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いつまでも、平行線

作者:もかちむ
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シグリ家当主のお披露目

 「ここに、ルイーズ・ゾンガルゾア・シグリをアーデルベルト・ホースメン(月の騎士団)のチェントロ・シュヴァリエ(主席騎士)、および第9代シグリ家当主として認める。」

 そう、大広間に響き渡る大きな声で宣言したのはこの屋敷の近くの教会の牧師、ルカ。36歳という若さで近隣の教会の代表牧師として日々動き回っている。

 そして、自分に向けられる好奇と憎悪の瞳をその小さな体で受け止める少女、ルイーズ。今、この宣言によって彼女に課せられた使命は大きい。

 「さあルイーズ、この広間にいる皆さんに一言ご挨拶を。」

 ルカは、この少女が大きな使命を課せられたことを悔やんでいた。まだ彼女は14歳。主席騎士として、当主として、彼女に何ができるのだろうかと。それがこのシグリ家の慣わしだから仕方がないことだと分かっていても、それでも彼はこのことを後悔していた。

 ルイーズもまた、あることを考えていた。どうして叔母様は愛息子のルイを当主にしなかったのかしら。いくら直系の私が継ぐべきであっても、普通あと2年は待ってくれるはずなのに。成人として認められる16歳までは。

 「ルイーズ、さっさとご挨拶なさい。いつまで皆様を待たせているの。」

 声を張り上げた叔母様。

 「さあルイーズ、ご挨拶を。」

 聖書でも読むようにゆっくりと言ったルカ様。

 「とっとと言えよ。」

 そう、目で言葉を伝えるいとこのルイ。

 ルイーズは大きく息を吸って、広間を見渡した。大丈夫、この人たちは私を決して傷つけたりしない。少なくともこの場では。さあ、練習してきたスピーチをしなくちゃ。

 「皆様、本日はわたくしのために集まっていただき、誠にありがとうございます。至らないところも多々あるとは思いますが、アーデルベルト・ホースメンの主席騎士として、そして我がシグリ家の第9代当主として、日々精進して参りたいと思います。本当に、本日はありがとうございました。」

 お辞儀をすれば大きな拍手が降ってくる。一言も噛まなくてよかった。噛んだり、詰まったりしたらあとで叔母様とルイに叱られるのは分かっているもの。ほっと一息をついた瞬間、

 「それでは、本日はこれで解散ということになります。皆さん、ごきげんよう。」

 この場を締めくくった叔母様。きっと、私がこの場の中心でいることが気に食わなかったのだろう。何よりも愛している自分の息子でなく、誰よりも嫌っている自分の姉の娘がこの家の当主になったのだから。そんなことより、ルカ様にご挨拶に行かなくては。ルカ様は私のことを良くしてくれる、優しい人だ。まあ、牧師さんだからなんでしょうけど。

 「ルカ様」

 「なんでしょうか、ルイーズ。あなたのお礼なら、もう数十回は聞いていますよ。」

 ふわりとほほ笑むルイ様は、まるで聖書の中の天使がこの世に舞い降りてきたかのよう。ルカ様は、私が知る中で3番目にかっこいい人だ。2番目は私のお父様で、1番かっこいいのは、、シグリ家の敵だ。決してこれは口に出してはならない。当主として、シグリ家の手本であるべきなのに、敵がかっこいいなんて、言えるわけがない。

 「あ、あのね、ルカ様。お礼もするつもりだったのだけど、あとで、聖書を貸してはいただけませんか。少し、勉強したいことがあるんです。」

 く、口から出まかせが出た。別に聖書を勉強するつもりなんてないけど、何か言わなくちゃあの人の名前を出してしまいそうで。

 「もちろんですよ、ルイーズ。勉強熱心なのはいいことですが、くれぐれも、無理のなさらないように。あなたはまだ若い。こんなところで倒れてはなりませんからね。」

 「心得ております、ルカ様。」

 「それはよかった。それでは、次の日曜日に聖書を持ってまいります。それでもよろしいですか?」

 「はい、お願いします、ルカ様。それでは失礼します。」

 「お気をつけて、ルイーズ。あなたに神のご加護がありますように。」

 ルカは祈りのポーズをルイーズにするとともに、ルイーズの未来を覗き見た。覗き見れたのは一瞬だったが、それはあまりに美しく、儚く、そして残酷なものだった。

 いずれこの少女も、『彼女』と同じ道を歩むことになる。若さ故の過ちを犯し、運命の名のもとに散っていくのだろう。少女は自分の定められた運命に抵抗する。しかしそのささやかな抵抗は運命を覆せない。これが、栄光のシグリ家の第9代当主の生き様となるのか。しかも、自分が何の手助けもできないことがまた、ルカを悔やませる。

 運命の歯車は、動き出したばかり。 
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