破壊ノ魔王
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一章
5
ゼロが天へと舞い上がり、軍の飛空挺はすぐにそのあとを追った。飛空挺は素早く機動力に優れている。その代わり、船ほど高火力の武器を積むことはできない。大きな空母となると話は別だが、それではゼロのスピードに追い付くどころか、あっという間に背後をとられてやられてしまう。小型の飛空挺で、ちいさく小回りをし、翼を持つ悪魔に並んで飛ばなければならないのだ。スピードも機動力も叶わない悪魔を相手に
しかし、軍の技術も進む。最新型の飛空挺は、スピードも申し分なく、船内に人数をおくことによって、機動力も射撃の命中力も上がった。ゼロを仕留めるために日々磨かれている技術だが、それを嘲笑うかのように、ゼロは高い所から悠々と見下ろし、身の丈を越すくらいの黒く大きな翼が、空は俺のものだと言うように堂々と空に広がる
深紅の眼は獲物をとらえた
「撃てー!!」
全方位、あらゆる所から弾を放つ飛空挺は、真上にいるゼロにも発砲できた。ゼロを囲むのは5機の飛空挺。それらが一斉に射撃をおこなったのだ
逃げ場なし
まさにそう思える状況。しかしゼロは舞うように弾を避けていく。避けながら加速し、鋼鉄化した爪を一気にふりおろす。狙うは飛空挺の翼。一機の飛空挺がいきおいでくるくると回転し、煙を吹きながらゆっくりとだが確実に落ちていく。ゼロの動きは止まらない。乱射される銃弾に見向きもせずに次のターゲットに向かう。乗った飛空挺に足をかけ、少し動かす。それだけの行為だ。しかし、その飛空挺から発射される弾は正確に他の飛空挺を貫いていく。
戦場は言うまでもなく、悪魔一人に支配されていた
「だからダメだっていったのに」
「まぁそういってやんな。あいつらにもメンツってもんがあるのさ」
「メンツって……死ぬほど大切なのものじゃないと思うけどなぁ」
少し離れた所の飛空挺。小さな一機だ。その一席に座る白い髪の青年はゼロが戦う様子をじっと見ていた。
「ゼロはあれじゃ倒せない。体力は削れても捕まえることなんて到底不可能」
「だからおまえがいるんだろうが。ほら、もう扉は開けてあるから行ってこい。オレははやくあいつから離れたい」
「うん、わかった」
おもむろに立ち上がった彼は扉のもとへ歩き、そのまま身を投げ出した。
「!」
ゼロの厳しい目線が光る。夜の闇に紛れた白いなにか。夜にいきる彼の赤い目は確かにそれを捕らえた
「ちっ、もう来やがったか」
ゼロは即座に翼をうちならし、軽々と飛空挺の間を通って、そこを突破した。
「んー、スピードじゃ敵わない」
不思議なことに青年の白髪は強風にあおられはしない。ふわりふわりと揺れるだけ
青年はゼロの方へ手をかざした。おもむろにゆっくりと。
なんでもないその行為は、ゼロの翼をメキメキと音をたてて潰したのだった。
「っつ!!」
「ゼロが早いせいだ」
今度は手を下へふりおろす。すると、あり得ない速度で、ゼロは急降下し、海へと落ちた。あまりにもあっけない。一瞬の出来事だった
「おわったかー?」
飛空挺からめんどくさそうな声が響く。
「あれ、帰ったかと思ったよ。ヴァン」
「帰りてぇけどお前を連れて帰らねぇといけねぇんだよ、オレは。ほっといたら何処までいくかわからねぇ」
「方向音痴なんだ、おれ」
「ルーク、おまえのは度をこえてる。そろそろ理解しろよ」
青年の名はルーク。飛空挺を操縦するのはヴァンという。軍のなかでも最強の刺客と、最速の飛空挺乗りだった。
「むかえにきてくれたのは嬉しいけど、まだだよ」
「は?ここどんだけ深いと思ってんだよ。深海魚でもなけりゃ生き残れねぇって」
「うーん、でも相手はゼロだからなー」
そのときだった
海から激しく波しぶきがたち、低い音が轟いた
ヴァンは顔を青ざめてすぐさまその場から去り、ルークはぼんやりとしていた目を少しだけ輝かせた
そこにいるのは悪魔
禍々しい闇をまとったゼロだった
「……わーお。海水ぜんぶ破壊しちゃったの?」
「全部じゃねぇよ。多少濡れた」
「ほんと、おれがいうのも何だけど……反則くさい。そんなに濡れたくなかった?」
「あ?なにが反則だよ。お前には言われたくねぇな。重力野郎」
傷ついた翼はバキバキと音をたて、それでも空を飛ぶ。海を破壊した闇は消え去っていた
「もーすぐ、夜が明けるよ?ゼロ。今日はおれが勝つんじゃない?」
「ありえねぇな」
「ふーん。なんで?」
「勝負なんざする気がねぇから」
ゼロの闇が集まる。深紅の眼で笑う姿は人に恐怖を与えた。
しかし、ルークは無表情のまま、こくんと頷いた
「わかった。じゃ、おれはゼロを逃がさないようにがんばるよ」
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