リリカルな正義の味方
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9話
スターライトブレイカーを全て遠き理想郷により防いだ彼は、ゆっくりと地上に降り立った。
「アヴァロン?」
「聞いたことない武器だね…」
「でも、あれはなのはさんのスターライトブレイカーを防いだ。それはつまり…」
それだけの力を持つ武装だという事。全員が口には出さなかったが、砲撃魔法を完全に防いだそれに驚愕していた。当然彼の手にはもう無い。そして彼もまた、自身で驚いていた。
「全て遠き理想郷…。今まで完全に投影できたことなど無かったのに…。何か発動の鍵でもあったのか?」
今まで彼が投影した全て遠き理想郷は回復させるか、盾として使うのが精一杯だった。あれほどの強大な力の前では簡単に破壊されて来たのだが、今回彼はその力を完全に発揮させる事に成功した。
「今考えても仕方が無いことだ。まずは…」
そう言って、再度投影した干将莫耶を振り、こちらへと飛んできていた魔力弾を斬る。
「執務官2人をなんとかしなければな。」
未だに戦意が衰えていない2人を見る。フェイトとティアナ。この2人はまだ勝つつもりでいた。
「アイツのアヴァロンは出すのに時間がかかる!アヴァロンを使えない速さでの中距離戦なら!」
「チ…。面倒な。ランスターを先に落とす!」
彼は彼女の動きを先読みし、動くであろう場所に剣を落とす。そうして態勢が崩れると理解した瞬間、その手に持つ干将莫耶を投降する。その剣が弧を描き、彼女を追う。そこにもう一組投影した干将莫耶を投げつけ、更にもう一組投影した干将莫耶で、彼女に接近する。
「鶴翼三連!」
その技が決まる瞬間、横から入ってきた彼女に態勢を崩されることになる。
「何⁉︎」
彼の腹に拳が突き刺さっていた。
「覇王断空拳!」
「がッ‼︎‼︎‼︎」
この一撃が完全に彼に決まった。皆がその一撃を入れたアインハルトを見て驚いたが、突如として倒れた彼女を見て、改めて彼の凄さを知る。彼女の近くに落ちている槍。朱色の槍を見て、飛ばされながらもその槍を投げたのだと理解した。そしてその一撃で彼女を確実に仕留めた。彼は倒れているが、まだ気絶していないのがわかる。何故なら、世界が戻っていないからだ。彼が気絶していれば、世界も戻るだろう。だが、世界は未だ、剣の並ぶ荒野だ。これが、彼が気絶していないことを示している。
と、思っていたのだが、世界は姿を変え、元のように戻った。先程までの場所へと戻っていった。
「世界が…」
「白夜くん?」
彼は倒れたまま動かなかった。しかし、気絶もしていない。すると彼はゆっくりと立ち上がった。
「まさか…魔力切れとはな。やはりオレに魔力は無いようだ。」
彼は両手を上げ、降参の意思を示す。そのまま彼は前に倒れてしまう。しかしその彼の横顔は何かを見つけたようにスッキリしていた。
「ここは…」
オレは先程までいた場所、白い空間にいた。
「どう?答えを知って力を使った感想は?」
「…あぁ。自分で言うのもなんだが、強いと思ったよ。少しだけ…アイツらの強さの理由がわかった気がする。」
なのは、フェイト。お前たちはずっとこうやって戦ってきたんだな。どうりで強いはずだ。何かを成す為の力がこんなにも強いものとは思わなかった。
「ところでお前はどうして此処に居るんだ?さっき別れたはずなんだがな?」
「それはね、答えを見つけた君と話がしたかったの。……もう大丈夫そう?1人でもやっていける?辛くない?辛かったら、しんどかったら言うんだよ?」
「お前はオレの親か。まったく…。確かに、まだオレ自身まだ許せない部分はある。だが…それでも、前に進もうと思うんだ。」
「……」
「そんなに心配そうな顔をするな。オレはきっとまた自己嫌悪に陥るだろうが、必ず立ち上がる。今度こそ理想を違えたりはしないさ。」
「そっか…。じゃあそんな正義の味方にふたつ頼み事があります!」
「頼み事だと?いつも勝手に押し付けていく癖になにを今更…。」
オレはこめかみに指を当て、やれやれという表情をする。
「一つ、最初に謝っておくけど…ごめんね?本当の意味で『私』を解放してほしいの。」
「…?それはどう言う意味…」
「今の『私』は『私』じゃないの。別人なんだ。きっと私は君を襲う。だから君はその私を油断なく、躊躇いなく、『解放』してほしいんだ」
オレは彼女が何を言っているのかわからないという顔をする。当然だ。彼女が言っていることを考えれば、彼女が生きているということに他ならない。だがそれはありえないことだ。何せ、オレは彼女が死んだことを確認した1人なのだから。
「そしてもう一つはね」
そういって彼女はオレの手を握り、オレの目をしっかりと見る。
「ちゃんと幸せになってね?もう私は逝っちゃうけど君が幸せになる事を祈ってる。もし幸せにならなかったらコッチに来た時に罰を与えてやるんだから!」
そう言った彼女の目には涙が浮かんでいた。オレがその涙を拭おうと手をのばした時、彼女はオレに抱きついてきた。
「グスッ…」
オレはそんな彼女を抱きしめた。
「ありがとう、こんなところまで来てくれて。オレを救ってくれて。きっと君が居なければオレは自分を赦せずにいただろうな…」
「そう言ってくれると、きた甲斐があったね…。だけど、そろそろバイバイの時間だね。もう私は逝かなくちゃいけないから…」
「…あぁ。お前の頼み事、承った。きっと、叶えてみせるさ。」
「君のことなのに…きっとなんだね?」
「あぁ。オレに関しては約束は出来んからな。」
「まったく…じゃあ私は逝くよ。あ、最後にわがまま言っていい?」
「なんだ?」
「笑顔を見せてほしいな?君が憧れた正義の味方のように。」
オレはその言葉で驚いてしまったが、彼女に話をしたのはオレだ。ならば、彼のセリフを借りよう。理想や力すらも借りているというのに…
「…大丈夫だよ、シオン。オレもこれから頑張っていくから。だからお前も…ゆっくり眠ってくれ…」
「…うん。安心したよ。じゃあね?白夜。私もどこかで君を見守っているよ」
彼女はそう言って消えていった。それとともにオレの意識も覚醒していく。目を覚ましたオレが最初に見たものは天井だった。オレが感じたのは腕の中に暖かい感触。ゆっくりとそちらに目を向けるとそこにいたのは…
「あ、あの…白夜くん…」
「…なのは…?…すまない、少しだけこうさせてくれ…」
オレは自分の目から出るモノを見せないように腕の中にいるなのはを抱きしめていた…。
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