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第二章

 そしてここでだ、クラスメイト達にその北朝鮮のことを聞いた。
「あの国そんなええ国か?」
「何か新聞で色々言うてるな」
「学校の先生も」
 彼と同じ詰襟で丸坊主の面々が応えた。
「もうあんまりにもええ国で」
「地上の楽園やってな」
「そこにいたら何の苦労もない」
「楽しくて仕方がない国やってな」
「そんな国ほんまにあるんかいな」
 一樹は首を傾げさせてこう言った。
「お父ちゃん今朝それは嘘やって言ってたけど」
「けど前田先生いつも北朝鮮のこと言ってるけどな」
「日本よりずっとええ国って言ってるな」
「先生が言うからな」
「ほんまちゃうか?」
 クラスメイト達は言うのだった。
「新聞でもえらい学者さんも言うてるし」
「新聞は嘘書かんで」
「しかもえらい学者さんも言うてるさかい」
「そやからな」
「ほんまちゃうか?」
「北朝鮮ってええ国ちゃうか?」
 そうではないかというのだ、だがその彼等も一樹と同じくだ。
 ことの真意はわからない、それでだった。 
 一樹は実際に北朝鮮がどういった国かわかりかねていた、父が正しいのか新聞や先生が正しいのかわかりかねていた。
 それでだ、部活の後で先輩にも尋ねた。
「先輩北朝鮮についてどう思います?」
「あの国か」
「はい、どんな国やと思います?」
 部室でユニフォームから制服に着替えながらの質問だ。
「一体」
「あの国な」
 一呼吸置いてからだ、先輩は答えた。
「俺はよお知らん」
「そうですか」
「色々言われてるけれどな」
「ええ国でっしゃろか」
「どやろな、ただな」
「ただ?」
「何でもそやけどな」
 着替えの中でズボンを穿きながらの言葉だ、制服の。
「うまい話には裏があるやろ」
「そう言われてますな」
「そうや、新聞とか先生の言うてること聞いてるとな」
 北朝鮮にまつわる話だ。
「幾ら何でもな」
「うまい話ばかりやと」
「そう思えるわ」
「そうですか」
「何か詐欺師の口上みたいや」
 先輩が言うにはだ。
「そう思えるわ」
「先輩はそう思われますか」
「実際はどんな国か知らんけれどな」 
 それでもというのだ。
「何か胡散臭いもん感じるな」
「胡散臭いですか」
「ああ、俺が思うだけやけどな」
 先輩はこう前置きもした。
「何かあまりにもええ話過ぎるやろ」
「地上の楽園ですか」
「お医者さんの金もいらん、税金もない。働けば働くだけどんどん何もかもがよくなっていく」
 北朝鮮側の主張もあげつらっていく。
「こんなうまい話あるか?」
「言われてみれば」
「世の中甘ないで」
「うまい話には裏があって」
「そや、新聞は嘘言わんっていうけど」
「新聞が嘘言うたらあかんのちゃいます?」
「けど誰でも嘘言うやろ」
 先輩は一樹にこうも言った。
「俺も嘘言うたことあるし御前もあるやろ」
「それでおとんに殴られたことあります」
「そやろ、悪いことするお巡りさんもおるんやで」
「それやったら嘘言う新聞もありますか」
「学者さんかってや、それに嘘やなくてもや」
 それでもというのだ。
「弘法大師さんかて書き間違えもする」
「ああ、諺の」
「筆の誤りっていうやろ」
「河童も溺れたりとか」
「するやろ、そやからな」 
 だからだというのだ。 
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