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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第1章:平穏にさよなら
  第24話「それから」

 
前書き
もっと投稿スピードを上げたいんですが、これ以上早く書けないというジレンマ...。
一日から三日で一話あげている人達ってつくづく凄いと思います。
 

 


       =優輝side=



「....お疲れ様。」

「あれ?神咲さん?」

  魔力が回復したので、かやのひめを連れてアースラの転送ポートに転移すると、神咲さんが出迎えてくれた。ちなみに久遠も一緒にいた。

「結局私、なにもできなかったからせめてお出迎えをね?」

「なるほど。」

  そう言いつつ、とりあえず管制室に向かう僕らについてくる。

「...貴女、退魔士なんだから、何か術が使えるんじゃないの?」

「えっ...?...あっ!治療の術が使えたんでした!」

「忘れてたんですか!?」

  この人、今更だけど結構ドジだ!?

「....まぁ、神咲さんは久遠と一緒にいるだけで精神的な癒しになってたらしいけど...。」

「...えっ?」

  やっぱり自覚なしだったか...。ちなみに癒し云々は食堂で他の局員が話していたのをチラッと聞いただけだ。...まぁ、いるだけで癒しになる人って結構いるしな。

「....これで、終わったんだよね?」

「そのはずですよ。」

「....あの子の仇も....。」

「...そうですね。」

  神咲さんも、薔薇姫さんの事を引きずっていたらしい。...と言っても、あの場にいた全員が引きずっているんだけどね。

「そう言えば、緋雪は見ませんでしたか?」

「緋雪ちゃん?...そう言えば、先に行って優輝君を待ってる的な事を言ってたけど...。」

「そうなんですか。なら、早く行きませんとね。」

  そう言って少し歩くのを速くする。体力が減ってるから無理はできないけど。





「あ、やっと来た。お兄ちゃ~ん!」

  管制室の前に緋雪が立っていた。隣には司さんもいる。

「戦闘、お疲れ様。優輝君。」

「司さんこそ。緋雪も、お疲れ様。」

「えへへ...♪さすがに疲れたよー。」

  労りの言葉と共に緋雪の頭を撫でると、なんかすっごい嬉しそうな声を上げた。
  ...僕ってそんな撫でるの上手いっけ?まぁ、どうでもいいか。

「むぅ.....。(いいなぁ...。)」

「.....あの、かやのひめさん?」

  かやのひめが何か不満そうにしてるのに、司さんが聞く。

「っ、な、なんでもないわ。」

「(もしかして...?)」

  おもむろにかやのひめの頭も撫でてみる。

「......♪...って、何するのよ!?」

「いや、緋雪みたいに撫でてほしいのかなって...。」

「ち、違うわよ!」

  その割にはすっごい量の花が出現したんだけど...。ここ、お花畑?ってレベルで。

「.....君達は戦闘の後だというのに随分と元気だな...。」

「あ、クロノ。」

  管制室からクロノが出てきてそう言う。

「....君達も医務室に向かってくれ。無傷ではないだろう?」

「もう治っちゃった。」

「すいません、治癒魔法で既に治してます。」

「私もです。」

  クロノの指示に緋雪、僕と答える。かやのひめさんもボロボロだったけど既に治ってる。
  ずっと僕の治療魔法を掛け続けてたからね。

「はぁ...じゃあ、適当な客室で休んでいてくれ。」

「分かった。行くよー。」

「はーい。」

「あ、私もついて行くね。」

  まぁ、管制室にいても何もする事ないよな。と言う訳なので、皆で移動する。
  神咲さんもついてくるようだ。

「ところでお兄ちゃん、いつの間にかやのひめさんを呼び捨てにするようになったの?」

「えっ?」

「あれっ?そうなの?」

  客室に入り、寛ぎ始めた所で、いきなり緋雪が僕にそう聞いてくる。司さんも知らなかったみたいだけど...いつ呼び捨てにしてるって気づいたんだ?アースラに戻ってからはかやのひめの名前を呼んでなかったはずだけど。

「戦闘中の念話でふと気になったの。ねぇ、どうして?」

「戦闘中...あぁ、あれか。...どうしてって言われても...なぁ?」

「...って、なんでそこで私に振るのよ!?」

  全員の視線がかやのひめに向く。...って、神咲さんも気になってるんだ。

「....べ、別に、私の主なんだから、いつまでも他人行儀な呼び方は嫌だっただけよ。...そ、それだけだから!それだけだからね!他に理由なんてないから!」

「あー....(察し)。」

  あ、緋雪は何となく分かってしまったらしい。そう言えば、明確な理由は僕も知らないな。

「...っと、そうだわ。緋雪、貴女もずっと敬称を付けてるけど、別にいいわよ。あ、後司、貴女もよ。」

「あれ?いいの?」

「...むしろ、あなた達兄妹が遠慮しすぎてるのよ。他の人達は呼び捨てだったわよ。馴れ馴れしいくらい。....一部子ども扱いしてきたけど...。」

  子ども扱い....リンディ艦長辺りかな?

「うーん...でも、見た目的にも年齢的にも年上だから、さん付けははずせないかなぁ...。遠慮と言うか、自然とそう呼んでしまうって言うか...。司さんも同じ感じでさん付けのままだし。」

「そう...なら、仕方ないわね。」

  さすがに強要はしないようでかやのひめは引き下がる。

「...私は呼び捨てはともかく、ちゃん付けに変えようかな?...ところで、この後はどうするつもりなの?魔法に関わるのかとか、そう言う分野で。」

「魔法...魔法かぁ....。」

  正直、僕はどっちでもいいとは思うが、両親が魔法関係に巻き込まれた可能性が高くなったからなぁ...。

「...私の場合、余計に今まで通りにはいかないわね。ロストロギアとやらがあの勾玉と融合してしまったし、あれは私にとって大事な物だし....。....薔薇姫は、殺されてしまったし...。」

  段々と、声が暗くなるかやのひめ。やばい..!話題切り替えた方が...!

「....っ、いつまでも引きずってられないわ。...とにかく、新しい主ができた事だから、拠点が優輝基準になるわね。」

「(自力で割り切ったか...。)僕基準って...家に住むのか?」

  客間でもある和室が空いてるから部屋は大丈夫だけど...。

「っ...と、特別よ!....一人は、寂しいもの...。」

「.....そうだな。」

  一人...前世の時の僕がそうだったな...。確かに、一人は寂しい。今世で緋雪がいるからこそ、余計にそう思うようになったしな...。

「僕は...両親の事もあるから、関わっていくかな。まぁ、最低でも高校を卒業するまで管理局に入るつもりはないけど。」

  ちなみに、模擬戦での僕らの魔導師ランクは暫定で緋雪と僕共にAAAランクだったらしく、戦いに赴く前に管理局に勧誘されたりもした。...断ったけど。

「お兄ちゃんがそうなら、私もそうなるかな。」

「私は....退魔士の仕事があるから...。」

  神咲さんはしょうがないと思うなぁ...。一応、今回の事件は完全に巻き込まれただけの一般人って感じだったし。

「....まぁ、クロノ君からそう言う話が持ち出されるだろうし、その時にちゃんと言えばいいと思うよ。神咲さんも、さすがに無理して関わる事もありませんし...。」

「そう...だね。」

  司さんの言葉に何か思う所があるらしいが頷く神咲さん。

『ちょっといいか?事件の事をまとめるために一度会議室に集まってもらいたい。』

「あ、はい。分かりました。」

  クロノに呼び出されたので、皆で会議室に向かった。





  ...まぁ、そこでした事は大した事はなかった。所謂、カタストロフがどういう魔導師たちだっただとか、これからのカタストロフの処遇を言われたりしただけだ。...ま、報告的な意味合いが大きかったかな。
  ちなみに、あの戦いで王牙だけ負けて気絶していたらしい。...あんだけ威勢よく攻撃したのにあっさり...。まぁ、気絶だけで済んだ分、悪運は強いらしい。

「....それで、僕らだけ別の話があるとは?」

  そして、会議が終わって僕と緋雪とかやのひめと神咲さんと久遠だけが艦長室に呼ばれ、別の事で話があるらしい。

「...大体予想してると思うが、これからについてだ。司から一応聞いたが、神咲さんはこのまま元の生活に、優輝と緋雪は関わりはするが管理局に入るつもりはなし。かやのひめは一応優輝と緋雪に追従する感じらしいな。」

「まぁ...一応そうです。」

  ちなみに久遠は神咲さんと一緒に数えられてるらしい。

「...私としては管理局に入って欲しかったのだけれどね...。それと、神咲さんやかやのひめさんの力、そして久遠さんの力については、深く話し合った結果、上層部に伝えない方がいいと判断したわ。」

「...祟りなどというモノがある以上、下手に手を出さない方がよさそうだからな。」

「あはは....間違ってませんけど...。」

  霊力という魔力とは別の力。管理局としては伝えたかったのだろうが、下手に藪をつついて蛇を出したくなかったのだろうな。...互いに秘匿にするべき事柄だしな。

「それと、優輝たちの両親の事だが...。さすがにこの数日だけでは何も分かっていない。一応捜索願いは出しておいたがな。」

「でしょうね...。次元世界って管理外だけでも97個以上ありますからね...。」

「むしろ、何か分かっていたら奇跡だからな...。」

  さすがにこればかりは気長に待つしかない。魔法が絡んでいる可能性があると分かっただけでも儲け物だと思わないと。

「...そこで、だ。管理局に入るつもりはなく、関わるつもりではあり、こちらとしても手軽に連絡を取れるようにしたい。...と言う事で、嘱託魔導師にならないか?」

「嘱託魔導師...ですか。」

  確か、管理局に協力する民間魔導師...だったか?一応、協力を申請された時、場合によっては拒否もできるらしいっていう。

「あぁ。嘱託魔導師になるための魔導師としての資料もこの前の模擬戦で十分だし、この話が終わった後にでも申請できる。」

「むぅ.....。」

  デメリットは特になさそうだし、魔法に関わる立場としてはこれ以上にない手頃な立場だ...。緋雪も特に不満はなさそうだし...。

「...じゃあ、嘱託魔導師になります。」

「そうか。なら、後で申請しておくよ。」

  リンディさんもそれで満足らしい。

「...それで、最後にかやのひめが持っている勾玉の件だが...。」

「何か分かったんですか?」

  ちなみにその勾玉、危険性を最優先に調べて危険性がなかったため、ずっとかやのひめが持っている。...そう言えば、この勾玉と融合したロストロギアが発端だったな...。

「フュージョンシードの効果だが...一応は分かった。」

「...どんな効果だったんですか?」

「非常に限定された効果なんだが...“融合した物体をユニゾンデバイスに変質させる”という効果らしい。」

「ユニゾンデバイス..ですか。」

  本当に限定された効果だな。

「ああ。管理局でも珍しいとされるユニゾンデバイス...まぁ、管制人格となるものがないと機能しないから、結局は無意味な融合だったがな。」

  何かしらの生命体と融合して初めて効果を発揮するって訳か。

「だから、既にそれはロストロギアではない。...と言う事で今まで通りかやのひめが持っていてもいいという事だ。今までずっと身に付けていたからな。その方がいいだろう。」

「...そうね。私としても、その方がいいわ。」

  思い出の塊でもあるからな。

「それと、これも一応返しておこう...。」

「これは....薔薇姫の...。」

  渡されたのは折れたレイピアの柄の方。刃先の方はかやのひめ曰く、クルーアルに放った一撃で霊力を込めすぎたせいか消失したらしい。

「ああ。僕達が預かるより、かやのひめに持ってもらう方が、君を庇った薔薇姫としても、浮かばれるだろう?」

「....ありがとう。」

  胸に抱きこむように受け取るかやのひめ。いくつか花が出現するが、さすがに誰もそれを指摘したりはしない。

「困った事、その他諸々で相談したい時は遠慮なくしてほしい。...こちらとしては、巻き込んだだけだからな。では、僕が送ろう。転送先は臨海公園だが...そこでいいか?」

「あ、そこでいいです。」

  クロノに送ってもらい、僕達はアースラを後にする。





「じゃあ、いざという時は遠慮せず頼ってくれ。」

「ありがとう。...魔法が関係ない時でも、クロノやユーノとは友人として交流したい所だ。」

  ちなみに、ユーノともあの数日間で仲良くなっている。...主に高町さん辺りのハチャメチャっぷりの愚痴を聞く感じだったけど。

「僕もだ。久しぶりに気の合う友人に恵まれたからな。」

「...じゃ、またいつか。」

「ああ。またいつか。」

  握手をしてクロノは去っていく。...他の皆空気状態だったな...。

「お兄ちゃん、そういえば特に仲のいい男友達っていないよね。」

「うぐっ....!?」

  緋雪....!そう言う心を抉る発言はやめてくれ...!
  い、一応話をする程度の男友達なら結構いるから...!...特に仲のいい友達なんて司さんしかいないけどさ....。

「じゃあ、私はさざなみ寮に帰るね。多分、また神社とか翠屋で会うかもしれないけど。」

「あはは...そうですね。では、またいつか。」

「うん。またいつかね。」

  神咲さんも久遠を抱えて帰っていく。

「....じゃあ、僕らも帰るか。かやのひめに家を紹介しないといけないし。」

「そうだね。」

「...これからよろしく頼むわね...。」

  照れ臭そうに言うかやのひめ。そんなかやのひめに苦笑いしつつ、僕らも帰路に就いた。





「ここが優輝たちの家....。」

「そうだよ。まぁ、とりあえず入って。」

  かやのひめを家に招き入れる。

「そういえば、洋風の家の構造って分かる?」

「...分かる訳ないでしょ...。まぁ、慣れていくつもりよ。」

「そっか。とりあえず追々教えて行くよ。」

  まずリビングに案内する。一度、ここで休憩するか。戦闘の疲れもあるし。

「...見ない内に、随分と文明も進んだのね...。」

「アースラの設備を見た後じゃ、あまり驚かないと思うけど...。」

「...あれは異世界の文明として見てたからよ。日本だと色々思う所が違うの。」

  そういうものか...。とりあえず、一通り説明する。一応、横文字の家具や設備はできるだけ日本語に直して説明しておく。

「......横文字にも慣れなきゃね。」

「少しずつでいいよ。...で、かやのひめの寝室になる部屋なんだけど...。」

  客間であり和室でもある部屋に案内する。和室とだけあって、和の家具しか置いていない。

「あまり散らかってないから、そのまま使えるよ。そこの押入れに布団も入ってるから。」

「な、なにからなにまで....その、ありがとう...。」

  花一つの出現と共に照れ臭そうにお礼を言うかやのひめ。

「...これからは家族なんだから、当然だろ?」

「足りない物があったら、なんでも言ってね!」

  僕と緋雪で優しくそう言う。すると、かやのひめの目尻に光るものが...。

「っ...!...そ、そう、た、頼りにさせてもらうわ...!」

  咄嗟に手で拭い、そう言い切るかやのひめ。

「...さて、そろそろ夕食の時間だな。」

「かやのひめさんも家に来たことだし、豪勢にしなきゃね!」

  無茶言うなよ緋雪...。第一、ご飯炊いてないし...。

「....うわぁ...あまり食料もないな...。」

  幸い、生鮮食品とかそこらへんの食材はなかったから無駄にはならなかったみたいだ。

「作れるのは...うどんくらいか。」

「明日、買いに行かなきゃね...。」

「緋雪、言っちゃあれだけど、明日は平日...つまり学校なんだよな...。」

「あ....。」

  今日の夕飯と明日の朝食は何とかなるだろう。だけど、このままじゃお弁当がご飯にふりかけをかけるだけのショボイお弁当になってしまう。
  僕はいつもお弁当は手作りオンリーなのでレンジですぐできる食品とかは買ってないんだよなぁ...。

「え、もしかして、いきなり食料の危機なの?」

「いや、一つだけツテが....。」

  ケータイを取り、ある電話番号に電話する。

【もしもし、優輝君かい?】

「士郎さん、すいません。実は魔法関連の事件が解決して家に帰ってきたんですけど、家の食材がちょうど明日の朝食までしかもたなくて...。」

  電話に出たのは士郎さん。まぁ、頼ってくれって言ってたしな。仮とはいえ保護者代わりの人でもあるから、今回だけは頼らせてもらおう。

【ふむふむ...つまり、明日のお弁当をどうにかしてほしいのだね?】

「はい。そう言う事です。あ、それと同居人...家族が一人増えましたので、彼女の様子を見に来てくれると助かります。」

【...少し気になる点があったが...分かった。店で手が空いたら様子を見に行くよ。その増えた家族はずっと家にいるのかい?優輝君は学校に行くみたいだけど...。】

「はい。その通りです。」

  最終手段として明日も休むという手があるけど、休んだ場合外を出歩くのは怪しすぎる。

【じゃあ、朝の登校する前に優輝君の家にお弁当を届けに行くよ。】

「ありがとうございます。学校帰りに食材を買って帰るので、明日の昼だけで十分です。」

【わかった。...もっと頼ってもいいんだよ?】

「...考えておきます。」

  そう言って電話を切る。...いや、悪い人でも話でもないけどさ、ただでさえ店を営んでいるのに必要以上に負担を掛けられないし...。

「....さて、一応問題は解決したから夕食を作るよ。」

「私も手伝うよお兄ちゃん。」

  緋雪と協力してテキパキとうどんを作っていく。
  特に何かある訳でもなくあっさりと完成し、三人で頂く。

「っ...!おいしい....。」

「そりゃよかった。」

「今までちゃんとした日本の料理を食べてなかったもんね。」

  ただの家庭でも作れるうどんなのだが、かやのひめにはそれでも好評だったみたいだ。

「久しぶりよ。うどんを食べたのは。」

「そっか。」

  僕らにしても数日振りの自宅での食事なので、三人揃ってすぐに平らげた。

「ごちそうさま。...お風呂に関しては緋雪に聞いて。着替えは....。」

「あ、着替えはいいわ。霊力で編めば服なんて作れるもの。」

  いざという時は緋雪の服(大き目)を使おうと思ってたけど、省けたならいいや。

「じゃ、僕がお風呂使ったら好きなタイミングで入ってくれ。...僕は風呂に入ったら寝るよ。さすがに、疲れた....。」

  魔力自体は僕より上で、連携も上手い連中と戦ったんだ。疲れて疲れて...正直、風呂に入らずすぐに布団の中に行きたい...。

  そういう訳なので、湯張りが済み次第すぐにお風呂に入って歯磨きをしてから僕は眠った。
  ...あ、ちゃっかり明日の学校の用意は済ませておいたよ?







       =かやのひめside=



「...優輝も相当疲れてたのね...。」

  さっさと自室に行く優輝を見て、私はそう言った。

「私は吸血鬼だからまだ大丈夫...と言うか夜になるからむしろ回復してるけど。」

  私もそこまで疲れてないのよね...。

「さ、私達もお風呂に入ろ?」

「そうね。お風呂なんて久しぶりよ。アースラでは体を洗うだけだったし。」

  人間から隠れて暮らすようになってからは、偶然見つけた温泉に入る以外、清めの術か水浴びで我慢してたのよね。かれこれ二十年ぶりかしら?





「ふぅ....温まるわね。」

「そうだね~。」

  緋雪にお風呂にある物の使い方を教えてもらいながらだったけど、体を洗い終わり、二人で湯船に浸かる。

「.....ねぇ、かやのひめさん。」

「...なにかしら?」

  おもむろに緋雪は私に何かを言おうとする。

「かやのひめさんって、やっぱり、お兄ちゃんの事が好き?」

「え.....な、何言ってるのかしら!?そ、そんな事...!」

  唐突なその質問に、思わず言葉が詰まってしまう私。

「ない...とは言い切れないでしょ?」

「っ...うぅ....。」

  言い切れない...。確かに優輝の事は好きよ!悪い!?

「....別にいいよ。お兄ちゃんの事が好きになってても。」

「だ、だから、そういうのじゃ...。」

  素直になれず、また否定しようと口が動く。

「だけど...あっさり見捨てるとかそういうのだけはやめて。」

「....緋雪?」

  今までのからかうような言い方をやめ、少し俯きながらそう言った緋雪に、私は訝しむ。

「...今の私達には親がいない。だから、全部自分達でなんとかしないといけない。...最近は士郎さんが一応保護者代わりになってくれるけど...。...そんな中、新しい家族としてかやのひめさんは現れた。家族がいなくなった私達にとっても、寂しさを和らげる事になるの...。」

「.......。」

  二人も、私と同じようなものだったのね...。

「両親が死んだだなんて、私は思いたくない。だけど、新しくかやのひめさんが...お姉ちゃんのような人が、家族になった。」

「緋雪....。」

「...また、家族を失うような事にはなって欲しくないから...。」

  家族を失う。...私にはよくわからない事だけど、それでも悲しく、恐い事だって言うのはわかる。緋雪が言った見捨てる...つまり、私からいなくなる場合なんかは、さらに恐いのだろうと、容易に想像できた。

「....ごめんなさい。かやのひめさんが神様だからか、頼りたくなっちゃって...色々と押し留めていた気持ちが溢れちゃった...。」

「.......そうなの...。」

  おもむろに緋雪を少し抱き寄せ、撫でる。

「か、かやのひめさん!?」

「....貴女の寂しさ。私にも伝わってきたわ。...優輝にはこれ以上不安や負担を掛けたくなかったから、ずっと押し留めていたのよね?...今は、そうしなくていいわよ...。」

  二人共、私が薔薇姫を喪った時は私によく気に掛けてくれた。...だから、今度は私が緋雪を慰めなきゃね...。

「...うん....。」

「(優輝も緋雪も、魂は澄んでいる。...けど、その分脆くて不安定なのね...。我慢してるみたいだけど、時々抑えられなくなってる。...私も、いつまでも引きずってられないわね。)」

  甘えるように抱き着いた緋雪を再度撫でながら、私はそう思った。

「ほら、そろそろ上がらないと、のぼせるわよ。」

「あ、そうだね。お姉ちゃん。」

「えっ?」

「....あっ。」

  間違って私を“お姉ちゃん”と呼んでしまった緋雪の顔がみるみる赤くなる。

「ち、違うの!い、今のは学校の女の先生をお母さんって呼んでしまうようなもので...!」

「お、落ち着いて!私にはその例えの意味が分からないわよ!?」

  辛うじて例えを言おうとしてるのは分かったけど。

「...はぁ、今まで様々な人に出会ってきたけれど、私の事を“姉”と呼ぶのはいなかったわよ?」

「だ、だから違うって...。」

「分かってるわ。のぼせるから、早く上がりましょ。」

  緋雪が取り繕うとするのを苦笑いで見つつ、私達はお風呂から上がった。





「...うぅ...恥掻いた...。」

「当事者の私以外聞いてないんだからいいでしょ。」

  お風呂から上がって、居間で座りながら私達は会話する。

「はぁ....。そういえば、明日士郎さんが来るだろうけど、大丈夫?」

「それは人付き合い的な意味でかしら?」

「いや、それもあるけど....。」

  別に私は人見知りじゃないわよ。

「...まぁ、士郎さん相手ならいざとなれば全部話しちゃってもいっか。」

「....なるほど、秘匿にするべき事を喋ってしまわないかって事ね。」

「うん。でも、士郎さんは魔法の事を知ってるから、大丈夫だよ。」

  私だって喋ってはいけない事ぐらい弁えてるのだけど....。

「...ふあ....さすがに眠いかな....。」

「そうね。私もそろそろ寝ようかしら?」

  緋雪があくびをしたので、会話を切り上げてそれぞれ寝室に向かう。
  ...あ、ちゃんと歯磨きとやらとかもしたわよ?

「布団はここから.....んしょっと...。」

  自分の部屋となった和室の押し入れから布団を出して敷く。

「...布団で寝るのなんて、何十年ぶりかしら...。」

  布団に入りながら私はそう言う。....人里で暮らさなくなって以来、一度も寝てないわね。

「......薔薇姫.....。」

  いつも、寝る時も一緒にいた薔薇姫。でも、今はもういない。

「...薔薇姫。私、新しい家族ができたのよ?...でも、寂しいわ。なんでかしらね....。」

  ポツ、ポツ、と涙が落ちる。やっぱり、親友がいなくなったのは、すぐに割り切れる訳じゃない。...今まで、ずっとそうだった。

「....ふふ...江戸の時まで、ずっと親友だなんて認めなかったのに、今はすっかり認めてるわね...。」

  苦笑い気味にそう言って、今度はさらに涙が溢れてくる。

「....やっぱり、寂しいよぉ.....!」

  きっと、司の精神保護の術がなければ、今すぐにでも私は自殺して幽世に還っていただろう。そこまで、私は寂しかった。
  多分、優輝や緋雪がいても、しばらくは寂しいままだろう....。











   ―――〈...管制人格の覚醒を確認。これより、最適化を開始します。〉

   ―――〈最適化、10%、20%.......100%。〉

   ―――〈最適化完了。管制人格を表面化します。〉

   ―――〈これより“生命融合型ユニゾンデバイス”起動します。〉









「.....ん....。」

  ふかふかな感触に埋もれながら、私は目を覚ます。

「...そっか、私、優輝の家に....。」

  いつもの野宿などと違って寝心地が良かったためか、すっきりとした目覚めだった。

「ん....起きないと....。」

  そう言って私は体を起こして...。

「おはようかやちゃん!」

「......えっ?」

  いきなり挨拶され、その声に思わず振り向く。

「....薔薇...姫.....?」







   ―――...なぜなら、その声の主は、死んだはずの薔薇姫だったから。







 
 

 
後書き
基本的に緋雪は寂しがり屋でもあるんです。かやのひめが草の神と言う訳で、溢れる母性のような何かの雰囲気があり、それによって緋雪は自身の気持ちを吐露した...という感じです。
かやのひめが本当の“家族”として馴染むには、こういう気持ちの打ち明けがないとですね。

...とまぁ、そんなしんみりした話も最後で吹き飛びましたが。
 
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