懐かしい校舎
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2部分:第二章
第二章
「それで皆に連絡してみたら結構集まったな」
「まあな。暇だったしな」
「俺もな」
「私もそうだったし」
皆それぞれ言う。
「それに懐かしのキャンバスに皆で集まるのもな」
「いい感じよな」
「それもそうよね」
「だよな」
そんな話をしているとだった。ここでだ。
「あれ、結構いるな」
「あっ、先生」
「来てくれたんですか」
薄い紺のスーツとブラウンのネクタイで髪が少し赤い初老の人が部屋に入って来た。顔は若々しいが髪の毛は薄い。その人だった。
「あっ、先生お久し振りです」
「何か変わってませんね」
「それも全然」
「おいおい、変わってないのか」
先生と呼ばれたこの人はみんなの言葉に笑って返した。微笑みは若々しい。しかしそれでも何処か年齢を感じさせる深さがそこにはあった。
「結構歳取ったんだがな」
「杉岡先生は変わらないですよ」
「ええ、本当に」
「髪の毛の量も」
「それは喜ぶべきことか?」
その杉岡先生は髪の毛の話に対しては微妙な顔になった。
「髪の量が変わらないのは」
「なくなるよりましなんじゃ」
「ねえ」
「それよりは」
これがかつての生徒達の言葉だった。
「先生の歳になったら後は減るだけですし」
「俺なんかも結構きてるし」
「おいおい、そういえば張本御前の頭は」
先生はその張本と呼んだ彼の頭を見て言う。言いながら生徒達のところに来てだ。そうしてそのうえで彼に対してさらに言うのだった。
「また随分と変わったな」
「去年から急に減ったんですよ」
見れば頭の上の部分の髪がかなり少ない。一目でわかるまでにだ。
「もうね。本当に急に」
「人によっては急に来るからな」
先生は彼の言葉にしみじみと話した。話しながら生徒達の少し前に立ってそのうえで話している。何処となく教師のポジションである。
「髪の毛はな」
「実感しました」
張本はしみじみとした言葉で返した。
「俺はないって思ったんですけれど」
「誰でもそう思うんだよ」
先生の言葉もしみじみとしたものだった。
「若い時はな」
「そうなんですか」
「髪の毛は怖いぞ」
先生はまた言った。
「覚悟を決めるまでが大変だ」
「よくわかりましたよ、本当に」
「しかし。皆変わった奴は変わったよな」
「奈津美ちゃんなんか美人になったし」
「そう?」
奈津美と呼ばれた切れ長の目の美女がそれに返した。
「私は特には」
「いやいや、美人になったよ」
「そうよね」
「高校の時なんかショートで日焼けして男の子みたいだったのに」
今は色白でロングヘアにしている。唇も紅で鼻も高い。女優といっても通用する位の顔立ちである。それが今の彼女であるというのだ。
「それが全然ね」
「違うし」
「何処をどう変わったのって」
「まあ旦那のリクエストに応えてるけれど」
彼女は少し考える顔になってから述べた。
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