仁王
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第二章
「この方なら」
「宜しいですか」
「金剛力士に相応しい」
是非にと言うのだった。
「見事な身体の持ち主じゃ」
「ではこの方を観られて」
「今から造ろう」
その仁王像をというのだ。
「そうしよう、しかし」
「しかしとは」
「一つ思うことは」
ここでだ、運慶は言うのだった。
「貴殿はどうしてそこまでの身体なのか」
「拙者の身体のことか」
「見事なお身体だ」
侍は既に上半身を脱いでいる、ただ大柄なだけでなく身体つきは筋骨隆々としていてだ、脂肪は全くない。
筋肉は獣の様に発達していて逞しい、それを観てだった。
彼はだ、こう言ったのだ。
「そこまでなった理由は」
「決まっておる、日々馬に乗り泳ぎ弓矢や刀を使いだ」
「侍の嗜みをか」
「していればだ、具足を着るしな」
その重い具足をというのだ。
「それで動いて駆けて馬に乗り弓矢も放つ、具足を着たまま取っ組み合いもすれば泳ぐこともある」
「戦の場において」
「そうした日々の中におればな」
「そうした身体になられるか」
「左様」
侍は運慶に何でもないといった顔で答えた。
「拙者もまた同じこと」
「そうであられるか」
「侍ならば」
日々鍛錬をして具足を着てだ、戦に出て戦っていればというのだ。
「こうした身体になるのだ」
「左様でありますか、そのことも聞いて」
戦の場で戦っている、そのこともというのだ。
「より仁王に相応しいと思いました」
「そうであるか」
「仁王は仏教を護る為に戦う仏、だからこそ」
「拙者はか」
「そう思いました、それと」
「今度は何か」
「何を召し上がられていますか」
侍にだ、運慶は今度は何を食べているのかを尋ねた。
「貴方は」
「侍の食うものか」
「飯が違うと聞いていますが」
「そうじゃ、我等が食うのは強飯じゃ」
「白い飯ではなく」
「あれはj姫飯と言ってな」
白く炊いたその飯をだ、侍達はそう読んでいるというのだ。
「わし等は食わぬ」
「では侍の方々が食されるのはその強飯であり」
「それしか食わぬ、玄米しかな」
「玄米、あれがですか」
「強飯でじゃ」
それでその飯をというのだ。
「椀にこれでもかと山盛りにして食うのじゃ」
「そうした食し方ですか」
「おかずはじゃ」
飯のそれはというと。
「魚に野菜、獣等を干したり漬けたものじゃ」
「そうしたものをですか」
「後は適当に色々入れた鍋とかじゃな、味付けは塩等であっさりじゃ」
「ですか」
「贅沢はせぬな、多くの者は」
「貴方もですね」
「そうした暇があったら馬に乗り弓を手にしておる」
侍の芸を磨いているというのだ。
「そうしておるわ」
「ですか、わかりました」
「だからわしの飯はな」
「はい、強飯ですな」
「それを頼む」
「わかりました」
飯の話もしてだった、運慶はその侍の裸を見つつ仁王の像を造った。それが終わってから侍にお礼の銭やものを渡してだった。帰ってもらった。
そしてだ、東大寺にその仁王像も収めてからだった。あらゆる雑事を行ってくれた僧侶に対してこうしたことを言った。
「いや、あの方は」
「あのお侍はですね」
「はい、非常にです」
それこそというのだ。
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