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死んだ目

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第一章

                 死んだ目
 アメリカの政治学者トーマス=グラッグスはよくこうしたことを言っていた。
「もう資本主義の時代はね」
「もうすぐ終わる」
「そうだっていうんだね」
「そうだよ」
 そうだとだ、彼は友人達に話していた。
「資本主義からね」
「共産主義になる」
「そして誰もが平等な社会になる」
「ソ連の様に」
「そう言うんだね」
「そうだよ」
 その通りと言うのだった、いつも。
「マルクスが言っている様にね」
「つまりソ連の姿が正しい」
「資本家や大規模な農業経営者もいない」
「純粋な農民と労働者達の国」
「彼等が動かす国がだね
「その証拠にあの国は世界恐慌の影響を受けなかった」
 グラッグスはその目を強く光らせた、知的な顔立ちで鼻が高くてだ。黒い髪も奇麗に後ろに撫で付けている。
 誠実な人物としても知られている、それは学問にも出ていてだ。
 その彼がだ、こう言うのだ。
「そして国家は順調に発展している」
「この合衆国よりも」
「さらにだね」
「目覚しい発展をしている」
「だからだね」
「マルクスの言う様に」
 その共産主義の教祖と言っていい人物だ、マルクス自身は無神論者であるがだ。
「もうそれは決まっているんだ」
「世界は共産主義によって幸福になる」
「誰もが平等で幸せに暮らせる社会」
「豊かで平和で争いのない世界」
「そうした世界になるんだね」
「そうなるよ、僕はまだソ連に行っていないけれど」
 それでもというのだ。
「あの国は最も素晴らしい国だよ」
「そして全ての国がソ連の様になる」
「幸せな国に」
「是非にだね」
「そうなるんだね」
「そうなるよ」
 こういつも言っていた、それは大戦前のことでだ。彼は大戦が連合国側ソ連も含めた彼等の勝利に終わった時にこう言った。
「ドイツも東欧も解放されたよ」
「ソ連、共産主義によってだね」
「ナチスの悪の軛から解き放たれた」
「そうなったっていうんだね」
「ヒトラーは死んでベルリンは赤軍が解放したんだ」
 まるでアメリカがベルリンを解放した様に言うのだった。
「これで彼等も共産主義になってだ」
「そして、だね」
「幸せになるね」
「誰もが平等になって平和に暮らせる」
「そうなるんだね」
「なるよ、そしてね」
 グラッグスはここでこう言ったのだった。
「実はドイツの西を解放したアメリカ軍の将軍からお誘いがあってね」
「君にかい」
「それがあったんだね」
「ドイツに来て」
 そしてというのだ。
「ベルリンも見てはどうかとね」
「そのベルリンをだね」
「ソ連軍が解放した」
「ヒトラーのその手から」
「共産主義になる場所にだね」
「行って見てくれるかとね」
 こう誘われているというのだ。 
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