば、自分の美貌が他人を見惚れさせる事など当然(・・)なので、一々相手にせずに過ぎ去っていく。
 そんな当てのない散歩をしていたスカサハは、河川敷の土手で遊んでいる者達に何となく興味を示して立ち止まる。
 スカサハは、士郎の話によりクリス以外の此処に居るメンバーの事を多かれ少なかれ知識として知り得ていたが、実際に会うのは全員初めてである。

 (成程、この子供らが風間ファミリーなる仲良し集団か)

 顔のパーツが士郎の言っていた情報に酷似しているので、身元についてもすぐに理解出来た。
 そうして観察していると、クリスが打ったボールは前では無く、後ろに大きく打ちあがり、スカサハ目掛けて落ちて来たのでそれを捕る。

 「あーー!すいません、お姉さん・・・・・・って、え・・・・・・」
 『・・・・・・・・・・・・』

 風間ファミリーの中で一番近くに居たガクトが、お礼を言いながら近づいてから気付いたスカサハの美貌に思わず見とれて止まる。
 それに続いて、他の皆も視線を集中させてガクト同様の反応を起こす。

 「受け取れ、少年」

 風間ファミリーの反応に応対する気は無いのか、スカサハはガクトの右手に嵌めてあるグローブ目掛けて投げ入れたが、本人自身が止まっているので見事に吸い込まれるように入ったモノの、直に零れ落ちてしまった。
 その反応の中でいち早く復帰した百代は、何時も通り美少女や美人は全て自分への御供え物と公言しているだけあって、初対面のスカサハの眼前に一瞬で現れてから抱き付こうとする。

 「世界全ての可愛い娘はすべからく私の物・・・!」

 しかし――――。

 「気安いぞ?娘。何より遅い」
 「!?」

 百代の両手は空を切り前のめりに倒れそうになるも、見た目からでは想像できない屈強な下半身と安定した体幹により、踏みとどまった。
 そんな百代は話しかけられた刹那の時間の内に、驚喜に心が満たされた。
 自分が抱き付こうとした速度は、意識している限り、今この場にいる仲間たちの誰も躱すこと敵わぬ速度だった。それこそ壁越えでなければ無理だ。
 しかも今の速度を遅いと言う。
 さらには自分すらも足元にも及ばないのではないかと、考えさせられてしまうほどの美貌を持つ美女だ。
 強者と美女・美少女は百代にとって大好物だ。その両方を兼ね備えていると言うのだから、彼女に興奮を押さえろと言うのが無理らしからぬことだろう。
 けれど、目的のお姉さんには礼を失してしまった。
 此処は即座に謝罪をして、如何にか要望を叶えてもらうように頼み込もうと考えて振り向く。

 「・・・・・・は?」

 しかしながら、そこには誰も居ない。
 少なくとも百代の視力で捉える事の出来る範囲のは見当たらないどころか、そこに先ほどまでに本当に居たのか怪しいほどに気配も無かった。

 「撒いたか」

 当のスカサハは、百代の闘気に気が付き面倒だと感じたので、あの場から勢いよく去ったのだ。

 「さて、次は何所に行くか」

 百代の気などお構いなしに、スカサハはまた適当に散策し始めた。


 -Interlude-


 此処は七浜の埋め立て地にある九鬼財閥極東本部。
 その近くにスカサハは来ていた。
 彼女は近くの別の建物を背に寄り掛かり、口元に笑みを浮かべていた。

 「始めよう」

 そう言った瞬間に、莫大な殺気をある一点に放った。
 スカサハの殺気は、九鬼財閥極東本部内で昼間から珍しくいる九鬼帝に当てられた。
 正確には彼のいる辺りだ。
 一点集中的にスカサハの殺気を当てようものなら、余りの衝撃に心肺停止しかねないからだ。

 「むおっ!?」

 とは言え、それでもあの影の国の女王の殺気だ。
 世界中を飛び回る百戦錬磨の総帥でも、相当な衝撃からの奇襲に驚きの声を上げた。
 そしてその部屋の外には九鬼家従者部隊の重鎮である、ヒュームとクラウディオがいた。

 「これはっ!?」
 「っ!?クラウディオ、帝様を見ていろ」
 「ヒューム1人で大丈夫ですか?」
 「愚問だな。この俺を誰だと思っている」

 クラウディオの答えも聞かずに、一瞬で外に出てから自分達に殺気を放った曲者を探す。
 殺気の残り香を辿っていくと、九鬼財閥極東本部の敷地外である雑居ビルに1人の女――――スカサハを見つけた。

 「・・・・・・・・・・・・」

 ヒュームの目から見てもそれは年若い娘に見えたが、他の追随を許さぬと言わんばかりの美貌に目を剥き見惚れた。
 しかし、借りにもヒュームは武道の世界において現最強。
 肉体面は全盛期に比べて衰えたが、どれだけ才能の高い現武道四天王達を寄せ付けない不屈の精神面がある。
 それ故に、スカサハに見惚れていた時間は刹那よりも僅かな時だった。
 そんな一瞬の出来事だと言うのに、スカサハはヒュームの心を見透かしたかのように笑う。

 「フフ」
 「何が可笑しい?」
 「自分で判っているだろうに。なぁ、ヒューム・ヘルシング」

 口元に僅かな笑みを残したまま、ヒュームを馬鹿にするように言葉を選ぶ。

 「小娘の分際で、俺を呼び捨てにするか」
 「その小娘に刹那以下でも見惚れていたのは、何所の老いぼれだ?」
 「フンッ!」

 スカサハの挑発に、沸点の低いヒュームは躊躇いなく急所を狙った蹴り技を入れた。
 それをスカサハは余裕で避ける。
 避けられたとしても間髪エグイ連撃入れていく。
 しかしそれすらも全て最低限の動作で躱していく。
 その行為を2分ほど続けていた両者だが、攻撃していたヒュームが止まった事で戦闘が収まった。

 「貴様、何のつもりだ?」
 「何のとは?」
 「惚けるな。帝様を含む俺達に殺気をぶつけておいて、貴様からはまるでやる気を感じ取れん」
 「ほう?」 

 決して馬鹿にしているワケでは無いのだろうが、スカサハはヒュームの観察能力を評価する。
 ただ永年生きて来たので、如何しても上から目線になってしまうが。
 そしてその上から目線に気付いたヒュームは、額に青筋を浮き上がらせるものの、なんとか耐える。

 「・・・・・・それで?貴様は何の様なのだ。無論、此処が九鬼財閥極東本部だと知っての事なのだろう」
 「・・・・・・ふむ。私は一応、藤村組の関係者と言う事に成っている」
 「何?」
 「それでな、その内呼び出しをするから問答無用で来いと言っておったな」
 「・・・・・・・・・・・・」

 スカサハの言葉にヒュームが黙る。
 スカサハは誰が誰をとは言わなかった。言うまでも無いと言う事だ。

 「伝えるのは何時でもいいと言われてたからな。気晴らしに此処まで立ち寄ったから、伝えに来たまでよ」
 「その割には無駄が多いな。少なくとも、殺気を当てる必要性が無いだろう」
 「必要はないが理由ならあるぞ?藤村組のメッセンジャーと名乗ればお前たちは殺気立つも、それなりの重鎮が出て来るだろう。その待たされてるの時間が嫌だった」
 「どこぞの餓鬼だ?」
 「ついでに悪戯心が湧いて、ついな。許せ」
 「貴様・・・!」

 ふてぶてしく謝るスカサハの態度に、またもやヒュームは額に以下略。
 自業自得なのだが、このままでは戦闘が始まるので、音も無く言葉だけ残してその場を去った。

 『最後に、先程は老いぼれと言って悪かったな。お前も雷画も私から見れば、まだまだ十分若造(・・)だ』
 「・・・・・・・・・・・・俺と雷画の奴を若造と評するあの娘――――いや、あの女は・・・・一体何者だ?」

 ヒュームは疑問を感じながら、スカサハが去って行った方へ呟くのだった。


 -Interlude-


 百代は百人組手を終えて廊下を歩いていた。
 普段なら楽しかった気分の感傷に浸っている所だったが、今日はそうは往かなかった。
 あの土手で百代に遅れて全員復帰した後、百代がどれだけ主張しても余り水分補給を怠っていたので軽い熱中症状により白昼夢を見ていたんじゃないか、と結論付けられてしまったのだ。

 「確かに居たのにな~。これじゃあ新学期前に遭遇した体験と変わらないじゃないか・・・」

 百代が誰もいない時はよく独り言を言うが、鬱憤が溜まっているのか、今日は誰が聞いているとも判らない川神院の廊下でするだけあって重傷だった。
 夜に島津寮へ行くので、道着から私服へ着替える為に自室に戻る途中で、鉄心の部屋の前を横切った時だ。

 「っ!?」

 本当に僅かな隙間からだったが見えたのだ。
 将棋盤を挿んで鉄心と向かい合っていたのが、白昼夢で片づけられた絶世美貌美女だと。

 (今度という今度は逃がさん!)

 最早意地になっていた百代は礼を失するなど知った事では無いのか、勢いよく鉄心の部屋の襖を開いた。

 「なっ!」

 しかし開けた先には、プロの過去の棋譜が載った将棋本を開いて横に置いたまま、鉄心が1人で将棋の勉強をしているのかの様な光景だった。
 百代が見た時は確かに向かい側に座布団の上に座った標的が居たのに、座布団まで無くなっていた。

 「なんじゃモモ、その顔は?と言うか襖とは言え、枠でもいいからノックくらいせん――――」
 「そんな事は如何でもいい!それよりも爺ぃ、今此処に誰かいただろう!?」
 「誰とは誰じゃ?さっきからずっと、儂しか()らんかったぞい?」
 「う、嘘だ!そうやって皆で私を変なモノ扱いする気だな!?」

 最早正気では無いのか、意味の分からない事を口走る孫に鉄心はため息をつく。

 「よく解らんが、混乱しているのなら頭を冷やすんじゃな」
 「っ!分かったよ!」

 鉄心の言葉に怒りがさらに高まったのか、やけくそ気味に襖を思い切り閉める。
 勿論、百代が力いっぱい占めれば襖が壊れるので、気による操作で衝撃を可能な限りに弱めて破壊されるのを防ぐ。
 鉄心からすれば何時もの事なので慣れたモノだった。
 そんな百代を見送った後にまたも鉄心はため息をつく。
 百代の指摘は正しく、確かに先程までそこに居た。
 士郎の魔術師の師と言う事でそれなりに歓迎したが、正直鉄心が今日まで生きてきた誰よりも以上に心が読めない人物だった。
 そのおかげで、将棋では八方ふさがりの王手を掛けられて苦悩していたのだが、そんな処で百代が入って来たので、ある意味グッドタイミングだった。
 襖を開ける前に姿を見られたスカサハは、面倒だと言う理由から今日はもう帰ると言って後片付けをした上で、百代の視界に入っているにも拘らず、彼女に気付かせないレベルの気配殺しの歩法を使って帰って行ったのだ。

 「兎も角トンデモナイ相手じゃったな」

 その言葉が、ある意味では鉄心のスカサハへの初見の評価だった。

 因みに、スカサハは帰宅してから士郎に聞いたのだが、自分の容姿に酷似した幻想の様な魔法の様な美女(魔女)が川神各地に出現したと話題になっていたのを聞いて、流石に反省した。
 その理由からスカサハは今、認識阻害のブローチの作成を始めた様だった。 
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