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死んだ目

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第四章

「人種差別にも反対しています」
「あってはならないことだと」
「全ての人は平等です」
 共産主義の言葉を出したのだった。
「それで何故日系人だからといってです」
「敵国にルーツがあるからといって」
「そしてアジア人だからといって」
 グラッグスは純粋な怒りを以てだ、オーフェルに語った。
「あの様なことをしてはいけません」
「日系人の強制収容は」
「あれは明らかな人権弾圧です」
 彼は言い切った。
「人種差別主義です」
「だからですか」
「私はあの政策、そしてそれを行った人達を批判し軽蔑します」
「それが博士のお考えですね」
「そうです、間違っているでしょうか」
「いえ」
 首を横に振ってだ、オーフェルは答えた。
「私も人種差別主義は嫌いなので」
「貴方もですか」
「確かに陸軍にも人種差別主義者はいます」
「何処にもいますね」
「しかしです」
 オーフェルも言うのだった。
「全ての人間は神の下に平等である筈ですから」
「神、ですか」
 神と聞いてだ、彼は難しい顔で言った。
「私は」
「共産主義を信じるからですか」
「はい、宗教はです」
「そうですね、しかし」
「今のベルリンはですね」
「その彼等の手の中にあります」
「解放されて」
 そして、とだ。グラッグスはここでも言うのだった。
「今は廃墟でも」
「これからは違うと」
「そうなります」
 今度はだ、グラッグスは純粋な笑顔で言い切った。
「間違いなく、ですから」
「ベルリンに行かれたいか」
「そう思っています」
 戦火は痛ましいと思っていてもだ、それでもと答えてだっ
た。
 彼はそのベルリンに着いた、空港は何もなかったが。
 街は廃墟になっていた、だがこのことはグラッグスは驚かなかった。もうわかっていたからだ。
 しかしだ、その街を行く人々を見てだ、彼はすぐに戸惑いを感じた。
「?何か」
「気付かれましたか」
「暗いですね」
 そのベルリンの人々がというのだ。
「やはり戦争の後で」
「生活が、ですね」
「辛いのでしょうか、いえ」
 彼はさらに言った。
「さらにありますね」
「彼等が何故暗いのか」
「戦争で」
 また言ったグラッグスだった。
「その傷跡のせいでしょうか」
「そして食料もですね」
「まだ行き渡っていないのですね」
「そこは西と同じです」
 アメリカ軍を中心としたソ連軍以外の連合軍が占領している地域だ。
「やはりドイツの戦火の傷跡は深く」
「食料もですね」
「充分でありません」
 オーフェルはグラッグスにこう話した。
「それは事実でまだ、です」
「改善されてはですね」
「いません、しかしです」
「しかし、ですか」
「それだけと思われますか」
 あらためてだ、グラッグスに問うたのだった。 
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