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真田十勇士

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巻ノ二十五 小田原城その五

「噂通りじゃな」
「はい、非常にですな」
「優れた御仁ですな」
「識見がありまする」
「そして家臣達の心を掴んでいる」
「まだ若いですが」
「それでも」
「うむ、あの御仁はな」
 幸村はというと。
「まさに天下の傑物じゃ」
「では敵に回せば」
「その時はですな」
「北条にとっても厄介な敵になる」
「そうなりますな」
「やはり真田家とは揉めるべきではない」
 また言ったのだった。
「小さい家じゃがな」
「強い」
「だからですな」
「人は数も大事じゃが」
「質も大事」
「それ故にですな」
「あの御仁にそして家臣の者達」
 その十人の家臣達についてもだ、幸村は話した。
「敵に回すべきではない」
「決して、ですな」
「では殿にも申し上げますか」
「あらためて」
「そうしよう、そしてじゃ」
 風魔は周りの者達にさらに言った。
「これからな」
「棟梁ご自身がですな」
「あの御仁に会われ」
「お話をされますか」
「考えていた通りな」
 まさにと言ってだ、実際にだ。
 風魔は小田原の街に旅の浪人の姿で出てだった、そのうえで。
 幸村達が旅の銭を稼ぐ為にそれぞれ別れ芸をはじめてだ。幸村が講釈をしている時に来て水滸伝の武松の話をしている彼が休憩で店で茶を飲んでいる時に横に来て声をかけた。
「ふむ。これは」
「これはといいますと」
「面白い話ですな」
「水滸伝の話ですが」
「明の書ですか」
「はい、これが極めて面白く」
 それで、というのだ、
「講釈の題材にさせてもらっています」
「左様ですか」
「水滸伝の話は他にもありますが」
「どうも武勇と侠気を併せ持った者が戦う話に思えますが」
「そうです、百八の好漢達が悪者達と戦い」
 幸村は風魔、浪人の姿をしている彼にさらに話した。
「やがて一つになり宋を乱す内外の敵と戦うのです」
「そうした物語ですか」
「そうです、それが面白いのならです」
「貴殿にとってもですな」
「有り難いことです」
「そうですか。しかし」
 ここでだ、風魔は幸村にあえてこう言った。
「貴殿は銭は殆ど取っていませんな」
「この講釈によって」
「極めて安いですが」
「銭は旅に必要なだけあればいいので」
 幸村は風魔にあっさりとした口調で答えた。
「ですから」
「だからですか」
「はい、最低限なだけです」
「小銭を貰えればいいと」
「そう思っていまして」
 だからこそ、というのだ。 
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