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異界の王女と人狼の騎士

作者:のべら
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第七十四話

 とりあえず―――。
 俺たちが無事帰り着くことができたのは、本当に奇蹟だったんじゃないだろうか?

 王女を抱えて走ったって言ったって、その走りは、かなりヨタヨタしてたもんな……。
 実際、折れた骨はとりあえずくっついただけのレベルだし、断裂してた腱なんかだって、とりあえずはくっついているよって感じだったんだ。だから、俺本来の能力値……これは【人間】レベルでってことだけど、……それにさえ届かないレベルだったんだ。
 あと少し休んでから動けば、本来の能力まで戻せていたんだろうけど、あの時に余裕かましていたら間違いなく結界崩壊後、電源回復(つまりは警備システム再起動による復旧)、警報システム異常検知(これは停電していたことの異常検知と警備システム起動以降に本来なら無人のはずの店内に動く物体の検知によるアラーム)、即警察への通報および並行しての防犯カメラによる撮影開始になるだろう。
 当然、俺と王女は思いっきり撮影されてしまうだろうな。
 そして、そこからこのデータを受け取った警察の「顔検知システム(仮称)」で詳細分析され、【極秘?】 データベースからの照合から身元が瞬時(だいたい2分以内といわれているが)に割り出され、俺の住所・氏名・年齢・学校名・家族構成、学校における成績・素行データ、そしてあれば犯罪歴、さらに両親の職業・所得・住所・連絡先、そして、もちろん顔写真までが一気に判明することになる。
 もっとも、一般の人間がサーチされた場合はここまでの詳細情報が分かるにはもう少し時間がかかるんだけれど、学園都市に通う生徒(および勤務する職員。学園都市内で働くすべての人になっているらしい)については、ここまでの個人情報の提供(さらに、本当はもっと多くの情報が提供されているといわれているらしい)が条件となってるんだ。
 (まあ、こんなことまで提供しなけりゃいけないのはおかしいと思うんだけれども。何に使うつもりだっつーの。人権問題に発展するよね)

 うん、続きだけれど、それで俺はまずは逮捕されただろうなって思う。それはそれでやむをえないし何とか言い逃れをする方法もあっただろう。最悪は能力を発揮して逃走しちゃえばいいんだから。
 でも、本当の危機は俺が捕まることにより、王女までもが危機に晒されていたかもしれないことだったんだ。あらゆるデータベースに存在しない少女の【存在】のほうが警察組織やその他の機関が興味を示すかもしれない。今時、国および地方公共団体のデータベースに登録されていない人間がいること自体、【ありえない】ことなんだから。通称名を使うことができる在日外国人でさえ通名だけでなく本名併記で登録され、管理されているはずなんだから。「私は異世界から来た王女だ」なんて言ったら運がよければ病院行き。悪けりゃ徹底的に調べられることになっただろう。まあ王女の性格からして、どちらの対応をとったとしても無慈悲な鉄槌・際限ない報復打撃・容赦ない攻撃・無慈悲な報復打撃が行われ警察当局はその組織全体に壊滅的な打撃を受け、さらにより恐ろしく際限なく無慈悲な懲罰を受けて、無慈悲に撃滅、壊滅、粉砕、処罰が執行されただろう。
 そっちのほうが怖かったかな。

 でも、まあなんとか帰ってこれたのは、結界の崩壊が思ったより遅かったからなんだ。
 当日の気温と風向き、そして湿度などの気象条件が整っていたのと、さらに「もう一つ」の大きな要因が影響していたとか王女は言っていたな。その「もう一つ」は何か聞いてみたら、地脈がどうとか言っていた。風水だねって聞いたら、そんなの知らないって返されたけど。
 この学園都市は様々な地脈が入り乱れているようで、場所によってはかなりの強さのエネルギーが溜まっているとのこと。
「寄生根は意識していなかったみたいね。たまたま、奴の魔法術式に相性の良い地脈があったってことでしょうけど、そのおかげで結界がエネルギーの供給を失ったのちも普段より長い時間その形を保てたんでしょうね。……私は運が良いってことかしらね。まあ、私が王の中の王であったため、自然の摂理さえもが私に有利になるように働いたということでしょう。まあ、当たり前だけれども王の王たる所以ね。シュウも感謝しなさいよね」
 と、結局自分の自慢と、下僕である俺の不手際への説教で終わったんだけれども……。

 ヤレヤレだよね。

 ちょっとだけ不満ではあるけれど、こういったことには結構慣れてしまっていたし、王女の言うことももっともだし、本当に運が良かったんだから結果オーライですねってことで俺は満足してしまったんだよね。

 で、本題のショッピングセンターでの事件のことなんだけれど、事件自体が警備システム異常による通報によって発覚したのが早朝のことだったんで、その日の朝刊には間に合わなかったんだ。
 バイトで新聞配達をしてたから分かった(個人的には新聞は取ってません)んだけれど、一面のニュースは最近総理になったばかりの太った脂性のおっさんのアジア各国への土下座外交の話題だった。嘘も百回言えば真実となるってわけじゃないけど、隣国がワイワイ騒ぎうまく日本のマスコミを支配・誘導したせいか、いつの間にか日本が悪いように答える政治家が政権与党に出てきたことに違和感を感じる。そもそもゲッペルスは「嘘も百回……」なんて言葉を言っていないというのがなんか皮肉。

 それに、政権交代してから妙に日本の隣国への配慮発言が増えているように思う。支持者に日本人じゃないのが多いのかな、とか言う人も増えてきている。
 学園都市の高校にもアジア各国の生徒も、……アジア全土と言ったって、本当はかなり国に偏りがあるんだけれど、それなりに集められているからな。そういえば噂だけれど彼らは日本の国費で授業料とかが免除されているらしい。特待生か何かなのかもしれないけれど、試験では上位にいるわけではないんだな。
 大局的な国家的判断とかなんとか言ってたような……。彼らの中には素行があまりよろしくない連中が結構いるんだけれど、何故か学校側はこういったことについても妙な政治的配慮をしているようだ。事件が起こってもうやむやにしようとすることが多い。……これも政権交代が影響しているのか? って思う。
 そうでないことを祈るけど。

 そんなことはともかく、今時は新聞に速報性なんかは無いから、携帯からネットにつなぐだけでそれなりの情報は手に入る。携帯サイトだと有料ばかりでまともに情報を得られないけれど、PCサイトに繋げばかなり詳細な情報は手に入る。
 それでも注意すべきなのは、ネットの情報はソースをしっかりと確かめないと誤報・悪意による捏造であることがよくあるということ。大規模掲示板なんてのはまず間違いが多い。……とはいっても新聞社が取り上げる記事だって間違っていることも多いし、意図的に曲解して報道された無いニュースもかなり多い。それに妙な思想バイアスがかかった報道をする新聞社(テレビ局)も何か多いし。
 つまりは複数の媒体から情報を入手し、自分で判断することが要求されるようになっているってことらしい。これはネットで書かれてたんだけどね。

 さて、事件自体はまずネットニュースで発出され、掲示板で取り上げられて大騒ぎになっていた。そしてそれにテレビ報道が被さるといった形で情報が伝播されていった。

 ニュース報道では、事件のあったショッピングセンターでの大量殺人事件が煽情的に取り上げられていたんだ。
 無職の少年1名(19歳)と高校生3人(ともに17歳)が惨殺されたこと。司法解剖の結果、その殺害方法は数日前に公園で殺害された同高校教員と同様の方法であったこと。
 また、無職の少年が発見されたワゴン車、少年が運転していたと思われる、からは3人の高校生の指紋も検出され、被害者の少年たちが利用していた車であることも分かった。車は学園都市各地で発生したショッピングセンター荒らしの現場の防犯カメラに撮影された不審車と同型であること。また車内や少年たちが身に着けていた衣類やアクセサリーなどが被害にあった店舗からの盗品であることも発覚し、彼らが事件に関与していたことがわかった。
 ……まず間違いなく、あいつらが犯人なんだろうけど。
 殺人事件については、これらの事情から窃盗グループ内での内紛による可能性と別の連続殺人との関連性の両面から行われることになったようだ。
 とりあえず、俺が現場にいたということは誰にも気づかれていないようなので、ホッとしたのは事実。←ここで王女に聞いた時に地脈が云々って話と王女の自慢話があったわけ。
 
 学園都市で発生した連続殺人事件は複数の県をまたいで設立されている学園都市の特殊性から、もはや一県警レベル(うちの高校があるのは奈良県)では対応しきれないレベルになっていると言え、警察庁広域重要指定事件に指定された。これは1985年から1995年に大阪府を中心に発生した殺人事件=大阪連続バラバラ殺人事件(警察庁広域重要指定事件第122号)以来の近畿での設置となった。警察庁からも専門の捜査員が派遣されることになったと書いてあった。
 専門の捜査官って何の専門なんだろうって思った。そもそも警察庁に捜査部門ってあったんだろうか? ネットで調べてもそんなのは存在していなかったけど。まあ、極秘裏にアメリカの連邦捜査局みたいな部署を作ったんだろうか。それはそれでいいとして、派遣されるのは、まさか連続殺人事件の専門? ってオチかな。仮にそうだったら絶対に解決しないよ、これ。
 
 犯人は、もう人間じゃないんだから。

 仮に見つけて逮捕しようとしたら、警官を何人連れてきたって鏖(みなごろし)にされるだけでしかない。特殊急襲部隊(SAT)でも多分、無理だと思う。最初から殲滅させる気で当たらないと、一瞬で全滅させられることになるんだ。でも、加害者の人権への配慮とかいう部分もあるから、いきなりの射殺命令を出せる指揮官がいるかどうかってところなんだよね。もっとも最初からやる気で行ったってあんまり結果は変わらないかもね。……寄生根とリアルで戦った俺が言うんだから間違いない。
 人知を超越した存在に人の力が通用するはずがないんだ。
 じゃあどうすればいいんだって聞かれると、強いてあげるとするなら、防衛省超自然災害対策本部特殊戦術隊第四課とかヴァチカン法王庁特務局第13課をぶつける意気込みじゃないと無理なんじゃないかな。

 そんなことについて王女といろいろ話していたら、いつの間にか時間が結構経ってしまい学校に行く時間になっていた。
 すでに王女にとっては寝る時間(普通の人間で言うと深夜2時は回っている感じ)だったらしく、時折うつらうつらしながら俺の話を聞いていた。でも限界を超えたのか、突然「もう寝る」と言った瞬間、そのまま寝てしまっていた。よっぽど眠かったのに無理をして俺の話に付き合ってくれたんだなって感謝した。一人で悶々としていたら耐えられなかったから。これでなんとか学校へ行く気力が湧いてきた。

 さっさと着替えると部屋の電気を消す。
 分厚い遮光カーテンのおかげで既に日がだいぶ昇っているのに部屋は真っ暗だ。王女はわずかな日の光でも眠りを妨げられるらしい。ベランダの窓も下半分にはダンボールを貼り付けてさらに日の光が入らないようにしているんだ。キッチンとリビングは扉で仕切れるから扉を閉めたら完全な闇になるようにしている。
 睡眠が一番の体力回復方法らしいので極力眠りの時間は確保してあげないといけない。この睡眠のおかげでだいぶ能力も回復してきたって言ってたもんな。
 王女にとっては、眠ることが最大の回復になるんだろう。彼女が本来の力を取り戻してくれたらベストなんだけど、それは難しいらしいといっていたけれども。

「行って来ます……ね」
 すでに深い眠り二落ちているから返事は無いけど、一応声をかけてから俺は学校へと向かった。
 
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