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その手で引き金を引け!!

作者:櫻木可憐
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第八章 再会
  第四話 タイムリミットまで

湯気で眼鏡が曇る。
前が見えないから眼鏡を拭いてみた。
私がいつも飲むブラックコーヒーが私の視界を遮る。
風間さんもブラックコーヒーを眺めたまま停止する。
誰も何も話さないまま時間は経過する。
誰かが話し出すのではなく自分が、という考えにたどり着いたのか、口を開いたのはみんなだった。
重なった声に動揺しなかったのはユウと風間さんぐらい。

「で、可憐が城戸さんらの前でしなかった詳しい話を聞かせてくれ」

「もとよりそのつもりだ」

風間さんに話を任せ、私はブラックコーヒーを眺めた。
心に抱えた複雑な心境とブラックコーヒーを照らし合わせる。
一致しそうで一致しない。
風間さんが話し終えると、ユウはうなだれた頭をあげた。

「『今回』・・・か。
可憐、本当にわからなかったのか?」

いきなり話しかけられて私は、驚きと戸惑いが隠せなかった。
ユウに話しかけられたことの戸惑いが上をいく。
自分が思う以上にユウはいないという感情が強かったのだ。

「し、知らない」

「・・・・・・同じ時を繰り返しているってことだ」

「なるほど。例の魔法使いというやつか。
如月が魔法によってこの世界に来たなら、敵には最低一人魔法使いがいることになる。」

風間さんはやはり高性能だ。
私なんかより頭がよくて役にたつ人。
小柄なのは私も同じなのに、高性能ではないのが辛い。

「同じ時を繰り返しているなら俺達がどうなるか知っていると言うことか。
いや、計画が失敗してもやり直せる訳か。」

「もし、敵を叩くならタイムリミットは時間が巻き戻されるまでだ。」

「それ、ずいぶん曖昧だね」

「わからないタイムリミットか。」

私だけ口を開けずにいた。
声を出すことへの恐怖心など初めてだった。
いじめられる、捨てられることはよくあった。
こんな性格で暴力癖なら当たり前な話だ。
しかし、その時はそんなに恐怖心はなかった。最近はよく恐怖に襲われる。
理由は理解できなかった。

「敵を叩くのはいいが、可憐、聞きたいことがある。」

そう言われたら答えない訳にはいかない。
私は冷たい目でユウを見つめた。

「育った世界に帰れる保証はないぞ?」

愚問だった。ユウなら知っているはずだ。私の回答を。
でもユウはあえて聞いた。私にとっての彼との差だった。

「それでも叩くわ。この世界、嫌いじゃないし。
生まれた世界にいて何が悪いのかしら。今更帰っても意味ないわ。」

そう、彼のいない世界なんて無意味だ。
いや、世界にいることが無意味なのだ。

「そうか、わかった。
・・・アフトクラトルの遠征挺のデータから調べて当てはまりそうな国があるのさ。
ちょうど今近くにあって、魔法使いが居そうで、黒トリガーを最低1つはある国。
しかもその国は人手不足らしい」

「人手不足?」

「あぁ、戦えて指揮のできる戦闘員がいないとか。」

私は声をあげていた。誰かに止められた気もするが、気にしてられなかった。

「ちょっと、それって風間さん達はその戦力のために巻き込まれたと言うの!?
酷くない!?」

「敵に言えよ。俺は推測を言ったんだ。
わざわざ魂の共有者を分けたのは、そういうメリットがあるからだ。
自分に都合のいい性格の戦闘員を作れるからな。
指揮官で命令忠実な戦闘員を」

私たちは風間さんを見た。
小柄かつ高性能な風間さんなら敵に狙われても不思議じゃない。
菊地原はクセがあるから扱いにくいし、歌川は戦闘員としては風間さんに劣る。

「ムカつくわ!!潰してやる!!
あら?そうなると遠征にいくの?
シナリオ上、今いくのはまずくない?
最低限、今から一週間で帰らないと。」

「上が許可を下ろせば少人数で制圧できる規模だ。
最低でも上が許可を下ろせば、だがな。
上からしたら遠征に出るメリットはない。しかし、その国のトリガーまるごとと引き換えればいい。」

「悪いやつ・・・取引をするわけね?」

ひどい話だ。
奪えるかわからないトリガーを取引に使用しようとするなんて・・・
失敗したらただのバカじゃないか。
それを理解していてやるなら尚更バカだ。

「ぼくもいくよ。巻き込んだやつらの顔を上から眺めたいし」

「城戸司令官の説得は俺がする。急ぐなら、出発は明日だな。
歌川はどうする」

「当然行きます。風間隊は揃って風間隊ですから。
だろ、菊地原」

菊地原の面倒くさそうな生返事に、風間さんの真顔。歌川は爽やかに押し通す。
三人して行く気満々だ。
まだ誰も説得をしていないんだが。
私は仕方なく作戦室をあとにした。
方針が決まればやることは一つだ。 
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