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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§XX-一周遅れのクリスマス

 
前書き
今年もありがとうございました。来年もよろしくです。
クリスマスネタを今更ながら。

投稿ぎりぎり2015年内間に合うか!?


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「なぁ」

 某電気街。某ビル最上階。VIPルーム、とでも形容するべき部屋に場違いな男が四人いた。メイド喫茶の建物だからだろうか。メイドの美少女達が時折飲み物を持ってきてくれる。いかがわしい店、と誤解をしかねない空間ではあるが、男四人の周囲に積まれた無数の薄い本が「ただのオタクの集会」であることを如実に示し。オーナーの知り合いだからこの部屋を使っている、という事情を知っているメイドの少女達は可憐な営業スマイルで四人組に奉仕する。以外に初心な男衆、営業スマイルといえど美少女に微笑まれると動揺してしまい触れることすら躊躇ってしまい。結果そこには思ったよりも健全な空間が出来上がっていた。

「ん?」

 紅茶と抹茶にガムシロップ二杯とコーラを秘伝の割合で混ぜてカルピスを隠し味に加えたゲテモノ――通称黎斗スペシャル――を飲んで、顔を顰めた反町が言う。

「サンタコスしてくれる子に知り合いいないか?」

「……はぁ?」

「メイドが良い、っーから恥ずかしいの我慢して来たんだけど。サンタコスが良いなら先に言ってよ」

 高木と名波、黎斗の疑問の声に答えるのは、反町の指したカレンダー。そうか。もうすぐクリスマスか。

「……まさかとは思うけど反町クン。君サンタコスの美少女からプレゼント欲しい、とかそんな理由じゃなかろうな」

「さっすが黎斗センセー!! そのとおり!!」

「その発想は無かった。黎斗センセー、頼む!」

「頼む!!」

 もうヤダこの馬鹿達。これで三人とも黎斗より成績良いのだから理不尽だ。黎斗が語学を除けば学年最下位を争うレベルでアホの子なだけなのだが。かつて三人に宿題を教えていたのは遠い過去だ。

「お前らの知り合いにいないの?」

「いたら頼まねぇ」

「「同じく」」

「僕にいると思う? そーゆーのは護堂に頼めし」

「アイツブルジョワだからヤダ」

「…………」

「黎斗もそれなりには女友達いるだろ?」

「……サンタコスしてくれそうな肝の据わった子は知らないわ」

 だいたいミニスカサンタコスとか言い出すのだろう。寒い冬にそんなもん穿かせられるかというのだ。と言ってみれば。

「馬鹿野郎!!」

 真芯を捉えた反町の拳が黎斗を捉える。的確に放たれたそれは黎斗の顎に直撃した。

「へぶぅ!?」

 馬鹿な。戦慄と驚愕が黎斗の脳裏を支配する。今の一撃、黎斗をもってしても反応できなかった。身体能力強化をかけていない現状でもカンピオーネ特有の集中力と見切り、更に黎斗の熟練の経験があれば大抵の神の攻撃には反応できる。更にそこに殺気や気の僅かな歪みといったものを察知すれば男子高校生の一撃程度、反応できないはずがないのに。コイツ一般人なのか……!!?

「ミニスカサンタだと馬鹿てめぇ、ふざけてんのか、ァア!!? 馬鹿野郎最高じゃないか!!」

 変態でした。

「とと、話が逸れた。だがな黎斗君。ミニスカサンタに興奮するのは三流のエセ紳士なのだよ」

 したり顔でコーヒーを飲んで――――苦さで顔を顰めつつ高木が言を補足する。

「第一ミニスカ? ハッ、こんな寒空の下、ミニスカなんて身体冷やすだろうが。女性の身体を痛めつけて喜ぶ野郎など言語道断よ。まぁ屋内ならアリだがな」

「お、おぅ」

 感心すれば良いのかドン引きすれば良いのかわからない。どうしよう。

「で、頼むよ。プレゼントくれ」

「だからなぜそうなる……!!」

 結論に至るまでに過程を数段ぶっとばしてやいませんかね?

「僕にもわかるように話して」

「「「考えるな、感じろ」」」

「……おーけー。僕が馬鹿だった」

「「「やっと気づいたか」」」

 なんでこいつらとメイド喫茶にいるんだろう。死んだ眼をした冴えない少年が、窓ガラスからこっちを見ていた。


○○○


「で。それで恵那に頼むかなぁ普通……!!」

「なんかもう、色々最っ低ですよマスター。自覚あります?」

 恵那以外に頼む相手が見つかりませんでした。玻璃の媛? 流石にメイドやらせておいてサンタも、とか酷だろう。羅濠教主でも良かったのだがコスプレ教主を三馬鹿と合わせたらどうなるか想像するだに怖すぎる。となれば、選択肢など無い。

「うん。自覚あります……」

 サンタコスをしてくれ、などと一歩間違えばセクハラ必至な発言。恵那以外に出来るものか。

「……まぁ、れーとさんが言うならするけどさ。っていうかメイド服とかれーとさん好きなの?」

「ちょ、恵那さん!!?」

「マジで!? あ、後半に関してはスルーで」

「マスターぁあ!!」

 断られて三馬鹿に「やっぱ無理だったわ☆ごめんねテヘペロ」するつもりだったのだが。まぁこれはこれでいいか。

「……やるなら徹底的に、だな」

 せっかく恵那が協力してくれるのだ。ならば、全力でやるしかあるまい。日付を見る。あと一週間。間に合うかどうか。

「ちょっと出かける。クリスマスまでには戻れると思う」

 それだけ言って、防寒具を着る黎斗。ブーツにマスクにサングラスで怪しい人間っぷりが半端ない。そのまま外へ走り出す。

「は? え?」

「マスター、学校はどうするんです? ……って聞いてないですあの人は全く」

「エルちゃんいつも苦労するね……」

 疲れたようなエルの言葉に恵那が苦笑する。

「でもサンタコスってどこ行けば売ってるんだろ?」

 コスプレ専門店行ったことないからわかんないなぁ、などと呟く恵那に、死んだ瞳のエルが返す。

「……たしか須佐之男命様の屋敷にあったかと。マスターが貯め込んだメイド服やらチャイナ服やらがわんさかと」

「……どうしよう今ナチュラルに気持ち悪っ、って思っちゃったんだけど」

「大丈夫です。玻璃の媛様も同じような事仰ってましたから」

 女子高生とキツネ、二人そろって深いため息をついて。そんなとある冬の日の事。



○○○



「間に合った……」

 よれよれの恰好で黎斗が帰宅したのは、クリスマスの夜の事だった。背後には白い巨大な袋と、住宅地図。それとデスクトップパソコンと軽トラ。コイツはなにがしたいのだろう、という視線を受けつつ黎斗はパソコンを軽トラの荷台に設置していく。

「どこをどうしたら間に合ってるんですかねマスター。もうあと2時間でクリスマス終わりますよ。クリスマス”イヴ”じゃなくてクリスマスですよわかってます?」

「ごめんなさい、ってそうだよ時間ないんだから着替えないと!! あぁ恵那のコスプレ分用意してないこれからドンキ行けば買えるか!?」

「ダメだこの人。時間管理が壊滅的になっていない……まぁ、須佐之男命様の部屋から徴収、もとい譲り受けたものがあるので恵那さんに着てもらいました」

「さっすがエル!!」

「れーとさん、これで良い……?」

 サンタコスした恵那を見て、黎斗の手が一瞬止まる。露出はそこまで高くは無い。須佐之男命の家に置いていたのはミニスカートのサンタ服だ。上は普通のもこもこした赤と白のあったかそうな服で、赤い帽子を被っている。

「う、うん……」

 若干顔を赤くして、またパソコンの方を向いて。チラッ、と時折恵那の方に視線を向けつつ。気づかれそうになると視線を戻して。その様子を見て、黎斗の元まで駆け寄って、耳の近くでエルがぼそっと。

「……女性苦手発言前されましたけど、もう治ってんじゃないですか? ただ単に恥ずかしいから恵那さんに近づけないだけと見ましたが」

「……うっさい」

「図星ですか。このヘタレ」

「…………うっさい」

「? 二人ともどーしたの?」

「なんでもない!」

「恵那さんのサンタコス似合ってるね、ってマスターが」

「ちょ、エル!?」

「そ、そっか……」

 まさかの発言に黎斗は動揺し、恵那は頬を赤く染め。

「って、ヤバい時間が無くなる!!」

 焦った黎斗の指がつぅー、と宙をなぞる。瞬間、トラックの前方が切断。荷台だけが残った形だ。

「みんな、お願い」

 黎斗が空へ声を張り上げる。

「え? みんな?」

 呆けたようなエルの視線の先には、五匹のトナカイ。空中を疾走する、トナカイ。

「頑張って見つけてきた!!」

 グッ、と親指を立てる黎斗に眩暈すら覚える。この人はわざわざ神獣を五匹もつれてきたのか、と。

「ほら、恵那行くよ!!」

「え、きゃっ!!」

 恵那の手を掴み荷台に乗せあげ、トナカイ達に軽トラの荷台を牽かせて走り出す。空中を疾走する即席ソリの出来上がりだ。

「パソコン&GPSで現在位置も完璧。よし、あと二時間で、配れるところだけでも配るよー!!」

 意気揚々と叫ぶ黎斗と

「ちょ、れーとさん飛行機にぶつかるぶつかるー!!」

 横を通り過ぎたせいで、乗客がパニックを起こした飛行機。

「メリークリスマス、リア充爆ぜろ!!」

 高らかにベルを鳴らし、数時間のイベントを暴走する彼の視線の先には地元の子供の家。

「開け」

 黎斗の声に従うかのように、空間が歪む。子供の部屋までの最短通路が出来てしまった。

「えぇ!?」

「数分だけだから、早く」

「え?え? とりあえずりょーかい!!」

 混乱中の恵那だが、考えるだけ無駄と判断したのか、軽快な身のこなしで部屋に侵入する。

「これでいーのかなぁ……」

 悩みつつも、黎斗の指定した番号の札を枕元へ置く。もち運びの関係上今は札になっているが、朝には呪力が切れてプレゼントになるらしい。細かい話は恵那にはわからない。

「一日遅いけど、めりーくりすます♪」

 最後に微笑みながら、恵那はその家を後にした。

「よし、次いくよ!」

「うん、次いこう!!」

 ノリノリなサンタコンピが、深夜に夜空を爆走する。

「あ、あれ……? にーさんと恵那さん?」

「めりーくりすますー!!」

 実家にも乱入し

「え?え?え?」

「さらば!」

 混乱する義妹にプレゼント爆撃。

「あれ? 水羽さん?」

「めりくりぃ!!」

 児童館施設のボランティア君にも

「夢かこれ? なんつーふぁんしーな……」

 プレゼント爆撃。

「あ、れーとにーちゃんだ!!」

「良い子は寝てなさいめりくりぃ!!」

「めりくりおせーぞ兄ちゃん!!」

 プレゼント爆撃。

「めりくりぃ!!」

 爆撃。

「めり――――」

 爆撃----。



○○○


「やりとげたぁ……」

「流石に疲れた……」

 深夜テンションと化した二人はそのまま朝方まで爆撃を繰り返し、早朝帰宅と相成った。

「お疲れ様でした」

「さぁ。冬休みじゃー!!」

「あ、マスター学校サボってたんで追試ですよ」

「なにぃ!?」

 追試で赤点とって冬休みの課題が増える、という素敵なプレゼントを先生からもらうのは半日後の出来事で。

 三馬鹿に「何故サンタは来なかった!!」と文句を言われるまであと数時間。 
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