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大海原でつかまえて

作者:おかぴ1129
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番外編
  友に花道を

 
前書き
タイミング的には朝食時に、
岸田と提督が執務室に戻った頃です。
その時の執務室の様子って具合ですかね。 

 
『提督! ミョウコウがスナイプされて大破したわ!』
『赤城さん避けて!!』
『キャアッ?!』
『赤城さんもやられました!』

 提督と朝食を食べるために食堂に言った途端大淀さんに呼び戻され、執務室に戻ってきたら……この惨状は一体何だ。無線機から聞こえてくる救援部隊のこの痛々しい悲鳴は一体何だ。
 提督が瞬時に顔を切り替え、無線機のマイクを握りしめる。俺もこっちで食べようと思って持ってきた二人分の朝食をテーブルに置き、提督と救援部隊の無線のやり取りに注意した。

「落ち着け。何があった」
『提督! 私達の索敵範囲外から魚雷でスナイプされてるわ!』
「奇襲か? 異変はなかったのか? 敵は赤城の索敵網を抜けたのか?」
『分からない……だけど少し前に潜水艦隊と遭遇して、相手ができないからやり過ごしてきたの!』

 提督と俺の顔から血の気が引いた。救援艦隊のいる海域では、今までカ級やヨ級といった潜水艦タイプの深海棲艦が確認されたことは一度たりともなかった。だから提督は、火力を優先して重巡洋艦4名と戦艦1名、正規空母1名の編成を組み、俺もそれを正しい判断だと肯定したのだ。

 ところが、今目の前で繰り広げられているこの惨状は何だ。ありえない海域にありえない編成の敵がいて、俺たちの自慢の艦娘たちが、潜水艦ごときに次々大破させられている。

「……やむを得ん。救援艦隊は全速力で帰投しろ。これ以上の損害を出すわけにはいかない」
『でも提督! そうしたらヒエイは?!』
「比叡も大切だがお前たちも大切な仲間だ。いいから戻れ」
『Scheisse!! ……分かったわよ。救援艦隊、これより帰投するわ』

 ビス子が悪態をつき、通信が乱暴に終了する。提督は無線のマイクを投げ捨て、執務室に『ガシャンッ!!』という機械の破壊音が鳴り響いた。

「……岸田、作戦は失敗だ」
「そうだな」

 提督からの雪辱の報告を聞き、俺は腸が煮えくり返る思いを必死に抑え、努めて冷静に答えた。
 
 昨晩シュウと別れた後、俺は提督、大淀さんと一緒に司令室で今後の作戦立案と救出作戦の補佐を頼まれた。つまり、大淀さんから罵倒をもらえるというのは方便だったわけだ。なんでそんな回りくどい頼み方をしたのか聞いてみたところ……
 
――だって、その方が『隠れた実力者』って感じがしてカッコイイだろ?
  キリッとしたところはわざと人に見せないんだよ。

と確実にこちらの琴線に触れることを言ってきた。ちくしょう。さすが俺の分身なだけあって、俺が喜ぶツボを知っている。

 昨日の段階で、俺はビス子たちと通信で会話をしている。
 
『提督の分身であるあなたもいるとは心強いわ。これからよろしくね』

 ビス子にそう言われてまだ数時間しか経っていない。それなのに、俺は何も出来なかった。彼女たちの期待に応えることが出来なかった。

「……なあ岸田。俺の編成は間違っていたか」

 間違っているはずがない。あの海域であの編成なら、普通に考えればお釣りが来るぐらいだ。ゲーム的にいえば、1-1の海域にフル装備フル編成の艦隊で闘いを挑むようなもの。艦これのゲームをやっている者であれば、今回の提督の采配に異を唱えるものはいない。

 今回がレアケースだったのは、潜水艦が確認されなかった海域で、潜水艦隊に遭遇したからだ。潜水艦はシッカリとした対策が取れていればそこまでの脅威はない。だがまったく対策が取れてない状況で遭遇した場合は危険度が跳ね上がる。しかも相手はこちらの索敵範囲外からつかず離れずの距離を保ち、破格の破壊力を持つ魚雷で正確無比なスナイプを行える猛者中の猛者。雑魚一匹だけだと思っていた1-1に北方棲姫とレ級X5が待ってたようなものだ。

 間違ってはいない。俺たちは間違ってはいなかった。ただ、相手が一枚上手だったのだ。

「提督、反省を踏まえて、第二陣を早急に編成する必要がある」
「そうだな。力を貸してくれるか岸田」
「もちろん。叢雲たんに会うまで、助力は惜しまない」

 かくして、提督と大淀さん、そして俺の作戦会議が始まる。ビス子たちの屈辱の敗戦を無駄にするわけには行かない。彼女たちの無念を、俺達が昇華してみせる。

「対潜特化部隊の夕張と大淀を中心として編成するのはどうだ? 提督はどう思う?」
「私ですか? もちろん構いませんが……」
「ダメだ。大淀はまだしも、夕張は対潜水艦戦では鬼の様に相手を撃沈するが、続く艦隊戦まで体力が続くかどうか……複数回戦闘になると、どうしても装甲面と回避において夕張は難がある」

 提督と俺、そして大淀さんとの話し合いの中で、着々と部隊編成が出来上がっていく。火力担当と手数増加要員として戦艦の金剛。偵察と航空戦要員として加賀。先制雷撃要員として木曾とゴーヤ。ゴーヤは敵編成に駆逐と軽巡がいた場合の囮役も兼ねている。そして対潜要員とマルチロールを兼ねた球磨。この五名は割とすんなりと決定した。

「あと一人。確実に比叡を救出するために必要な要因か……」
「誰がよいでしょうか……」

 提督と大淀さんが頭を抱えている。

 俺は、ここで違和感があった。俺にはひとつ案がある。そして俺の分身である提督が、これに気が付かないはずがない。

「提督」
「ん? どうした岸田。何か案があるのか?」
「ある。そして提督もあるはずだ」

 提督の顔色が変わった。やはり思いついているか。

「……案があれば、こんな風に悩んだりしないさ」

 なるほど。あくまで提督は口に出さず、その案を封印するらしい。

「ならば言わせてもらうぞ提督」
「おお。何だ言ってくれ」
「俺とシュウを編成しろ」
「却下だ」

 俺の案を聞いた途端、提督は即座にそれを否定する。逆に言えば、俺と同じ結論に提督も辿り着いていたことの証拠が、この即座の否定だ。

「提督もシュウを編成することを思いついていたはずだ。違うか」
「……」
「え……橋立様をですか? 彼は戦えるのですか?」

 大淀さんが不思議そうな顔をして俺にそう質問する。彼女の疑問はもっともだ。当たり前だがシュウは艦娘ではない、ごく普通の人間だ。何か特殊な訓練を受けているわけでもない。格闘技を習っていた訳でもなければ、喧嘩慣れしているわけでもない。かといって、俺のように艦これのゲームシステムを熟知しているわけでもない。ごくごく普通の中学生。それがシュウだ。

「いや。シュウは戦えません。ごく普通の中学生です」
「ならばなぜ橋立様を編成しようというんですか?」
「シュウ自身は戦えません。ですが、シュウになら、比叡に届けられるものがあります。いわばシュウは、比叡を蘇らせる最後の切り札です」
「岸田。それ以上はよせ。シュウは出撃させない」

 俺の説明を提督が制止し、大淀さんが困惑した表情を浮かべた。先ほどから空気がピリピリと肌を刺すように痛い。俺と提督の間で、険悪な雰囲気が流れる。

 しばらく困惑していた大淀さんだったが、やがて彼女はハッとした表情を浮かべた。俺がシュウに何を託そうとしているのか気付いたようだ。

「……ケッコンカッコカリですか?」

 そう。ケッコンカッコカリ。システム上、ケッコンした艦娘はダメージが全快し、どれだけひどい損傷を受けていたとしても、入渠が不要になる。あとは現地で補給を行えば、比叡は問題なく戦闘続行可能だ。複数回戦闘において、途中で無傷のリザーバーが一人入ることがどれだけのアドバンテージになるかは、想像に難しくない。

 俺は以前、比叡とケッコンカッコカリをしようと指輪を渡したときに拒否された。彼女にとって、俺=提督は、指輪を受け取るほどに慕う人物ではない。比叡にとってその人物とは……恐らくシュウ。相手がシュウなら、彼女は指輪を受け取るだろう。

「提督、橋立様にこの話をして編成に入ってもらいましょう。確実を期すために」
「黙れ大淀。シュウは編成要因に加えない。岸田、キミもだ」

 提督が強硬に反対するのは容易に想像出来た。もし俺が彼と同じ立場なら、きっと俺も反対するだろう。

「なぜですか? 確実を期すにはこれが一番よいかと思いますが……」
「大淀さん。提督が認めないのには、理由があるんです」
「理由……ですか?」

 俺と提督は一心同体だ。だから提督が強硬に反対する理由も分かる。彼が反対する理由は、シュウが向こうの世界の住人であり、深海棲艦の渡航設備を使ったあきつ丸に連れられてこちらの世界に来たということだ。

「シュウの目的は比叡の救出だ。そして深海棲艦の渡航設備は、“目的を達した時、元の世界に戻る”ように設計されている」
「黙れ岸田。出て行け。キミと作戦を考えようとした俺がバカだった」
「シュウが救出部隊に加わるということは……比叡に指輪を渡すということは、すなわちシュウが彼女を救出するということだ。つまりシュウは……」
「黙れと言ったはずだ!!」

 提督が激昂し、俺の襟をねじり上げ、自分の顔を俺の顔に近づけた。息が荒く、顔が真っ赤だ。相当に頭に血が上っている。

「提督! 落ち着いて下さい!!」
「落ち着いてられるか大淀!! ……分かった。言えよ岸田。もしシュウが指輪を渡せばどうなるかを大淀に教えてやれ!!」
「……指輪を渡してケッコンが成立した途端、恐らくシュウは、この世界からいなくなる」
「そんな……」

 そう。この作戦には、たった一つの欠点がある。もし本当に渡航設備によって世界を渡った者が元の世界に戻るトリガーが“目的を達する”ことであれば、シュウは比叡に指輪を渡した途端、元の世界に戻ってしまう可能性が高いのだ。

 提督は俺の襟をねじり上げる両手の力を抜かず、むしろどんどん力を込めていく。提督の怒りが空気を伝わって俺の肌にまで突き刺さってくるのが分かる。

「岸田、キミはよくそんな風に平然と残酷なことが言えるな」
「目的を達成するためだ。比叡を助けるためだ」
「助けるためなら、どんなことでもするってのか! 手段は選ばないのか!」
「それが提督じゃないのか」
「……ッ!!」

 掴んでいた俺の襟から両手を離し、提督は俺に背を向けた。提督は俺の分身。俺と提督は一心同体。だから提督も同じことを思いついたはずだ。にも関わらずそれをあえて避け、別の手を講じようとするのは、提督が優しいからだ。提督が、いかに比叡をはじめとした艦娘たちを大切に思っているかがよく分かる。

「……岸田、キミは……キミたちの世界から戻ってきてからの比叡を知らないからそんな残酷なことが言えるんだ」
「……」
「キミたちの世界から戻ってきた比叡は、いつもうれしそうにシュウのことを話していた。事あるごとに自慢の弟としてみんなに話し、口癖のように“みんなにも会って欲しいな~”と言っていた」
「……」
「金剛からの報告では、夜にバットを眺めて落ち込む日もあったそうだ。夜、外で夜風にあたりながら泣いてた日もあった。俺は直感したよ。比叡は、向こうの世界で出会った弟のことを愛していると」
「そうか」
「お前たちの世界に行くと決まった時から、比叡はシュウに会うことをとても楽しみにしていた。あんな比叡は見たことない。それまでも楽しそうに毎日を過ごす子だったが、ここ数日はそれに輪をかけて元気だった。俺はそれを間近で見ている」
「……」
「お前はそんな比叡を見てないから、比叡からシュウを奪うようなことが平然と言えるんだよ!」

 ほら。提督はこういうヤツだ。シュウとの再会を楽しみにしていた比叡のために反対してくることは、容易に想像できた。

 でも、それなら俺も提督に言いたいことがある。

「提督、俺はシュウとの再会を頼みにしている比叡のことは知らない」
「そうだろう。比叡からシュウを奪うことは俺が許さんッ!!」
「なら聞くが、提督は自身の姉と別れた後のシュウを見たことがあるか?」
「それは……」

 シュウが入院していた時、俺は自分の鎮守府で起こったイレギュラーな事態をシュウに見せるべく、ノートパソコンを片手にシュウのお見舞いをしたことがある。

 その時シュウは、比叡のグラを見た途端……比叡が“私の弟”と口走った途端、ボロボロと涙を流していた。向こう側の比叡に触れたいかのように必死にディスプレイを撫で、優しく小さな……でも泣き叫んでいるかのような悲痛な声で、必死に語りかけていた。

――姉ちゃん……返事して……姉ちゃん……

 その後、シュウは時々うちに来ては艦これのゲーム画面を見たがるようになった。執務室の画面で秘書艦を比叡にしてやると、あいつは必死に、何度も比叡をクリックした。何かを期待するかのように比叡をクリックしては落胆し、俺にバレないようにこっそり泣いていた。

 そしてシュウは、時々神社でずっと空を見上げるようになった。何かあったのか聞いても……

――いや……なんか色々分かる気がするから。ここに来ると。

 そう答えるだけだった。

 その時は変なやつだと思っていた。でも、今ならあいつが何を考えていたのか分かる。アイツは神社で、比叡を思い出していたんだ。表面上は取り繕っていても、彼女を求め続けていたんだ。彼女と自身をつなぐ絆を探していたんだ。

 今回の再会を待ち焦がれていたのは、比叡だけではない。シュウも待ち焦がれていたんだ。比叡と会いたかったんだ。比叡がシュウを愛しているのと同様、シュウも比叡のことが好きなんだよ。

「そこまで分かってて、なおシュウに指輪を渡せと言えるのか?! お前はそこまで想い合ってる二人を引き裂くのがそんなに楽しいのかッ!!」

 提督が、さっきまでの怒りにさらにブーストをかけてそう言う。俺と一心同体だというのに、まだ俺の気持ちが読めないのか。

「逆だ! 親友に惚れた女性がいるんなら、その手助けをしたいと思うだろう!!」

 提督がハッとする。やっと俺の真意に気付いたか。自分の分身にここまで言わせるんじゃない……恥ずかしいだろ……

「友人に惚れた女がいる! 今その女は大ピンチ……今が会う最後のチャンスかもしれない……ケッコンするチャンスが今しかないんだとしたら、させてやりたくなるだろう?!」
「……」
「提督だって同じはずだ! 大切に思う仲間と、その仲間が惚れている男がいる! そして、今が過ぎてしまえば、その二人がケッコンするチャンスは今後巡って来ないかも知れないとしたら……今ケッコンして欲しいと思うだろ!! 思わないのかッ!!」

 提督がこちらをものすごい顔で睨む。俺を殴りたい衝動に必死に耐えているのかもしれない。拳に力が入り、ワナワナと震えているのがよく分かる。殴りたければ殴れ。おれは絶対に引かない。

「大淀さん」
「は、はい」
「昨晩俺たちが鎮守府に到着する前、提督から明石へ、ケッコン指輪の申請依頼があったはずだ」
「え……」
「時間的には、俺たちがこっちの世界に到着した頃。恐らくあきつ丸から無線で到着報告を受けた直後ぐらいのはずだ。明石に確認してみてくれ。その頃、司令部へのケッコン指輪の申請があったはずだ」
「わ、分かりました」

 大淀さんが工廠に内線を繋ぎ、明石に確認を取ろうとした時、大淀さんを提督が制止した。

「確認しなくていい。確かに俺が申請した」
「やっぱり……俺ならそうすると思ってた」
「あれだけ楽しみにしていた比叡をずっと見ていたから、シュウも来たと報告を受けた段階で、比叡のために指輪を一つ準備してやろうと思ったんだよ。もしシュウが望めば、二人をケッコンさせてやろうと思っていた」

 そう。提督も本心では二人にケッコンして欲しいんだ。今回はたまたま状況が特殊なだけで、何もなければ提督は、シュウと比叡をケッコンさせようと思っていたはずなんだ。俺の分身なんだから。

「だけどな。状況が状況だ。こんな状況の中で、二人をケッコンさせるわけには行かない。せっかく出会えた二人が引き裂かれるのは見えている」
「俺はこんな状況だからこそ、二人はケッコンさせてやるべきだと思ってる。たとえ指輪を渡さずとも、引き裂かれる可能性はゼロじゃない。ならば賭けたほうがいい。……それに、二人の仲に遠慮した結果比叡が轟沈してしまえば、それこそ俺はシュウに顔向け出来なくなる」

 ここまで言っても提督は引かないが、俺も引く気はまったくない。何が何でも比叡は助ける。どんな手段を使ってでも比叡を生還させる。そのためのシュウであり、ケッコン指輪だ。
 言ってみれば、おれが強硬にシュウを伴って比叡を助けに行こうと主張するのは……どんな手段を使ってでも比叡を助けようとするのは、全部シュウのためだ。俺はシュウに幸せになって欲しいんだ。泣きながらモニターを撫でる親友の姿は、もう見たくない。

「……金剛に応急修理女神を持たせ、それを比叡に渡すのはどうだ」
「駄目だ。あれは艤装に装備してはじめて意味を成す。今の比叡の艤装に装備枠の余裕はないはずだ。おれは比叡の装備枠に余裕をもたせた覚えはない。違うか?」
「確かにそうだ……シュウはどうやって同行させる気でいるんだ。お前のプランは?」
「船を1隻準備してくれ。俺がその船を操縦して、シュウを運ぶ」
「キミは身の安全の確保のためにこっちに来てるんだぞ」
「俺は提督の分身だ。自分の艦隊指揮が信じられないのか? 絶対に助けてみせる」
「……チクショッ……俺の分身ならもっと扱いやすいヤツだと思ってたのに……」

 提督が困ったように頭をボリボリ掻いて抱える。逆だよ提督。提督の分身だから扱いづらいんだ。

「……正直に言え岸田。シュウと比叡をくっつけるためだけに同行するわけじゃないだろ」

 バレたか。確かにシュウと比叡の二人を結ぶ手助けをしたいという気持ちは本当だ。でも、シュウばかりにカッコイイことはさせてられんのだ。俺だってみんなの役に立ちたいのさ。そしてみんなともっと仲良くなりたいんだよ。カッコ悪いからこんなこと言えないけど。

「ニヤニヤ」
「ん? ……まあいい分かった。漁船ぐらいの大きさの特殊艇“おおたき”ってのがある。それを夕張と明石に準備させよう。何か要望はあるか?」
「あとで直接夕張と明石に伝える。ちょっと要望多いからな」

 よし。提督が飲んだ。

「それから、シュウへは指輪が届き次第、俺が伝える。提督としての責任だ」
「そうか。本当は俺が伝えたかったんだが……分かった。頼む」

 これでお膳立ては終わった。これで比叡は確実に助けることが出来る。いよいよの時は、シュウが比叡に指輪を渡してケッコンすればOKだ。

 仮に二人が離れ離れになるとしても、比叡が轟沈するよりはいい。そしてケッコンすれば、二人の絆は形になる。それは必ず二人を引き合わせる。俺はそう信じている。今回、あきつ丸を通して比叡に導かれるように、俺とシュウがこっちの世界に来たように。

「……いいか岸田。二人を引き裂く危険性と引き換えの作戦だ。絶対に成功させろよ」
「分かってる。絶対に失敗はしない。比叡は必ず救ってみせる」

 シュウ、花道は作ってやったぞ。あとは比叡たんとどうなるかはお前次第だ。悔しいけれど、やっぱり隣でお前を見てきて、比叡たんのケッコン相手はお前以外にいない。

 きっと今日、お前は一生分の悩みを抱えることになるだろう。でも大丈夫だ。お前には味方が大勢いる。俺もお前たちにケッコンして欲しいけど、最期に決断するのはシュウなんだ。俺は、お前がどれだけ落胆していたかを見てきた。もう見たくないんだよ。絶望の顔でディスプレイの比叡たんを必死にクリックする友達の姿なんて。たとえ離れ離れになったとしても、絆が出来ていれば、そんなことはもうしなくていいはずだ。

 提督が無線機のスイッチをひねる。鎮守府内に施設内放送のチャイムが鳴り響き、提督はシュウと金剛ちゃんを執務室に呼び出した。

「岸田」
「ん?」
「……やっぱキミは、俺の分身だな。考えてることが全部筒抜けだった」
「なんせ俺は、叢雲たんチュッチュ提督の名付け親だからな」
「その名前、なんとかしてくれよホント……」

 そう言って提督は苦い顔をする。残念ながらもう変える気はない。艦娘のみんなにも定着してるだろうし。それに最近、妙に愛着が湧いてきたところなんだ。

閑話休題。 
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