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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―飛翔せし機械竜―

 廃寮での吹雪さんとミスターTとのデュエルを終え、吹雪さんを保健室まで送り届けた俺は、早速アカデミアをさまよっていた。身体には確かに先のデュエルの疲労感が残ってはいるが、いつまでもそう言っている訳にもいかない。

 俺の目的は、異世界で自分が起こしたことを謝ること。謝って許されることではないが……それでも、そうしなければ俺は先に進めない。しかし保健室で休んでいる吹雪さんから、『明日香のところに行くのは後回しにして欲しい』と頼まれてしまっていた。

 義兄の言うことは聞くべきだ――と言ってきた吹雪さんの言葉を、人生の先輩からの言葉として受け取っておくとして。他の人物も、プロとして今も活動している筈のエドに亮は、今からというのは難しい。ならば残るは――

「――翔!」

 ――異世界で邪神教典-疑を埋め込まれており、エクゾディアのために命を狙うことになってしまった丸藤翔。自分と同じ青色のオベリスク・ブルーの制服に身を包み、こちらを驚いたように見つめる彼には、邪神教典の影響などは残っていないことが分かる。

「大丈夫なの? もう歩き回って?」

 オベリスク・ブルー寮近くの森林。オシリス・レッド寮にいるかと思ってそちらを探していたが、どうやら最近、翔はそちらには行っていないらしく。出来るだけ知り合いには会わないようにしながら、何とか翔のことを探し当てることが出来た。

「ああ。この通り。翔……その、すまない!」

 何と言うか迷っていた挙げ句の果てに、シンプルに謝罪の言葉を言い放って頭を下げる。翔は突然の俺の行動に面食らっていたようだが、頭を下げようとしない俺を見て、異世界のことだと察したらしい。

「……いいよ。僕が同じ立場だったらそうしたかもしれないし……いや、僕はそんな道すら選べなかったんだ」

 邪神教典の影響で誰も信用出来なくなった翔は、十代や他のメンバーの行動を最後まで見守る傍観者となることを選んだ。何も自発的な行動を起こすことはなく。

「僕があの時、アニキを信じられてたら……もっと。だから、謝りたいのは僕の方だ」

 それでも、どうしても謝りたいなら――と、翔は俺の眼前に一つのデッキを見せてきていた。そのデッキボトムにあったモンスターは、《サイバー・ドラゴン》。言わずもがな、丸藤亮ことカイザーのエースカードだった。

「……兄さんはデッキとディスクだけを持って姿を消した。サイバー流を表裏ともに極める、って言い残して」

 沈痛な面もちで語る翔の言葉から、俺の脳裏に異世界で俺のエクゾディアを破った裏サイバー流のことを思いだす。しかしその後、アモンが操る真のエクゾディアの前に敗北した……ならばと、次は神をも打倒するべく亮は武者修行に出たという。

「これはその中でも、兄さんが僕に置いていったカード。兄さんの考えてることはよく分からないけど……兄さんが帰ってくるまで、僕も《サイバー・ドラゴン》が使えるくらい、強くなりたい!」

「なら……」

 するべきことは一つしかない。俺と翔は両者ともにデュエルディスクにデッキをセットし、どちらからともなく少し離れると、デュエルの準備を完了させる。

『デュエル!』

遊矢LP4000
翔LP4000

「俺の先攻!」

 デュエルディスクが指し示すのはこちらの先攻。異世界との戦争に備えてのルール整備により、こちらの世界においても先攻でのドローは禁止となっている。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

 先手を取るのは迷いなく機械戦士のアタッカー、《マックス・ウォリアー》が攻撃表示で召喚される。こちらのデッキが新しく変わったように、翔のデッキも新たなものとなっている。ひとまずは様子見だ。

「僕のターン、ドロー! ……よし、《融合》を発動!」

「いきなりか……」

 先手に前触れなく発動される魔法カード《融合》。翔のデッキも十代程ではないにしろ、《融合》によって現れるモンスターは直前にならなくては予想がつかない。

「僕は《ドリルロイド》二体を融合し、《ペアサイクロイド》を融合召喚!」

 《ドリルロイド》が一度バラバラになったかと思えば、二対の自転車へと融合を果たす。その融合素材は同名の機械族モンスター×2であり、攻撃力は1600とリクルーターより少しはマシ、という程度だが。その効果は――

「バトルだ! ペアサイクロイドは、相手プレイヤーにダイレクトアタック出来る! ダブル・サイクロン!」

「ぐっ……」

遊矢LP4000→2400

 ――相手プレイヤーへの直接攻撃効果。俺に直接放たれた二対の旋風には《マックス・ウォリアー》も防げず、後攻一ターン目から手痛い一撃を食らってしまう。

「カードを二枚伏せてターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 ただし《ペアサイクロイド》は融合モンスターにもかかわらず、その攻撃力は僅か1600。既に俺のフィールドにいる《マックス・ウォリアー》でも、充分に破壊することが出来る攻撃力――だが、使い手である翔がそれを分かっていないわけがなく、故に二枚のリバースカードだろう。

「俺は《音響戦士ドラムス》を召喚し、二体のモンスターでチューニング!」

 だが直接攻撃効果を持つ《ペアサイクロイド》を放ってはおけず、誘っているならば予想以上の強い一撃を与えるまで。レベル4の《マックス・ウォリアー》と、レベル2の《音響戦士ドラムス》がシンクロ召喚のためにチューニングされていく。

「集いし拳が、道を阻む壁を打ち破る! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《マイティ・ウォリアー》!」

 ソリッドビジョンの大地を砕きながら、マイティ・ウォリアーがフィールドに降り立った。自慢の拳を《ペアサイクロイド》に向け、戦士らしい叫び声をあげる。

「バトルだ、マイティ・ウォリアー! ペアサイクロイドに攻撃、マイティ・ナックル!」

 翔のフィールドに伏せられた二枚のリバースカードと、攻撃力の低い《ペアサイクロイド》。それらに怯むことなく《マイティ・ウォリアー》は突き進み、その拳を振り上げた。

「リバースカード、オープン! 《スーパーチャージ》! フィールドにロイドしかいない時、相手が攻撃してきた時二枚ドロー出来る!」

 しかし発動されたのは《マイティ・ウォリアー》を迎撃するカードではなく、限定的ながら二枚のカードをドローする罠カード《スーパーチャージ》。攻撃を防ぐカードではないため、《マイティ・ウォリアー》は阻まれずに《ペアサイクロイド》を破壊し、さらに自身の効果を発動する。

「《マイティ・ウォリアー》が相手モンスターを破壊した時、相手モンスターの攻撃力の半分のダメージを与える!」

「うわっ!」

翔LP4000→2500

 戦闘ダメージに700ポイント、効果ダメージに800ポイント。合計で1500ポイントのダメージを翔は受け、ライフポイントは早くも横並びとなった。

「ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 これで俺のフィールドは《マイティ・ウォリアー》にリバースカード。翔のフィールドは、先のターンから伏せられたままの一枚のリバースカードで、お互いにライフポイントは似たようなもの。まだ行く先が分からない序盤だったが、ここまでは互角といったところか。

「僕は《エクスプレスロイド》を召喚!」

 優秀な効果を持つロイドモンスターの中でも一際優秀な効果を持つ、新幹線の姿をした《エクスプレスロイド》。召喚されたその時、カードの効果が発動する。

「《エクスプレスロイド》が召喚された時、墓地のロイドを二枚手札に加える! 僕は《ドリルロイド》を二枚手札に!」

 通常モンスターにおける《闇の量産工場》のような、《エクスプレスロイド》の墓地からのサルベージ効果により、《ペアサイクロイド》の融合素材となった二体の《ドリルロイド》を回収する。

「さらに通常魔法《パーツ補充》を発動! 手札から機械族モンスターを墓地に送り、デッキから☆4の機械族モンスターを手札に加える。《ステルスロイド》をサーチ!」

 機械族のサポートカード《パーツ補充》。その効果により手札の機械族モンスターを代償に――ダブついた《ドリルロイド》か――デッキから新たな機械族モンスターをサーチする。そして翔が自身の手に揃えていくロイドたちの名前に、ある一枚の切り札級のモンスターの姿が脳裏に浮かぶ。

「伏せてあった《融合準備》を発動! 墓地から《融合》カードと、デッキから融合素材の《トラックロイド》をサーチし、融合!」

 墓地から《ペアサイクロイド》に使った《融合》をサルベージし、デッキから融合素材をサーチするのを一枚でやってのける罠カード。伏せられていたのはそんな効果を持つ《融合準備》であり、四体のモンスターが時空の穴に吸い込まれていく。

「フィールドの《エクスプレスロイド》、手札の《トラックロイド》、《ドリルロイド》、《ステルスロイド》を融合し、《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》を融合召喚!」

 かの《青眼の究極竜》を超える融合素材を持った、四体のロイドを融合することで召喚された《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》。驚愕すべきはそれが融合召喚されたことではなく、消費を出来る限り抑えながら、あっさりと融合素材を自身の手に揃えたこと。これだけの大型モンスターを融合したにもかかわらず、翔の手札に大きな消耗はない……!

「ステルス・ユニオンの効果発動! 相手モンスター一体を、このカードの装備カードとする!」

「マイティ・ウォリアー!」

 さらに《マイティ・ウォリアー》をも取り込みながら合体し、巨大なロボットとなって《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》は完成する。そして《マイティ・ウォリアー》を失った俺のフィールドには、もはや何も守ってくれるモンスターがいない。

「バトル! スーパーピークロイド-ステルス・ユニオンで、遊矢くんにダイレクトアタック! ブロウクンフィスト!」

「くっ……リバースカード、《ピンポイント・ガード》! 戦闘破壊耐性を付与し、墓地からモンスターを特殊召喚する! 蘇れ《マックス・ウォリアー》!」

 せめてもの抵抗として、伏せてあった《ピンポイント・ガード》により墓地から《マックス・ウォリアー》を特殊召喚し、《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》の間にたった。普通ならばこれで防ぐことが出来るのだが、ステルス・ユニオンを相手にしては不充分だ。

「ステルス・ユニオンは攻撃する時、攻撃力が半分になる代わりに貫通効果を持つ!」

「…………ッ!」

遊矢LP2400→1500

 ステルス・ユニオンの唯一のデメリット効果、攻撃時にその高い攻撃力が半分になる効果がなくては、このターンで俺は敗北していた。今まであまりデュエルしたことはなかったが、これまでの翔ではないと考えなくてはならない。

「僕はこれでターンエンド!」

「俺のターン、ドロー! ……速攻魔法《手札断殺》を発動!」

 どうにもデュエルの流れがよくない――と、速攻魔法《手札断殺》が反撃の狼煙として発動され、さらなる効果の発動を補助していく。まるで本当の狼煙をあげたかのように、フィールドに旋風が巻き起こっていく。

「来る……!」

「墓地に送った《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

『トアアアッ!』

 翔の呟きに呼応するかのように、旋風とともにマイフェイバリットカードがデッキから特殊召喚される。《手札断殺》から《リミッター・ブレイク》と《スピード・ウォリアー》に繋げ、更なるカードへと繋がっていく。

「《スピード・ウォリアー》をリリースすることで、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚!」

 上級機械戦士がアドバンス召喚されるとともに、《サルベージ・ウォリアー》はその名の通りに、墓地へと捕縛するための網を広げた。その網にかかるのは、墓地のチューナーモンスター――《音響戦士ドラムス》。

「《サルベージ・ウォリアー》がアドバンス召喚に成功した時、手札か墓地からチューナーモンスターを特殊召喚出来る。《音響戦士ドラムス》を特殊召喚し、二体のモンスターでチューニング!」

 レベル2のチューナーモンスター《音響戦士ドラムス》に、レベル5の《サルベージ・ウォリアー》が、シンクロ召喚のために光の輪となっていく。合計レベルは7、あの《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》にも対抗できる効果を持った、シンクロモンスターの機械戦士。

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」

 金色の鎧を着た、七つの剣を持った機械戦士。装備魔法カードの扱いに長けたモンスターであり、それ故に運用方法は決まっている。

「《セブン・ソード・ウォリアー》に装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を装備することで、効果発動! 相手に800ポイントのダメージを与える! イクイップ・ショット!」

「うっ!」

翔LP2500→1700

 《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》の貫通効果によって与えられたダメージ分を払うかのように、《セブン・ソード・ウォリアー》第一の効果が発動する。装備魔法《ファイティング・スピリッツ》が装備されたことにより、翔のライフポイントに800ポイントのダメージを与え――さらに、翔の切り札級のモンスターすらも破壊する。

「さらに《セブン・ソード・ウォリアー》は、装備魔法を墓地に送ることで、相手モンスター一体を破壊する!」

 装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を纏ったクナイが放たれると、《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》の一点へと突き刺さる。その一点から破壊は広がっていき、合体されていた《マイティ・ウォリアー》を解き放った後、爆発して破壊される。

「ステルス・ユニオンがこんな簡単に……」

「《マックス・ウォリアー》を攻撃表示に変更し、バトル! マックス・ウォリアーで翔にダイレクトアタック! スイフト・ラッシュ!」

 《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》が大爆発を起こしながら破壊されていくのを後目に、《ピンポイント・ガード》で特殊召喚されていた《マックス・ウォリアー》の表示形式を変更し、がら空きの翔のフィールドを見てバトルフェイズに入る。まずは《マックス・ウォリアー》の三段突きが炸裂するものの、それは突如として現れた凧のような形をしたロイドに阻まれてしまう。

「手札から《カイトロイド》の効果を発動! このカードを墓地に送ることで、相手モンスターの直接攻撃を無効にする!」

「……ならば《セブン・ソード・ウォリアー》でダイレクトアタック! セブン・ソード・スラッシュ!」

 《速攻のかかし》の相互互換のような手札誘発カードにより、《マックス・ウォリアー》の攻撃は全て防がれてしまう。ただし《速攻のかかし》のようにバトルフェイズを終了する効果はないようで、本命の《セブン・ソード・ウォリアー》が攻撃を叩き込まんと接近するが。

「墓地から《カイトロイド》の効果を発動! 墓地のこのカードを除外することで、相手モンスターの直接攻撃を無効にする!」

「防がれたか……」

 結局は《カイトロイド》の二回の効果発動の前には防がれてしまい、翔にダメージを与えることは出来なかった。そしてもう、このターンに出来ることはなく。

「……ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 先のターンで切り札級の《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》を破壊したのは確かだが、翔はかのモンスターを融合した時に手札消費をあまり被っていない。……つまり、次なる手段をいくらでも取れる、ということだ。

「僕は《キューキューロイド》を召喚し、魔法カード《アイアンコール》を発動! フィールドに機械族モンスターがいる時、墓地から機械族モンスターを特殊召喚する! 蘇れ、《エクスプレスロイド》!」

 フィールドに機械族モンスターがいる時、墓地から機械族の下級モンスターを蘇生する魔法カード、《アイアンコール》の発動条件を通常召喚した《キューキューロイド》で満たし。墓地から《エクスプレスロイド》を特殊召喚し、その効果の発動へと繋いでいく。

「《エクスプレスロイド》が特殊召喚された時、墓地からロイドを二体手札に加える! でもこの瞬間、《キューキューロイド》の効果も発動する!」

 予め通常召喚されていた《キューキューロイド》の効果が、《エクスプレスロイド》の効果に反応して発動する。その効果は――確か。

「《キューキューロイド》がいる時、墓地から手札に加えられるロイドは、フィールドに特殊召喚される! 来い、《SR電々雷公》に《ドリルロイド》!」

 《キューキューロイド》の効果は墓地からロイドをサルベージした時、サルベージしたモンスターをフィールドに特殊召喚する、という限定的な効果。しかし《エクスプレスロイド》と組ませることで、フィールドに二体のモンスターを並べるカードとなる。問題はその特殊召喚されたカードで、一年生の時から使われている《ドリルロイド》はともかくとして。

「SR……?」

「すぐに分かるよ。いくよ遊矢くん! まずは《ドリルロイド》と《エクスプレスロイド》で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 SRという見慣れないモンスターに疑問を呈す自分に、翔は不敵な笑みで応えながら、二体のレベル4モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。レイと同じように、エクシーズ召喚を早くもデッキに取り入れていたらしく、二体のロイドがフィールドで重なっていく。

「回れ歯車! その働きでもって、新たな力を我が手に! エクシーズ召喚! 《ギアギガントX》!」

 ボディー全てに歯車をつけたような、ロイドとは趣が違った人型の機械人形がエクシーズ召喚される。そしてフィールドに降り立つや否や、その体中の歯車が回りだしていくと、周囲を旋回していたオーバーレイ・ユニットが一つ砕け散る。

「《ギアギガントX》はオーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、デッキから機械族モンスターを手札に加える」

「なるほど……」

 ――少しだけ、欲しいなという気持ちが湧き上がったが、そんなことを考えている場合ではない。サーチされた機械族もさることながら、まだ翔のフィールドには《キューキューロイド》に、謎のモンスター《SR電々雷公》が存在する。

「よし……遊矢くん、これが答えだ! 僕はレベル3の《キューキューロイド》に、レベル3の《SR電々雷公》でチューニング!」

「……チューニング!?」

 恐らくはこちらの《手札断殺》で墓地に送られ、二体のロイドのコンボで蘇生された《SR電々雷公》の正体。それはチューナーモンスターであり、翔はエクシーズ召喚に続きシンクロ召喚をも披露していく。

「十文字の姿もつ魔剣よ。その力ですべての敵を切り裂け! シンクロ召喚! 現れろ、《HSR魔剣ダーマ》!」

 翔が今まで使っていた旧来のロイドと同様に、どことなく子供の玩具を連想させる、新たなロイドことSR……HSR。その一種たる《HSR魔剣ダーマ》は、そのけん玉のような形状をこちらに見せた。

「《HSR魔剣ダーマ》は墓地の機械族モンスターを除外することで、相手ライフに500ポイントのダメージを与える!」

「まずいな……」

遊矢LP1500→1000

 たかが500ポイントのダメージとはいえ、ここまでライフポイントを削られていては無視出来ず、事実こちらのライフは僅か1000ポイント。一ターンに一度しか使えないようだが、単純に計算してあと二回使われればアウトなのだ。

「そして永続魔法《マシン・デベロッパー》を発動し……バトルだ!」

 《キューキューロイド》の召喚からは信じられぬ、二体の上級機械族モンスターのプレッシャーが、永続魔法《マシン・デベロッパー》の効果でさらに強化されて俺に襲いかかる。先に行動を起こしたのは、《HSR魔剣ダーマ》。

「《HSR魔剣ダーマ》で、《セブン・ソード・ウォリアー》に攻撃!」

 《HSR魔剣ダーマ》の本来の攻撃力は2200だが、《マシン・デベロッパー》によって200ポイント攻撃力をアップしている。その上昇は僅かながらも、《セブン・ソード・ウォリアー》の攻撃力は2300と、《HSR魔剣ダーマ》はそれを超える。けん玉のようなボディーから放たれたビームが、あっさりと《セブン・ソード・ウォリアー》を破壊した。

遊矢LP1000→900

「さらに《ギアギガント X》で、《マックス・ウォリアー》に攻撃だ!」

「まだだ……!」

遊矢LP900→200

 《ギアギガント X》も機械族のため、もちろん《マシン・デベロッパー》の効果が適用される。攻撃力を200ポイントアップさせ、攻撃力を2500の大台に乗せた《ギアギガント X》の攻撃が炸裂する。《ピンポイント・ガード》の効果は一ターンしか持たないため、もはや戦闘破壊耐性を発揮できず、《マックス・ウォリアー》は破壊されてしまう。

「僕はカードを伏せて、これでターンエンド!」

「……俺のターン、ドロー! ……《貪欲な壺》を発動し、さらに二枚ドロー!」

 ライフポイントは200ポイントという風前の灯火となり、翔のフィールドには《ギアギガント X》と《HSR魔剣ダーマ》。さらにリバースカードが一枚と、永続魔法《マシン・デベロッパー》。ライフポイントは1700と、この状況を打開せんと汎用ドローカード《貪欲な壺》で二枚ドローする。

「……カードをセット。そして魔法カード《ブラスティング・ヴェイン》を発動! セットカードを破壊して二枚ドローする!」

 そしてセットカードをコストにする《ブラスティング・ヴェイン》により、さらにカードを二枚ドローし――それだけでは済まされない。破壊したカードの効果が適用される。

「破壊したカードは《リミッター・ブレイク》! デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

 先の《手札断殺》の時と同じように、墓地に送られたことで《リミッター・ブレイク》の効果が発動され、デッキから新たな《スピード・ウォリアー》が特殊召喚される。さらに《ブラスティング・ヴェイン》の効果でドローしたカードにより、さらに展開を進めていく。

「そして《チューニング・サポーター》を召喚!」

 召喚されるはシンクロ召喚をサポートする機械族、中華鍋を逆に被ったようなモンスター、《チューニング・サポーター》。しかしフィールドにいるもう一体のモンスターは、チューナーではない《スピード・ウォリアー》――シンクロ召喚出来ないそのフィールドに、翔はその表情に疑問符を浮かべる。

「シンクロ召喚は出来ない筈じゃ……」

「だから出来るようにするのさ。魔法カード《蜘蛛の糸》を発動! 相手が前のターンに使ったカードを発動する!」

 翔が先のターンで使った魔法カード――《蜘蛛の糸》のカードから伸ばされた糸が、翔の墓地から通常魔法《アイアンコール》を奪う。そして《貪欲な壺》の対象外になっていた、俺の墓地にいる機械族モンスター……チューナーモンスター《音響戦士ドラムス》が、再びフィールドに特殊召喚される。

「《チューニング・サポーター》はシンクロ素材となる時、レベルを2とすることが出来る! 三体のモンスターでチューニング!」

 よってフィールドにチューナーと非チューナーが揃い、三体のモンスターがチューニングされていく。《チューニング・サポーター》のレベル変更効果を使ったため、合計レベルは6。

「集いし星雨よ、魂の星翼となりて世界を巡れ! シンクロ召喚! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》!」

 光り輝く星屑とともに降臨する、新たな機械戦士。攻撃力は2000ポイントと低いながらも、この状況では最も相応しいモンスターとして、フィールドへとシンクロ召喚した。

「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、シンクロ召喚に成功した時、一枚ドロー出来る。そして《チューニング・サポーター》をシンクロ素材にした時、一枚ドローする効果も合わせて、二枚のカードをドローする!」

 まずは《スターダスト・チャージ・ウォリアー》と《チューニング・サポーター》の効果がそれぞれ発動し、またもや二枚のカードをドローする。もちろん《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の効果はそれだけではなく、さらにカードを展開させていく。

「さらに装備魔法《団結の力》、《サイクロン・ウィング》を装備し……バトル! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》で《HSR魔剣ダーマ》に攻撃! シューティング・クラッシャー!」

 二枚の装備魔法《団結の力》と《サイクロン・ウィング》を装備し、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は翔へと攻撃を仕掛ける。低い攻撃力は《団結の力》で補っており、《HSR魔剣ダーマ》を拳打で攻撃――する前に、装備魔法《サイクロン・ウィング》の効果が発動する。

「《サイクロン・ウィング》を装備したモンスターが攻撃する時、相手の魔法・罠カードを破壊する! 俺は《マシン・デベロッパー》を破壊する!」

 攻撃力を200ポイントアップさせていた永続魔法《マシン・デベロッパー》が破壊され、翔のフィールドの機械族が元々の攻撃力に戻り、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の一撃が炸裂する。

「うっ……!」

翔LP1700→1100

 ――そしてここからが、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の本領発揮となる。まだ《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、文字通り止まることはない。

「さらに《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、特殊召喚された相手モンスター全てに攻撃出来る! 《ギアギガント X》にも攻撃せよ、シューティング・クラッシャー!」

「なっ……うわっ!」

翔LP1100→600

 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の効果は、特殊召喚された相手モンスターへの連続攻撃。今回は翔のフィールドに二体のモンスターしかいなかったが、更なる連続攻撃も状況によっては可能だったものの、翔のフィールドからモンスターが消えたことで、流石の《スターダスト・チャージ・ウォリアー》も動きを止める。

「メイン2。《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に、装備魔法《ミスト・ボディ》を発動し……ターンエンド」

「僕のターン……ドロー!」

 出来るだけ消費を抑えて戦ってきたとはいえ、翔の手札ももはや限界を迎えているに違いない。……いや。《ギアギガント X》の効果でサーチしていたモンスターや、伏せられているリバースカードから、そう言い切ることは出来ないような、不思議な雰囲気を漂わせていた。

「僕は《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》を召喚!」

「…………ッ!」

 遂に現れる《サイバー・ドラゴン》を主としたモンスター。その中でもレベル4であるそのモンスターは、恐らくは先の《ギアギガント X》の効果でサーチされていたモンスター。

「そしてリバースカード《融合準備》を発動! 墓地から《融合》モンスターを、デッキから融合モンスターの素材となるモンスターを手札に加える!」

 デュエルの序盤に発動されていた罠カード《融合準備》により、再び翔の手札に《融合》の魔法カードと融合素材モンスターが一挙に加えられる。そして今は、《サイバー・ドラゴン》の名を持っていない《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》も、自身の効果を使って《サイバー・ドラゴン》となることは明白。

「《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》は、手札の魔法カードを見せることで名前を《サイバー・ドラゴン》とすることが出来る! 手札の《融合》を見せ……そのまま発動!」

 フィールドの名前を変更した《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》と、手札のもう一体のモンスターが時空の穴に吸い込まれていく。恐らく一度破壊した《ペアサイクロイド》はないとして、二体の《サイバー・ドラゴン》からなる《サイバー・ツイン・ドラゴン》か。だが、《サイバー・ツイン・ドラゴン》ならば今の《スターダスト・チャージ・ウォリアー》と攻撃力は同値――よって、これから融合召喚されるモンスターは、俺の知らないこの局面を打開できるモンスター。

「融合召喚! 《キメラテック・ランページ・ドラゴン》!」

 ――その合って欲しくなかった予定通り、黒い金属片から二対の首を見せる新たな融合モンスター、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》。そのステータスは融合前の《サイバー・ドラゴン》と何ら変わらないが、それでは融合する意味がない。

「《キメラテック・ランページ・ドラゴン》が融合召喚に成功した時、融合素材の数だけ相手の魔法・罠カードを破壊する!」

「何!?」

 融合素材となったのは《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》と《サイバー・ドラゴン》の二枚。よって放たれたレーザーは、寸分違わず俺のフィールドの魔法カード――《団結の力》と《ミスト・ボディ》を破壊した。これによって、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に装備されたカードは、直接戦闘には関係しない《サイクロン・ウィング》のみ。

「そして《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の効果! 光属性・機械族モンスターをデッキから三枚まで墓地に送ることで、このターン墓地に送った機械族モンスターの数だけ、攻撃が出来る! バトルだ!」

 翔のデッキから、三枚のモンスターが墓地に送られる。よって《キメラテック・ランページ・ドラゴン》は、三回の攻撃が可能となり、翔の命令で機械の竜が咆哮する。


「《キメラテック・ランページ・ドラゴン》で、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に攻撃! エヴォリューション・レザルト・ブラスター!」

「ぐあっ!」

遊矢LP200→100

 ほんの100ポイント俺のライフポイントを守り、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は破壊されてしまう。しかしてそのレーザー砲台は、未だに衰える様子はなく。

「トドメだ! エヴォリューション・レザルト・ブラスター! 第二打!」

「いや……まだだ! 墓地から《ジャンク・コレクター》の効果を発動!」

 《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の二回目の攻撃がこちらに届く前に、俺のフィールドに半透明のモンスターが現れる。《手札断殺》の時に墓地に送っていたモンスターだが、このモンスターに攻撃を防ぐ効果はない。

 だが、攻撃を防ぐカードへと姿を変えることは出来る。

「墓地のこのモンスターと通常罠を除外することで、除外した罠カードの効果を発動出来る! 俺は《ジャンク・コレクター》と《ピンポイント・ガード》を除外!」

「つまり――」

「《ピンポイント・ガード》の効果で《音響戦士ドラムス》を、守備表示で特殊召喚!」

 攻撃を受けた時に、レベル4以下のモンスターを、破壊耐性を付与して特殊召喚する。そんな効果を持った罠カード《ピンポイント・ガード》が、《ジャンク・コレクター》の効果で再発動されると、墓地から再度《音響戦士ドラムス》が特殊召喚される。そしてダイレクトアタックだった《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の攻撃の前に立ちはだかり、それを与えられた破壊耐性で防ぎきった。

 《キメラテック・ランページ・ドラゴン》には貫通効果はないようで、三回目の攻撃は意味をなさない。なんとか三回攻撃を防ぐことに成功したらしく、翔はこちらへとターンを移す。

「くっ……ターン、エンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 これで俺のフィールドには《音響戦士ドラムス》が一体のみで、ライフポイントは残り100ポイント。翔のフィールドには、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》にリバースカードが一枚、ライフポイントは1700。一見こちらの絶体絶命だが……まだ、こちらにも逆転の目はある。

「俺は魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動! 手札を一枚捨てることで、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚する! 来い、《チューニング・サポーター》!」

 二枚目の《チューニング・サポーター》を墓地から特殊召喚するが、まだフィールドに揃っているモンスターの合計レベルは4。これでは《アームズ・エイド》しかシンクロ召喚出来ない……よってまだ、こちらの展開は続いていく。

「さらに通常魔法《モンスター・スロット》を発動! フィールドにいるモンスターのレベルと、同じレベルのモンスターを除外し、カードを一枚ドローする。そしてドローしたモンスターがそのモンスターと同じレベルなら、ドローしたモンスターを特殊召喚する!」

 俺が選択したモンスターはレベル2の《音響戦士ドラムス》。墓地から除外したモンスターは、同じくレベル2の《スピード・ウォリアー》。ここでレベル2のモンスターをドロー出来れば、そのモンスターを特殊召喚することが出来る。本来ならば低い可能性だが……レベル2ということならば、話は別だ。

「ドローしたモンスターは……《スピード・ウォリアー》! よって特殊召喚する!」

 ――ドローしたのは三枚目の《スピード・ウォリアー》。もちろんレベル2モンスターのため、《モンスター・スロット》の効果によって、除外された《スピード・ウォリアー》の代わりに特殊召喚される。

「そして墓地の《音響戦士ベーシス》の効果を発動! 墓地のこのモンスターを除外することで、フィールドの音響戦士に自身の効果を付与する!」

「自身の効果を与える?」

 音響戦士のチューナーモンスターにはそれぞれ、自身が持った属性やレベル、種族を変更する効果を持っている。《音響戦士ベーシス》が持っているのはレベルの変更効果、それを墓地から除外することで、フィールドの音響戦士の仲間に与えることが出来るのだ。

「《音響戦士ベーシス》の効果は、手札の数だけレベルを上げる効果。それをフィールドの《音響戦士ドラムス》に与え、それを発動することが出来る! ……そして、三体のモンスターでチューニング!」

 俺の残る手札は二枚。よって二つレベルが上がってレベル4となった《音響戦士ドラムス》に、レベル2の《スピード・ウォリアー》とレベル1の《チューニング・サポーター》が、それぞれシンクロ素材となっていく。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 黄色い装甲をした機械竜がシンクロ召喚され、中に封印されているドラゴンが鋼鉄の雄叫びを鳴らす。遂に召喚されたそのモンスターを、苦々しげに翔は見つめていた。

「まさか、あの状況から出て来るなんて……」

「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材となったことで、カードを一枚ドロー。さらに《レスキュー・ウォリアー》を召喚!」

 まだ俺は通常召喚していない。《チューニング・サポーター》の効果でカードをドローしたあと、後詰めとしてさらに下級機械戦士モンスターを通常召喚する。

「さらにパワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

「……真ん中のカードだ!」

「……俺は《デーモンの斧》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備し、バトル!」

 俺が選んだカードは《デーモンの斧》、《魔界の足枷》、《魔導師の力》。その中から《デーモンの斧》が選択され、《パワー・ツール・ドラゴン》に装備される。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》に攻撃! クラフティ・ブレイク!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》!」


 《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の連続攻撃は確かに脅威だが、その攻撃力は融合前の《サイバー・ドラゴン》と変わらない。《デーモンの斧》を装備した《パワー・ツール・ドラゴン》には適わず、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》は一撃のもとに破壊され、翔のフィールドにモンスターはいなくなる。

 ただし戦闘ダメージは、翔の前に展開されたカードの束に防がれてしまい、さらに翔はカードを一枚ドローする。だがこれで翔の防御札もなくなり、あちらのフィールドにも何もなくなった。

「いけ、《レスキュー・ウォリアー》でダイレクトアタック!」

「墓地の《カイトロイド》の効果を発動! このモンスターを除外することで、直接攻撃を無効にする!」

 トドメの一撃とばかりに放った《レスキュー・ウォリアー》の一撃も、墓地から発動される《カイトロイド》に防がれてしまう。手札から捨てて発動していた先のカードではなく、こちらの《手札断殺》の効果で《SR電々大公》とともに送っていたのだろう。

「カードを一枚伏せてターンエンド。……しぶといな、翔……!」

「遊矢くんほどじゃないよ……僕のターン、ドロー!」

 どちらのライフも僅かしかなく、デュエルは最終盤を迎えたといっていい戦況だ。だが翔には、まだ何か秘策があると言わんばかりの意志を感じさせた。

「墓地の《HSR魔剣ダーマ》の効果を発動! 自分フィールドにカードがない時、通常召喚を封じることで、墓地からこのモンスターを特殊召喚出来る! 蘇れ、《HSR魔剣ダーマ》!」

 翔のフィールドには確かに何もなく。図らずも《HSR魔剣ダーマ》の蘇生条件を満たしてしまったことに歯噛みしながら、墓地から現れるけん玉の形をした機械が蘇るのを見る。確かその効果は。

「《HSR魔剣ダーマ》の効果を発動! 墓地の機械族を除外することで、相手ライフに500ポイントのダメージを与える!」

 機械族を除外してのバーン効果。僅か500ポイントのダメージながらも、100ポイントの俺のライフからはすれば、十二分に致命傷以外の何者でもない。

「手札から《エフェクト・ヴェーラー》の効果発動! このカードを手札から捨てることで、相手モンスターの効果を無効にする!」

 しかし《HSR魔剣ダーマ》の効果が発動される前に、手札から飛び出した《エフェクト・ヴェーラー》が魔剣ダーマを包み込む。一ターンだけだが効果を無効にするその布に包み込まれ、《HSR魔剣ダーマ》がこちらに向けていたレーザーは消えていった。

「《エフェクト・ヴェーラー》……使ってくれたね。魔法カード《プロトタイプ・チェンジ》を発動! フィールドの機械族と墓地の機械族を入れ替える!」

「なに?」

 《エフェクト・ヴェーラー》を使ってくれた――という翔の言葉とともに、フィールドの機械族を墓地に送り、墓地の機械族を特殊召喚する魔法カード《プロトタイプ・チェンジ》により、わざわざ特殊召喚した《HSR魔剣ダーマ》が消えていく。入れ替わるように特殊召喚されるモンスターこそ、翔が本来狙っていたモンスターなのか……?

「墓地から《ユーフォロイド》を特殊召喚!」

 特殊召喚されるのはその予想に反して、この状況では特に有用な効果を持っていない《ユーフォロイド》。光属性のロイドということで、恐らく《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の効果で、デッキから墓地に送られていたのだろう。

「そして速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! デッキからさらに二体、《ユーフォロイド》を特殊召喚!」

 ――ただし厄介ではないのは、単体ならばの話だ。攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚された時、さらに二体を特殊召喚する速攻魔法《地獄の暴走召喚》により、《ユーフォロイド》が三体フィールドに揃う。デメリット効果としてこちらにも《地獄の暴走召喚》の恩恵があるのだが、《レスキュー・ウォリアー》はデッキに一枚しか入っておらず、《パワー・ツール・ドラゴン》は対象外のため使えない。

「《キメラテック・ランページ・ドラゴン》はこのために……」

 《キメラテック・ランページ・ドラゴン》は連続効果のためもあるが、本当の目的は《ユーフォロイド》を墓地に送り、《地獄の暴走召喚》でフィールドに三体揃えるため。これまでならば、この状況の意味は分からなかったが――今ならば分かる。同じレベルのモンスターがフィールドに揃っているということを。

「レベル6の《ユーフォロイド》三体でオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 三体の《ユーフォロイド》が重なっていき、最後のモンスターがエクシーズ召喚される。翔の切り札となるモンスター――

「――《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》!」

 亮の切り札だった《サイバー・エンド・ドラゴン》が『終幕』ならば、新たに現れた《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》はその名の通り『無限』。別種の力ながらもかの《サイバー・エンド・ドラゴン》と同格の力を感じさせ、底知れぬ雰囲気を醸し出していた。

「《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果発動! オーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、相手モンスター一体をオーバーレイ・ユニットとする! 僕は《パワー・ツール・ドラゴン》を吸収する!」

「……リバースカード、オープン! 《スキル・プリズナー》! モンスター一体を対象にする効果を無効に出来る!」

 《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果は奇しくも、翔の切り札のうち一枚である《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》と同種の効果。向こうは装備魔法とする効果であり、こちらはオーバーレイ・ユニットとする、という違いはあるものの、とにかく伏せてあった《スキル・プリズナー》を発動する。

 相手モンスターを対象に取る効果を発動された時、その効果を無効にする――といった効果を持っていた筈の罠カードは、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》が放ったレーザーに撃ち抜かれていた。

「《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》は一ターンに一度、相手のカード効果を無効に出来る。《パワー・ツール・ドラゴン》はいただいていく!」

 こちらの抵抗も空しく《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果は発動されてしまい、《パワー・ツール・ドラゴン》は捕縛されたかと思えば、オーバーレイ・ユニットとされてしまう。その初めて味わう除去にどうすることも出来ず、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》は俺を睥睨していた。

「《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の攻撃力は、オーバーレイ・ユニットの数×200ポイントアップする! よって攻撃力は2700……バトルだ!」

 元々の攻撃力は元の《サイバー・ドラゴン》と同じだが、オーバーレイ・ユニットの数×200ポイントアップする。相手モンスターを吸収する効果でオーバーレイ・ユニットを使うが、吸収したモンスターをオーバーレイ・ユニットにするため、差し引きはまるでなく三つのまま。よって攻撃力2700となり、こちらに対して攻撃の意を示す。

「《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》で《レスキュー・ウォリアー》に攻撃! エヴォリューション・インフィニティ・ノヴァ!」

「ぐっ……だが《レスキュー・ウォリアー》は戦闘ダメージを受けない!」

 《レスキュー・ウォリアー》が破壊される直前に放った水流に、俺自身に向かっていた《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の光弾が吸収されていく。《レスキュー・ウォリアー》の戦闘ダメージを0にする効果により、何とか敗北になることを免れ――かつて亮と戦った卒業デュエル。その時にも《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃を、《レスキュー・ウォリアー》の効果で耐えたことを思い出す。

「やっぱりそんな効果だったか……僕はこれでターンエンド」

「俺のターン……ドロー!」

 そんな懐かしい思い出に顔を少し綻ばせながら、俺はカードをドローする。あらゆる効果を一度だけ無効にするという、驚異的な効果を持った《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》。それにも無効化出来ない効果があるということは、今《レスキュー・ウォリアー》が教えてくれた。

「《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》でも、召喚する効果は無効に出来ない……」

「え?」

 対抗策はある――このデュエルを終わらせる。

「俺は《ドドドウォリアー》を妥協召喚!」

 まず召喚されたのは妥協召喚が可能な上級機械戦士、斧を得物とする《ドドドウォリアー》。攻撃力を1800ポイントとすることで妥協召喚する効果は、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》で無効には出来ない。

「さらに《ドドドウォリアー》をリリースすることで、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚する!」

 戦士族モンスターをリリースすることで特殊召喚出来る、仲間の力を受け継ぐ砲塔の機械戦士。《ドドドウォリアー》の妥協召喚と同じく、フィールドに特殊召喚するという効果は《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》では無効に出来ない。そして《ターレット・ウォリアー》は、特殊召喚された場合に発動する更なる効果がある。

「《ターレット・ウォリアー》はリリースした戦士族モンスターの攻撃力、自身の攻撃力をアップさせる!」

 あらゆる効果を無効化する《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の対抗策は、効果を発動せずに破壊できるモンスターを用意すること。しかし攻撃力2700を維持する《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》に、効果を発動しないというのは難しい――だが、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》といえども無効に出来ない効果はある。

 そして《ターレット・ウォリアー》にはそれが出来る――!

「よって《ターレット・ウォリアー》の攻撃力は3500!」

 《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》が無効に出来るのは、効果を発動する効果のみ。《レスキュー・ウォリアー》の戦闘ダメージを0にする効果のような、発動することはない効果――それこそ《サイバー・ドラゴン》に備えられた妥協召喚効果のような――効果は無効化出来ず、《ターレット・ウォリアー》にはさらに攻撃力上昇効果が備わっている。こうして《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》に無効にされないまま、攻撃力3500のモンスターが俺のフィールドに降り立った。

「バトル! 《ターレット・ウォリアー》で《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》に攻撃! リボルビング・ショット!」

「うわあぁぁぁ!」

翔LP600→0

 《ターレット・ウォリアー》から放たれた砲撃が、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》を貫通し、遂にデュエルに終止符を打つ。終わってみればライフポイントは残り100ポイントと、もはやギリギリとしか言えない数値にまで追い詰められていた。

「負けちゃったか……やっぱりまだまだかぁ」

「いや、いいデュエルだっ――」

 ――いいデュエル。何気なく言ったその言葉に、俺はついつい固まってしまう。そんなことを考えることが出来たのは、いつぶりだっただろうか、と。

「そういえば遊矢くん、今日の夜に吹雪さんがイベントやるらしいけど、知ってるッスか?」

「イベント……? いや」

 先程保健室に連れて行ったばかりの吹雪さんの顔を思い浮かべながら、まるでそんな話は聞いていないと首を振る。前々から決まっていたなら、そんな時期にあれだけ消耗させて悪い気もするが――なんと翔に話を聞くと、今日突然決まったということで。

「吹雪さんらしいというか……もしかすると、遊矢くんの復帰祝いかもしれないッスね」

「どう……かな」

 今でもいまいち、あの人の考えていることはよく分からない。首を捻った俺の視界に、吹雪さん主催のイベントのチラシが、風でどこかに飛んでいっていた。
 
 

 
後書き
よいお年を。 
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