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ぼくだけの師匠

作者:櫻木可憐
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第1章~ぼくらを繋ぐ副作用~
  03.バイクに乗る

「でね、ぼくを落としたんだよ。ひどくない?」

菊地原が話しかけているのは同い年で同じくC級の歌川遼。
愚痴に対して嫌がりもせずに話を聞く歌川は偉いと思う。
商店街を歩きながら昨日の如月の自宅で起きた話を、菊地原は歌川に聞かせる。
人でなしと言ったところはさりげなく省かれている。

「いいんじゃないか?オペレーター視点から意見も貰えて。まぁ、落としたのはどうかと思うが」

「そこまで言うなら、やってみれば?モールモッド5分間耐久試練」

「遠慮する」

歌川は即答で危機を回避した。
そんな時、菊地原は商店街にいる女子集団に目が行った。
好みの女子がいたからではない。
会話が気になったのだ。
お年頃の男子としては、好みの女子を見つけた方が健全ではないだろうか。

「さっきバイクに乗った美形な人がいたのよ。
あんなイケメンとデートしたいわ。
バイクで二人乗りに夕日なんて最高よ」

「ちょーありがち妄想。つかそのイケメンどこにいるんだよ・・・
それも妄想?」

「長い髪をなびかせてキリッとした顔をしてたのよ。
何してるんですかって聞いたら人を待ってるって。
彼女持ちだわ!!」

歌川は菊地原が聞き耳をたてていることに気付き、その話を聞いてしまった。
はしたないと気付き、一人で恥ずかしくなる。
菊地原は下を向いて足を止めてしまった。
何か考えているように歌川には見えた。

「そういえば、如月さん、迎えに来てるんじゃないか?」

「・・・うん。そうだと思う」

菊地原は嫌な予感をさせながら、足を動かし始めた。
待ち合わせ場所には、長い髪をなびかせたバイクを持つ人が立っている。
女子の話題の的にされているなど気にもしてない。
菊地原たちに気づくとその人物は手を振ってきた。
女子たちが一斉にこちらを向くのが、二人には怖くて仕方なかった。

「迎えに来たぜ、菊地原。
お前は・・・歌川遼か。如月だ、よろしく。」

「よろしくお願いします。
その・・・あのバイクは如月さんのバイクですか」

歌川はおそるおそる如月に聞いた。
女子集団の視線が痛いのを耐えながら。
如月はバイクを見て自慢げに言う。

「あぁこれか。趣味でな。
バイクでよく遠出するんだ。菊地原を乗せようと思って」

菊地原は遠慮できるなら全力で遠慮しようと決めた。
女子集団の視線の中、男性にしかみえない女性のバイクに乗る勇気はなかった。
歌川もそれを感じたのか、反応が曖昧になる。
この状況で無事に済むボーダー隊員は風間くらいだろう。

「ぼく、歩くから。」

「遠慮しなくていい。乗れ」

「してない。全力で嫌がる。気づかないの?」

「何をだ」

「・・・」

こうなったら仕方がない。
菊地原はここで断り続け視線を耐えしのぐより、乗ってしまい視線から逃げることにした。
如月の後ろに乗り、腰回りに腕をまわして菊地原は実感した。
相手は女性なのだと。
女子集団の視線より女性にバイクを操作させる恥ずかしさの中、菊地原は思った。
いつか、自分が如月をバイクに乗せようと。 
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