リリなのinボクらの太陽サーガ
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SS編 心身
前書き
ありのまま今起こった事を話します。シークレットシアターを書くはずが、ショートストーリーを書いていた。という訳で今年最後の投稿はそういう感じになるので、ご了承願います。あと、過去のサブタイトルなどを変更しました。
一つ目シリアス、二つ目からシリアルな回。
【世紀末世界の事情】
~~Side of シャロン~~
「あ、良かった……気が付いたんですね」
「あの……ここは?」
「サン・ミゲルの宿屋です。太陽樹さまの根元で倒れていたので、僭越ながらここまで運ばせてもらいました」
「太陽樹……ああ、そういう事なんだね……」
目を覚ましたら、そこは世紀末世界だった……。
なんてどこぞのトンネルを越えたら的な出だしはともかく、私はどうやらサバタさんの故郷に来ているようだ。異次元空間に閉じ込められた私をサバタさんが最後の力で出してくれて……その結果、ここに転移したのは十分納得できる。ラタトスクの異次元空間はある意味世紀末世界に一番近い場所でもあったからね。それに太陽樹は次元世界に存在していないからその名前が出てきた瞬間、ここが世紀末世界であると察する事が出来た。
「自己紹介がまだでしたね、私は大地の巫女リタといいます。サン・ミゲルでは果物屋をやらせて頂いています」
「シャロン・クレケンスルーナです。それでリタさん?」
「リタ、と呼び捨てで呼んでもらって構いませんよ」
「あ、うん、わかった。じゃあ……リタ、ここがサン・ミゲルって事は……太陽少年のジャンゴさんや、星読みのザジさんはいるの?」
「ええ、いますけど……お二人を知っているんですか?」
「それについて話すと長くなるから、せめて二人を交えてから話したい。大丈夫、危害は加えないし、むしろここにいる皆には知ってもらわないといけない大切な話だから」
「大切な話? ……わかりました、あなたを信用します」
「あれ? 結構あっさり信じてくれるんだ……私、余所者なのに」
「シャロンさまの言葉や態度に嘘偽りは感じられませんでしたから。ところで、お身体の方は大丈夫ですか?」
「うん、おかげさまで平気だよ。リタこそ、看病とかで疲れてたりするんじゃない?」
「鍛えられてますからね、これぐらい何の疲れにもなりませんよ」
鍛えられてるんだ……。気のせいかリタの笑顔に薄ら寒い何かを感じたけど、なんか怖いので言及はしないでおこう。
さて、宿屋の一階にある椅子に座り、私はリタからサン・ミゲルの現状について色々聞いた。……かつて街の大半が吸血変異でアンデッドが闊歩する環境となってしまったが、結界によって無事に済んだ商店街から徐々に復興が進んでいる。実際、サバタさん達の実家があったのは陸番街らしく、そこにいたアンデッドはジャンゴさんが全て倒し、更に太陽樹が復活して結界が広がったおかげで危険が無くなり、再び住めるように瓦礫などの撤去を行っているとか。
「ジャンゴさまは各地へ出向いて、アンデッドの恐怖から人々を解放しています。つい先日も“死灰の街”にいたアンデッドを全て浄化したと聞きました。流石に地方までは手が回っていないそうですが、ギルドからの要請があったら出向いたりはします」
「へぇ、中々忙しい日々を送ってるみたいだね。それで、ジャンゴさんは今どこにいるの?」
「今日は“古の大樹”……古代の太陽樹さまの所へ行っています。未来から来た少年が元の時代に帰る見送りとの事です」
「未来から? 信じ難い話だけど……私も似たようなものだから人の事は言えないかな」
「? 似たようなもの、ですか?」
「後で話すよ。それじゃあザジさんは?」
「街の南にある“街門”の修復を行っています。サン・ミゲルの入り口なので、防衛の観点も含めて直しておきたいとの事です。ジャンゴさまのおかげでアンデッドはもういないはずですが、念のため護衛にシャイアンさまが同行しています」
なるほどね……確かに街の入り口が寂れてたり壊れてたりしたら、訪れた人が中は大丈夫なのか不安にもなる。ニダヴェリールから地球に移った時も感じたけど、世界が違うとやるべき事も色々変わるようだ。
とりあえず二人の居場所がわかった事で私は窓の向こうに映る、街の中央にある太陽樹を眺めてみた。何というか……マジでデカい。街の空を覆う程大きい木って、いくら何でも育てすぎじゃ……? いや、確か太陽樹には大地を浄化する力があるって聞いたから、どんどん大きくして行かないと駄目なのかもしれない。サン・ミゲルを守る結界も太陽樹によって維持されている以上、この考えは恐らく間違っていないと思う。
「そろそろ日も暮れるので、皆さんも戻って来る頃でしょう。私が呼びに行ってきますので、シャロンさんはここでゆっくりしていて下さい」
そう言って安心させる笑顔を浮かべたリタは、可愛らしい足音を立てながら駆けて行った。何て言うか、健気な子だと思う。好きな相手にはきっと一途に想ってくれるだろうな。
私だけが世紀末世界に来てしまったのは辛いけど、皆と離れ離れになっているのに、なぜかあまり不安や寂しさは湧いてこないんだよね。多分、サバタさんがお守りを通じて私を見守ってくれてると感じてるからだろう。実際、助けられた訳だし。
なんて思ってると、宿屋に続々と人が集まってきた。大柄だけど温厚な男の人のマルチェロ、黒い背広を着た老人のルイス、今はアクセサリー屋を営む元道具屋の金髪アフロ男のキッド、目が死んでいる寂しげな顔の棺桶屋、がっちりした身体で優しい包容力が漂うお爺さんのスミス、童話に出ていそうな可憐な少女スミレ、その飼い猫(?)クロ、そして……。
「よう、少女。俺は???だ、よろしく」
「あ、はい。よろしくお願いします」
腕は立つけど記憶喪失で名前が無い男ハテナ。なぜか彼を見ているとプリスキンさんを思い出すが、いまいち理由の見当が付かない。もしかしたらこの人も異世界からの来訪者なのかな?
「うむ……彼女がそうらしい」
「リタ曰く、太陽樹の根本に倒れてたんやと。一体どんな子なんやろな?」
上半身裸でガチムチの部族じみた男シャイアンの後ろから、特徴的な口調で話す一人の少女が現れた。桃色のショートカット、オレンジのパーカー、白いミニスカートに焦げ茶色のブーツ、先端の曲がってる部分が緑色で赤い宝珠が埋め込まれた杖。何というか……シンプルな装備の魔法少女って感じがする。彼女こそが、ザジさんだろう。
「ふむ、君が太陽樹にいた少女か。私は――――」
「なんか変なの出たぁ!?」
「変なのではない! 私は太陽の使者、おてんこだ!」
なんか怒ってるけどさぁ……普通は驚くよ。タツノオトシゴとひまわりを足して割ったような外見に、瞳が無い白い眼、そしてまたしてもプリスキンさんを思い出す渋い声……いくら太陽の使者だと言われても、色んな意味で得体がしれないから初対面じゃ警戒するのも仕方ないはずだ。
「まあいい、それでそこにいるのが……」
「ジャンゴさん、でしょ?」
「ん? 初対面なのに、ジャンゴはわかるんだな」
「うん。……外見がそっくりだからね」
「?」
サバタさんが月光のマフラーを巻いているように、ジャンゴさんは深紅のマフラーを首に巻いていて、顔に白いフェイスペイント、長袖に半ズボンという格好をしている。髪型の色や形こそ違うが、雰囲気や外見は双子という事もあってかなり似ている。だからすぐにわかった。ジャンゴさんは首を傾げているが、私の話を聞いたら彼らも理由がわかるだろう。
「エンニオさまは時計塔から離れる訳にはいかない、との事で来ないそうです。マスターはギルドの用事があるみたいで留守でした」
街の皆を呼んで集めてくれたリタが帰ってきた。宿屋の人口密度が凄い事になっているが、それはそれでわざわざ手伝ってくれた彼女に感謝の気持ちを抱いた。皆がじぃっと見つめてくる中、こほんと咳払いした私は早速話を始める。
「さて……サン・ミゲルの皆さん、お忙しい所集まってくださってありがとうございます。私はシャロン・クレケンスルーナと言います。……ニダヴェリールという世界で育った人間です」
「ニダヴェリール?」
「第66管理世界という、次元世界に漂う世界の一つです」
「次元世界?」
「ここ、世紀末世界とは異なる世界です。詳しい事は追々伝えるので、先に伝えなくてはならない事をお教えしたいと思います。私や私の友の命を助け、次元世界の人々を救い、未来を守った暗黒の戦士……サバタさんの生き様を」
『っ!?』
彼の名を告げた瞬間、彼らは目を見開いて息を呑んだ。そりゃそうだ、こちらの世界では月の楽園でヴァナルガンドと共に封印されて、消えてしまったサバタさんの名が見ず知らずの私の口から出てくる事がおかしいのだから。
「ど、どういう事や……サバタに命を救われたやと!? だってアイツは……」
「あの……もしかしてサバタさまはどこかで生きていらっしゃるのですか? その、次元世界という場所で」
「……順序を立ててお話します。長い話になるので、しばらくのご清聴をよろしくお願いします」
それから私は、サバタさんが次元世界にやって来てからの出来事を話した。ジュエルシード、ヴァナルガンド、闇の書、ナハトヴァール、SEED、麻薬カルテル、ロキ、U-D、ラタトスク、ファーヴニル……色々ある。もちろん、私の知る限りの内容にはなってしまうけれど、おおよその情報や知識は含まれている。封印を破ったヴァナルガンドとの最終決戦が行われたり、次元世界にもロキというイモータルがいたり、ラタトスクが復活していた事にはジャンゴさんやおてんこさまが特に驚いていた。一方で、エレンさんの名前が出た時はザジさんが反応を示していた。質問や疑問には逐一返答していき、そして最後の……ファーヴニルを封印し、ラタトスク浄化の直後にサバタさんが消滅した所も含めて全てを話し終えた時には、外はもう真っ暗になっていた。
「……………」
「サバタ……僕が知らない所で、君は必死に戦ってたんだね……」
「ジャンゴ……アイツは最期に笑っていた。それが答えだろう……」
「サバタは本当に逝ってしまったのか……。こんな年寄りより先に逝くなんて、もう嫌じゃよ……リンゴ……」
「オイオイ、遺跡でアイツに命を助けてもらった借り返してねぇぞ。ショックだぜ……」
「同感だ、キッド。結局俺達は彼に何かしてあげる事が出来なかったのだからな……」
「おねえちゃん。もうサバタちゃんと、あえないの?」
「サバタさまは立派に戦い抜いたんです……もう休ませてあげましょう……」
などと皆がサバタさんの冥福を祈ったり、労をねぎらう言葉を言ったりする中、唯一ザジさんだけは無言を貫いていた。彼女の様子に気付いたジャンゴさんは、声をかけようにも月の楽園で彼を助けられなかった事でためらってしまい、それは他の皆も同じ感じだった。
「ザジさん……?」
「…………無力やなぁ。いつの間にか次元世界で偉い立場になってて、サバタを色々サポートしたエレンと違って、うちは何にもできひんかった……。ヴァナルガンドの時も、ファーヴニルの時も、うちは何の力にもなれへんかった。うちの星読みは二度と誰かを失わないために使うって決めてたのに……! うち……うちは……好きになった男一人守れへん貧弱な魔女や……」
「あの……力にはなれていたと思いますよ、ザジさん?」
「慰めならいらんよ……」
「慰めじゃないです。サバタさんは時々ですが、世紀末世界に想いを馳せていました。それで私は世紀末世界に未練か何かがあるのか尋ねたら、一人心配な奴がいると教えてくれました。そこにザジさん、あなたの名前が出てきました」
「……」
「それでサバタさんはこう続けました。『もし奇跡でも起きてこの命が続いてくれるなら、命の限り彼女を守り続けるつもりだ』と。ザジさん……あなたはサバタさんの“いつか帰るところ”だったんです。寿命はともかく、あなたの下へ帰りたいという気持ちは、サバタさんの胸に確かにあったんだと思います。その気持ちがあったからサバタさんは最後まで道を見誤らずにいて、最終的に異次元空間に飲み込まれた私を最後の力でここに連れて来てくれた。……だから……あなたは愛されていたんです。それを伝えるために、私はここに来たんだと確信しました」
「…………なん……でや……! いまさら教えられても……どうしようもないやんか……! サバタ……サバタぁ……! 会いたい……会いたいよ……! 会って、あんたが好きやって、ちゃんと伝えたかったよぉ……! あ、ああ……わあぁぁぁ!!!!」
うずくまって号泣するザジさんを、傍にいたリタが抱き寄せる。あえてザジさん達にサバタさんの事を話さず、この世界なりの暮らしを営む選択もあったんだろうけど、彼の生き様を彼と生きた人達に伝えないのは心情的に嫌だった。だから世紀末世界に来た時点で、私はメッセンジャーの役割を担うつもりでいた。真相を聞いたらザジさんが傷つくとわかっていても、彼女が前に進むためには受け入れなくてはならない。そして……私は私で伝えた責任を負おう。
「皆さん、すみませんが私をサン・ミゲルに住まわせてください。炊事、洗濯、料理、掃除、裁縫、他にも色々こなせますので、お願いします」
「心配しなくても、サバタに救われた者を放りだす真似なんて誰もしないよ。とりあえず僕のホームに住んでもらうけど、それでいいかな?」
「はい、ありがとうございますジャンゴさん。皆さん、不束者ですがよろしくお願いします!」
こうして私はジャンゴさんのホームに定住し、皆の仕事の手伝いをする事になった。
【楽園のから騒ぎ】
~~Side of サバタ~~
ここはあの世というか、月の楽園と似た様式で作られた宮殿。そこで俺は……体育座りでとある光景を見ていた。
「クラウス……嘘ですよね? 私の知らない間に恋人を作っただなんて……」
「恋人ではなく、生涯の伴侶です。いくらヴィヴィでも、そこは間違えないでいただきたい。あなたがいなくなった後、俺は生涯添い遂げたいという女性と出会えた。あなたへ抱いていた想いも確かに本物でしたが、今や既に過去のモノ。だからこの俺にとって、あなたはもう“想い人”ではなく“お友達”でしかない」
「そんな……無理です。やっと自分の気持ちに正直になれると思ったのに、もう振り向いてくれないなんて嫌ですよ! あの時……ゆりかごに乗ってどんどん心が無に染まっていく中、私の中に最後まで残っていたのは、去り際に見えたあなたの辛い顔……それに抱いた身が張り裂けそうな罪悪感だったんです。だからこうしてまた会えた事を喜んでいたのに……!」
「そもそも先に別れを告げたのはそっちだろう? 俺やリッドの静止を振り切り、国のため、ベルカのため、世界のためだと言って、あなたはゆりかごに乗って戦乱を止めた……。ヴィヴィが為した事は確かに偉業ではあるが、それは俺達の意思を踏み越えて選択を貫いた結果だ。今更よりを戻したいと言われても、俺達が当時感じた喪失感や無力感は消えやしないし、その後に出会えた妻への想いを偽る訳にはいかない。覇王としてだけでなく死ぬまで妻を愛した一人の男として、あなたの想いに応えてはならない!」
「ま、待って下さい! 私は……もう独りになりたくないんです! 置いていかないで、クラウス!」
「置いていかないで、か……。ヴィヴィ、今あなたが抱いている感情は、ゆりかごに乗る事を決めたあなたに俺達が抱いた感情と同じだ。それを覚えてもらいたい……」
「うぅ……どうしてこんな事に……。私はこれ以上犠牲を出したくなくて、何よりあなた達の生きる未来を守りたくてゆりかごに乗ったのに、そのせいであなた達の心が離れてしまったというの……」
翠色の髪で体格の良い男性クラウスが、金髪でちょっと切ない体形をしている女性オリヴィエに背を向けて去っていくのを、オリヴィエが這いつくばる姿勢で手を伸ばし、悲しげに独白していた。その寸劇の光景を見て、ふと呟く。
「“聖王”は今でも崇められているが、よく考えてみれば生涯誰とも結ばれなかった“独身王”でもあるよな」
「ゲフゥッ!?」
ボディーブローを受けたみたいによろめくオリヴィエ。気のせいかエコーが走り、口から吐血した幻視が見えた。
「ど、独身王とは……グサッと心に来ましたよ……。正直、泣きたいです……」
「実際、私やクラウスから見たら過去の女よね、オリヴィエさんって」
「劇の内容はともかく、俺は別にヴィヴィを過去の女扱いしているつもりはないんだが……。おまえ達もあまり彼女をいじめないでくれ」
「だが本心や事実も結構混じっているから、二人とも思う所があったんじゃないのか?」
実際、寸劇の内容が内容だからオリヴィエが申し訳なさそうな顔をしているし、クラウスもノリで言い過ぎたかもしれないと後悔していた。まあ、痴話喧嘩は犬も食わないとも言うし、二人とも本気で仲違いしたい訳じゃなく、再会した時は素直に喜んでいたから大丈夫だろう。
……で、それはそうとツッコみたい事がある。
「おまえ、誰だ?」
さっきまで隣にいて寸劇が終わってからクラウスの傍に寄りそっている、マキナを黒髪にして成長させたような容姿で若干ドSな性格の女性に対して、俺は率直に尋ねた。
「ジェーン・ドゥ」
「おい、それは身元不明の女性死体に付けられる呼び名だ。いくらここにいる面子の中で俺が一番年下だろうと、ふざけられたら怒る時は怒るぞ」
「冗談冗談、そんなに気を張らないで。私はルア・イングヴァルト……クラウスの“本妻”よ」
なんか“本妻”という部分を一際強く発言してきた。そこ重要って言いたいんだろうな……。
「ああ、そうか……おまえがルアだったのか」
「劇の内容こそアレでしたけど、個人的には祝福していますよ、クラウス」
「む……ヴィヴィからそう言われると、複雑な気分になる」
「……おまえ達の関係が何となくわかったのは良いとして、とりあえずルアに確認したい。俺はクラウスと共におまえの名前が記された文献を知っているのだが、ルアはニダヴェリール出身という事で間違いないか?」
「ええ。といってもクレスと違って、元々ただの村娘だったけどね。それが一国の王に嫁ぐなんて、村で普通に暮らしてた頃は少ししか考えた事も無かったわ」
それは普通そ……ん? 少ししか? おい、少しは考えてたのか?
ただ……一般市民が王族に嫁ぐのはパッと見シンデレラストーリーのようだが、それは戦乱の時代じゃなかったらの話だ。ファーヴニルを封印した後も政や戦などに揉まれて、色々苦労したのだろう。いや、上に立つ者の器は何気に持ってると思うけど。
「ま、それはいい。ところでルアがいるならクレスもいるんじゃないかと思っていたが……どうやらいないみたいだ」
「当然ね、あの子はまだ生きているもの。死者しか来れないこの楽園にいる訳がないわ」
「そうか、クレスはまだ生きているのか…………って何だとッ!?」
「おいルア、それはどういう事だ? 俺達が死んでから優に百数十年以上経っているのに、普通の人間が生きていられるはずがないだろう?」
「あ、そういえばクラウスは知らないんだったわね……。実はあなたが最後の戦場に出陣した数日後にニダヴェリールのアクーナから手紙が届いたのよ。それによるとクレスは私達が村を出た後、しばらくしてから村を飛び出し……数年経ったある日、一人の赤ん坊を連れてふらりと唐突に帰ってきたの。村長さん達は当然彼女に事情を尋ねたけど、クレスは『ある物に迂闊に触れたせいで、簡単には死ねへん身体になってもうた。もう人の社会におられへんから、誰にも行けない世界に姿を隠すわ』と言って、彼女が産んだらしいその赤ん坊を村に預けてどこかへ姿を消したらしいわ。風の噂によれば赤ん坊はアクーナで大切に育てられて、クレスは本当に次元世界とは異なる世界へ渡ったそうな……」
「そうだったのか……しかし死ねない身体とは、一体クレスの身に何があったのだ……?」
ルアからクレスの事情を聞いて渋面を浮かべるクラウスだが、何故だか俺はこの話を聞いてから妙な感覚を抱いていた。クレスの口調、異なる世界……その部分に特に強い既視感がある。オリヴィエは話についていけずぽかんとしているが、俺はまさかな……と記憶に残る老婆を思い出し、隠れた因縁を想像して冷たい汗を流していた。
「ま、“簡単に死ねない身体”という意味では俺も同じか。ルア、もしかしたら俺とクレスには何らかの共通点があるかもしれないな」
「そうかもしれないけど情報が集められない以上、ここでは判断のしようがないわね。さて……サバタさん、私達は来るべき時に備えて、あなたを徹底的に強くするための協力をさせていただきます。理由は私達が言わなくとも、既にご存知でしょう?」
「まあ、具体的にわかっている訳じゃないが、一応な」
「別に言葉で表してもらう必要は無い。今は漠然とわかっているだけで十分だ。長く厳しい稽古になるが、最後まで付き合ってもらうぞ」
「私は少し特殊な立ち位置ですけど、鍛錬のサポートなら任せてください。これでも聖王を名乗る身、武術や魔法の指導は脳筋のクラウスよりわかりやすく出来ると自負しています」
「人の旦那を脳筋と言わないでもらいたいわね、永久独身胸ぺったんこ王」
「グハァ!!? ……いいもん、現世でどれだけ崇められてようとも、ゆりかごに乗った時点で私が永遠にぺったんこでぼっちだってわかってるもん。……ぐすん」
どんどん不名誉な肩書きが増えて、オリヴィエは隅っこでいじけてしまった。見かねたクラウスが、すかさず彼女をフォローする。
「大丈夫だ、ヴィヴィ」
「クラウス……ああ、やっぱりあなたは私の事をちゃんとわかって……!」
「うむ! 大平原こそ人の安住の地だ!!」
「どういう慰め方ですかぁ!! うわぁ~ん!!」
「あ~あ、トドメ刺しちゃった。死んでもクラウスのデリカシーの無さは変わらないままだったわ」
なるほど、昔からクラウスはこういう奴だったのか。でも……彼女、何だかんだでいじられるのを喜んでいる節があるんだよな。ゆりかごで他人と接する機会が無いまま命尽きたから、内容がどうであれ、会話出来る今を楽しんでいるのは間違いない。
という訳で俺は彼女の肩に手を置き、告げる。
「心配するな。あの聖王が実は被虐好きでも、俺は見捨てたりしない」
「それはありがたいのですが私、ドMじゃありませんよ!?」
「いや、わかってるから皆まで言うな。フェイトにも似たような所があったから、隠したがるのもわかる。だが自分の気持ちに嘘をついてると、いつか取り返しがつかない事になるぞ」
「なんでそんな、『否定してるけど実はそうなんだろ?』みたいな、理解してるようで理解してない事を言うんですかぁー! あと自分の気持ちに嘘をついて取り返しがつかない事は、もうとっくになっています! というか皆、どうして私ばっかりいじるんですか!?」
「面白いからです」
「可愛いからだな」
「悦んでるからさ」
「皆いじわるですぅ~!!」
オリヴィエはそう言うが……打ったら響く性格なのも原因の一つだと思う。ま、何だかんだで愛されてる証拠だろう。実際、王族の気品を気にしなくてよくなった彼女を見て、クラウスは昔シュトゥラにいた頃の太陽のような彼女との生活を思い出して微笑んでいるからな。
――――しかしクラウスとルアが笑った瞬間、この辺りにある音が響き渡る。
『デデーン! クラウス、ルア、アウトー!』
「なッ!? こ、この声はまさか!?」
奇妙な声が聞こえた直後、クラウスが酷く狼狽し始める。そして宮殿の中から、黒髪の男装した女性がスポンジ棒を手にやってきた。
「ま、待てリッド!? これは一体どういう仕打ちだ!? おまえがそれをやったら冗談じゃ済まな――――(バシンッ)んがァッ!?」
「ふふ、潔く罰は受けるわ。さあ、カモンッ!! (バシンッ)うおぅ!?」
おお、見事な一振りだ。
なぜか怒気を滾らせながら、無言で現れたヴィルフリッド・エレミアは容赦のない鉄腕パワーでクラウスとルアの尻をスポンジ棒で振り抜き、ロケット弾のようにぶっ飛ぶ二人を尻目に無言で宮殿へ帰って行った。実は俺がここで目覚めた時に最初に会ったのが彼女なんだが、どうもイングヴァルト夫妻に対しては辛辣な態度を取る事が割と多い。さっきの尻叩きも、彼女が夫妻にだけ行っている意味のわからない罰だ。
というかスポンジ棒なのに、なぜあんな威力が出るんだ? スポンジの存在意義がわからないし、明らかに威力過多じゃないか? 真相は不明だが、これだけははっきり言える。エレミアの機嫌は絶対損なわせない様にしよう。
「ふぅ……相変わらずリッドの奴は容赦がないな」
「私にとっては、エレミアさんのああいう所も可愛いと思うわ」
「男に可愛いって言うもんじゃないぞ。俺はともかくルアには少なからず手加減してやっても良いだろうに……」
「クラウス……今になってもまだ勘違いしているのね……」
あれだけ豪快にぶっ飛んだのに傷一つなく夫妻が帰ってきた。頑丈な所は似たモノ同士か……。
「そういえばルアさん、あなたはクラウスのどこを気に入ったんですか?」
「そうねぇ……すごく単純で手綱を握りやすい所かしら。頑張ったらご褒美をあげるわよって言えば、クラウスったらもうそれはそれは……うへへ……」
うっとりした顔で女性が言っちゃいけない台詞を口走るルア。尋ねたオリヴィエも若干ドン引きしていた。
「そ、そうですか……。……仮にも覇王を飼い犬扱いですか……クラウス、強く生きてください」
「まあ、あんな風に不器用ながらも素直で責任感の強い性格に惹かれたのも事実ですけど」
「チクショウ! 最後、惚気やがった! 独身王の私への当てつけかぁ!!」
おい、口調変わってるぞオリヴィエ。それと独身王をとうとう自称しちゃったじゃないか。それとルアだが、やはり文献の印象は信用しない方が良さそうだ。
「で、クラウス。おまえはさっきから何をしているんだ?」
「“かめはめ波”を撃つ特訓」
「そ………そうか。ここを壊さない程度に頑張れよ……」
「承知した」
クラウスなら本当に撃てそうなのがベルカ人らしい。戦乱云々言われてるけど、ベルカって……実は残念な世界だったのか?
「断じて違うと否定させてください!」
エレミアの必死なツッコミの声に、これまでの多大な苦労が滲んでいる気がした……。周囲の喧騒を置き去りに俺は天を仰いで、願った。いつか帰るところに帰るために……。
【最強の装備】
~~Side of アリシア~~
「さぁて……どれにしよっかな?」
私は地球のとある筋から手に入った様々な道具の前でぼやいていた。簡単に経緯を説明すると、管理局の認定する魔法が使えない私は当然のことながら非殺傷設定も使えないため、質量兵器には含まれない程度の護身用武器を探していた。例えばトンファーやヌンチャクなどといった、刃物や銃器でない武器も探せば色々あるわけだ。
そんな訳でとりあえず適当に集めてみた所、地球でなんか色々手に入った。何年も前に作られた旧式だけど振るえば伸びる青い棒、弾が無限のパチンコ、回すと爆走するフラフープ、爆発するラジコン、明らかなネタ装備など。ちなみにサルをゲッチュする網は地上本部勤務の謎の秘書が気に入って持って帰ってしまったため、ここには無い。
そしてそんな中で、一際強い異色を放つ一品があった。見た目はただの青い掃除機、しかし性能は1メートルぐらい先の物でも簡単に吸い取れる強力な吸引力を誇っている。更に砂漠の熱砂にも水中にも毒沼にも爆発にも耐え、2001もの布を吸い取っても尚、一度も故障しない頑丈さもある。要するに、長期使用における信頼性はピカイチである。
「うん、まあ吸い取る対象がアレだけど……これが一番使いやすそうだね!」
そうして私は“ヌゲッチャー”の新たな使用者として、以後私の相手をする者は老若男女、魔導師ランクも一切問わずパンツを吸い取られて掃除機の後ろに吊るされ、引きずられながら周りに見せびらかせられるのであった。本局期待のエースであるなのはもこれだけは非常に嫌がるため、ある意味最強の装備だと周囲は認知していた。
ちなみに……、
「HA・I・TE・NA・Iには効果が薄いんだよね……」
「え? 姉さん、なんでそんな憐れむような眼で私を見るの? 一体どうしたの?」
「ううん、何でもないよ。でもフェイトはもう少し危機感を持った方が良いと思う。何というか……おっきなお友達的に」
「え? え??」
結局、巡り巡って我が妹が最強であった、と結論付けた。ちなみにヌゲッチャーはかさばるので、常時持ち歩くには不便だった。そのため普段はゴム弾を発射するバナナピストル、手榴弾のように使うパイナップルボム、地雷のように使うスイカボムを携帯する事にした。シュールな装備だけど、世界を救った実績はあるらしい。
後書き
ガチャメカ:サルゲッチュの装備。今の所一発ネタで登場させただけなので、今後は出ないと思います。(ただしヌゲッチャーとゲットアミは除くかもしれません)
バナナピストル、パイナップルボム、スイカボム:メサルギアソリッドの装備。ちなみにバナナでホールドアップ、はMGSPWで出来ます。
とりあえず続編はこのまま投稿していく事に決めました。
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